黒豹拾いました

おーか

文字の大きさ
19 / 130

19

しおりを挟む






些細な事は有りつつも、平穏と言っていい日々を送っていた…のだが…

学校にコクヨウを迎えに行くと、コクヨウの担任をしているらしい先生に呼ばれた。そしてそこには怪我をしているらしいコクヨウと同じくらいの年頃の少年達も居た。

同じ部屋でそっぽを向いているコクヨウは…なんというかとても怒っている様子だった。何があったのかわからないが、俺はコクヨウに近づく。

「コクヨウ」

「…タカミ…」

「おいで」

「…うん…」

俺はとりあえず、コクヨウを宥めようと思ったのだ。

「あのお呼びしたのは、コクヨウ君がこの子達に怪我をさせてしまったからなんです…」

「コクヨウが…?」

「はい…私も詳しい事情は分かりませんが…どうやらコクヨウ君が殴りかかったようです。」

「…そうですか…。」

「はい、あの子達に聞いてもいきなり殴り掛かられたからコクヨウ君が悪いとしか言わなくて…すみません…」

「わかりました。それで、対応は?」

「まだ怪我をしたお子様の親御さんがいらっしゃっていませんので、もう少し居ていただいていいですか?」

「構いません。しかし、俺も話を聞きたいのでどこか部屋を貸してくれますか?」

「ええ、隣の部屋を使って頂いていいですよ」

コクヨウと二人で隣の部屋に移る。俺に怒られると思っているのか、尻尾は下がっている。乱雑に並べられた椅子と机。その中で適当に椅子を引いてコクヨウに座るように促し、俺も隣に座った。

「それで、先生はああ言っていたが、何があったのか聞かせてくれるか?」

「…嫌なこと言われたから殴った。」

「そうか…何を言われた?理由は分かるのか?」

「…最初は…たぶん…僕が…獣人だから…」

「獣人であることを言われて殴ったのか?」

「…うん…」

差別…か。人間という生き物は実に厄介だ。異端者は排除する…特に小さい内はそうだよな…。けれど…そんな理由でコクヨウが人を殴るとはどうしても思えなかった。それくらいなら受け流してしまいそうな強かさがある。本当の理由はそれだけなのか?

「そうか。お前がそう言うなら、俺はそれを信じるよ。分かっているとは思うが、人を殴るのは良くない。正当防衛ならともかくな。」

「うん、ごめんなさい…。」

「ん、じゃあ怪我させた子に謝れるか?」

「…やだ。」

「…本当の理由はなんだ?」

「言いたくない」

「…俺には言えないことなのか?」

「うん」

「そうか。」

コクヨウが頭を下げないなら代わりに俺が下げればいい。それで解決出来るなら…コクヨウの未来が守られるならそれでいい。コクヨウの種族でどうこう言ってくる奴らに頭なんか下げたくないがな…。

「すみません、相手方の親御さんいらっしゃいました。」

「はい、行こうかコクヨウ」

「…」

部屋に入ると、子どもたちを守るように相手方の親がこちらから子供を隠した。

「来たわね!良くも家の子に怪我させてくれたわね!!許さないわ!」

「そうよ!謝りなさい!」

「家の子に傷が残ったらどうしてくれるのかしら!」

「今回は申し訳ありませんでした。」

三人の母親に深々と頭を下げて謝罪する。しかしそれでも怒りは収まらなかったようで、次々と俺達への罵倒が飛んでくる。

「はぁ…だから嫌なのよ、冒険者なんて野蛮な職に付いている人は…」

「そうそう、冒険者なんてやってるから子供も暴力的になるんだわ!」

「そんな謝罪なんかで許さないわよ!」

…そんな親たちの言葉で、俺はコクヨウが怒った理由を確信した。きっと俺の事を何か言われたのだろう。親の考えと言うのは子供にも強い影響を与える。

「コクヨウ、俺の事を言われたのか?」

「……うん…」

「そうか。俺のために怒ってくれてありがとな。」

「うん」

ヒートアップして俺を責め立てる親たちを先生が一括して黙らせる。正直びっくりした…なよっとした先生だと思ってたからな。怪我をした子供たちに視線を合わせて話し始める。

「黙りなさい!…ふぅ…まず君たちは殴られて怪我をしましたね。痛かったですか?」

「うん…」「いたい…」「いたかった…」

「そうですね、けれど先に痛い思いをしたのはコクヨウくんの方です。いいですか、君たちはもし母親を…大事な人を悪く言われたらどう思いますか?自分の悪口を言われたら?」

「やだ…」「かなしい」「おこる…」

「そうです、嫌な気分になりますね。そして心が傷付きます。痛いんです。君たちはコクヨウくんを傷つけましたね?」

「「「うん…」」」

「ちゃんと謝れますか?」

「「「うん、ごめんなさい!」」」

「はい、みんな良い子です。次はコクヨウくんです。殴ってしまったこと、ちゃんと謝れますか?」

「うん…ごめんなさい。タカミの事…言われるの我慢出来なかった…僕の…一番大事な人だから…」

「ごめん…」「ごめんね…」「嫌なこと言ってごめんなさい」

正直感心した。先生がきっちりと叱って、子どもたちは和解できたらしい。

「仲直り出来たみたいですね。じゃああっちで遊んできなさい。少し親御さんたちと話がありますから。」

「「「はーい」」」

「行こう!コクヨウくん」

「…」

「行っておいで。コクヨウ」

「うん!」

誘われて元気に駆けだしていったコクヨウを見送る。子供たちは本当にあっという間に仲良くなるな。さて、大人の話し合いと行きますかね。

「それでは、話をしましょうか。今回の件は、親御さんの考え方が子供たちに伝わってしまったから起こったことだと思っています。冒険者を貶すのは何故ですか?」

「そ、それは…ほら…野蛮じゃない…」「そうよ」「暴力を振るう職業じゃない…」

「いいえ、それは違います。街の安全を守るために日々魔物を倒してくださっているのです。とても感謝すべきだと思いますよ。貴方方は冒険者にお世話になったことはありませんか?」

「な、ないわ」「ええ…」「私は…あるわ…子供が熱を出したとき…熱を下げる薬草が足りなくて、夜間で危険なのにそれを承知で…薬草を探してくださったの…」

「そうです。それに街に補給される物資なんかも冒険者達によって安全が守られているから届くんですよ。」

「そ、それは…そうね」「確かに…」「沢山たすけられている…わね」

「そういうことです。ですからそういったポジティブな考えも子供たちに伝えてあげてください。子供達も1面だけを見て判断するのでは間違ってしまいますから。」

「ええ…冒険者の方、ごめんなさいね…」「ごめんなさい」「先程の言葉、謝罪するわ。ごめんなさいね」

「いえ、お子さん達に怪我をさせてしまって大変申し訳ありませんでした。治療費は領収書を下さればお支払します。」

「家はいいわ。私もあの子も勉強させてもらったみたいだから。」「家もよ」「私のところも」

先生の手腕できれいに纏まって、あんなに険悪だったとは思えないほどの雰囲気で解散となった。

「先生、ありがとうございました。」

「いえ、私は冒険者の方に命を救っていただいた事もありまして。実はタカミさんにも街で助けていただいたことがあるんですよ」

「……」

記憶にない…

「ふふっ覚えていなさそうですね、それだけ当たり前に人を助けているということですね。」

良い様に言われてしまったが本当に覚えてない。

まぁ、良い先生だということがわかったし、コクヨウにも友達が出来たみたいで良かったと思う。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

処理中です...