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第4の異世界ーはるか遠くの銀河で戦う少年
第118話 戦争の終わり
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テオナが死に、同時に彼女が帝国皇帝メイラッドに成り代わっていたことが知れ渡り戦争は終結した。
とはいえ、連合側帝国側で多くの人間が死傷をしたのだ。戦争が起こる以前のような関係にはまだ戻れないとは思う。
しかし戦争は終わった。
その事実だけは喜ぶべきことだろう。
「本当に行ってしまうのか?」
ヘルマイムの格納庫でデュロリアンの側に立つ俺とツクナへ向かってゼナイエが言う。
「ツクナたちの目的は達した。もうここにいる意味は無い」
「サミオンツクナたちの目的とは?」
チラとツクナの視線がルカへと移る。
「ルカの不幸な人生を修正すること。その目的は達した」
ルカはあのとき、デズター・デルガモットに負けて殺されるはずだった。
それを俺が救い、彼の兄を殺して皇帝に成り代わっていた偽皇帝テオナは死んだ。
彼が帝国の皇帝になるのか、それともこのままナイトとして生きるのかはわからない。しかし起こるはずだった不幸は修正された。
それを確信できた今、俺とツクナがここですることはもうなかった。
「私の不幸な人生……。恐らく、ツクナ様とハバンさんがいなければ私はデズター・デルガモットに殺されていたか、そうでなくともどこかで死んでいたでしょう。それをツクナ様は知っていたのでしょうか?」
「うむ。しかし安心せい。これからの人生は平穏じゃ。争いも無く天寿をまっとうできることじゃろう」
「ツクナ様、あなたは不思議なお方です。なぜそのようなことまで……?」
「それはツクナが天才科学者だからじゃ」
「そ、そうなのですか」
ざっくりとした答えだが、その通りではある。
「我としては2人ともここへ残ってヨトゥナを支えてほしかったが」
「すまぬな。それはできん。しかしこの世界はなかなか楽しかった」
そう言ってツクナはふふっと笑う。
「これからどこへ?」
「次の異世界じゃ」
「次の異世界? それは……いや、聞く意味も無いか。どこか遠く、こことはまったく違う場所なのだろう」
「そうじゃな」
恐らくここへ戻って来ることはもう無い。
そう考えると寂しいものがあった。
「ハバンさん、師として私を鍛えてくださったあなたには感謝しかありません。なにも恩をお返しできないまま別れるのは本当につらいです……」
「ルカ君」
彼の成長を間近で見てきた。
だからわかる。
「君には強くなる才能があった。俺はその才能が開くきっかけを少し与えただけだ。俺が教えなくても、君ならいつか自らの力で才能を開かせていたはずだよ」
「そ、そんなことはありませんっ! 私はハバンさんのおかげで強くなれたのですっ! だからなにか恩を返したいと……」
「君は俺より強くなった。君が俺に恩を感じているなら、それがなによりの恩返しだよ」
「ハ、ハバンさん……」
ルカは本当に強くなった。
彼のような正しい心を持ったまっすぐな少年が強くなれたことは嬉しいことだ。その一助を俺ができたならば、それで満足だった。
「ハバン君、私は寂しくないぞ。偉大なサミオンは別れを悲しまないのだ」
そう言うペイナーだが、言葉とは裏腹に号泣していた。
「ペイナー……。あんたは立派なサミオンだ。これからもゼナイエを支えてこの宇宙の平和を守っていってくれ」
「い、言われなくても……うわあああんっ!」
抱きついてきたペイナーの背をポンポンと撫でた。
「グライドさん、あんたも……」
「もちろんだ。……ツクナ殿、ハバン君、私は最初、君たちに不信感を抱いていた。しかしそれは間違いだった。君たちは英雄だ。不審に思ってすまないと思っている。許してもらいたい」
「いや、不審に思うのは当然だ。あんたは悪くない。これからもペイナーと協力してゼナイエを支えていってほしい」
「ああ。君たちも健勝でな」
手を差し出され、俺はグライドと握手をした。
「さてもうゆくぞ」
「ああ」
ツクナに言われて俺は運転席へ座る。
「いよいよお別れか。サンパーハバンだけでも残ってほしかったな」
「なんじゃ? ハバンに惚れたか?」
「い、いや、そういうわけでは……」
「しかし残念じゃな。ハバンはツクナのことが好きなんじゃ。ツクナのようにセクシーな大人の女をの」
「そうか」
フッとゼナイエは笑う。
その笑みがなにを意味していたのか、俺にはわからなかった。
「ハバンさんっ! またいずれっ!」
「また会えるかは……わからないけど、ね」
窓から手を振った俺はアクセルへと足を置く。
「ルカ君、ゼナイエ、ペイナー、他のみんなも達者でな」
窓から手を振った俺はアクセルを踏んでデュロリアンを異空間道へ進ませた。
……
「……行ってしまったな」
サミオンツクナとサンパーハバンの乗った乗り物は不思議な穴へと消えていった。
彼らがどこから来て、どこへ行ったのかは知らない。
きっと知る意味も無いのだろうと、ゼナイエは深く考えなかった。
「グライド、ドゥアン・セットカランの予言だが」
「ドゥアン・セットカラン様の予言がどうされましたか?」
「『幼き女、思考深き者により闇のナイトは払われ、ヨトゥナと宇宙に平穏をもたらす』。あの意味は解釈を間違えていたのかもしれん」
「えっ? それはどういうことですか?」
「闇のナイト。恐らくそれは偽皇帝テオナのことだ。テオナにとどめを刺したのはサンパーハバンの放った一撃。つまり幼き女、思考深き者とは彼のことになる」
「で、ではドゥアン・セットカラン様の予言が間違っていたと?」
「いや……」
ゼナイエはツクナとハバンの姿を思い浮かべる。
「幼き女とはサミオンツクナのこと。思考深き者とはサンパーハバンのこと」
「それは……どういうことでしょうか?」
「この思考とは考えるではなく、好むということ。つまり嗜好だ。幼き女に嗜好の深い者。これはサミオンツクナを好きなサンパーハバンのことではないか?」
「ああ」
グライドとルカが頷く。
「そ、そうかなー? ハバン君は私のような成熟した大人の女が好きだったんじゃないかと思うけどね。うん」
「たいした自信だ」
と、ゼナイエはペイナーの言葉を聞いて肩をすくめる。
「いや、もしかしたらそれも違うかもしれませんよ」
「どういうことだ?」
自分の考えを正解だとゼナイエは思うが。
「ハバンさんがツクナ様のことを好きなのは事実です。しかしあの方は単純に幼い女性が好きなので、予言はそのまま幼き女を意味していることも考えられます」
「そうなのか」
それを聞いてゼナイエはちょっと考える。
「……我が色仕掛けでもすれば、サンパーハバンを引き留められたか」
「ゼナイエ様っ?」
グライドが驚いたように声を上げた。
「ヨトゥナの最高師範様ともあろうお方がそのようにふしだらなことを……」
「しかしグライドよ。あれほどのナイトだ。残ってもらえればヨトゥナにとって大きな力になることは違いない」
「それはそうかもしれませんが」
「それにあれは良い男だ。我の一生で、サンパーハバン以上の男に出会うことはないだろう。実に惜しいことをした」
「確かにサンパーハバンは優秀なナイトでした。しかし彼より強いナイトに出会うことが無いは大袈裟すぎでは?」
「ナイトではない。男だ。あの男はきっと、愛した女に永劫の愛を注ぎ続けるだろう。女にとって、愛する男に愛され続けることほど嬉しいことはない」
「は、はあ……」
「しかし強すぎる愛は女にとって嬉しい反面、恐怖でもある」
「どういうことですか?」
「強すぎる愛は、愛し合う2人を別つこともあるということだ」
「?」
ゼナイエの言葉に3人は首を傾げる。
サミオンツクナもいずれその恐怖を味わうこともあるか。
それがわからないが、きっと彼女ならば大丈夫だろうと思う。
「恐怖を感じてしまうほどの強い愛か」
しかしそんな恐怖もいずれ味わってみたい。
幼くも、ゼナイエはそう考えていた。
とはいえ、連合側帝国側で多くの人間が死傷をしたのだ。戦争が起こる以前のような関係にはまだ戻れないとは思う。
しかし戦争は終わった。
その事実だけは喜ぶべきことだろう。
「本当に行ってしまうのか?」
ヘルマイムの格納庫でデュロリアンの側に立つ俺とツクナへ向かってゼナイエが言う。
「ツクナたちの目的は達した。もうここにいる意味は無い」
「サミオンツクナたちの目的とは?」
チラとツクナの視線がルカへと移る。
「ルカの不幸な人生を修正すること。その目的は達した」
ルカはあのとき、デズター・デルガモットに負けて殺されるはずだった。
それを俺が救い、彼の兄を殺して皇帝に成り代わっていた偽皇帝テオナは死んだ。
彼が帝国の皇帝になるのか、それともこのままナイトとして生きるのかはわからない。しかし起こるはずだった不幸は修正された。
それを確信できた今、俺とツクナがここですることはもうなかった。
「私の不幸な人生……。恐らく、ツクナ様とハバンさんがいなければ私はデズター・デルガモットに殺されていたか、そうでなくともどこかで死んでいたでしょう。それをツクナ様は知っていたのでしょうか?」
「うむ。しかし安心せい。これからの人生は平穏じゃ。争いも無く天寿をまっとうできることじゃろう」
「ツクナ様、あなたは不思議なお方です。なぜそのようなことまで……?」
「それはツクナが天才科学者だからじゃ」
「そ、そうなのですか」
ざっくりとした答えだが、その通りではある。
「我としては2人ともここへ残ってヨトゥナを支えてほしかったが」
「すまぬな。それはできん。しかしこの世界はなかなか楽しかった」
そう言ってツクナはふふっと笑う。
「これからどこへ?」
「次の異世界じゃ」
「次の異世界? それは……いや、聞く意味も無いか。どこか遠く、こことはまったく違う場所なのだろう」
「そうじゃな」
恐らくここへ戻って来ることはもう無い。
そう考えると寂しいものがあった。
「ハバンさん、師として私を鍛えてくださったあなたには感謝しかありません。なにも恩をお返しできないまま別れるのは本当につらいです……」
「ルカ君」
彼の成長を間近で見てきた。
だからわかる。
「君には強くなる才能があった。俺はその才能が開くきっかけを少し与えただけだ。俺が教えなくても、君ならいつか自らの力で才能を開かせていたはずだよ」
「そ、そんなことはありませんっ! 私はハバンさんのおかげで強くなれたのですっ! だからなにか恩を返したいと……」
「君は俺より強くなった。君が俺に恩を感じているなら、それがなによりの恩返しだよ」
「ハ、ハバンさん……」
ルカは本当に強くなった。
彼のような正しい心を持ったまっすぐな少年が強くなれたことは嬉しいことだ。その一助を俺ができたならば、それで満足だった。
「ハバン君、私は寂しくないぞ。偉大なサミオンは別れを悲しまないのだ」
そう言うペイナーだが、言葉とは裏腹に号泣していた。
「ペイナー……。あんたは立派なサミオンだ。これからもゼナイエを支えてこの宇宙の平和を守っていってくれ」
「い、言われなくても……うわあああんっ!」
抱きついてきたペイナーの背をポンポンと撫でた。
「グライドさん、あんたも……」
「もちろんだ。……ツクナ殿、ハバン君、私は最初、君たちに不信感を抱いていた。しかしそれは間違いだった。君たちは英雄だ。不審に思ってすまないと思っている。許してもらいたい」
「いや、不審に思うのは当然だ。あんたは悪くない。これからもペイナーと協力してゼナイエを支えていってほしい」
「ああ。君たちも健勝でな」
手を差し出され、俺はグライドと握手をした。
「さてもうゆくぞ」
「ああ」
ツクナに言われて俺は運転席へ座る。
「いよいよお別れか。サンパーハバンだけでも残ってほしかったな」
「なんじゃ? ハバンに惚れたか?」
「い、いや、そういうわけでは……」
「しかし残念じゃな。ハバンはツクナのことが好きなんじゃ。ツクナのようにセクシーな大人の女をの」
「そうか」
フッとゼナイエは笑う。
その笑みがなにを意味していたのか、俺にはわからなかった。
「ハバンさんっ! またいずれっ!」
「また会えるかは……わからないけど、ね」
窓から手を振った俺はアクセルへと足を置く。
「ルカ君、ゼナイエ、ペイナー、他のみんなも達者でな」
窓から手を振った俺はアクセルを踏んでデュロリアンを異空間道へ進ませた。
……
「……行ってしまったな」
サミオンツクナとサンパーハバンの乗った乗り物は不思議な穴へと消えていった。
彼らがどこから来て、どこへ行ったのかは知らない。
きっと知る意味も無いのだろうと、ゼナイエは深く考えなかった。
「グライド、ドゥアン・セットカランの予言だが」
「ドゥアン・セットカラン様の予言がどうされましたか?」
「『幼き女、思考深き者により闇のナイトは払われ、ヨトゥナと宇宙に平穏をもたらす』。あの意味は解釈を間違えていたのかもしれん」
「えっ? それはどういうことですか?」
「闇のナイト。恐らくそれは偽皇帝テオナのことだ。テオナにとどめを刺したのはサンパーハバンの放った一撃。つまり幼き女、思考深き者とは彼のことになる」
「で、ではドゥアン・セットカラン様の予言が間違っていたと?」
「いや……」
ゼナイエはツクナとハバンの姿を思い浮かべる。
「幼き女とはサミオンツクナのこと。思考深き者とはサンパーハバンのこと」
「それは……どういうことでしょうか?」
「この思考とは考えるではなく、好むということ。つまり嗜好だ。幼き女に嗜好の深い者。これはサミオンツクナを好きなサンパーハバンのことではないか?」
「ああ」
グライドとルカが頷く。
「そ、そうかなー? ハバン君は私のような成熟した大人の女が好きだったんじゃないかと思うけどね。うん」
「たいした自信だ」
と、ゼナイエはペイナーの言葉を聞いて肩をすくめる。
「いや、もしかしたらそれも違うかもしれませんよ」
「どういうことだ?」
自分の考えを正解だとゼナイエは思うが。
「ハバンさんがツクナ様のことを好きなのは事実です。しかしあの方は単純に幼い女性が好きなので、予言はそのまま幼き女を意味していることも考えられます」
「そうなのか」
それを聞いてゼナイエはちょっと考える。
「……我が色仕掛けでもすれば、サンパーハバンを引き留められたか」
「ゼナイエ様っ?」
グライドが驚いたように声を上げた。
「ヨトゥナの最高師範様ともあろうお方がそのようにふしだらなことを……」
「しかしグライドよ。あれほどのナイトだ。残ってもらえればヨトゥナにとって大きな力になることは違いない」
「それはそうかもしれませんが」
「それにあれは良い男だ。我の一生で、サンパーハバン以上の男に出会うことはないだろう。実に惜しいことをした」
「確かにサンパーハバンは優秀なナイトでした。しかし彼より強いナイトに出会うことが無いは大袈裟すぎでは?」
「ナイトではない。男だ。あの男はきっと、愛した女に永劫の愛を注ぎ続けるだろう。女にとって、愛する男に愛され続けることほど嬉しいことはない」
「は、はあ……」
「しかし強すぎる愛は女にとって嬉しい反面、恐怖でもある」
「どういうことですか?」
「強すぎる愛は、愛し合う2人を別つこともあるということだ」
「?」
ゼナイエの言葉に3人は首を傾げる。
サミオンツクナもいずれその恐怖を味わうこともあるか。
それがわからないが、きっと彼女ならば大丈夫だろうと思う。
「恐怖を感じてしまうほどの強い愛か」
しかしそんな恐怖もいずれ味わってみたい。
幼くも、ゼナイエはそう考えていた。
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