【完結】裸足のシンデレラは、御曹司を待っている

安里海

文字の大きさ
30 / 39

近くなる直哉との距離

しおりを挟む
 

「ところで、明日は、どこか行きたい場所ありますか?」

「そうだな、明日の昼間はシンちゃんも一緒に買い物に行きたいんだけどいいかな?」

 直哉は、ふいに顔を上げた。前髪がサラリと動き、その瞳は室内のライトに揺らめいて蠱惑的に見える。何気ない動作にも男の艶を感じてドキリとしてしまった。オードブルのポテトを一つ口に入て、荒く咀嚼し慌ててゴクンと飲み込んでから返事をする。

「朝、シンちゃんの通っている保育所にお休みの連絡入れますね」

 自分の名前が話題にのぼって気が付いたのか、ソファーで眠っていた真哉がモゾモゾと動き出した。
 様子を見に立ち上がり覗き込むと真哉は薄目を開けて、小さな声で「ママ」と呟く。寝ぼけ眼の真哉の頭をそっと撫で、声を掛ける。

「シンちゃん、パパとママと一緒にごはん食べようよ」

 こんな時間に起き出したら夜寝ないかも、と思いつつも、いっぱい遊んでお腹も空いているはずだからご飯は食べさせてあげたい。
   そんな親の心配とは裏腹に、また真哉は夢の中に落ちていった。

「起きそうもないので、ベッドへ運んじゃいますね」

 ヨイショっと、色気のない掛け声と共に真哉を持ち上げた。

(いや、しょうがない。だって、重たいんだから。)

 城間別邸は2LDKの平屋作り、ふたつある個室はどちらも10畳ほどの広さにクローゼット付き、それぞれの部屋にセミダブルのベッドが2台入っている。

 そのうちのひとつに繋がるドアを直哉が開けてくれて、遥香はベッドに辿り着いた。再び、ヨイショと色気ない掛け声で真哉をベッドにおろし、ふぅーと息を吐く。
 モゾモゾ動く真哉の背中をトントンと軽くたたいて、落ち着かせる。

「寝たの?」

 ベッドを覗き込む直哉の低い声が聞こえる。

「うん、また寝ちゃった。パパと会えたのが嬉しくてはしゃぎ過ぎたんだんだね」

 直哉は目を細め、愛おし気に真哉を見つめている。

「寝顔、かわいいな」

「寝てる時だけ天使ですよね」

「寝ている時だけ?」

 直哉の問いかけに自信満々で返事をする。なにせ、遥香は実体験を踏まえた感想なのだ。

「だんだんと悪い言葉も覚えてきて、最近、小憎たらしいときがあるんですよ。この前もママのデブとか言われて、えーんって泣き真似したら、ごめんねって謝ってくれました」

 直哉はクスリと笑い「起きていても天使じゃないか」と親バカぶりを発揮している。いきなり4歳児のパパになってしまって、驚きや心の葛藤があったはずなのに、こんなにも受け入れてくれて嬉しかった。

「そうですね。私たちの天使です」

 後ろから遥香の腰を引き寄せ、直哉がギュッと抱きしめて来た。オリエンタルノートの香りが鼻をくすぐり、背中に直哉の体温を感じる。

「シンちゃんを産んでくれて……ありがとう。遥香」

 ベッドサイドでいきなりハグされて、遥香の胸が高鳴る。

「直哉さん、私、シンを産んだことを一度も後悔してません。授かれて、とても幸せなんです。子育てって、一人じゃ出来ないんですよ。周りの人たちが支えてくれて、その人たちの優しさに触れて、私自身、人間としても成長させてもらいました。とても素敵な体験をしているんです。だから、これからは直哉さんも子育てを一緒に楽しんでください」

 もちろん、夜泣きや授乳で大変な時もあった。熱を出して慌てた事もあった。その時は大変だったのかもしれない。

 でも、沖縄には『ゆいまーる』という言葉がある。
 ゆい「結い」は、他人との結びつき、まーる「廻る」は、めぐること、順序があるという意味。
「ゆいまーる」は、お互いに助け合い、それがいつか自分が助けられることに繋がる、相互公助の事。
 困った時には助けてもらい、楽しく子育てをしてきた。

「そうか、いろんな人に助けてもらったんだ」

「はい、周りの人に恵まれていました」

 抱きしめていた腕が、そっと解かれ、直哉の大きな手が遥香の頬を包み込む。

「今夜は、たくさん話をしよう。今までの事やこれからどうしたしたいのか、ゆっくりでいい。でも分かり合えるように」

 直哉はそう言って、直哉は自分の額を遥香の額にコツンと合わせた。
 このまま、テレパシーで頭の中にある真哉の赤ちゃんの頃からの映像が、直哉に送れればいいのに……。
 そんな事を遥香は思ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

虚弱姫は強面将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。ノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 超高速展開、サクッと読めます。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

Calling

樫野 珠代
恋愛
住み込みのメイドとして働く朱里、25歳 次に雇われて行った先は、なんと初恋の相手の実家だった。 あくまでメイドとして振る舞う朱里に、相手が取った行動は・・・。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。

さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。 「甘酒って甘くないんだ!」 ピュアで、 「さ、さお…ふしゅうう」 私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。 だけど、 「し、しゅ…ふしゅうう」 それは私も同じで。 不器用な2人による優しい恋愛物語。 果たして私たちは 「さ…ふしゅぅぅ」 下の名前で呼び合えるのでしょうか?

処理中です...