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しおりを挟む些細な事は有りつつも、平穏と言っていい日々を送っていた…のだが…
学校にコクヨウを迎えに行くと、コクヨウの担任をしているらしい先生に呼ばれた。そしてそこには怪我をしているらしいコクヨウと同じくらいの年頃の少年達も居た。
同じ部屋でそっぽを向いているコクヨウは…なんというかとても怒っている様子だった。何があったのかわからないが、俺はコクヨウに近づく。
「コクヨウ」
「…タカミ…」
「おいで」
「…うん…」
俺はとりあえず、コクヨウを宥めようと思ったのだ。
「あのお呼びしたのは、コクヨウ君がこの子達に怪我をさせてしまったからなんです…」
「コクヨウが…?」
「はい…私も詳しい事情は分かりませんが…どうやらコクヨウ君が殴りかかったようです。」
「…そうですか…。」
「はい、あの子達に聞いてもいきなり殴り掛かられたからコクヨウ君が悪いとしか言わなくて…すみません…」
「わかりました。それで、対応は?」
「まだ怪我をしたお子様の親御さんがいらっしゃっていませんので、もう少し居ていただいていいですか?」
「構いません。しかし、俺も話を聞きたいのでどこか部屋を貸してくれますか?」
「ええ、隣の部屋を使って頂いていいですよ」
コクヨウと二人で隣の部屋に移る。俺に怒られると思っているのか、尻尾は下がっている。乱雑に並べられた椅子と机。その中で適当に椅子を引いてコクヨウに座るように促し、俺も隣に座った。
「それで、先生はああ言っていたが、何があったのか聞かせてくれるか?」
「…嫌なこと言われたから殴った。」
「そうか…何を言われた?理由は分かるのか?」
「…最初は…たぶん…僕が…獣人だから…」
「獣人であることを言われて殴ったのか?」
「…うん…」
差別…か。人間という生き物は実に厄介だ。異端者は排除する…特に小さい内はそうだよな…。けれど…そんな理由でコクヨウが人を殴るとはどうしても思えなかった。それくらいなら受け流してしまいそうな強かさがある。本当の理由はそれだけなのか?
「そうか。お前がそう言うなら、俺はそれを信じるよ。分かっているとは思うが、人を殴るのは良くない。正当防衛ならともかくな。」
「うん、ごめんなさい…。」
「ん、じゃあ怪我させた子に謝れるか?」
「…やだ。」
「…本当の理由はなんだ?」
「言いたくない」
「…俺には言えないことなのか?」
「うん」
「そうか。」
コクヨウが頭を下げないなら代わりに俺が下げればいい。それで解決出来るなら…コクヨウの未来が守られるならそれでいい。コクヨウの種族でどうこう言ってくる奴らに頭なんか下げたくないがな…。
「すみません、相手方の親御さんいらっしゃいました。」
「はい、行こうかコクヨウ」
「…」
部屋に入ると、子どもたちを守るように相手方の親がこちらから子供を隠した。
「来たわね!良くも家の子に怪我させてくれたわね!!許さないわ!」
「そうよ!謝りなさい!」
「家の子に傷が残ったらどうしてくれるのかしら!」
「今回は申し訳ありませんでした。」
三人の母親に深々と頭を下げて謝罪する。しかしそれでも怒りは収まらなかったようで、次々と俺達への罵倒が飛んでくる。
「はぁ…だから嫌なのよ、冒険者なんて野蛮な職に付いている人は…」
「そうそう、冒険者なんてやってるから子供も暴力的になるんだわ!」
「そんな謝罪なんかで許さないわよ!」
…そんな親たちの言葉で、俺はコクヨウが怒った理由を確信した。きっと俺の事を何か言われたのだろう。親の考えと言うのは子供にも強い影響を与える。
「コクヨウ、俺の事を言われたのか?」
「……うん…」
「そうか。俺のために怒ってくれてありがとな。」
「うん」
ヒートアップして俺を責め立てる親たちを先生が一括して黙らせる。正直びっくりした…なよっとした先生だと思ってたからな。怪我をした子供たちに視線を合わせて話し始める。
「黙りなさい!…ふぅ…まず君たちは殴られて怪我をしましたね。痛かったですか?」
「うん…」「いたい…」「いたかった…」
「そうですね、けれど先に痛い思いをしたのはコクヨウくんの方です。いいですか、君たちはもし母親を…大事な人を悪く言われたらどう思いますか?自分の悪口を言われたら?」
「やだ…」「かなしい」「おこる…」
「そうです、嫌な気分になりますね。そして心が傷付きます。痛いんです。君たちはコクヨウくんを傷つけましたね?」
「「「うん…」」」
「ちゃんと謝れますか?」
「「「うん、ごめんなさい!」」」
「はい、みんな良い子です。次はコクヨウくんです。殴ってしまったこと、ちゃんと謝れますか?」
「うん…ごめんなさい。タカミの事…言われるの我慢出来なかった…僕の…一番大事な人だから…」
「ごめん…」「ごめんね…」「嫌なこと言ってごめんなさい」
正直感心した。先生がきっちりと叱って、子どもたちは和解できたらしい。
「仲直り出来たみたいですね。じゃああっちで遊んできなさい。少し親御さんたちと話がありますから。」
「「「はーい」」」
「行こう!コクヨウくん」
「…」
「行っておいで。コクヨウ」
「うん!」
誘われて元気に駆けだしていったコクヨウを見送る。子供たちは本当にあっという間に仲良くなるな。さて、大人の話し合いと行きますかね。
「それでは、話をしましょうか。今回の件は、親御さんの考え方が子供たちに伝わってしまったから起こったことだと思っています。冒険者を貶すのは何故ですか?」
「そ、それは…ほら…野蛮じゃない…」「そうよ」「暴力を振るう職業じゃない…」
「いいえ、それは違います。街の安全を守るために日々魔物を倒してくださっているのです。とても感謝すべきだと思いますよ。貴方方は冒険者にお世話になったことはありませんか?」
「な、ないわ」「ええ…」「私は…あるわ…子供が熱を出したとき…熱を下げる薬草が足りなくて、夜間で危険なのにそれを承知で…薬草を探してくださったの…」
「そうです。それに街に補給される物資なんかも冒険者達によって安全が守られているから届くんですよ。」
「そ、それは…そうね」「確かに…」「沢山たすけられている…わね」
「そういうことです。ですからそういったポジティブな考えも子供たちに伝えてあげてください。子供達も1面だけを見て判断するのでは間違ってしまいますから。」
「ええ…冒険者の方、ごめんなさいね…」「ごめんなさい」「先程の言葉、謝罪するわ。ごめんなさいね」
「いえ、お子さん達に怪我をさせてしまって大変申し訳ありませんでした。治療費は領収書を下さればお支払します。」
「家はいいわ。私もあの子も勉強させてもらったみたいだから。」「家もよ」「私のところも」
先生の手腕できれいに纏まって、あんなに険悪だったとは思えないほどの雰囲気で解散となった。
「先生、ありがとうございました。」
「いえ、私は冒険者の方に命を救っていただいた事もありまして。実はタカミさんにも街で助けていただいたことがあるんですよ」
「……」
記憶にない…
「ふふっ覚えていなさそうですね、それだけ当たり前に人を助けているということですね。」
良い様に言われてしまったが本当に覚えてない。
まぁ、良い先生だということがわかったし、コクヨウにも友達が出来たみたいで良かったと思う。
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