名無しのヒーロー【完結】

安里海

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招かざる訪問者

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 朝、目覚めると、昨日の体調の悪さなどウソのようにスッキリしていた。
 熱も下がり、胸の痛みも無く、体も軽い。
 こんなに気持ちの良い朝を迎えるのは、久しぶりだ。

 昨日、帰りがけに朝倉先生が今日も様子を見に来てくれると言っていたけど、どうしよう。

 こんなに回復しているのに先生に来てもらうのは悪いような気がして、取り敢えず熱が下がり元気になった事と、都合が良ければイラストの打ち合わせをいかがですか?という内容のメッセージを送る。

 直ぐに返信があり、午後1時過ぎにうちへ来るという事になった。
 朝倉先生に会えるかと思うと口元がニンマリとゆるくなる。

 時間を見ると、まだ午前10時前だ。
 約束の時間まで、余裕があるから部屋の掃除をしよう。そして、いつものスエット姿でなく、少しはまともな服に着替える。薄くお化粧もしたりして、とにかく女度マイナスの点数の加点をしていきたい。

 そんな母の気持ちはおかまいなしに、小さな怪獣が我が家を荒らす。
 美優は、自由に動き回りたい年頃で、目に付く物は全てオモチャになってしまう。テッシュBOXなんてそばに置いたら最後、中身が空っぽになるまで引き抜き部屋の床にテッシュが降りつもる。

 片づけたそばから大惨事が始まるのだ。小さな子供がいたら時間通りに予定など進まないと思った方がよい。
 それでもなんとか部屋を片づけ、昼食をすませた。薄化粧をし、フレアスカート、カットソーに着替えた私は、昨日に比べてずいぶんマシな格好だと思う。

 時計の針は12時40分。頑張った自分をホメてあげよう。


 ピンポーンと、部屋のチャイムが鳴った。

 朝倉先生が来た!

 そう思って部屋のドアを開けた途端に後悔する。

 なんでコイツがココにいるんだ?

 予想外の出来事に上手く脳内での処理ができず、私のまわりには [?]マークが飛びかっている。
 そこに立っていたのは、元カレの園原将嗣だったからだ。

 「夏希、これ」

 と、将嗣から差し出された袋は、デパートに入っている有名店のロゴがプリントされていた。
 ココのフルーツショートケーキ甘さも控えめ、スポンジもフワフワ。高級フルーツが上に乘っていて、そんじょそこらのとは、一味違い、メチャクチャ美味しいのよね。

 節約のため、コンビニやスーパーのケーキばっかりで、デパートに入っているようなメーカーのケーキを食べるような贅沢は中々出来ない。

 絶対に美味しいヤツだ!

 フラフラと危うく受け取りそうになって、ハッとした。

「” 夏希、これ ”じゃ、なくて、なんで将嗣がココにいるの?」

「仕事が休みだから夏希と美優に会いに来たんだよ」

「あのね。私にも都合ってものがあるのよ。連絡も無しに急に来られても困るの! 今日だってこれから、仕事の打ち合わせがあるんだから!」

 そう、もうすぐ朝倉先生が来る。
 将嗣には、一刻も早く立ち去ってもらいたい。

「俺、夏希の電話番号もメールアドレスも教えてもらっていないし、しょうがないだろう?」

 そうだった。別れた時に電話も解約して、電話番号も替えて、メルアドも替えたんだ。
 そして、元カレだから家の場所は知られていた。

 「チッ」心の中で舌打ちをした。

「連絡先教えてあげるから今日は帰ってよ。この後、仕事があるのは本当なんだからね!」

 携帯電話を取りに部屋に戻る。美優を一人で部屋に置いておくのは不安だったので、抱き上げて玄関に行く。美優の姿を見つけた将嗣は、ニッコリ笑い両手を広げた。

「美優ちゃんおいで」

 美優も呼ばれて将嗣に手を伸ばす。

「時間が無いんだから早くして!」

「そんな素っ気ない事を言うなよ」

 美優を抱き上げようとしている将嗣を遮るように声を掛けた。

「メッセージアプリ入っている?」

「もちろん、入っているよ」

 と言いながら美優と握手をして笑い合っている。

 ため息をつきながら、ふたりでシャカシャカしていると、一台の車が、アパートの駐車場へと入って来た。
 そして、来客用の駐車場に停まり、車からは朝倉先生のお姿が……。



 イヤーーーーッ!!(心の叫び)
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