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昨日、一緒に居たのは……。
慶太は、沙羅の髪に手を入れ、優しく撫で続けた。その手の優しさに癒されて嵐のように荒れていた沙羅の心が、少しずつ凪いでいく。
「沙羅、ひとつ聞いていいか? どうして、自分じゃダメだとか、あきらめないといけないとか、そんな考えに行き着いたんだ?」
「それは……」
と、沙羅は言いよどむ。
慶太は、自分の事を好きだと言ってくれている。その言葉にウソは無いだろう。
そして、二股をかけるような人でもない事を知っている。
いくら、昨日慶太が女性と歩いていたからとしても、断片的な光景しか見ていないのだ。だいたい、婚約者が居るのを隠して、付き合うようなマネをする慶太ではない。
それなのに、自分じゃダメだとか、あきらめないといけないと思い込んでいるのは、過去に慶太の母親である高良聡子の言葉に囚われているからだ。
冷たい瞳で見下ろされ「然るべき所から妻を迎えるつもりなの。シンデレラを夢見てもあなたが傷つくだけよ」と言われたのが、ずっと、心の傷になって、慶太を好きだと思うたびに、奥底で痛みを感じていた。
でも、もう二度と冷たい瞳で見下ろされる事はない。
自分を好きだと言ってくれている慶太を信じていればいいのだと、沙羅はようやく気付いた。
「私、自分に自信がなくて……慶太には、もっと素敵な人が似あうと思って、卑屈になっていたみたい。それで、気持ちばかり焦って……ごめんなさい」
「沙羅、俺は沙羅の事が好きだよ。わかっているよね?」
真剣な瞳で慶太に問われ、沙羅はうなずく。
「それなのに沙羅以外の女性が似合うとか考えないでくれ」
懇願とも言える慶太の言葉。
沙羅は、心に引っかかっていた出来事をやっとの思いで口にした。
「でも、昨日、銀座のBellissimoで慶太が女の人と居るのを見てしまって……婚約とか聞こえて来て、凄い仲が良さそうだったから……」
ふたりの姿を見た時のショックがよみがえり、涙がジワリと浮かぶ。
それなのに慶太は、クスッと笑う。
「沙羅もBellissimoに居たのか、それなら声を掛けてくれれば良かったのに」
「声なんて掛けられないよ。私、慶太が婚約したのかと思って、凄いショックだったんだから!」
これまでの沙羅の追い詰められたような行動に合点がいった慶太は、愛おしさが募り、沙羅をギュッと抱きしめた。
「沙羅、愛しているよ」
耳元で囁かれ、カァッと体が熱くなる。
顎先に手を添えられ、唇が重なった。
ついばむように何度もキスをして、思考が溶けていく。さっきまでのささくれていた気持ちは、まろやかになり、甘く蕩ける。
深くなったキスで、心の中は慶太で満たされて、深い部分にあった傷が癒えていくのを感じた。
チュッと、音を立てて唇が離れた。
沙羅を抱きしめたままの慶太は上機嫌で髪を撫でている。
広い胸に抱かれて、沙羅は気持ちが落ち着いてくると、ふと疑問が浮かんだ。
声を掛けてと言うぐらいだから、後ろ暗い関係では無いのだろう。
しかし、Bellissimoで見かけた時、確かに「婚約した」と言っていたはずだ。
「ねえ、慶太と一緒に居た娘って、どんな関係なの?」
「Bellissimoで一緒に居た娘は、俺の腹違いの妹なんだ」
「腹違いの妹!?」
高校の頃、慶太に妹が居るなんて聞いた事も無い。意外な内容に沙羅は目を白黒させる。
「以前、俺の父親にもう一つ家庭があるって話しを沙羅にはしたよね」
沙羅は、夜のあやとりはしで慶太から聞いた話しを思い出し、うなずいた。
「そのもう一つ家庭で生まれた娘で、戸籍も生みの母親の姓を名乗っていて、妹とは言っても苗字も違う。俺の母親が存命だった頃は、異母妹の存在は公に出来なかったんだ。あの娘も身勝手な親に振り回された子供なんだ。そのせいか、たまに会うと甘やかしてしまって、都合の良い兄をやっている」
「兄妹だったなんて……」
慶太からの告白を聞いて、沙羅はカッと頬が熱くなる。
まるで、盛大な勘違いで騒ぎ立てていたみたいだ。イヤ、まぎれもなく盛大な勘違いをして、悲劇のヒロインよろしく騒ぎ立てていた。
それなのに、慶太は相貌をくずして笑う。
「沙羅が、あんなに取り乱すぐらいにヤキモチ焼いてくれたなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
金沢駅で別れた時、沙羅は「私の事は、忘れて……。慶太は幸せになって」と言い残し、車窓の人となった。
その言葉は、もう会う事は無いのだと暗に示していた。
それからは、沙羅を見守ると決めた慶太だったが、不安が無かった訳じゃない。
日下部真理に連絡を取り、沙羅がどうしているのか聞き出し、仕事の仲介を頼んだり、東京に仕事を入れては会えるように画策をしたりした。
一歩間違えば、ストーカーまがいの行為だと自分でも思う。
でも、それぐらいに必死に沙羅を追いかけていたのだ。
「沙羅、ひとつ聞いていいか? どうして、自分じゃダメだとか、あきらめないといけないとか、そんな考えに行き着いたんだ?」
「それは……」
と、沙羅は言いよどむ。
慶太は、自分の事を好きだと言ってくれている。その言葉にウソは無いだろう。
そして、二股をかけるような人でもない事を知っている。
いくら、昨日慶太が女性と歩いていたからとしても、断片的な光景しか見ていないのだ。だいたい、婚約者が居るのを隠して、付き合うようなマネをする慶太ではない。
それなのに、自分じゃダメだとか、あきらめないといけないと思い込んでいるのは、過去に慶太の母親である高良聡子の言葉に囚われているからだ。
冷たい瞳で見下ろされ「然るべき所から妻を迎えるつもりなの。シンデレラを夢見てもあなたが傷つくだけよ」と言われたのが、ずっと、心の傷になって、慶太を好きだと思うたびに、奥底で痛みを感じていた。
でも、もう二度と冷たい瞳で見下ろされる事はない。
自分を好きだと言ってくれている慶太を信じていればいいのだと、沙羅はようやく気付いた。
「私、自分に自信がなくて……慶太には、もっと素敵な人が似あうと思って、卑屈になっていたみたい。それで、気持ちばかり焦って……ごめんなさい」
「沙羅、俺は沙羅の事が好きだよ。わかっているよね?」
真剣な瞳で慶太に問われ、沙羅はうなずく。
「それなのに沙羅以外の女性が似合うとか考えないでくれ」
懇願とも言える慶太の言葉。
沙羅は、心に引っかかっていた出来事をやっとの思いで口にした。
「でも、昨日、銀座のBellissimoで慶太が女の人と居るのを見てしまって……婚約とか聞こえて来て、凄い仲が良さそうだったから……」
ふたりの姿を見た時のショックがよみがえり、涙がジワリと浮かぶ。
それなのに慶太は、クスッと笑う。
「沙羅もBellissimoに居たのか、それなら声を掛けてくれれば良かったのに」
「声なんて掛けられないよ。私、慶太が婚約したのかと思って、凄いショックだったんだから!」
これまでの沙羅の追い詰められたような行動に合点がいった慶太は、愛おしさが募り、沙羅をギュッと抱きしめた。
「沙羅、愛しているよ」
耳元で囁かれ、カァッと体が熱くなる。
顎先に手を添えられ、唇が重なった。
ついばむように何度もキスをして、思考が溶けていく。さっきまでのささくれていた気持ちは、まろやかになり、甘く蕩ける。
深くなったキスで、心の中は慶太で満たされて、深い部分にあった傷が癒えていくのを感じた。
チュッと、音を立てて唇が離れた。
沙羅を抱きしめたままの慶太は上機嫌で髪を撫でている。
広い胸に抱かれて、沙羅は気持ちが落ち着いてくると、ふと疑問が浮かんだ。
声を掛けてと言うぐらいだから、後ろ暗い関係では無いのだろう。
しかし、Bellissimoで見かけた時、確かに「婚約した」と言っていたはずだ。
「ねえ、慶太と一緒に居た娘って、どんな関係なの?」
「Bellissimoで一緒に居た娘は、俺の腹違いの妹なんだ」
「腹違いの妹!?」
高校の頃、慶太に妹が居るなんて聞いた事も無い。意外な内容に沙羅は目を白黒させる。
「以前、俺の父親にもう一つ家庭があるって話しを沙羅にはしたよね」
沙羅は、夜のあやとりはしで慶太から聞いた話しを思い出し、うなずいた。
「そのもう一つ家庭で生まれた娘で、戸籍も生みの母親の姓を名乗っていて、妹とは言っても苗字も違う。俺の母親が存命だった頃は、異母妹の存在は公に出来なかったんだ。あの娘も身勝手な親に振り回された子供なんだ。そのせいか、たまに会うと甘やかしてしまって、都合の良い兄をやっている」
「兄妹だったなんて……」
慶太からの告白を聞いて、沙羅はカッと頬が熱くなる。
まるで、盛大な勘違いで騒ぎ立てていたみたいだ。イヤ、まぎれもなく盛大な勘違いをして、悲劇のヒロインよろしく騒ぎ立てていた。
それなのに、慶太は相貌をくずして笑う。
「沙羅が、あんなに取り乱すぐらいにヤキモチ焼いてくれたなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
金沢駅で別れた時、沙羅は「私の事は、忘れて……。慶太は幸せになって」と言い残し、車窓の人となった。
その言葉は、もう会う事は無いのだと暗に示していた。
それからは、沙羅を見守ると決めた慶太だったが、不安が無かった訳じゃない。
日下部真理に連絡を取り、沙羅がどうしているのか聞き出し、仕事の仲介を頼んだり、東京に仕事を入れては会えるように画策をしたりした。
一歩間違えば、ストーカーまがいの行為だと自分でも思う。
でも、それぐらいに必死に沙羅を追いかけていたのだ。
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