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第46話、ある騎士の話⑩【血濡れの狂騎士】
しおりを挟む目を開けると、そこにはルフトが居た。
ルフトは元友人であり、トワイライト王国の聖女ミレイの隣に居た騎士だ。
その騎士がルーナに手当をされ、そして何故か彼女の両手を握りしめ、『天使』と言った。
とりあえずぶん殴っても良いだろうかと言う体制になりながらも、ルーナに目を向ける。
視線に気づいたのか、ルーナは少し申し訳なさそうな顔をしながら声をかける。
「あー、えっと、クラウス様……あの、いつ起きたのですか?」
「数分前」
「その、えっと……いつからボ……いえ、私とこの男のやり取りを見ていましたか?」
「ルーナがその男を手当てし始めた時から」
「まじかー」
最悪だな―みたいな顔をしながら答えるルーナに目を向けながら、クラウスは再度ルフトに視線を向けた。
かなりケガをしてしまったのか、まるでボロ雑巾のような姿で転がっている。そんな男が、自分の身体を斬りつけた相手なのだろうかと思うと、腹が立って仕方がない。
クラウスは再度、ルーナに目を向けると、それが恐ろしかったのか少し青ざめた顔をしていた。
「え、えっと……うーんと……その、クラウス様はどうしてそんな目で私を見るのか、わかりません……」
「……その男が何者か、ルーナは知っているのか?」
「え、知らないです……知ってる人ですか?」
「……元、同僚。多分、命令を受けて俺を殺しに来た」
「あ、やっぱり」
元同僚と言う事は話したが、元友人だという事は話さなかった。放したところで意味がないと思ったからである。
しかし、あっけらかんとしながら答えるルーナに少し驚きながら、彼女に向かって首をかしげる。
「やっぱりと言うのはわかっていたのか?」
「ええ……だって、出会った時に着ていた鎧と似ていたので、多分関係があるのかなーとは思っておりました。まぁ、敵か味方でもケガをしていれば手当するのが、私の考えなので」
「……ルーナは、優しすぎないか?」
「まぁ、こんな考えだと、甘っちょろいって言われるかもしれないですね。よく、シリウス……神父様にも言われておりました」
(……本当に、優しすぎる)
彼女の世界は狭いのだろうと理解しながら、クラウスはルフトを手当てしているルーナに目を向けながら、息を静かに吐く。
ルーナはその後、シリウスとそしてシリウスの隣に居る人間ではない女性に目を向けていたので、近くに置いてあった長剣を握りしめた。
「ルーナ」
「なんですか、クラウス様」
「……あなたが手当てした相手は、俺にとっては敵だ」
「そう、みたいですね」
「だから殺す」
同僚だった男、友人だった男なのかもしれないが、既にクラウスは決めていた。
自分を傷つけ、殺そうとした男なのだがら、容赦しない。
拳を握りしめ、襲い掛かろうとした次の瞬間、信じられない光景がクラウスの目に映る。
魔力がないと言っていたルーナが突然両手で何かを握りしめながら、呪文を唱えた。
『主よ、どうか我らをお守りください』
一瞬の出来事だった。
小さく、何か呪文のようなモノを呟いたルーナと、近くに居る男を守るように突然盾のようなモノが現れ、それでクラウスの拳を防ぐ。
何が起きたのか理解できず、クラウスは目を見開いて今起きた状況を考えた。
(魔力がないと言っていなかったか……なのにこれは間違いなく白魔法……)
「ぐっ……」
盾に拳を塞がれてしまった事で太刀打ちが出来なくなってしまった。
一方のルーナは静かに息を吐きながら、クラウスに向き直る。
「すみません、クラウス様」
ルーナは真顔でそのように言った瞬間、彼女の拳が自分の顔面に勢いよくぶつかっていき、そのまま吹っ飛んでしまった。
再度、何が起きたのか理解できないクラウスはルーナの攻撃を受け、後ろに吹っ飛んでいく。
背中を強く打ったが、まずルーナが白魔術を使ったのかが気になったので、自分の顔面などどうでも良く、ルーナに近づく。
「――何をしたんだ、ルーナ」
「魔道具です。神父様から頂いたもので、握りしめて呪文を唱えると、盾が出て真正面の攻撃をガードしてくれる役割があります」
「すごいな、その魔道具」
「あげませんよ、神父様から頂いたのは私です」
どうやら『魔道具』の力のおかげで魔術を扱えたらしい。
この世界では『魔道具』と言うモノは本当に貴重な存在だった。
そんな存在をルーナが所持しており、シリウスが以前から持っていたと言う事を考え、本当にシリウスと言う存在は何者なのだろうかと考えさせられる。
『魔道具』をポケットにしまったルーナを確認した後、クラウスが再度元の話に戻る。
「話を戻すが――」
「クラウス様、鼻血」
「……ルーナが殴ったからだろう」
鼻血が出ているのはルーナのせい。
真顔でそのように発言したのだが、ルーナは全く謝る事もせず、そのままクラウスを見つめる。
「女に顔を殴られたのは初めてだ」
「私は結構やってるんですよ。イケメンには顔面がちょうど良いのです。結構神父様の事、ぶん殴ってるし。ね、神父様?」
「……」
シリウスは発言する事なく視線をそらしていた。どうやら本当らしい。
鼻血など気にする事なく、それ以上にルーナを怒らせたら同じような事が来るのだろうかと思わず身震いしつつ。
(うん、逆らわないようにしなければならないな)
と、心の中で誓うのだった。
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