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手水の縁は、沖縄版シンデレラストーリーです。
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車は71号線を通り、あと少し走れば、58号線に合流する。行きに通った許田へ戻って来たのだ。
「あ、ここに沖縄舞踊の演目の一つでもある[手水の縁]の舞台となったパワースポットがあるんですけど行ってみますか?」
「寄ってみようか」と許田の看板でハンドルを右に切り、橋を渡った。許田の集落内にある 後の御嶽(クシヌウタキ)にたどり着く。
駐車場横、石の鳥居の先にびっくりする程、細く急ですごーく長い石の階段がある。
「これ上がるのか……」
すごーく長い階段を見て唖然とする直哉の様子に、遥香はクスリと笑う。
「この階段を上がっても狭い拝所があるだけなので登りません。本命はこっちです」
少し先にある許田の手水(クシヌカー)と呼ばれる祠を案内した。
祠のまわりは、緑の木々に囲まれ、外気の熱さを感じさせない清涼という言葉がぴったりの澄んだ空気が流れている。
時折、吹く風が木々を撫で葉を揺らしていた。
祠の中には滾々(こんこん)と湧き出る泉がある。
「確かにパワースポットという感じがする」
「演目の内容は、その昔、首里からやんばるへ向かう旅の途中で若く有望株の侍が、美しい村の娘が水を汲くんでいるのを見つけ声をかけるんです。”娘さん、のどがかわいたので、あなたのその手で水を汲んで飲ませてくれませんか”と、頬を染めながら娘が水を手で掬い、お侍さんに飲ませました。そのまま見初められ、めでたしめでたし、ってお話です」
「それじゃ、演目に倣って安里さんに飲ませてもらおうかな?」
「えっ?」
この人何言っているんだろう。と、 遥香は戸惑い視線を泳がせた。
さっきの話は、沖縄版シンデレラストーリーで、遥香が手でお水飲ませたら、直哉に見初められたという意味になってしまうのだ。
意識しすぎだと思ってみても、遥香は顔が熱くなってしまう。
頬を染めアワアワとしている遥香を直哉は急かし始めた。
「ほら、せっかく来たんだし、演目の気分を味わいたいんだ。”娘さん、のどがかわいたので、あなたのその手で水を汲んで飲ませてくれませんか?”」
近い距離で悪戯っ子のような瞳を向けられ、艶のある声で蠱惑的に囁く直哉の魅力に抗えない。
遥香は、自分の防御力の低さを嘆きつつ、柄杓で水を取り、手をよく漱いでお椀のように両手を合わせ水を灌ぐ。
少し屈んだ直哉の口元に水がたっぷり入った手を差し出した。
緊張しているせいなのか、指の隙間からは水が滲みポタポタと水滴を落としている。
見下ろす形になった直哉のつむじに目が行く。
髪がサラサラと風に凪いていた。その髪先からオリエンタルノートがふわりと香る。
直哉の形の良い唇が遥香の指先に触れた。
遥香は体中の全神経が指先に集中して、唇の柔らかさや温かさを感じていた。
それにつられて早く動きだした心臓からは、全身に血がかけ巡る。
(わっ、なんだろ。この破壊的シチュエーション!)
こくんと水を口に入れた直哉が顔を上げ、自分の親指で水に濡れた口元をなぞる。
「ごちそうさま」
と甘やかに笑う直哉から目が離せなかった。
「あ、ここに沖縄舞踊の演目の一つでもある[手水の縁]の舞台となったパワースポットがあるんですけど行ってみますか?」
「寄ってみようか」と許田の看板でハンドルを右に切り、橋を渡った。許田の集落内にある 後の御嶽(クシヌウタキ)にたどり着く。
駐車場横、石の鳥居の先にびっくりする程、細く急ですごーく長い石の階段がある。
「これ上がるのか……」
すごーく長い階段を見て唖然とする直哉の様子に、遥香はクスリと笑う。
「この階段を上がっても狭い拝所があるだけなので登りません。本命はこっちです」
少し先にある許田の手水(クシヌカー)と呼ばれる祠を案内した。
祠のまわりは、緑の木々に囲まれ、外気の熱さを感じさせない清涼という言葉がぴったりの澄んだ空気が流れている。
時折、吹く風が木々を撫で葉を揺らしていた。
祠の中には滾々(こんこん)と湧き出る泉がある。
「確かにパワースポットという感じがする」
「演目の内容は、その昔、首里からやんばるへ向かう旅の途中で若く有望株の侍が、美しい村の娘が水を汲くんでいるのを見つけ声をかけるんです。”娘さん、のどがかわいたので、あなたのその手で水を汲んで飲ませてくれませんか”と、頬を染めながら娘が水を手で掬い、お侍さんに飲ませました。そのまま見初められ、めでたしめでたし、ってお話です」
「それじゃ、演目に倣って安里さんに飲ませてもらおうかな?」
「えっ?」
この人何言っているんだろう。と、 遥香は戸惑い視線を泳がせた。
さっきの話は、沖縄版シンデレラストーリーで、遥香が手でお水飲ませたら、直哉に見初められたという意味になってしまうのだ。
意識しすぎだと思ってみても、遥香は顔が熱くなってしまう。
頬を染めアワアワとしている遥香を直哉は急かし始めた。
「ほら、せっかく来たんだし、演目の気分を味わいたいんだ。”娘さん、のどがかわいたので、あなたのその手で水を汲んで飲ませてくれませんか?”」
近い距離で悪戯っ子のような瞳を向けられ、艶のある声で蠱惑的に囁く直哉の魅力に抗えない。
遥香は、自分の防御力の低さを嘆きつつ、柄杓で水を取り、手をよく漱いでお椀のように両手を合わせ水を灌ぐ。
少し屈んだ直哉の口元に水がたっぷり入った手を差し出した。
緊張しているせいなのか、指の隙間からは水が滲みポタポタと水滴を落としている。
見下ろす形になった直哉のつむじに目が行く。
髪がサラサラと風に凪いていた。その髪先からオリエンタルノートがふわりと香る。
直哉の形の良い唇が遥香の指先に触れた。
遥香は体中の全神経が指先に集中して、唇の柔らかさや温かさを感じていた。
それにつられて早く動きだした心臓からは、全身に血がかけ巡る。
(わっ、なんだろ。この破壊的シチュエーション!)
こくんと水を口に入れた直哉が顔を上げ、自分の親指で水に濡れた口元をなぞる。
「ごちそうさま」
と甘やかに笑う直哉から目が離せなかった。
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