【完結】裸足のシンデレラは、御曹司を待っている

安里海

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突然のプロポーズ

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『城間別邸』の玄関の前で、気持ちを切り替えるように大きく深呼吸をした遥香はドアを開けた。

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい」

 ソファーの上で真哉を抱きかかえたままの直哉が、ふわりと微笑む。
 遥香は、ホッと息をついた。

「直哉さん、ずっと抱いていると疲れちゃいますよ。シンちゃんと下ろして食事にしましょう」

「動くと起こしてしまいそうで怖いな」

 新米パパの直哉は、おっかなびっくり体をずらし、真哉をソファーに寝かせるとバスタオルをお腹の周りに掛けてあげた。

「ずっと抱いていると重いでしょう。けっこう大変だったんじゃありませんか」

 眠っている子供は力が抜けて、余計に重たく感じたはずだ。

「へんに力が入ってしまって、肩が張っている気がする。でも、間近で小さな手や顔の作りをじっくり見れて楽しかったよ。口の形が遥香に似ている」

 ゆっくり立ち上がった直哉は腕をぐるりと回し、肩をほぐしながら、ダイニングテーブルへ移動した。

「目は直哉さんに似ているでしょう」

「自分と似ていると言われると嬉しいよ」

 そう言って、直哉は慈しみの瞳を真哉へと向け、柔らかく微笑んだ。
 テーブルの上にはテイクアウトのお寿司やオードブルが並んでいる。遥香は、キッチンからグラスやお皿を取ってきて、向かえ合わせに腰を下ろした。

「シンちゃん、起こさなくていいの?」

「食べながらでいいので、少し落ち着いてお話をしたいです」

 泡盛スパーリングシークワーサーの口を開け、グラスに注いだ。
 シュワシュワと繊細な泡がグラスの中で弾ける。直哉がグラスを持ち上げた。
「乾杯」とグラスを合わせ、口につけると爽やかなシークワーサーの香りが口いっぱいに広がる。

「ふふ、美味しいですね。お酒は久しぶりです」

「俺も最近飲んでいなかったな」

 思い切って、この先の自分たちの行き先を話し合いたいと遥香は考えていた。
 けれど、なんて話を始めたらいいのか、ためらう気持ちが大きくなる。 
 きっかけの言葉を探して口にした。

「お仕事忙しいんですか?」

「昔より仕事の量は減らしているよ。事故に遭ってから無理が利かないからね。でも、それまでが、抱え込み過ぎていたんだ。弟も仕事を任せられるぐらいに成長したからちょうどいい機会だった」

「事故の怪我、酷かったんですね……」

 直哉は、グラスに視線を落とし、ゆっくりと話し始めた。

「事故で頭を強くぶつけて、目が覚めるまで3週間も掛かってしまってね。髪の毛で隠れているけど頭に傷もある。それに、事故の瞬間の事は未だにはっきりと思い出せなくって……足もこの通りだしね」

 手元のグラスをを見つめる直哉、部屋の照明が顔の陰影を色濃く落とした。
 直哉は多くは語らなったが、かなりの重傷だったことが伺えた。また、こうして会えたのは本当に奇跡だったのかもしれない。

「また、会えて本当に良かったです」

「いや、約束を守れずに悪かったと思っている。そのうえ、出産や子育てまですべて一人きりでさせてしまって、本当にすまない」

 直哉の言葉に首を横に振った。
 事故という事情があって迎えに来れなかったんだから、もう、わだかまりはなくなっている。

 直哉は顔を上げ言葉を紡ぐ。

「仕事も昔ほどじゃないけど、食べるには困らない程度には稼いでいる。それに休みも取りやすくなった。から悪い事ばかりじゃないよ。休みを使って沖縄に来れたし、おかげで記憶も取り戻せた。これから遥香とシンちゃんとたくさんの時間を過ごしていきたいと思っている」

 直哉とのこれからの時間。この先の未来。
 それが、沖縄ではなく東京だとしたら? 
 東京で暮らすなんて、遥香には考えられなかった。
 でも、始める前から怖がって、せっかく掴んだ奇跡のような幸せを手放していいのだろうか?
 遥香の心は揺れる。

 捨てられたと思っていた時も心の奥底で会いたいと願っていた。
 その直哉とやっと思いを通わせた。
 それなのに、沖縄を離れたくないからという理由で、直哉をあきらめるなんて出来ない。

 例え、東京で暮らす事になったとしても、直哉と一緒に自分の居場所を作っていけばいいはずだ。努力もしない内から怖がって、自分の幸せを手放したら一生後悔するだろう。
 なんで、そんな簡単な事に気づけなかったなんて……。

 遥香は、やっと気持ちが固まった。
 直哉と再会してからの日々は目まぐるしく、気持ちを整理する間も無かった。
 変化についていけずに変わる事を恐れて、ここで暮らして行く事に固執してしたのだ。

「私、これからたくさんの時間、直哉さんと一緒に居たいです。ホッと出来るような温かい家庭を作っていきたいんです」

「ありがとう。温かい家庭なんて自分には縁がない物だと思っていたんだ。遥香とシンちゃんと一緒ならホッとする温かい家庭になるはずだ。今から楽しみだよ」

 直哉は、柔らかな表情を浮かべていたが、ふと考え込むような仕草を見せた。

「遥香のご両親って、たしか……お亡くなりになっていたんだよね」

 5年前にレストランでの話を直哉は思い出してくれたんだ。

「はい、母は幼い頃に、父は7年前に亡くなりました。その後は、ここのオーナーの城間のおじさんが親代わりです」

「じゃあ、結婚のご挨拶は城間さんにすればいいのかな?」

「えっ、結婚の挨拶ですか?」

(親代わりとはいえ、血縁でもない城間のおじさんに挨拶をしてくれるなんて、やっぱり嬉しい。ちゃんと、直哉は私の事を考えてくれているんだ)

 『結婚』という破壊的なワードに嬉しいやら、恥ずかしいやら、何とも言えない不思議な感情で、遥香の胸が熱くなってしまう。心臓のあたりを両手を重ねギュッと抑えた。


「城間のおじさんは、東京に事務所があってそちらに居るんです」

「じゃ、アポイントを取って東京に帰ってから会いに行こう」

 よく考えれば東京には城間のおじさんがいる。東京に行っても、ひとりじゃない。遥香は、大丈夫な気がして来た。

「城間のおじさんへ明日の夜か明後日にでも一度連絡をしておきます」

「遥香の都合のいい時でかまわないよ」

 直哉の返事を聞いて、遥香はうなずいた。

「明日の夜、隣の家……城間のおじさんの実家でもあるんですが、そこに行って話をしてきます」

 その時に陽太にきちんと自分の気持ちを伝えようと遥香は思った。




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