事故物件に男2人なにも起こらないはずもなく

山田空

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6話

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シンタの日記帳に導かれるように、
光太と悠真は事故物件の“最後の謎”に触れ始めていた。

だがその晩——
部屋は異様な空気に包まれていた。

光太は時計を見ながらため息をつく。

「……もう夜中の2時半……
寝れねぇって……」

悠真はPCの前で資料をまとめながら言う。

「いや寝たら逆にやばいだろ。
昨日も一昨日も“夜3時前”に来てんだぞ、あの影」

「なんでホラー映画と同じ時間に出てくんだよ!!
幽霊って時間割あんの!?」

「知らねぇよ」

ほんの少し笑い合ったが、
部屋の空気はやっぱり重い。

白い光——シンタが、
部屋の隅で弱く揺れている。

どこか怯えているようにも見えた。

光太はしゃがみ込み、シンタの方に手を伸ばす。

「……シンタ……
やっぱり3時になると“あいつ”来るんだよな……?」

白い光が、小さくふるふると揺れる。

肯定だ。

悠真がページをめくりながら言う。

「シンタの日記……最後のページの裏側、
ちょっと透けてたんだよ」

光太が顔を上げる。

「透けてた?」

「光に当てたら……他の文字が浮き出た」

悠真はスマホを取り出し、ライトを当てた。

子どもの走り書き。

震える文字。

『おとうさん おかあさんを ころした
 ぼく みた
 おとうさん ぼくも ころすっていった
 にげれない
 こわい』

光太の顔から色が消えた。

「……嘘……だろ……?」

悠真は唇を噛む。

「システムが隠してるって言ってた事故履歴……
“子どもの虐待死”だけじゃなくて……
“母親殺害”まであったんだよ」

シンタが小さく震え、
光太の横に寄るように光を寄せた。

守ってほしいような、
でも謝っているような気配。

光太はその光に手をかざして囁いた。

「……大丈夫だよシンタ。
お前は悪くねぇ」

すると、
部屋の照明がまたすっと揺れた。

冷たい風が通る。

——午前2時55分。

悠真が光太の腕を引いた。

「来るぞ」
「マジかよ……!」

ふたりはリビングの中央に立ち、
シンタの光がふたりの背後に寄り添う。

空気は氷のように冷え、
時計の秒針が異様に響いた。

——2:57

床のどこかで木が軋む音がした。

——2:58

天井の隅に、黒い“染み”のような影が広がり……

——2:59

影から、低い声とも呻きともつかない気配が漏れ出した。

光太は背筋を震わせながら叫ぶ。

「うそだろ……毎回濃くなってんじゃん!!」
「黙ってろ光太、気づかれる!」
「もう気づかれてるわ!!」

——3:00

時計の針が、音もなく「3」を指した。

瞬間——
リビングの照明が全部「バンッ」と落ちた。

その一拍あと。
部屋の中央に、ゆっくりと黒い影が“立った”。

人の形。
だけど、人じゃない。

怒り。
憎しみ。
後悔。
狂気。

すべてが混ざった“父親の残留思念”。

光太は震える声で呟いた。

「これ……昨日よりやばくね……?」

「近づくな、光太」
悠真が前に出て
光太の肩を抱き寄せる。

黒い影はふたりを見下ろし——
ゆっくりと腕を伸ばした。

その指先は
“子どもを掴むような形”。

「こいつ……
まだシンタを……!」

光太の声と同時に、
シンタの光がぱっと強く輝いて
ふたりの前に立ちはだかった。

しかし黒い影の怒りは異常だった。

シンタの光が押されて
後ろへ下がる。

弱い。

疲れている。

シンタは“3時になると弱る”のだ。

光太が叫ぶ。

「悠真!! このままじゃ……
シンタが消える!!」

悠真は迷わなかった。

「……だったら、やるしかねぇだろ」

「なにを!?」

「シンタと同じ方向に立つ」

悠真は光太の手を強く握り、
ふたりでシンタの白い光の前へ踏み込んだ。

黒い影が大きく揺れる。

怒りの気配が変わる。

“ふたりを邪魔者だと思った”。

シンタは震えながら光を広げる。

怖い。
怖いけれど。

「ふたりを守りたい」

その感情が光に混ざっていた。

光太は叫んだ。

「俺らがシンタを奪ったんじゃねぇ!!
守ってるんだよ!!!」

悠真も叫ぶ。

「お前がシンタを殺したんだ!!
だから怒りがここに残ってんだよ!!」

黒い影が激しく揺れた。

怒りが爆発するような気配。

その時だった。

ーー〈やめて〉

シンタの声が、
初めて“はっきり”聞こえた。

白い光がふたりを包む。

黒い影が一瞬だけ
動きを止めた。

その隙に、
影の奥から別の“黒さ”が滲み出る。

光太が息を呑む。

「……まだいる……?」

悠真が青ざめる。

「本体は……まだ現れてない……。
黒い影は“父親の怒りの残りかす”。
本物の怨念は……
別にいる……」

空気が圧縮されるような音がした。

天井が低くなったように感じる。

シンタの白い光が震える。

光太が怯えた声で呟いた。

「ここ……
いよいよ……
本気でヤバい……?」

悠真は光太の手を強く握り返し、
顔を寄せて囁いた。

「絶対に離すなよ。
何が来ても」

光太は頬を赤くしながら頷いた。

「……離すわけねぇだろ……バカ……」

白い光が涙のように揺れる。

黒い影が再び動き出す。

そして天井の奥から——
“もっと巨大な影”が落ちてきた。

これが本当の“事件の闇”。

ふたりは逃げられない。
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