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第41話 嘗ての屋敷
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冬の朝、空気は凛として冷たく、吐いた息が白く広がる。
荷車に揺られながら進む道は街から外れ、徐々に草原へと変わっていく。
空には灰色の雲が浮かび、時折差し込む陽光が霜に覆われた木々を白銀に照らしていた。
「ユリウス様、お加減は?」
横に座るグレアムが、慣れた手つきで膝掛けをユリウスの足にかけ直す。
「ああ、大丈夫です。ちょっと揺れが強いだけなので……ありがとうございます」
「いえいえ」
微笑みながら返すと、前方で手綱を握るリオが振り向いた。
「おう、もうちょいで見えてくるぞー……なんもないけどな?」
「何にもない方が、都合がいいです……俺にとっては」
そう言いながら、ユリウスは外に目をやる。
数年ぶりに通る道だった。
嘗て自分が暮らしていたグランフェル家の屋敷があった場所。
今はもう、人が住んでいないはずだ。
最後にあの門を出た時、カインに連れ去られる形だったなと思い出しながら、あははっと笑う事しか出来なかった。
カインは、別の馬で屋敷の警戒をしていた。
「俺一人で十分だ」と、当然のように言い切り先回りして屋敷周辺の安全を確保するため、早朝に出発していた。
「用心深いよな、あの人」
「だからこそ、平和に過ごせるんですよ……俺とは違うな」
ユリウスは少しだけ寂しそうに笑いながら呟いた。
リオがふっと軽口を返す。
「……てか、あんな重たい愛情ぶつけられてよく正気でいられるな?」
「正気じゃないから、今も一緒にいるんでしょうね……うわ、自分が今ヤバイやつって認めちゃった……訂正します!」
「訂正しても遅いぞーユリウス」
「せ、正常にいたいのに……っ」
ユリウスの返しに、グレアムが小さく吹き出した。
「……あ、見えてきた」
リオが手綱を引きながら、前方を指差す。
遠くに、くすんだ石造りの門が現れる。
蔦に覆われ、少し朽ちかけたアーチ。
その先に広がる、かつてのグランフェル家の屋敷跡。
門をくぐった瞬間、ユリウスの喉が詰まった。
変わっていない――荒れてはいるが、形はあの頃のままだった。
正面の階段、崩れかけたバルコニー、割れた温室のガラス。
リオとグレアムがそっと距離を取る。
二人きりにしてくれたのだ。
「……戻ってくるとは、思わなかった」
ユリウスは小さく呟いて、屋敷の中へ足を踏み入れる。
軋む床に埃をかぶった調度品。
もう誰も使っていないはずの部屋の数々。
しかし、記憶は確かにそこに残っていた。
悪い事をして父に叩かれた廊下。
母が微笑んでくれた窓辺。何度も書き直した筆跡の残る書斎机。
過ごした日々は、苦いだけではなかったと、初めて思えた。
「……おかえり、ユリウス」
背後から聞こえた声に、振り返る。
カインが、埃一つついていない姿で立っていた。
周囲の警戒を終えたようで、すでに屋敷に入ってきていた。
「お前、どこまで完璧なんですか……」
「君が、安心して歩けるように」
「……はいはい」
ユリウスは顔を背けるようにして、一つ大きく深呼吸をした。
そして屋敷の中心、大広間の扉をそっと開ける。
少し割れた窓から風が吹き込み、カーテンが舞い上がった。
「ここにいた、俺はもういない――これからは『ただのユリウス』として、生きる」
静かに、けれどはっきりと、言い切った。
しばらくして、カインが隣に立つ。
「……で、どうする?」
「何が?」
「この家に、新たな家を建てる……ふたりの愛の巣、みたいな」
「……言ってて恥ずかしくないか、カイン?」
「少しだけ……だが、君が笑ってくれるなら、俺はなんだっていい」
「真顔で言うな。恥ずかしさが倍になる」
ユリウスは呆れたように肩をすくめる。
けれど、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「でも……そうですね……ここに新しく家を建てるってのも、悪くない」
「いい、思い出になると思う」
「……考えておきましょう
廃墟となった大広間に、静かな決意が満ちていく。
過去を抱えながら、二人で新しい未来を築くかのように――二人は寄り添っていた。
荷車に揺られながら進む道は街から外れ、徐々に草原へと変わっていく。
空には灰色の雲が浮かび、時折差し込む陽光が霜に覆われた木々を白銀に照らしていた。
「ユリウス様、お加減は?」
横に座るグレアムが、慣れた手つきで膝掛けをユリウスの足にかけ直す。
「ああ、大丈夫です。ちょっと揺れが強いだけなので……ありがとうございます」
「いえいえ」
微笑みながら返すと、前方で手綱を握るリオが振り向いた。
「おう、もうちょいで見えてくるぞー……なんもないけどな?」
「何にもない方が、都合がいいです……俺にとっては」
そう言いながら、ユリウスは外に目をやる。
数年ぶりに通る道だった。
嘗て自分が暮らしていたグランフェル家の屋敷があった場所。
今はもう、人が住んでいないはずだ。
最後にあの門を出た時、カインに連れ去られる形だったなと思い出しながら、あははっと笑う事しか出来なかった。
カインは、別の馬で屋敷の警戒をしていた。
「俺一人で十分だ」と、当然のように言い切り先回りして屋敷周辺の安全を確保するため、早朝に出発していた。
「用心深いよな、あの人」
「だからこそ、平和に過ごせるんですよ……俺とは違うな」
ユリウスは少しだけ寂しそうに笑いながら呟いた。
リオがふっと軽口を返す。
「……てか、あんな重たい愛情ぶつけられてよく正気でいられるな?」
「正気じゃないから、今も一緒にいるんでしょうね……うわ、自分が今ヤバイやつって認めちゃった……訂正します!」
「訂正しても遅いぞーユリウス」
「せ、正常にいたいのに……っ」
ユリウスの返しに、グレアムが小さく吹き出した。
「……あ、見えてきた」
リオが手綱を引きながら、前方を指差す。
遠くに、くすんだ石造りの門が現れる。
蔦に覆われ、少し朽ちかけたアーチ。
その先に広がる、かつてのグランフェル家の屋敷跡。
門をくぐった瞬間、ユリウスの喉が詰まった。
変わっていない――荒れてはいるが、形はあの頃のままだった。
正面の階段、崩れかけたバルコニー、割れた温室のガラス。
リオとグレアムがそっと距離を取る。
二人きりにしてくれたのだ。
「……戻ってくるとは、思わなかった」
ユリウスは小さく呟いて、屋敷の中へ足を踏み入れる。
軋む床に埃をかぶった調度品。
もう誰も使っていないはずの部屋の数々。
しかし、記憶は確かにそこに残っていた。
悪い事をして父に叩かれた廊下。
母が微笑んでくれた窓辺。何度も書き直した筆跡の残る書斎机。
過ごした日々は、苦いだけではなかったと、初めて思えた。
「……おかえり、ユリウス」
背後から聞こえた声に、振り返る。
カインが、埃一つついていない姿で立っていた。
周囲の警戒を終えたようで、すでに屋敷に入ってきていた。
「お前、どこまで完璧なんですか……」
「君が、安心して歩けるように」
「……はいはい」
ユリウスは顔を背けるようにして、一つ大きく深呼吸をした。
そして屋敷の中心、大広間の扉をそっと開ける。
少し割れた窓から風が吹き込み、カーテンが舞い上がった。
「ここにいた、俺はもういない――これからは『ただのユリウス』として、生きる」
静かに、けれどはっきりと、言い切った。
しばらくして、カインが隣に立つ。
「……で、どうする?」
「何が?」
「この家に、新たな家を建てる……ふたりの愛の巣、みたいな」
「……言ってて恥ずかしくないか、カイン?」
「少しだけ……だが、君が笑ってくれるなら、俺はなんだっていい」
「真顔で言うな。恥ずかしさが倍になる」
ユリウスは呆れたように肩をすくめる。
けれど、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「でも……そうですね……ここに新しく家を建てるってのも、悪くない」
「いい、思い出になると思う」
「……考えておきましょう
廃墟となった大広間に、静かな決意が満ちていく。
過去を抱えながら、二人で新しい未来を築くかのように――二人は寄り添っていた。
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