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第43話、ある騎士の話⑦【血濡れの狂騎士】
しおりを挟む「何か食べさせないと、回復しないですからね!」
そのように笑顔で言った彼女の姿は、とても美しいと感じてしまった。
あれから数日、クラウスはこの村で過ごす事になる。
狙われている、と言う事も言った方が良いのかもしれないが、そんな事を言った所で多分彼女は気にしない性格なのかもしれないと、改めて数日過ごしただけで実感した。
ルーナと名乗った少女は、ケガの事をよく気にしてくれ、そして手当をしてくれる。どうやら彼女には魔力がないらしく、治癒能力もないため、手作業での手当となるらしい。
独学で学んで、、この村では医者のような事をしていると言っていた。
彼女はただの、弱い存在なのだろうかと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
野兎を狩ってくると言う事で、彼女は片手に短剣と動きやすい恰好をしながらクラウスの前に姿を見せたのである。
まさかそのような行動をしているとは、想像していなかったクラウスはその姿を見て驚き、呆然としてしまった。
クラウスの周りには、そのような女性はいなかった。
血を見れば怖がる、か弱い女性たちだけだったのだが、ルーナは活発で、男らしい一面を持つ、今まで会った事のない女性だった。
それから数週間、彼女を簡単に観察して思った事がある。
右手にはナイフ、左手にはナイフ、頬には獲物の返り血が飛び散ってしまったのかついている。
そして彼女は手慣れた手つきで野兎を裁く作業をしていた。
「……ルーナは強いな、別の意味で」
「なんですかそれ、貶してますか私の事」
無意識にそのように呟いてしまったせいなのか、その言葉が聞こえたらしく、首をかしげるようにしながらルーナはクラウスに視線を向ける。
クラウスから見えるルーナは本当に強く、勇ましく、美しい存在に見える。初めて会った時から、彼女はクラウスの中で、輝いていた。
(……あの聖女とは違う、美しさでもある)
聖女は確かに綺麗だったかもしれない。
しかし、それは逆に言えば『紛い物』と発言しても良いかもしれない。
だが、彼女は本当に美しい。
背後に立つ時、彼女の周りには輝かしさが残っているように見えたのである。
解体をし続けているルーナに再度声をかける。
「……慣れているな」
「まぁ、肉が手に居られるのは、ぼ……私か、神父様以外いないので」
「あの神父もか?」
「ええ、神父様もです。私は、神父様に獲物の狩り方、解体の仕方も教わりました」
神父と言うのはクラウスを連れてきた人物――ふざけている性格をしているが、あの時見せた神父の姿は手慣れた手つきで相手を倒していた。
剣を握りしめ、戦う姿は神父と言う姿ではなく、『騎士』のような姿だ。
あの男は一体何者なのかと考えながら居ると、ルーナは静かに、真顔でクラウスに向けて発言する。
「――人の殺し方も一応教わってますよ、クラウス様」
まっすぐな瞳でそのように発言するルーナは、いろんな事をあの神父に教わったのであろうと理解しながら、クラウスはただ返事をするのみ。
「人を……殺したことはあるのか?」
「一年前に初めて殺しました。この村に来た盗賊です……戦闘が出来るのが私と神父様しかいません。この村に居るのは殆どが老人たちで戦えない者達です。理由があって」
「……」
――理由とは何なのだろうか?
その理由を教えてくれることはしてくれなかったのだが、解体し続けているルーナに目をそらす事はない。
「ルーナ、神父は強いのか?」
「そうですね、多分強いと思いますし……容赦をしない相手です。クラウス様と戦ったらどっちが強いか、それはわかりませんが」
「そうか」
「はい、そうです」
外形では、そのように見えないな、何てクラウスは言えるはずがなかった。
しかし、油断のならない相手なのだろうと思いながら、クラウスはルーナをジッと見つめている。
その視線に気づいたのか、少し嫌そうな顔をしながらクラウスに声をかける。
「ああ、この服洗わないとダメだなぁ……クラウス様、これからどこに行きます?」
「いや、何処にもいく予定はないが」
「私、これから川で水浴びをして、洗濯ものをしてきます。クラウス様の洗濯ものがあったら、一緒に洗ってきちゃいますが」
「それならルーナに会う前に軽く洗濯ものはしてきたから大丈夫だ」
「そうですか……じゃあ、私はこれで失礼します」
解体を終えた獲物たちをひとまとめにした後、川の方向に視線を向けて歩き出す。
その後ろ姿は既に慣れた感じの様子――長年行ってきた行動なのだろうと、クラウスは彼女の後姿を見て思った。
川の方向に向かっていく彼女の姿を見送った後、これからどのように過ごすか考えながら、クラウスは自分がこの森に居る日時を再度考える。
「……もう、数週間この村に居るのか」
ふと、そのように呟いてしまった。
嘗ては毎日のように血濡れた戦場に行ったり、最近では変な事に巻き込まれ、命すらも狙われているようになってしまったクラウスは手違いで深い傷を負ってしまった。
ルーナは、今まで見た事のない少女だった。
姉以上の存在なのかもしれない。
彼女は最後まで自分の手当をしてくれた、まるで教会で言われていた『聖女』のような存在。
しかし、先ほどの解体作業の姿を見て、彼女は明らかに『聖女』ではない。
勇ましく、綺麗な目をした少女。
今まで感じたことのない『欲』を動き出している。
(……彼女が傍に居てくれたら、どんなに嬉しいのだろう)
「……やはり、欲しいな」
クラウスはそのように呟きながら、初めて自分はルーナと言う存在に恋心を抱いているのだと気づくのだった。
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