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近くなる直哉との距離
しおりを挟む「ところで、明日は、どこか行きたい場所ありますか?」
「そうだな、明日の昼間はシンちゃんも一緒に買い物に行きたいんだけどいいかな?」
直哉は、ふいに顔を上げた。前髪がサラリと動き、その瞳は室内のライトに揺らめいて蠱惑的に見える。何気ない動作にも男の艶を感じてドキリとしてしまった。オードブルのポテトを一つ口に入て、荒く咀嚼し慌ててゴクンと飲み込んでから返事をする。
「朝、シンちゃんの通っている保育所にお休みの連絡入れますね」
自分の名前が話題にのぼって気が付いたのか、ソファーで眠っていた真哉がモゾモゾと動き出した。
様子を見に立ち上がり覗き込むと真哉は薄目を開けて、小さな声で「ママ」と呟く。寝ぼけ眼の真哉の頭をそっと撫で、声を掛ける。
「シンちゃん、パパとママと一緒にごはん食べようよ」
こんな時間に起き出したら夜寝ないかも、と思いつつも、いっぱい遊んでお腹も空いているはずだからご飯は食べさせてあげたい。
そんな親の心配とは裏腹に、また真哉は夢の中に落ちていった。
「起きそうもないので、ベッドへ運んじゃいますね」
ヨイショっと、色気のない掛け声と共に真哉を持ち上げた。
(いや、しょうがない。だって、重たいんだから。)
城間別邸は2LDKの平屋作り、ふたつある個室はどちらも10畳ほどの広さにクローゼット付き、それぞれの部屋にセミダブルのベッドが2台入っている。
そのうちのひとつに繋がるドアを直哉が開けてくれて、遥香はベッドに辿り着いた。再び、ヨイショと色気ない掛け声で真哉をベッドにおろし、ふぅーと息を吐く。
モゾモゾ動く真哉の背中をトントンと軽くたたいて、落ち着かせる。
「寝たの?」
ベッドを覗き込む直哉の低い声が聞こえる。
「うん、また寝ちゃった。パパと会えたのが嬉しくてはしゃぎ過ぎたんだんだね」
直哉は目を細め、愛おし気に真哉を見つめている。
「寝顔、かわいいな」
「寝てる時だけ天使ですよね」
「寝ている時だけ?」
直哉の問いかけに自信満々で返事をする。なにせ、遥香は実体験を踏まえた感想なのだ。
「だんだんと悪い言葉も覚えてきて、最近、小憎たらしいときがあるんですよ。この前もママのデブとか言われて、えーんって泣き真似したら、ごめんねって謝ってくれました」
直哉はクスリと笑い「起きていても天使じゃないか」と親バカぶりを発揮している。いきなり4歳児のパパになってしまって、驚きや心の葛藤があったはずなのに、こんなにも受け入れてくれて嬉しかった。
「そうですね。私たちの天使です」
後ろから遥香の腰を引き寄せ、直哉がギュッと抱きしめて来た。オリエンタルノートの香りが鼻をくすぐり、背中に直哉の体温を感じる。
「シンちゃんを産んでくれて……ありがとう。遥香」
ベッドサイドでいきなりハグされて、遥香の胸が高鳴る。
「直哉さん、私、シンを産んだことを一度も後悔してません。授かれて、とても幸せなんです。子育てって、一人じゃ出来ないんですよ。周りの人たちが支えてくれて、その人たちの優しさに触れて、私自身、人間としても成長させてもらいました。とても素敵な体験をしているんです。だから、これからは直哉さんも子育てを一緒に楽しんでください」
もちろん、夜泣きや授乳で大変な時もあった。熱を出して慌てた事もあった。その時は大変だったのかもしれない。
でも、沖縄には『ゆいまーる』という言葉がある。
ゆい「結い」は、他人との結びつき、まーる「廻る」は、めぐること、順序があるという意味。
「ゆいまーる」は、お互いに助け合い、それがいつか自分が助けられることに繋がる、相互公助の事。
困った時には助けてもらい、楽しく子育てをしてきた。
「そうか、いろんな人に助けてもらったんだ」
「はい、周りの人に恵まれていました」
抱きしめていた腕が、そっと解かれ、直哉の大きな手が遥香の頬を包み込む。
「今夜は、たくさん話をしよう。今までの事やこれからどうしたしたいのか、ゆっくりでいい。でも分かり合えるように」
直哉はそう言って、直哉は自分の額を遥香の額にコツンと合わせた。
このまま、テレパシーで頭の中にある真哉の赤ちゃんの頃からの映像が、直哉に送れればいいのに……。
そんな事を遥香は思ってしまった。
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