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第23話
魔力が皮膚の内側を逆流する。血管が灼けつくように熱い。
心臓の鼓動と呪詛の鼓動が重なり、世界が歪んでいくのを感じた。
全く持って自分指針で制御できない――抑えようとしても魔力が指先から溢れ出し、地面を裂くように揺らす。喉の奥から声にならない喘ぎが漏れた。
「やめろ……動くな……俺に、近づくな……!」
けれど、言葉すらも風にさらわれて届かない。
誰かが叫んでいるのが聞こえる。
すると、足音が耳から聞こえ、駆け寄ってくる音。
それが誰なのか、もう判別できなかった。ただ、わかるのはクリスがこちらに向かってきているのがわかる。
このままでは誰かを、そしてクリスを傷つけてしまう。
ハイデンは目の前が真っ赤に染まっていき、そして耳の奥で爆ぜるような音が聞こえてきた。間違いなく魔力が暴走し、骨が軋み、体が砕けそうだ。抑えられないし止まらない、このままでは。
(だったら、いっそ――)
ハイデンは右手をゆっくりと持ち上げる。
掌に集まる魔力が、鋭く尖り、そして内側から自分自身を貫けるほどの力――そうすれば終わるかもしれない。せめて、自分だけで済むなら、自分だけでこの命を終わらせるのであれば。
でも、本当は死にたくない――今でも頭の中に残る。
けれど、それ以上に、ハイデンは言った。
「もう……誰も、巻き込みたくない……」
魔力が集中した次の瞬間、何かが鋭く横から割り込んできた。
「――死ぬことはない、ハイデン」
聞こえたのは、クリスの声だった。ハっと目を見開いた瞬間、熱の壁を抜けてその腕が自分の体を包み込んだ。魔力の衝撃が爆ぜ――地面が裂ける音が聞こえた。
空気が引き裂かれ、草木が薙ぎ払われる。それでもクリスは動じなかった。
「ハイデン、落ち着け……大丈夫だから力を抜け」
「放せクリス!今は近づいたらお前まで――ッ!!」
「お前が暴れても、俺は壊れない……心配しなくていい、大丈夫だから」
魔術陣の残光が地表に浮かぶ。呪詛の力が再び波打とうとした刹那、クリスの手がすっと自分の右腕を取った。
彼の手からス故実、何かが伝わる。異なる魔術の構成式――体の中に刺さった棘のような呪詛の結び目を、別の構造で【ほどく】ような作用。
次の瞬間、ハイデンの意識がぐらりと揺れ、視界が歪む。
「なに……を……」
「お前の魔力は、呪いの媒介にはならない。断ち切る術くらい、知ってる」
「ど、して……」
魔術の干渉が一度、深く波を立て――そのまま、すうっと霧が晴れるように収まっている。
支えていた力が抜ける。崩れ落ちるようにハイデンはその場に膝をついた。
全身が痛くてたまらない。
頭の奥で警鐘が鳴り響く。
けれど魔力の奔流は止まり、ようやく呼吸ができる。
「…………どうして、お前そんな事が出来るんだ」
「さぁな」
「クリス、お前は一体――」
――何者なんだ、と言葉をにしようとした瞬間だった。
リリアの声が、震えながら叫ぶ。
「これじゃ、私が幸せになれない!こんな事、予定にない!!」
リリアの言葉の意味が理解できない。だが、どこかでその叫びは遠く感じられた。
目の前には、まだ腕を離そうとしないクリスの姿がある。息を切らしながら、魔力の残滓を浴びてなお、彼は眉一つ動かさずこちらを見下ろしていた。
「……どうして……」
「どうして、ってなんだよ」
「僕はただ、死ななきゃって……それしかなかったのに……」
「それしかないなら、俺は来ない。お前がまだ生きたいなら、それで十分だから」
わからない。
わからないはずなのに、彼の手が背に回った瞬間。
「っ……!」
そのまま強く、クリスに抱きしめられた。
力が入らなかった体を、クリスはは強く抱きしめ、ハイデンは胸の奥で、何かがぎゅう、と締め付けられる感覚に陥る。
まずい、これは――まるで。
(これでは……まるで、クリスが僕を……)
思考が絡まって、言葉にならない。
混乱する脳が、温度を処理できない。
重なる鼓動が、どちらのものかわからなくなる。
(こんな、感覚……知らないのに……)
ハイデンはただ、息を震わせながら、その腕の中に沈んでいく。とりあえず、考えるのをやめる事にしたのだった。
心臓の鼓動と呪詛の鼓動が重なり、世界が歪んでいくのを感じた。
全く持って自分指針で制御できない――抑えようとしても魔力が指先から溢れ出し、地面を裂くように揺らす。喉の奥から声にならない喘ぎが漏れた。
「やめろ……動くな……俺に、近づくな……!」
けれど、言葉すらも風にさらわれて届かない。
誰かが叫んでいるのが聞こえる。
すると、足音が耳から聞こえ、駆け寄ってくる音。
それが誰なのか、もう判別できなかった。ただ、わかるのはクリスがこちらに向かってきているのがわかる。
このままでは誰かを、そしてクリスを傷つけてしまう。
ハイデンは目の前が真っ赤に染まっていき、そして耳の奥で爆ぜるような音が聞こえてきた。間違いなく魔力が暴走し、骨が軋み、体が砕けそうだ。抑えられないし止まらない、このままでは。
(だったら、いっそ――)
ハイデンは右手をゆっくりと持ち上げる。
掌に集まる魔力が、鋭く尖り、そして内側から自分自身を貫けるほどの力――そうすれば終わるかもしれない。せめて、自分だけで済むなら、自分だけでこの命を終わらせるのであれば。
でも、本当は死にたくない――今でも頭の中に残る。
けれど、それ以上に、ハイデンは言った。
「もう……誰も、巻き込みたくない……」
魔力が集中した次の瞬間、何かが鋭く横から割り込んできた。
「――死ぬことはない、ハイデン」
聞こえたのは、クリスの声だった。ハっと目を見開いた瞬間、熱の壁を抜けてその腕が自分の体を包み込んだ。魔力の衝撃が爆ぜ――地面が裂ける音が聞こえた。
空気が引き裂かれ、草木が薙ぎ払われる。それでもクリスは動じなかった。
「ハイデン、落ち着け……大丈夫だから力を抜け」
「放せクリス!今は近づいたらお前まで――ッ!!」
「お前が暴れても、俺は壊れない……心配しなくていい、大丈夫だから」
魔術陣の残光が地表に浮かぶ。呪詛の力が再び波打とうとした刹那、クリスの手がすっと自分の右腕を取った。
彼の手からス故実、何かが伝わる。異なる魔術の構成式――体の中に刺さった棘のような呪詛の結び目を、別の構造で【ほどく】ような作用。
次の瞬間、ハイデンの意識がぐらりと揺れ、視界が歪む。
「なに……を……」
「お前の魔力は、呪いの媒介にはならない。断ち切る術くらい、知ってる」
「ど、して……」
魔術の干渉が一度、深く波を立て――そのまま、すうっと霧が晴れるように収まっている。
支えていた力が抜ける。崩れ落ちるようにハイデンはその場に膝をついた。
全身が痛くてたまらない。
頭の奥で警鐘が鳴り響く。
けれど魔力の奔流は止まり、ようやく呼吸ができる。
「…………どうして、お前そんな事が出来るんだ」
「さぁな」
「クリス、お前は一体――」
――何者なんだ、と言葉をにしようとした瞬間だった。
リリアの声が、震えながら叫ぶ。
「これじゃ、私が幸せになれない!こんな事、予定にない!!」
リリアの言葉の意味が理解できない。だが、どこかでその叫びは遠く感じられた。
目の前には、まだ腕を離そうとしないクリスの姿がある。息を切らしながら、魔力の残滓を浴びてなお、彼は眉一つ動かさずこちらを見下ろしていた。
「……どうして……」
「どうして、ってなんだよ」
「僕はただ、死ななきゃって……それしかなかったのに……」
「それしかないなら、俺は来ない。お前がまだ生きたいなら、それで十分だから」
わからない。
わからないはずなのに、彼の手が背に回った瞬間。
「っ……!」
そのまま強く、クリスに抱きしめられた。
力が入らなかった体を、クリスはは強く抱きしめ、ハイデンは胸の奥で、何かがぎゅう、と締め付けられる感覚に陥る。
まずい、これは――まるで。
(これでは……まるで、クリスが僕を……)
思考が絡まって、言葉にならない。
混乱する脳が、温度を処理できない。
重なる鼓動が、どちらのものかわからなくなる。
(こんな、感覚……知らないのに……)
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