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第47話、ある騎士の話⑪【血濡れの狂騎士】

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 今後、彼女を絶対に怒らせてはいけないと感じながら、クラウスは再度ルフトに視線を向けながら、ルーナが何処か不思議そうな顔をしながら自分を見ているような気がした。
 もしかしたら、嫌な顔をしていたのかもしれない。

(実際、嫌なんだが)

 正直、もう会いたくない人物が目の前でボロ雑巾のようにいるのだから目をそむけたくなる。
 しかし、このままだといけないと感じたクラウスはルーナに名を告げる。

「……この男の名はルフト。ルフト・コンティネイト」
「ルフト、さん」

「……俺を殺しに来た、男だ」

 まっすぐな瞳で、クラウスはルーナにそのように告げる。
 間違いは言っていない。
 そして、同時に元友人だと言う言葉が言わなかった。

「クラウスさんを殺しに来た、男ですか?」
「ああ」
「何故ですか?」
「命令されたから。こいつは命令通りに動いただけだ……いや、そもそも、あの国がおかしいのか」
「国?」
「……コイツは、俺の国では『アイツ』の取り巻きの一人だったからな」

 ――自分は、絶対におかしくない。

 全て、浸食されつつあるあの国は、もう終わりなのだろうと考えつつ、クラウスはルーナを見つめる。
 これ以上、このことを口にすれば、きっとルーナを巻きこむ可能性がある。
 同時に、何故自分が逃げてきたのかと言う事を言わなければいけない。
 そんな事を考えていた矢先、突然ルーナがクラウスに手を伸ばし、指先が頬に触れる。
 ルーナの行動に一瞬驚いたクラウスが問いかける。

「……俺の顔に何かついていたか?」
「いえ、ただ……ルフトさんの話をしていた時、何処か悲しそうな顔をしていたので」
「……まぁ、この男とは同期だったしな。ある意味信頼していた男だった」
「信頼していた男なのに、どうしてクラウスさんを殺そうとしたのですか?」
「そんなの簡単だ」

 クラウスはそのまま、ルーナの手首を鷲掴みにした後、鋭い目つきで口を開く。


「人間と言う存在は、簡単に人を裏切る事が出来るのさ」


 あの時、全てを裏切られた。
 何もかも全て、奪われた気がした。
 姉が、使用人が、父が、母が、今どのようになっているのかわからない。自分だけが逃げているなんて、胸が苦しくて仕方がない。

 ルフトを見た瞬間、全てを感じ取った。
 ここには居てはいけない。
 彼女に、ルーナに迷惑をかける。

「……クラウスさん?」

 一瞬、どうしてそのような顔をするのか、と言う目でルーナはクラウスを見つめている。
 顔に出ていたのかもしれない。
 必死で隠そうとしたのだが、ルーナはまるでその心の中を暴いていくかのように、容赦なく中に入ってくる。

「その、この人はクラウスさんを裏切ったって言う事で良いんですか?」
「ああ」

「――では、何故この人はクラウスさんを裏切ったのですか?」

 無知なる目が、彼女が、自分に目を向けてそのように言ってくる。
 クラウスは一瞬、それに飲み込まれそうな感覚に陥った。
 それと同時、クラウスの口が勝手に動いてしまった。

「……俺が暮らしていた国は王都、トワイライト」
「トワイライト……」
「そこで俺は騎士として働き、敵だと思った奴らや魔物を容赦なく斬り殺した」
「よ、容赦なく……流石狂騎士……」
「ただ、普通に、変わらない毎日を過ごしていたはずだった」
「……クラウスさん?」

「――『アイツ』……『聖女』サマが現れるまでは、平和だったんだ」

 今まで、憎しみで人を殺した事はなかった。
 けど、今回だけは、クラウスは憎しみを込めて、その名を口にする。
 軽蔑されても良い。
 この『憎しみ』は絶対に忘れる事はないのだから。

 それからクラウスはルーナにトワイライト王国の事、聖女召喚の事について色々と説明するようにしながらルーナに告げる。
 ルーナはしっかりと聞いてくれて、同時に後ろに居た神父、シリウスも何か知ってそうな感じの顔をしながらも、クラウスの話をしっかりと聞いてくれた。

 勇者召喚。
 聖女召喚。
 トワイライト王国の現状。
 聖女は『魅了』と言うモノを使っているという事。

(……俺の魔眼の事については、まだ話せないな)

 『魔眼』と言うモノは簡単に言ってはいけないと、昔から言われている。ルーナたちの事は信用しているのだが、『魔眼』についてはまだ先で良いだろうと結論つけながら話を続ける。
 全ての話が終わった後、クラウスは一息吐く。
 そしてクラウスを見た後、今度はルフトに視線を向ける。
 ルーナは倒れているルフトに目を向けて一言。

「……一発ぶん殴れば、魅了解けるかな?」
「いや、魅了なんだが解けていると思うぞ」
「え、なんで?」

 どうしてそのような事が言えるのだと言う顔をしながらルーナがその発言をしたシリウスに目を向けると、彼は正論のように言った。


「だってお前……ルーナの事を『天使』って言ったんだぞ。この男はルーナに一瞬だけ目を奪われている……魅了がかかっている相手がそんな事しないだろう?」


 クラウスも先ほどの発言は忘れていない。
 間違いなくルーナの事を『天使』だとほざいていたのだから、きっと既に魅了は解けているのであろうと考えたのである。
 シリウスの言葉に納得したクラウスだったが、同時にもやもやした気持ちになってしまうのであった。

 そのままルーナとシリウスが話し続ける姿を見ながら、クラウスは倒れているルフトに目を向ける。
 本当に魅了と言うモノが解けているのだろうか、と言う視線を向けていると、シリウスとルーナの話は終わったのか、クラウスは話の続きを開始する。

「……で、話は戻るが、その聖女様はどうしてお前に刺客を送るんだ?」
「ああ、それは簡単な事。一つは俺に『魅了』が聞かなかった事」
「もう一つは?」

「――俺が、聖女様の求婚を断ったからだ」

 あれは本当に迷惑だったと思いながら、嫌そうな顔でクラウスはルーナに告げたのだった。
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