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ため息
Side 健治
野々宮との関係は、引き時だと思い、終わらせたばかりだ。
別れる少し前、渋谷のファッションホテルには確かに行った。その時、まさか美緒に見られていたなんて、ツイていない。
しかも、美緒の誕生日に合わせて、わざわざ予約した店に、野々宮が来ていたなんて思わなかった。
そのうえ、美緒に色々言うなんて……。
先週、俺から別れ話をした腹いせだろうか。
気まぐれでワガママ、血統書付きの猫のような性格の野々宮果歩とは、大学の頃から別れたり付き合ったりを繰り返してきた。
女優のような野々宮が彼女で有る事が、大学時代は一種のステータスシンボルだったのだ。
大学卒業後、大病院の跡取りである野々宮が、医者と結婚するのを機に、終わった関係。
だが、結婚して暫く経った頃、野々宮から連絡が来たのだ。
うかつにも誘いに乗ってしまったのは、身体の相性が良かったから。
それから、お互い割り切った大人の関係として時折会うようになる。
お互い既婚者同士の割り切った関係だからこそ、どちらかが終りにしようと言えば、終了の後腐れの無い関係のはずだった。
美緒に嫌味を言うために、わざわざ店まで突き止めて来るなんて、プライドの高い女王様を怒らせたようで面倒だ。
野々宮との、この先の事を考えるとため息が洩れた。
しかし、起こってしまった事は、仕方がない。それを如何にリカバリーしていくか、美緒の性格を考えて行動する。
俺は、美緒を手放す気はない。
今朝だって、上手くやれた。
俺を好きだという美緒の気持ちに付け込むようだが、優しさで絆だして、ゆっくりゆっくり絡めていけば、美緒は俺から離れては行かないだろう。
俺は謝罪の言葉を口にし、美緒にチャンスをくれと懇願する。
優しい美緒は、それだけで俺との明日を考え始めるだろう。
「そう、直ぐに結論を出さずに美緒は俺の更生期間だと思って暫く過ごす。その間、もしも俺が美緒を裏切るような真似をしたら、その時は美緒から俺に三下り半を突き付けていいんだ。俺は、美緒の事を大切にする。だから、そんなことは起こらないと思うけどな。これからの事もゆっくり考えられるし、どうかな?」
美緒を繋ぎとめるための言葉を吐いた。
それでも緊張していたのか、手のひらが汗でジットリと湿った気がする。
ふたりの間に流れる沈黙を刻むような壁掛け時計の秒針の音が耳に付く。
沈黙に耐え兼ねたのか、先に話し出したのは美緒だった。
「お願い、もう浮気しないで……。私、凄く傷ついたんだよ。ずっと、悩んだんだよ」
そう言って、つぶらな瞳から、ハラハラと涙がこぼれ落ちる。
俺は立ち上がり、頬を濡らす美緒へゆっくりと近づいた。
そして、床に膝をつき、低い位置から美緒を見上げる。
俺のために涙を流す美緒が、可愛くて愛おしい。
「ごめんな。俺が軽率だったよ。美緒の事を悲しませるような事をしてバカだった。反省している」
涙で濡れた頬に、そっと手を添えた。
純真無垢な美緒が、俺のような汚れた男に捕まるなんて、気の毒に思う。
だから、せめて美緒が望むような言葉を紡ごう。
「もう浮気はしないと誓うよ。美緒を大切にする。だから、美緒の事を抱きしめさせて欲しい」
美緒の口元が何かを言いたげに、わななく。けれど、発した言葉は短かった。
「……うん」
そして、俺の胸に飛び込んで来る。
美緒の細い肩を抱きしめながら、俺は満たされていた。
優しさと言う甘い罠に囚われた美緒は俺の腕に抱かれている。
「ごめん……」
「うん」
先走る気持ちを抑え込み、美緒の頬に手を添え、そっと触れるだけの口づけをした。
そして、啄むようなキスを繰り返し、美緒を甘く誘惑する。
「美緒……。ありがとう。愛してしているよ」
耳元に囁きながら抱きしめる。
ゆっくりと、焦らすように甘く溶かしていく。
髪の間に指を梳き入れ、毛先にもキスを落とした。
柔らかな石鹼の香る細い首筋にも唇を這わせ、耳朶をはむ。
「好きだよ」
だんだんと美緒から余分な力が抜けて、俺に身を委ねた。
頬にキスを落とすと、上気して耳まで赤く染まる。
その耳朶を甘噛みして、囁いた。
「美緒、可愛い」
美緒の頬に赤みが差し、艶を含んだ瞳が俺を見つめる。
愛おしい美緒を抱きしめて肩口に顔を埋め、首筋に舌を這わせた。
俺の事でいっぱいにさせて、甘いキスで美緒を溶かす。
「愛してるよ」
愛の言葉を囁き、甘い誘惑で美緒を繋ぐ。
離さないよ。美緒。
野々宮との関係は、引き時だと思い、終わらせたばかりだ。
別れる少し前、渋谷のファッションホテルには確かに行った。その時、まさか美緒に見られていたなんて、ツイていない。
しかも、美緒の誕生日に合わせて、わざわざ予約した店に、野々宮が来ていたなんて思わなかった。
そのうえ、美緒に色々言うなんて……。
先週、俺から別れ話をした腹いせだろうか。
気まぐれでワガママ、血統書付きの猫のような性格の野々宮果歩とは、大学の頃から別れたり付き合ったりを繰り返してきた。
女優のような野々宮が彼女で有る事が、大学時代は一種のステータスシンボルだったのだ。
大学卒業後、大病院の跡取りである野々宮が、医者と結婚するのを機に、終わった関係。
だが、結婚して暫く経った頃、野々宮から連絡が来たのだ。
うかつにも誘いに乗ってしまったのは、身体の相性が良かったから。
それから、お互い割り切った大人の関係として時折会うようになる。
お互い既婚者同士の割り切った関係だからこそ、どちらかが終りにしようと言えば、終了の後腐れの無い関係のはずだった。
美緒に嫌味を言うために、わざわざ店まで突き止めて来るなんて、プライドの高い女王様を怒らせたようで面倒だ。
野々宮との、この先の事を考えるとため息が洩れた。
しかし、起こってしまった事は、仕方がない。それを如何にリカバリーしていくか、美緒の性格を考えて行動する。
俺は、美緒を手放す気はない。
今朝だって、上手くやれた。
俺を好きだという美緒の気持ちに付け込むようだが、優しさで絆だして、ゆっくりゆっくり絡めていけば、美緒は俺から離れては行かないだろう。
俺は謝罪の言葉を口にし、美緒にチャンスをくれと懇願する。
優しい美緒は、それだけで俺との明日を考え始めるだろう。
「そう、直ぐに結論を出さずに美緒は俺の更生期間だと思って暫く過ごす。その間、もしも俺が美緒を裏切るような真似をしたら、その時は美緒から俺に三下り半を突き付けていいんだ。俺は、美緒の事を大切にする。だから、そんなことは起こらないと思うけどな。これからの事もゆっくり考えられるし、どうかな?」
美緒を繋ぎとめるための言葉を吐いた。
それでも緊張していたのか、手のひらが汗でジットリと湿った気がする。
ふたりの間に流れる沈黙を刻むような壁掛け時計の秒針の音が耳に付く。
沈黙に耐え兼ねたのか、先に話し出したのは美緒だった。
「お願い、もう浮気しないで……。私、凄く傷ついたんだよ。ずっと、悩んだんだよ」
そう言って、つぶらな瞳から、ハラハラと涙がこぼれ落ちる。
俺は立ち上がり、頬を濡らす美緒へゆっくりと近づいた。
そして、床に膝をつき、低い位置から美緒を見上げる。
俺のために涙を流す美緒が、可愛くて愛おしい。
「ごめんな。俺が軽率だったよ。美緒の事を悲しませるような事をしてバカだった。反省している」
涙で濡れた頬に、そっと手を添えた。
純真無垢な美緒が、俺のような汚れた男に捕まるなんて、気の毒に思う。
だから、せめて美緒が望むような言葉を紡ごう。
「もう浮気はしないと誓うよ。美緒を大切にする。だから、美緒の事を抱きしめさせて欲しい」
美緒の口元が何かを言いたげに、わななく。けれど、発した言葉は短かった。
「……うん」
そして、俺の胸に飛び込んで来る。
美緒の細い肩を抱きしめながら、俺は満たされていた。
優しさと言う甘い罠に囚われた美緒は俺の腕に抱かれている。
「ごめん……」
「うん」
先走る気持ちを抑え込み、美緒の頬に手を添え、そっと触れるだけの口づけをした。
そして、啄むようなキスを繰り返し、美緒を甘く誘惑する。
「美緒……。ありがとう。愛してしているよ」
耳元に囁きながら抱きしめる。
ゆっくりと、焦らすように甘く溶かしていく。
髪の間に指を梳き入れ、毛先にもキスを落とした。
柔らかな石鹼の香る細い首筋にも唇を這わせ、耳朶をはむ。
「好きだよ」
だんだんと美緒から余分な力が抜けて、俺に身を委ねた。
頬にキスを落とすと、上気して耳まで赤く染まる。
その耳朶を甘噛みして、囁いた。
「美緒、可愛い」
美緒の頬に赤みが差し、艶を含んだ瞳が俺を見つめる。
愛おしい美緒を抱きしめて肩口に顔を埋め、首筋に舌を這わせた。
俺の事でいっぱいにさせて、甘いキスで美緒を溶かす。
「愛してるよ」
愛の言葉を囁き、甘い誘惑で美緒を繋ぐ。
離さないよ。美緒。
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