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第42話、ある騎士の話⑥【血濡れの狂騎士】
しおりを挟む「――本当に悪かったな、ルーナ」
「別に。神父さんと関わってると、ロクな事ないって昔からわかってるし……ねぇ、この人ボクの手全然放さないんだけど。すげー握ってくるんだけど」
意識がゆっくりと浮上してくる。
小さく、幼いような手をしっかりと握りしめているのは、多分自分の意志ではなく、無意識に握っていたのかもしれない。それぐらい、ルーナと呼ばれている少女が傍に居るだけで落ち着いてくるのだ。
そんな彼女と、神父と呼ばれている人物の二人の会話が聞こえてくる。
「お前、気に入られたなきっと」
「そんなわけ……ないよ、うん」
「本音は?」
「目の色が綺麗でストライクだったけど、顔は好みじゃない」
少しだけ、その言葉が耳に入ってきた時ショックを覚えてしまう。
何故ショックだったのか、クラウスは今は理解していない。
しかし、少しだけその神父と言う男に苛立ちを覚えてしまっていた。
「……んッ……ぅ」
「あ、起きたみたい」
「本当か!いやぁ、良かった!死なれたら困るなーなんて思っていたが、いやあ良かった良かった!」
「拾ってきた張本人が何言ってんの」
彼女の言う通り、拾ってきた本人が何を言っているのだろうかとその時クラウスは感じた。
神父と呼ばれていた男は、確かに強い。
あのルフトを追い払うぐらい、強い力を持っていると言う事を少しだけ理解していた。していたのだが、クラウスは気持ちよりも体が勝手に動いてしまった。
「……は?」
小さな少女のような人物、ルーナは目を見開いて呆然としながらその場に座り込んでいる。
理由は簡単だ。
勝手に動いてしまった身体はルーナの背後で笑っていた神父に向かって攻撃をしかけたからである。
不意打ちだったため、反応が出来なかったのか、神父はそのまま後ろに吹っ飛んでいき、そんな光景が一瞬だったので青ざめた顔をしながらルーナは背後で良い音がしていた方向に視線を向け、叫ぶ。
「うわぁぁあ‼く、クソ神父ゥゥウウ‼」
ルーナは『クソ』と言う言葉をつけて叫んだ。
彼女が『クソ神父』と言ってくれただけで、少しだけすっきりしてしまったなんて、死んでも言えない。
彼女が神父の所に行こうとしたのだが、クラウスはそれを阻止する。
どうしても、傍に居てほしかったのかもしれない。それぐらい、自分自身に独占力と言うモノがあるのだなと、その時理解した。
ジッと視線を向けながら、クラウスはルーナを見る。
ルーナの顔は明らかに汗を流しながら少しだけクラウスに怯えている表情をしていた。
「え、えっと……ボク、あ、いえ、わたし、なにか、その……余計な事したでしょうか?」
「……いや、していない。君が手当てをしてくれたのだろう?」
「い、一応しましたが……あの、つかぬ事お聞きいたしますが、あの吹っ飛ばした男はあなたに何かをしたのでしょうか?」
「……ああ、あの男は俺がケガをしているのに金目のモノはないかと色々物色していたから、盗賊なのではないかと思って」
「……ああ、もう自業自得としか言えねぇ」
あの神父は追い払った後、金目の物を物色していたのは覚えていた。だからこそ、危険な存在なのではないだろうかと。
その言葉を聞いたルーナは頭を抱えた。
そして彼女はそのままゆっくりと頭を下げるようにしながら謝罪をし始めたのである。
「それは大変申し訳ございません。あなたが吹っ飛ばした男はわたしの育ての親をしてくださった方で、家族として謝ります。大変申し訳ございませんでした」
「え、育ての親……それは済まなかった。俺も確認せずに――」
「いえ、育ての親だとしても性格はクズなので、どんどん殴ってください。わたしは気にしないので」
「……いい性格をしていると、言われたことはないか?」
「後ろの神父にはよく言われます」
食えない女なのかもしれない――その時クラウスはそのように感じたのではない。
目の前のルーナと言う少女はどうやら良い性格をしているらしい。背後で吹っ飛ばされてしまった神父に育てられたから、と言うのもあるのかもしれない。
その話を聞いた瞬間、ますますクラウスはルーナから目を離せなくなってしまった。
この気持ちは、一体何なのだろうか?
すると、ルーナはクラウスを手当てした場所に視線を向けながら話を続ける。
「私は魔力と言うモノがありませんし、治癒能力と言うモノなど持っておりません。薬草を塗りつぶして作った傷薬を塗り、包帯をさせて応急処置をさせていただきましたが、気分が悪いとか、痛みとかありますでしょうか?」
「いや、ない……お前は医者か?」
「医者ではありません。この村には医者はおりません……ホコリを被っていた医学書を読んで勉強し、真似て手当てをしただけですし、傷薬も本に書いてあった通りにやっただけです」
「なるほど……字が読めるのか?」
「神父さん……神父様が教えてくださいました。一応、あの男は神父と言う肩書を持っております。ボロくさい教会ですけど」
へへっと笑うようにしながら答えるルーナの姿を見たクラウスは動きを少しだけ止めてしまった。それと同時に、目の前にいるこの可愛らしい生き物は何なのだろうかと言う言葉がクラウスの頭に過ったのである。
そのままクラウスはルーナの手に視線を向ける。
彼はそのままルーナの手を握りしめていたままだった。
「その、どうかしましたか……?」
「……」
「あの……」
「……はな、したくない、な……」
「え?」
「……俺が、こんなことを思うなんて、どうかしているな」
――まるで、『聖女』のようではないか。
ククっと笑いながらクラウスはルーナに目を向ける。
そのまま笑いながら、クラウスはルーナに見て、笑っていた。
何故笑っているのか理解できないのか、ルーナは首をかしげている。
「あ、あのぉ……わたし、そろそろあそこで倒れている神父様の手当てに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……ああ、構わない。えっと、お前の名は?」
「わたしはルーナ。ただのルーナですよお兄さん」
「……ああ、そう言えば名乗っていなかったな。俺の名は――」
クラウスは今まで感じたことない感情に悪戦苦闘しながら、妖艶な笑みを浮かばせ、ルーナに向けて名を告げる。
「クラウス。俺はクラウス・エーデルハットだ」
その名を聞いた瞬間、彼女が固まってしまう。
どうやら自分の名を知っていたのだろうと思った時、少しだけ嬉しかったなんて、クラウスはその時死んでもその言葉を口にしないと誓った。
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