誰からも愛される聖獣に転生したのに、推しにだけ嫌われています

羽里うめこ

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濡れた下着

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 ハロルドの舌と唇は、たやすくリトをとろとろにしてしまった。
 百戦錬磨の彼にかかったら、経験値のないリトを落とすことなど、それこそ赤子の手をひねるようなものだろう。

「んん……っ、ん、ふ……♡」
「はあ……リト……」

 くちづけの合間に、愛おしげに名前を呼ばれるのがたまらなかった。だれにでもこういう声を出すのだろうとわかっているのに、本当に求められているような錯覚をしてしまう。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てて唇をついばまれる。舌先を絡め合って、与えられるおいしいそれを啜る。やさしくてあまいくちづけに酔っているリトは、いまだ己の首筋に顔を埋めているフェリックスが艶めいた唇を開いたことに気付かなかった。

「っ、あ、っ♡ ?」

 無防備にさらけ出されていたリトの右耳の耳朶を、フェリックスの唇がちゅうっと吸った。前世ではシルバーのフープピアスをつけていることが多かったが、身一つで召喚されてきてからはなにも付けていない。そのちいさなピアス穴をくすぐるように、フェリックスの舌先が耳朶を舐めた。

「あっ、あ♡ ん、ん、~っ♡」

 抵抗もできずびくつくリトの唇を、ハロルドの唇が再び塞いでくる。口の中の敏感なところを責められながら、ぴちゃぴちゃと音を立てて耳をねぶられることに、リトは信じられないくらい感じてしまった。

(みみ、耳、だめ、ぞくぞくする、へんになっちゃう……っ♡)

 耳朶を唇に含まれてちゅくちゅくされたり、耳殻に沿ってねっとりと舌を這わされたりするごと、全身に快感の鳥肌が立って勝手にからだが悶えてしまう。とてもじっとしてなどいられなかった。ハロルドの腕の中で身動ぎするたび、ツンと硬くなった乳首がシャツにこすれていっそう快感を煽ってくる。
 こわいほど性急に絶頂の予兆が駆けのぼってきて、ビクンと背が反った瞬間にハロルドの唇が離れてしまった。

「だめ、ぇ、~~~っ♡」

 はしたなくとろけきった声を上げて、リトはふたりの……いや、ふたりとレヴィの前で抗いようもなく絶頂した。びく、びく、と全身が跳ねる。
 誰の目から見ても、リトが極めてしまったことは明白だっただろう。

「キスされながらお耳舐められて、イッちゃったの? リトは、えっちなんだね……♡」

 興奮しきった声でフェリックスが言い、余韻にふるえているリトの唇を強引に奪った。

「んぅ……っ♡ ん、ぅ~~~っ♡」

 からだはまだ甘すぎる絶頂の余韻に浸っているのに、とろとろになった口の中を容赦なく舌で掻き回されて、リトはわけがわからなくなった。

「ああ、本当にかわいいな、リト」

 ハロルドが楽しげにささやいて、先程フェリックスが嬲っていたほうとは逆の、左の耳へちゅっとキスを落とした。

「ん~っ、♡」

 だめ、と言いたいのに、フェリックスに舌を捕まえられているせいで叶わない。それでもリトの様子で察したのだろう、ハロルドはリトの耳元へ顔を寄せたままちいさく笑った。その吐息がかかるだけで、いまのリトにはたまらないのに。

「キスをしてるだけだろう?」

 ハロルドはそう言って、またリトの左耳にキスをする。音を立てて何度もついばまれ、耳朶を吸われる。そのたびに、リトの背筋はぞくぞくとして腰が跳ねてしまう。
 そうだ、ふたりはリトにキスをしているだけだ。キスだけなのに、リトが勝手に感じて、はしたなくイッてしまった。真面目に仕事をしているレヴィのまえで、えっちなことになってしまっている。

(恥ずかしいよお……)

 本当に恥ずかしいのに、フェリックスの遠慮のないいやらしいキスも、ハロルドのやさしい左耳へのキスも、ぜんぶ気持ちがいい。

「は、ぁ……んっ♡ ぅ……♡」
「これでまだ誰にも抱かれたことがないなんて、信じられないな」

 ハロルドの大きな手のひらが、リトの内腿を撫でた。ボトム越しとはいえ、皮膚の薄い敏感なところへ触れられて下肢が跳ねる。

「大丈夫、触らないよ」

 そう言いながら、彼の指先は内腿をゆっくりとくだって鼠径部へ触れた。彼の左手のすぐそばに、下着の中でゆるく勃ち上がっている性器がある。触れられてなどいないのに、だからこそかえって意識してしまって泣きそうだった。

「ふふ、ちっちゃな舌がふるえてる。かわいいね……♡」

 唇の外へと引きずり出されたリトの舌を、フェリックスが絡め取ってあまく吸い上げる。それと同時に、無防備な左耳へハロルドが舌を這わせながら、会陰に触れそうで触れないぎりぎりのところをぐうっと圧した。

「んん~~~っ♡ っ、ぁ、あ♡」

 下着の中が、濡れた感触がした。
 がくがくと腰をふるわせて達しているリトの顔を、フェリックスとハロルドが愉しげに見つめている。顔を背けたいのに、フェリックスの両手に頬を固定されていて叶わなかった。

(射精、してる……ひとまえで……レヴィがそこにいるのに……っ)

「とろとろのイキ顔、かわいいね……♡」
「たくさん気持ちよくなれてえらいな」
「えらいえらい♡」

 フェリックスとハロルドに交互に褒めそやされて、リトは胸を喘がせながらくたりと脱力した。




「見送りは大丈夫だよ」
「侍従に着替えを用意するよう伝えておいてやろう」

 ソファにうずくまったままのリトの頬へ順番にくちづけて、ふたりは客間を出て行った。
 部屋に残されたリトは、クッションに顔をうずめてからだを丸めた。すぐそこには、変わらずレヴィが立っている。彼はリトの護衛なのだから、それはそうだ。

 傾いた西陽が差し込む部屋の中には、重苦しい沈黙が落ちていた。リトとレヴィのあいだには、普段からほとんど会話はない。レヴィは仕事中に無駄口を叩くタイプではないし、リトのほうから話しかけることもないからだ。

(おれのこと、軽蔑してるんだろうな)

 レヴィは、おそらく王宮にいるだれよりも清らかな男だ。性のにおいなど欠片も感じさせない彼だからこそ、ゲームのアダルト版で見せる淫蕩な姿にプレイヤーはみんな夢中になった。でもそれは、ゲームの中だけの話だ。
 
(消えたい)

 命をかけて護っている相手がこんな淫乱だなんて、レヴィにとってはこの上ない不幸だろう。国いちばんの剣の腕をこんなところで腐らせて、本人だって不服だろうに、命令だから従うしかないのだ。自分のせいでだれかが不幸になっているのだと思うと、無性に哀しかった。

 ノアはまだ戻ってこない。彼はこの邸全体を取り仕切る執事でもあるから、主人のリトに代わって客人を見送ってくれているのだろう。
 濡れた下着の感触が気持ち悪かった。自分のせいだから自分に腹を立てるしかない。この淫乱。おまえの堪え性がないからノアにも迷惑をかけるんだ。

 自分を責め立てていたらじわじわと涙が滲んできて、リトは慌てて目をつむった。自分が情けなくて泣いてしまうなんて、それこそ情けない。必死に泣くのを堪えていたから、リトはレヴィが傍らに立ったことに気付かなかった。

「失礼いたします」
「えっ」

 突然間近で声がしてびくりとしたからだを、レヴィの両腕が軽々と抱き上げてきたものだから、リトは驚きのあまり固まってしまった。

「お部屋までお連れいたします」

 レヴィは言って、リトを横抱きにしたまま歩き出した。
 濡れた下着を穿いたままのからだに触れられている。そう気付いた瞬間に、頭の中が真っ白になった。

「だめ、おれにさわっちゃだめ、レヴィがよごれちゃう」

 だれよりも清廉な騎士を、アデルが愛している彼を、リトが穢してしまう。一瞬でパニックに陥りかけたリトのからだを、レヴィの両腕が力強く抱き寄せた。

「なぜです? あなたは汚れてなどいません。ご自分のことを、そんなふうに仰らないでください」

 澄んだ空色のひとみは、まっすぐにリトを見ていた。やさしげな美貌がそっとほほ笑んで、危ないから動かないでくださいね、と言う。

 なんだか急にからだの力が抜けてしまって、リトはレヴィの胸に素直に凭れかかった。
 レヴィは強いから、リトが触れたくらいでは汚れたりしないのだ、と思った。ほっとして、それから、彼を羨んでしまいそうになる卑屈な自分を胸の奥底へ押し込めた。




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