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第40話 過去と向き合う覚悟
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冬の気配が濃くなり始めた午後、屋敷の書斎はしんと静まり返っていた。
ユリウスは一人机に向かい、古い木箱を開けていた。
中に入っていたのは、リドフォード家に伝わる家系図の写しと、母の遺品の手紙、そして壊れた懐中時計――ずっと捨てられずにいたものだ。
あの家を出る時、どうしても置いて行けなかった。
触れると、どれも冷たく、痛みと懐かしさが同時に胸をかすめる。
カインは少し離れた位置に立ち、黙ってその様子を見ていた。
口出しも、気休めも言わない。
ただ、必要なときには手を伸ばせる距離にいる。
それが、今の彼の在り方だった。
「……懐かしいっていうより、重いですね」
ユリウスがようやく口を開いた。
懐中時計を手に取り、軽く振ると、カチリと音を立てて止まったままの針が動く気配はなかった。
「これ、父ががくれたやつなんです。『名門の証だ』って、鼻高々に……まさかリドフォード家に置きっぱなしにしていたから、捨てられていたと思っていたのですが……」
「……今となっては、ただの金属の塊か?」
「そう言ってくれると、少しは気が楽ですね」
カインが静かにユリウスに視線を向けており、ユリウスは、机の上に手紙を並べながら、少しずつ話し始めた。
「俺の家って昔はそれなりに名のある貴族でしたね。母は病弱で、父は典型的な名誉第一の男……俺は、どうだったんでしょう。一応、『息子』としては育ててくれた感じでしたけど」
「……今の君には、想像できないな」
「今の俺は、もう貴族でも何でもないですからね」
自嘲するように笑って、懐中時計をパチンと閉じる。
カインは歩み寄り、無言でその手から時計を受け取ると丁寧に布で包んだ。
「だが、その出来事がなければ、俺はユリウスと出会う事がなかった」
「全く……口がうまいですね。どこで仕込んだにですか、そういうの」
「……王宮だな……護衛任務の一環で貴族に取り入る必要もありましたので」
ユリウスは、ふとカインの顔を見る。
「そういえば、カインの話はあまり聞かないですね……私の護衛を終えた後は何をしていたんですか?」
「王宮で騎士紛いのような事をしていた……あとは、訓練とか」
「……そう、ですか」
ユリウスはぽつりと呟き、窓の外に目をやった。
乾いた空気に白い雲が流れていく。
どこか遠くへ、過去ごと持ち去ってくれそうな気がした。
「お前、あの時からずっと誰かを守って生きてきたんですね」
「……そういう仕事だったから」
「俺は逆だった。誰かに守られるだけで何もできない……でも、もう違う。俺は――俺の人生を、俺の意思で選びたいから」
静かな決意のこもった声。
それは嘗て過去に囚われていたユリウスが、ようやく生きる人間として前を向いた証だった。
「カイン……俺が対等でいたいって言った時、本当はちょっと怖かったんだ」
「どうして?」
「お前は強いから。俺が隣に立っても、結局守られてるようにしか見えないんじゃないかって……でも、それでもいい……俺は、お前の隣で同じ方向を見ていたい」
カインは、その言葉を聞いて一歩だけ近づいた。
目線を合わせるように、そっとしゃがみ込む。
「ユリウス。どんな形であっても、必ずお前の傍にいる、そしてお前を守る」
「……俺も、出来る限りはするつもりだから……だから――」
その瞬間、ユリウスの目に微かな涙がにじんだ。
けれど、頬にこぼれる前に、それはカインの指先で拭われる。
「……ありがとう」
その一言に、今までの過去も、痛みも、重荷も、全てが込められていた。
過去と向き合うことは、消すことじゃない。
ただ、それを自分の『一部』として受け入れる勇気を持つ事。
そしてその隣には、誰よりも優しく誰よりも不器用な男がいてくれる。
それだけで、ユリウスはもう、前に進める気がした。
ユリウスは一人机に向かい、古い木箱を開けていた。
中に入っていたのは、リドフォード家に伝わる家系図の写しと、母の遺品の手紙、そして壊れた懐中時計――ずっと捨てられずにいたものだ。
あの家を出る時、どうしても置いて行けなかった。
触れると、どれも冷たく、痛みと懐かしさが同時に胸をかすめる。
カインは少し離れた位置に立ち、黙ってその様子を見ていた。
口出しも、気休めも言わない。
ただ、必要なときには手を伸ばせる距離にいる。
それが、今の彼の在り方だった。
「……懐かしいっていうより、重いですね」
ユリウスがようやく口を開いた。
懐中時計を手に取り、軽く振ると、カチリと音を立てて止まったままの針が動く気配はなかった。
「これ、父ががくれたやつなんです。『名門の証だ』って、鼻高々に……まさかリドフォード家に置きっぱなしにしていたから、捨てられていたと思っていたのですが……」
「……今となっては、ただの金属の塊か?」
「そう言ってくれると、少しは気が楽ですね」
カインが静かにユリウスに視線を向けており、ユリウスは、机の上に手紙を並べながら、少しずつ話し始めた。
「俺の家って昔はそれなりに名のある貴族でしたね。母は病弱で、父は典型的な名誉第一の男……俺は、どうだったんでしょう。一応、『息子』としては育ててくれた感じでしたけど」
「……今の君には、想像できないな」
「今の俺は、もう貴族でも何でもないですからね」
自嘲するように笑って、懐中時計をパチンと閉じる。
カインは歩み寄り、無言でその手から時計を受け取ると丁寧に布で包んだ。
「だが、その出来事がなければ、俺はユリウスと出会う事がなかった」
「全く……口がうまいですね。どこで仕込んだにですか、そういうの」
「……王宮だな……護衛任務の一環で貴族に取り入る必要もありましたので」
ユリウスは、ふとカインの顔を見る。
「そういえば、カインの話はあまり聞かないですね……私の護衛を終えた後は何をしていたんですか?」
「王宮で騎士紛いのような事をしていた……あとは、訓練とか」
「……そう、ですか」
ユリウスはぽつりと呟き、窓の外に目をやった。
乾いた空気に白い雲が流れていく。
どこか遠くへ、過去ごと持ち去ってくれそうな気がした。
「お前、あの時からずっと誰かを守って生きてきたんですね」
「……そういう仕事だったから」
「俺は逆だった。誰かに守られるだけで何もできない……でも、もう違う。俺は――俺の人生を、俺の意思で選びたいから」
静かな決意のこもった声。
それは嘗て過去に囚われていたユリウスが、ようやく生きる人間として前を向いた証だった。
「カイン……俺が対等でいたいって言った時、本当はちょっと怖かったんだ」
「どうして?」
「お前は強いから。俺が隣に立っても、結局守られてるようにしか見えないんじゃないかって……でも、それでもいい……俺は、お前の隣で同じ方向を見ていたい」
カインは、その言葉を聞いて一歩だけ近づいた。
目線を合わせるように、そっとしゃがみ込む。
「ユリウス。どんな形であっても、必ずお前の傍にいる、そしてお前を守る」
「……俺も、出来る限りはするつもりだから……だから――」
その瞬間、ユリウスの目に微かな涙がにじんだ。
けれど、頬にこぼれる前に、それはカインの指先で拭われる。
「……ありがとう」
その一言に、今までの過去も、痛みも、重荷も、全てが込められていた。
過去と向き合うことは、消すことじゃない。
ただ、それを自分の『一部』として受け入れる勇気を持つ事。
そしてその隣には、誰よりも優しく誰よりも不器用な男がいてくれる。
それだけで、ユリウスはもう、前に進める気がした。
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