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7話
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天井が軋む。
空気が裂けるように冷たくなり、
ふたりの真上から“巨大な影”がゆっくり降りてきた。
光太は喉を詰まらせた。
「……さっきの黒い影……
あれ、父親じゃ……なかった……?」
悠真は青ざめた顔で影を見上げる。
「たぶん……『怒りの残留思念』だけ。
あれはただの残骸。
本体は……」
影が落ちてくる。
重い気配。
濁った冷気。
床まで押しつぶすような怨念。
そして——形が見え始めた。
まず腕。
太く、異様に長い腕。
床に触れないまま伸びている。
次に顔。
ぼんやりと歪み、
目の穴だけが深く黒く沈んでいた。
光太が肩を震わせて言う。
「……これ……人の形してるけど……
絶対、人じゃない……」
悠真は光太の前に立ち、
手を握りながら言う。
「多分だけど……
これは父親の“怒り”や“憎しみ”じゃない」
「じゃあ何だよ……」
「“後悔”だ」
影がぬるり、と天井に貼りつくように伸びた。
静かで、重く、苦しい気配。
シンタの白い光が小さく震える。
悠真はさらに言葉を続けた。
「父親は……シンタを殺した後、
自分もここで——」
光太が息を呑む。
「……死んだ……?」
「たぶん。
この影は“死にきれなかった父親そのもの”。
罪悪感と後悔が、形になった怨念だ」
光太は震える唇でつぶやく。
「……なんで……
なんでそんなの……ここに残るんだよ……」
「後悔したからだよ」
悠真は影を見据える。
「殺したあとでやっと……
自分が取り返しのつかないことしたって気づいたんだ」
光太は叫びたいような顔で影を見上げる。
「ふざけんなよ……
お前……
今さら後悔とか……
遅いんだよ……!!」
影が、一瞬だけ揺れた。
シンタの光が、その揺れを怯えるように震わせる。
◆念写のように「過去」が映る
突然、部屋の壁が暗く染まった。
光太が青ざめて指をさす。
「悠真……あれ……!」
壁に“影の映像”が浮かび上がる。
——暗い部屋
——散乱した家具
——泣き叫ぶ幼い声
——怒鳴り声
——倒れる母親
——ドアを叩く小さな手
「……これ……」
光太は泣きそうな声で喉を鳴らした。
「シンタの……最後の日……?」
映像の中で、
小さな男の子が必死に泣きながら
部屋の隅に身を丸めている。
“父親の影”が近づく。
光太は目を背けた。
「もう見れねぇ……」
悠真が光太の肩に手を置く。
「でもシンタが……
俺たちに見せてるんだ」
白い光が、
ふたりの横で小刻みに震えている。
思い出すのが怖いのかもしれない。
でも伝えたい。
知ってほしい。
影は続けて映す。
——殴られる音
——泣き声が途切れる
——静寂
——その後、父親自身が床に崩れ落ちる姿
光太は膝から崩れ落ちた。
「……もう……無理だよ……
こんなの……つらすぎる……」
シンタの光が、光太の肩にそっと降りた。
慰めるように、
“ありがとう”と言うように。
悠真はゆっくり光太に手を差し伸べる。
「でも光太。
目を背けたら……
この子はずっとここに縛られたままだ」
光太は涙を拭い、
震える声で言った。
「……だったら……
俺らが……救う……」
その言葉を聞いて、
シンタの光がふわっと大きく揺れた。
嬉しそうに。
◆封じられた理由
ふたりは日記を抱え、
改めて影に向き直った。
悠真が言う。
「……管理会社が“事故の詳細”を隠した理由……
多分、これだ」
「……どういうこと……?」
「子どもの虐待死と母親殺害。
しかも加害者の父親も自殺。
“三重事故”なんて公表できない」
光太は息を呑んだ。
「だから……
履歴データが消えてた……?」
「たぶん意図的に。
こんな部屋、誰も住まないから」
光太は日記帳を胸に抱くように握りしめる。
「……でもシンタは今でもここにいる。
ずっと助けてって言ってた……
ずっとひとりで……」
シンタの光が、小さく震える。
悠真は影に向かって一歩進む。
「お前も……
“自分のしたこと”に苦しんでるんだろ」
巨大な影が揺れる。
落ちてきた影から、
低い呻きのような音が聞こえた。
怒っているのではない。
苦しんでいる。
後悔している。
もはや“父親”ですらない。
罪と悔いの塊。
光太は涙を拭き、
前に出た。
「……だったら……
俺らが……代わりに終わらせてやるよ」
影がわずかに震える。
まるで
その言葉を待っていたように。
シンタの白い光がふたりの手をつなぐように
そっと寄り添った。
悠真が光太の手を握り返す。
光太もぎゅっと握りしめる。
「怖くても……
離すわけねぇから」
「俺もだよ」
影はゆっくりと形を変え始める。
ついに——
“事件の本体”が現れようとしていた。
空気が裂けるように冷たくなり、
ふたりの真上から“巨大な影”がゆっくり降りてきた。
光太は喉を詰まらせた。
「……さっきの黒い影……
あれ、父親じゃ……なかった……?」
悠真は青ざめた顔で影を見上げる。
「たぶん……『怒りの残留思念』だけ。
あれはただの残骸。
本体は……」
影が落ちてくる。
重い気配。
濁った冷気。
床まで押しつぶすような怨念。
そして——形が見え始めた。
まず腕。
太く、異様に長い腕。
床に触れないまま伸びている。
次に顔。
ぼんやりと歪み、
目の穴だけが深く黒く沈んでいた。
光太が肩を震わせて言う。
「……これ……人の形してるけど……
絶対、人じゃない……」
悠真は光太の前に立ち、
手を握りながら言う。
「多分だけど……
これは父親の“怒り”や“憎しみ”じゃない」
「じゃあ何だよ……」
「“後悔”だ」
影がぬるり、と天井に貼りつくように伸びた。
静かで、重く、苦しい気配。
シンタの白い光が小さく震える。
悠真はさらに言葉を続けた。
「父親は……シンタを殺した後、
自分もここで——」
光太が息を呑む。
「……死んだ……?」
「たぶん。
この影は“死にきれなかった父親そのもの”。
罪悪感と後悔が、形になった怨念だ」
光太は震える唇でつぶやく。
「……なんで……
なんでそんなの……ここに残るんだよ……」
「後悔したからだよ」
悠真は影を見据える。
「殺したあとでやっと……
自分が取り返しのつかないことしたって気づいたんだ」
光太は叫びたいような顔で影を見上げる。
「ふざけんなよ……
お前……
今さら後悔とか……
遅いんだよ……!!」
影が、一瞬だけ揺れた。
シンタの光が、その揺れを怯えるように震わせる。
◆念写のように「過去」が映る
突然、部屋の壁が暗く染まった。
光太が青ざめて指をさす。
「悠真……あれ……!」
壁に“影の映像”が浮かび上がる。
——暗い部屋
——散乱した家具
——泣き叫ぶ幼い声
——怒鳴り声
——倒れる母親
——ドアを叩く小さな手
「……これ……」
光太は泣きそうな声で喉を鳴らした。
「シンタの……最後の日……?」
映像の中で、
小さな男の子が必死に泣きながら
部屋の隅に身を丸めている。
“父親の影”が近づく。
光太は目を背けた。
「もう見れねぇ……」
悠真が光太の肩に手を置く。
「でもシンタが……
俺たちに見せてるんだ」
白い光が、
ふたりの横で小刻みに震えている。
思い出すのが怖いのかもしれない。
でも伝えたい。
知ってほしい。
影は続けて映す。
——殴られる音
——泣き声が途切れる
——静寂
——その後、父親自身が床に崩れ落ちる姿
光太は膝から崩れ落ちた。
「……もう……無理だよ……
こんなの……つらすぎる……」
シンタの光が、光太の肩にそっと降りた。
慰めるように、
“ありがとう”と言うように。
悠真はゆっくり光太に手を差し伸べる。
「でも光太。
目を背けたら……
この子はずっとここに縛られたままだ」
光太は涙を拭い、
震える声で言った。
「……だったら……
俺らが……救う……」
その言葉を聞いて、
シンタの光がふわっと大きく揺れた。
嬉しそうに。
◆封じられた理由
ふたりは日記を抱え、
改めて影に向き直った。
悠真が言う。
「……管理会社が“事故の詳細”を隠した理由……
多分、これだ」
「……どういうこと……?」
「子どもの虐待死と母親殺害。
しかも加害者の父親も自殺。
“三重事故”なんて公表できない」
光太は息を呑んだ。
「だから……
履歴データが消えてた……?」
「たぶん意図的に。
こんな部屋、誰も住まないから」
光太は日記帳を胸に抱くように握りしめる。
「……でもシンタは今でもここにいる。
ずっと助けてって言ってた……
ずっとひとりで……」
シンタの光が、小さく震える。
悠真は影に向かって一歩進む。
「お前も……
“自分のしたこと”に苦しんでるんだろ」
巨大な影が揺れる。
落ちてきた影から、
低い呻きのような音が聞こえた。
怒っているのではない。
苦しんでいる。
後悔している。
もはや“父親”ですらない。
罪と悔いの塊。
光太は涙を拭き、
前に出た。
「……だったら……
俺らが……代わりに終わらせてやるよ」
影がわずかに震える。
まるで
その言葉を待っていたように。
シンタの白い光がふたりの手をつなぐように
そっと寄り添った。
悠真が光太の手を握り返す。
光太もぎゅっと握りしめる。
「怖くても……
離すわけねぇから」
「俺もだよ」
影はゆっくりと形を変え始める。
ついに——
“事件の本体”が現れようとしていた。
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