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第07話 涙と誇り
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もう、泣くまいと決めていたはずなのに――扉が閉まった瞬間、膝が砕けて、私はその場に崩れ落ちた。
誰もいない客間――いや、もうすぐ私の部屋ではなくなるけれど。
王太子妃候補として与えられていた豪奢な調度品の数々は、その美しさがかえって空虚で今はただ私の孤独を照らしているように思えた。
「……ふざけるな、なんて……本当に言ってしまったわね、私……」
嗤うように呟いた声が、やけに震えていた。
感情を抑え込んできたのに、胸の奥が熱くて、痛くて、どうしようもなかった。
殿下は、レオンハルト様は……最後まで、私の目を見ようとしなかった。
それが、一番辛い。疑われたことでも、婚約破棄でも、追放されることでもない。
せめて、最後くらい――ほんの一瞬でも、目を見て、何か言ってほしかった。
信じているとも、失望したとも、怒っているとも。何か、言ってくれたなら……私は……。
気づけば、視界が滲んでいた。
涙なんて、何年ぶりだろう。
侯爵令嬢として、王太子妃として、泣くことは許されなかった。気高く、冷静で、常に正しさをもって行動しろと、そう教えられてきたから。
「……もう、いいのよ。終わったのよ、全部、何もかも全て終わったのだから良いの」
私はゆっくりと立ち上がる。ふらつく脚に力を入れ、真っ直ぐ鏡の前へ歩く。
涙で濡れた頬を指先で拭うと、鏡に映った私は――ひどく、やつれていた。それでも、背筋だけは曲がっていなかった。
そんな事を考えていた瞬間、ノックの音がして、侍女のエミルが静かに入ってくる。
「……セレスティア様」
その瞳が潤んでいた。
ああ、彼女はまだ私を信じてくれているのだ。
「お荷物はすべておまとめしました。明朝、王宮を出発とのことです」
「ありがとう、エミル」
「セレスティア様!どうして、誰も……本当のことを調べようとしないのですか!!」
声を震わせるエミルに、私はゆっくりと首を振った。
「無駄よ。真実より、殿下たちに逆らうのが怖いのよ。逆らってしまったら自分が何をされるかわかっていないから」
「でもっ……っ」
「大丈夫。私は、負けない」
涙を流す彼女の手を、私はそっと握った。
私を信じてくれる、たった一人の味方。
それだけで、心の奥に灯がともった気がした。
「私はこの国を恨む事はないわ。恨んだら、きっと私まで汚れてしまうから……私は、汚れたくない。」
私は立ち上がり、ゆっくりと荷物の整理を始めた。
それは、王宮での人生に終止符を打つ作業。
けれど、終わりがあるからこそ、始まりがある――そう信じたかった。
明日、私はすべてを捨ててこの国を出る。
侯爵令嬢としての誇りも、王太子妃としての未来も、すべて置いていく。
でも、心だけは置いていかない。
誰にも、私の生きる価値だけは何があっても絶対に奪わせない。
「……エミル、最後にお願いがあるの」
「……なんでも、仰せつけてください」
「この鏡、ここに残して。もう、王宮では【私】を見る必要はないから」
私は鏡に背を向け、静かに微笑んだ。
それが、私の王宮における最後の笑みだったのかもしれない。
誰もいない客間――いや、もうすぐ私の部屋ではなくなるけれど。
王太子妃候補として与えられていた豪奢な調度品の数々は、その美しさがかえって空虚で今はただ私の孤独を照らしているように思えた。
「……ふざけるな、なんて……本当に言ってしまったわね、私……」
嗤うように呟いた声が、やけに震えていた。
感情を抑え込んできたのに、胸の奥が熱くて、痛くて、どうしようもなかった。
殿下は、レオンハルト様は……最後まで、私の目を見ようとしなかった。
それが、一番辛い。疑われたことでも、婚約破棄でも、追放されることでもない。
せめて、最後くらい――ほんの一瞬でも、目を見て、何か言ってほしかった。
信じているとも、失望したとも、怒っているとも。何か、言ってくれたなら……私は……。
気づけば、視界が滲んでいた。
涙なんて、何年ぶりだろう。
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「……もう、いいのよ。終わったのよ、全部、何もかも全て終わったのだから良いの」
私はゆっくりと立ち上がる。ふらつく脚に力を入れ、真っ直ぐ鏡の前へ歩く。
涙で濡れた頬を指先で拭うと、鏡に映った私は――ひどく、やつれていた。それでも、背筋だけは曲がっていなかった。
そんな事を考えていた瞬間、ノックの音がして、侍女のエミルが静かに入ってくる。
「……セレスティア様」
その瞳が潤んでいた。
ああ、彼女はまだ私を信じてくれているのだ。
「お荷物はすべておまとめしました。明朝、王宮を出発とのことです」
「ありがとう、エミル」
「セレスティア様!どうして、誰も……本当のことを調べようとしないのですか!!」
声を震わせるエミルに、私はゆっくりと首を振った。
「無駄よ。真実より、殿下たちに逆らうのが怖いのよ。逆らってしまったら自分が何をされるかわかっていないから」
「でもっ……っ」
「大丈夫。私は、負けない」
涙を流す彼女の手を、私はそっと握った。
私を信じてくれる、たった一人の味方。
それだけで、心の奥に灯がともった気がした。
「私はこの国を恨む事はないわ。恨んだら、きっと私まで汚れてしまうから……私は、汚れたくない。」
私は立ち上がり、ゆっくりと荷物の整理を始めた。
それは、王宮での人生に終止符を打つ作業。
けれど、終わりがあるからこそ、始まりがある――そう信じたかった。
明日、私はすべてを捨ててこの国を出る。
侯爵令嬢としての誇りも、王太子妃としての未来も、すべて置いていく。
でも、心だけは置いていかない。
誰にも、私の生きる価値だけは何があっても絶対に奪わせない。
「……エミル、最後にお願いがあるの」
「……なんでも、仰せつけてください」
「この鏡、ここに残して。もう、王宮では【私】を見る必要はないから」
私は鏡に背を向け、静かに微笑んだ。
それが、私の王宮における最後の笑みだったのかもしれない。
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