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第47話 それでも、隣に
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窓から差し込む光が、静かな部屋を明るく照らしているのを理解した。
ここ数日、ユリウスはベッドの上で過ごしていた。
医師の診立てによれば傷はなんとか塞がったが、右足には深刻な損傷が残っているらしい。
筋と神経の一部が断裂しており、回復しても完全に元通りにはならない可能性が高い――そう告げられた時、カインの顔が凍りついたのをユリウスははっきり覚えている。
けれど。
ユリウスは、泣かなかった。
むしろ――今、生きていることのほうがずっと奇跡だったから。
その日の昼頃、部屋に飛び込んできたのはリオだった。
「おーい、ユリウス! 起きてるかー!」
元気な声とともに開け放たれた扉。
リオの手には、何やら妙な形の木製の台車があった。
見慣れないが、どこか実用的な造りをしている。
「……それ、何ですか?」
ベッドから顔を起こしたユリウスが尋ねると、リオは満面の笑みを浮かべて言った。
「じゃーん!これ、車輪付き椅子ってやつ!王都に住んでる商人の知り合いがいてさ、ちょっと無理言って特注品を送ってもらったんだ!これがあれば、移動できるだろ?」
車椅子――聞き慣れない単語だったが、リオが持ち込んだものはまさしくそう呼ばれる道具だった。
座面に深く座れば、背もたれが支えてくれる。
左右に付いた大きな車輪で自力でも少しずつ動かせるようになっている。
まだ粗削りな作りだが、明らかに前に進むための工夫が詰まっていた。
「すごい……リオ、ありがとうございます」
ユリウスは、素直に声を震わせて言った。
目が輝いていた。まるで少年のように。
「これで……自分で、動けるんだ……部屋から出られるんですね?」
「へへっ。でしょ?」
リオは得意げに鼻を鳴らす。
だがその隣、部屋の壁にもたれていたカインの顔が――あきらかに機嫌が悪い。
眉間にはうっすらと皺が寄り、口元は微かに尖っている。
しかも、明らかにリオを睨んでいる。
「……な、なに?俺、なんか悪いことした!?」
リオが涙目になって手を振ると、ユリウスが吹き出した。
「カイン……嫉妬してるのか?」
「してない」
即答だった。
即答のくせに、目が全くこちらを見ていない。
「ふーん……そうですか。じゃあリオ、今日から俺の押し役頼んでも――」
「それは却下だ」
今度は目を合わせてきた、即座に。
リオは慌てて手を振りながら一歩引く。
「や、やっぱ俺、仕事あるし!パンもこねないとだし! グレアムにも頼まれてたし!」
「はいはい。ありがとうございます、リオ」
「うん、じゃあね!」
笑顔でリオは逃げるように部屋を出ていった。
扉が閉まったあとも、どこか微かに笑い声が漏れていた。
部屋には再び静寂が戻る。
ユリウスは、改めて車椅子にゆっくりと腰を下ろした。
まだ慣れない体勢だったが、思っていたよりも安定感があり腕で車輪をゆっくりと回すと――ぎこちないながらも前に進めた。
それが、嬉しかった。
たった数歩でも、自分の力で進めたことが、たまらなく嬉しかった。
ベッドから少し離れた窓辺まで、カインに見守られながら進む。
少し開けた窓からは、秋の終わりの風が入ってくる。
「カイン」
ユリウスは、ふと振り返った。
椅子の背にもたれながら、遠くの空を見上げて、ぽつりと呟く。
「……足に障害が残ってしまったけど。それでも、お前は……俺の傍にいてくれるか?」
ふと、考えてしまった。
足に障害が残ってしまったら、昔のように動く事は出来ない。
だからこそ、少しだけ不安が残ってしまったのかもしれない。
そして同時に、答えを知りながらも聞かずにはいられなかった問いだった。
未来への不安――変わってしまった日常。
隣に立てない自分。
その全てが、今の問いに詰まっていた。
カインは、ゆっくりと歩み寄る。
ユリウスの隣に立ち、しゃがみこむようにして目線を合わせた。
そして、言った。
「何があっても傍にいる。ユリウスが歩けなくても走れなくても、関係ない……君がいなくなる未来なんて、俺の中には最初からない」
ゆっくりと、静かな声だった。
けれどその一言は、まるで契約のように重く感じたのは気のせいだろうか?
ユリウスは、微笑んだ。
不安も、痛みも、変わっていくことへの戸惑いも――全てカインが隣にいるなら、きっと越えていける。そう思えた。
「……よし」
「何が?」
「気が変わった」
「は?」
「もうちょっとだけ、甘えてやるよ。お前に」
ユリウスの言葉に、カインは一瞬固まったが、再度そのままユリウスを抱きしめる。
強く、まるで二度と離さないかのように、カインはユリウスを強く抱きしめたのだった。
ここ数日、ユリウスはベッドの上で過ごしていた。
医師の診立てによれば傷はなんとか塞がったが、右足には深刻な損傷が残っているらしい。
筋と神経の一部が断裂しており、回復しても完全に元通りにはならない可能性が高い――そう告げられた時、カインの顔が凍りついたのをユリウスははっきり覚えている。
けれど。
ユリウスは、泣かなかった。
むしろ――今、生きていることのほうがずっと奇跡だったから。
その日の昼頃、部屋に飛び込んできたのはリオだった。
「おーい、ユリウス! 起きてるかー!」
元気な声とともに開け放たれた扉。
リオの手には、何やら妙な形の木製の台車があった。
見慣れないが、どこか実用的な造りをしている。
「……それ、何ですか?」
ベッドから顔を起こしたユリウスが尋ねると、リオは満面の笑みを浮かべて言った。
「じゃーん!これ、車輪付き椅子ってやつ!王都に住んでる商人の知り合いがいてさ、ちょっと無理言って特注品を送ってもらったんだ!これがあれば、移動できるだろ?」
車椅子――聞き慣れない単語だったが、リオが持ち込んだものはまさしくそう呼ばれる道具だった。
座面に深く座れば、背もたれが支えてくれる。
左右に付いた大きな車輪で自力でも少しずつ動かせるようになっている。
まだ粗削りな作りだが、明らかに前に進むための工夫が詰まっていた。
「すごい……リオ、ありがとうございます」
ユリウスは、素直に声を震わせて言った。
目が輝いていた。まるで少年のように。
「これで……自分で、動けるんだ……部屋から出られるんですね?」
「へへっ。でしょ?」
リオは得意げに鼻を鳴らす。
だがその隣、部屋の壁にもたれていたカインの顔が――あきらかに機嫌が悪い。
眉間にはうっすらと皺が寄り、口元は微かに尖っている。
しかも、明らかにリオを睨んでいる。
「……な、なに?俺、なんか悪いことした!?」
リオが涙目になって手を振ると、ユリウスが吹き出した。
「カイン……嫉妬してるのか?」
「してない」
即答だった。
即答のくせに、目が全くこちらを見ていない。
「ふーん……そうですか。じゃあリオ、今日から俺の押し役頼んでも――」
「それは却下だ」
今度は目を合わせてきた、即座に。
リオは慌てて手を振りながら一歩引く。
「や、やっぱ俺、仕事あるし!パンもこねないとだし! グレアムにも頼まれてたし!」
「はいはい。ありがとうございます、リオ」
「うん、じゃあね!」
笑顔でリオは逃げるように部屋を出ていった。
扉が閉まったあとも、どこか微かに笑い声が漏れていた。
部屋には再び静寂が戻る。
ユリウスは、改めて車椅子にゆっくりと腰を下ろした。
まだ慣れない体勢だったが、思っていたよりも安定感があり腕で車輪をゆっくりと回すと――ぎこちないながらも前に進めた。
それが、嬉しかった。
たった数歩でも、自分の力で進めたことが、たまらなく嬉しかった。
ベッドから少し離れた窓辺まで、カインに見守られながら進む。
少し開けた窓からは、秋の終わりの風が入ってくる。
「カイン」
ユリウスは、ふと振り返った。
椅子の背にもたれながら、遠くの空を見上げて、ぽつりと呟く。
「……足に障害が残ってしまったけど。それでも、お前は……俺の傍にいてくれるか?」
ふと、考えてしまった。
足に障害が残ってしまったら、昔のように動く事は出来ない。
だからこそ、少しだけ不安が残ってしまったのかもしれない。
そして同時に、答えを知りながらも聞かずにはいられなかった問いだった。
未来への不安――変わってしまった日常。
隣に立てない自分。
その全てが、今の問いに詰まっていた。
カインは、ゆっくりと歩み寄る。
ユリウスの隣に立ち、しゃがみこむようにして目線を合わせた。
そして、言った。
「何があっても傍にいる。ユリウスが歩けなくても走れなくても、関係ない……君がいなくなる未来なんて、俺の中には最初からない」
ゆっくりと、静かな声だった。
けれどその一言は、まるで契約のように重く感じたのは気のせいだろうか?
ユリウスは、微笑んだ。
不安も、痛みも、変わっていくことへの戸惑いも――全てカインが隣にいるなら、きっと越えていける。そう思えた。
「……よし」
「何が?」
「気が変わった」
「は?」
「もうちょっとだけ、甘えてやるよ。お前に」
ユリウスの言葉に、カインは一瞬固まったが、再度そのままユリウスを抱きしめる。
強く、まるで二度と離さないかのように、カインはユリウスを強く抱きしめたのだった。
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