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第46話 目覚めの誓い
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(……あれ、いつの間に俺、寝ていたんだ?)
――どこかで、風が鳴っていた。
白く霞んだ景色のなかで、遠くの声が揺れている。
ぼんやりとした意識の底。
まるで深い水の底に沈んでいるような感覚。
何かに引っ張られるようにして、徐々に意識が浮かび上がっていく。
自分がどうして眠りについていたなんて、気づかなかった。
そろそろ目を開けなければならないと思い、ゆっくりと目を開けてみる。
まぶたの裏に、光を感じた。
そして、最初に映ったのは天井。
見慣れた――そう、屋敷の天井だった。
(いつのまに……帰ってきたんだっけ?)
ゆっくりと視線を動かす。
部屋は静かで、誰もいない――そう思った瞬間。
「……ユリウス……」
低く、かすれた声が聞こえた。
それは、聞き慣れた、けれどどこか違う声のように聞こえた。
すぐ隣のベッドの傍らに座る人影。
普段なら表情一つ変えないはずのその男の姿が、今はぐしゃぐしゃになっている。
どうしてそんな顔をしているのか、ユリウスは理解出来なかった。
「カイン……?」
掠れた声で名を呼ぶと、その人影がびくりと肩を震わせる。
次の瞬間ユリウスの手が、ぎゅっと強く握られていた。
まるで何かを確かめるように。
決して手放さないと言うように。
「……目、覚めた……本当に……」
あのカインが、涙を浮かべていた。
目の下は赤く腫れていて、いつもの無表情が嘘のようだった。
指先が震えていて、それでもユリウスの手を離そうとしない。
「……そんな顔するんだな、おまえ」
微笑みながらそう言うと、カインは声を詰まらせ、ほんの一瞬だけ視線を伏せた。
「何があったんだっけ……確か、誰かが……いた、ような……」
「おまえは……俺を庇った。突然飛び出して……足を……」
そこでカインは言葉を切った。
まるでそれ以上を口にすることが、罪であるかのように。
けれど、ユリウスはその続きを、自分で感じた。
体を動かそうとした瞬間――
「……っ」
ズキンと、足に重たい痛みが走った。
自分の足がまるで自分のものでなくなったような違和感。
意識が戻るまで気づかなかったが、明らかに動かない。
いや、動かせない。
「……足、なのか」
「ああ……右足の筋肉と神経が……深く……傷が」
カインの言葉が詰まり、空気が沈む。
ユリウスはしばらく目を閉じて、そして静かにゆっくりと笑った。
「そっか……」
「……すまない。俺が、もっと早く……もっと冷静に対応していれば、お前が傷つくことはなかった」
カインの声が震える。
今まで、どんなに厳しい場でも乱れたことのなかった声が。
「お前を、守るって決めたのに……何一つ、できなかった……」
「……馬鹿だな、お前は」
ユリウスは、細く息を吐いて言った。
「前も言ったが守られるだけの人生はもう終わったんだ……今は、お前の隣にいる俺が――お前を守りたかったんだ……ただ、それだけ」
ユリウスの言葉にカインの目が揺れる。
「……命と引き換えにしてまで、か?」
「そう思うなら、俺の命はそんなに軽いのか?」
ユリウスは、少しだけ怒ったような声で言った。
「俺の命も大事だ。だけど、お前が死ぬくらいなら俺は何度でも助けるよ……お前を失いたくないのだから」
カインは何も言えなかった。
言葉にならない感情が、胸の奥をかき回している。
ユリウスは、ゆっくりと片手を伸ばした。
動かせる左手で、カインの頬に触れる。
驚いたように目を見開いたカインの顔を、そっと引き寄せる。
「だからこうして今、お前の顔が見られてよかった。お前が、生きててくれて……本当に、よかった」
「んっ……」
カインがそのように言った後、そのまま唇を重ねる。
深く、やさしく、そして強く。
痛みも不安も全部、その瞬間だけは消えたように感じた。
静かな寝室に、二人の吐息だけが交差する。
触れ合う唇と、重なる鼓動だけが、確かに生きていることを伝えてくれていた。
「――お前が傍にいるなら、足が動かなくたっていい」
囁くように言ったユリウスに、カインは目を伏せる。
「……なら、俺はお前の足になる。どこへでも運んでやる……だから、これからも一緒に生きていてほしい」
「それは……命令か?」
「違う……お願いだ」
ふっと、ユリウスが笑うと同時に、カインは何処か安心したかのように、ユリウスの体を抱きしめるのだった。
――どこかで、風が鳴っていた。
白く霞んだ景色のなかで、遠くの声が揺れている。
ぼんやりとした意識の底。
まるで深い水の底に沈んでいるような感覚。
何かに引っ張られるようにして、徐々に意識が浮かび上がっていく。
自分がどうして眠りについていたなんて、気づかなかった。
そろそろ目を開けなければならないと思い、ゆっくりと目を開けてみる。
まぶたの裏に、光を感じた。
そして、最初に映ったのは天井。
見慣れた――そう、屋敷の天井だった。
(いつのまに……帰ってきたんだっけ?)
ゆっくりと視線を動かす。
部屋は静かで、誰もいない――そう思った瞬間。
「……ユリウス……」
低く、かすれた声が聞こえた。
それは、聞き慣れた、けれどどこか違う声のように聞こえた。
すぐ隣のベッドの傍らに座る人影。
普段なら表情一つ変えないはずのその男の姿が、今はぐしゃぐしゃになっている。
どうしてそんな顔をしているのか、ユリウスは理解出来なかった。
「カイン……?」
掠れた声で名を呼ぶと、その人影がびくりと肩を震わせる。
次の瞬間ユリウスの手が、ぎゅっと強く握られていた。
まるで何かを確かめるように。
決して手放さないと言うように。
「……目、覚めた……本当に……」
あのカインが、涙を浮かべていた。
目の下は赤く腫れていて、いつもの無表情が嘘のようだった。
指先が震えていて、それでもユリウスの手を離そうとしない。
「……そんな顔するんだな、おまえ」
微笑みながらそう言うと、カインは声を詰まらせ、ほんの一瞬だけ視線を伏せた。
「何があったんだっけ……確か、誰かが……いた、ような……」
「おまえは……俺を庇った。突然飛び出して……足を……」
そこでカインは言葉を切った。
まるでそれ以上を口にすることが、罪であるかのように。
けれど、ユリウスはその続きを、自分で感じた。
体を動かそうとした瞬間――
「……っ」
ズキンと、足に重たい痛みが走った。
自分の足がまるで自分のものでなくなったような違和感。
意識が戻るまで気づかなかったが、明らかに動かない。
いや、動かせない。
「……足、なのか」
「ああ……右足の筋肉と神経が……深く……傷が」
カインの言葉が詰まり、空気が沈む。
ユリウスはしばらく目を閉じて、そして静かにゆっくりと笑った。
「そっか……」
「……すまない。俺が、もっと早く……もっと冷静に対応していれば、お前が傷つくことはなかった」
カインの声が震える。
今まで、どんなに厳しい場でも乱れたことのなかった声が。
「お前を、守るって決めたのに……何一つ、できなかった……」
「……馬鹿だな、お前は」
ユリウスは、細く息を吐いて言った。
「前も言ったが守られるだけの人生はもう終わったんだ……今は、お前の隣にいる俺が――お前を守りたかったんだ……ただ、それだけ」
ユリウスの言葉にカインの目が揺れる。
「……命と引き換えにしてまで、か?」
「そう思うなら、俺の命はそんなに軽いのか?」
ユリウスは、少しだけ怒ったような声で言った。
「俺の命も大事だ。だけど、お前が死ぬくらいなら俺は何度でも助けるよ……お前を失いたくないのだから」
カインは何も言えなかった。
言葉にならない感情が、胸の奥をかき回している。
ユリウスは、ゆっくりと片手を伸ばした。
動かせる左手で、カインの頬に触れる。
驚いたように目を見開いたカインの顔を、そっと引き寄せる。
「だからこうして今、お前の顔が見られてよかった。お前が、生きててくれて……本当に、よかった」
「んっ……」
カインがそのように言った後、そのまま唇を重ねる。
深く、やさしく、そして強く。
痛みも不安も全部、その瞬間だけは消えたように感じた。
静かな寝室に、二人の吐息だけが交差する。
触れ合う唇と、重なる鼓動だけが、確かに生きていることを伝えてくれていた。
「――お前が傍にいるなら、足が動かなくたっていい」
囁くように言ったユリウスに、カインは目を伏せる。
「……なら、俺はお前の足になる。どこへでも運んでやる……だから、これからも一緒に生きていてほしい」
「それは……命令か?」
「違う……お願いだ」
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