追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました

桜塚あお華

文字の大きさ
3 / 40
第1章 追放と目覚め 、スライムの中の少女

第03話 弱々しいスライム

しおりを挟む
 ガルドの目の前に現れたのは、どこにでもいるような――いや、むしろ、それ以下の存在だった。
 半透明で、ぷるんとした柔らかな輪郭。全長は片手に収まるほどしかなく、色も形も曖昧。
 魔力の気配はおろか、威圧感もなければ、知性の兆しすら感じられない。
 それは、ただのスライムだった。
 かつて勇者パーティーで見た事のある唸り声を上げて地を揺らす巨大な魔獣や、輝く魔法陣から現れた気高き精霊とは似ても似つかない。

 まさに、弱者の象徴――彼の絶望を具現化したかのようなあまりにも取るに足らない存在だった。

「ほんとに、なんでこうなるんだよ。俺の召喚って、こんなにも……こんなにも無力なのか」

 静まり返った納屋の中で、ガルドは膝を抱えていた。
 手のひらの上にいるスライムが、小さく身を震わせる。
 だが、それが寒さのせいなのか、それとも単に柔らかいだけなのか――何の感情も読み取れない。
 魔力らしき気配もない。
 まるで、ただの水たまりが呼吸しているかのようだった。
 吠えもしない、輝きもしない。
 見た目も動きも、戦闘に使えそうな要素は一つもない。
 これでは畑の害虫を追い払うことすら、おぼつかないだろう。

「お前、ほんとに俺が呼び出したのか?はぁ……奇跡なんて、起こらないんだな……」

 誰に問うでもなく、自嘲気味に呟く。
 だが、返事はない。ただ、スライムが「ぽよん」と愛らしく弾んだだけだった。
 その、どこか間の抜けた、しかし悪意のない動きに、ガルドは小さくため息をつく。

 ――これで終わりか、と。

 これで、彼の召喚士としての道は完全に閉ざされたのだ。
 何度も諦めてきた。
 それでも、最後の最後にもう一度と願った。
 追放された身で、藁にもすがる思いで試みた結果が――これだ。
 絶望の淵に突き落とされたような感覚に、ガルドは打ちのめされた。
 スライムを手のひらに乗せたまま、ガルドは古びた茣蓙の上に体を倒す。
 天井の梁が、薄暗いろうそくの灯りの中にぼんやりと浮かび上がっている。
 埃っぽい納屋の匂いが、一層彼の孤独を際立たせていた。

「せめて夢にくらい、かっこいい召喚獣が出てきてくれよ……この惨めさを忘れさせてくれるような、そんな夢が……」

 ぽつりとこぼしたその声を、手のひらの上のスライムはじっと見上げていた。
 表情はない。
 だが、何かを観察しているような、得体の知れない沈黙がそこにはあった。
 その無言の視線が、なぜかガルドの胸の奥をざわつかせる。

 やがて、ガルドはまどろみに落ちていく。
 肉体労働で酷使した今日の疲れが、一気に、容赦なく押し寄せてきた。

 ――そして、その夜。

 ふと、空気が変わる。
 眠りの底で、ガルドの肌がこれまで感じたことのない異質な冷気に触れていた。
 それはただの夜の寒さではない。
 肌を粟立たせるような、奇妙な感覚。
 深夜――月の光が納屋の小さな窓から差し込み、床に銀色の帯を描いている。
 その薄明かりの中、ガルドの規則正しい寝息が静かに響いていた。

 納屋の片隅――そこに置かれていたスライムが、ふいに震えた。

 【ぶるるる……】

 それは、単なる振動ではなかった。
 まるで、スライムの内部で巨大な『何か』が、ゆっくりと――しかし確かな力でうごめき始めるような奇妙な動き。
 淡く、重く、規則正しく脈打つそれは、まるで心臓の鼓動を思わせた。
 透明な輪郭が微かに歪み、その表面がぼこりと膨らむと同時に――どろり、と黒い靄のような禍々しい気配が、スライムの体からじわりと滲み出した。
 その靄は、納屋の狭い空間に見る間に広がり、空気を重く、そして凍てつかせていく。

 次の瞬間、納屋の中にぞわりと冷たい風が吹き込んだ。

 それは物理的な風ではない。
 純粋な魔力の奔流――全身の毛穴が開き、皮膚が粟立つ。

「……ん?」

 寝返りを打ったガルドの眉が、無意識にひそめられる。
 目を開けぬまま、彼の召喚士としての『感覚』が、尋常ではない『異常』を察知していた。
 体中の血が逆流するような、戦慄めいた感覚。

「何だ、この……気配……まさか、魔物か……?」

 眠気の底でかすかに呟いたその瞬間――黒い靄の中心にあるスライムの中から、淡い紅の光がふいに揺らめいた。
 その光は、禍々しい気配とは裏腹に、どこか人を惹きつけるような妖しい美しさを見せている。
 それはまるで――世界を呑み込む『何か』が、今、静かに目覚めかけているような。
 不気味で、そしてどこか幻想的な輝きだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

周りが英雄職なのに俺だけが無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~

咲良喜玖
ファンタジー
冒険者ルルロアの大冒険です 以前のものを少々作り直しました。 基本の話は同じですが、第三部から展開が違います。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...