事故物件に男2人なにも起こらないはずもなく

山田空

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11話

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シンタの光が、
不自然に新しいリビングの壁を照らした。

そこだけが、
ほかの壁と明らかに“時間”が違う。

光太はつぶやく。

「……ここ……だけ塗り直してある……」

悠真は壁に手を触れ、
深く息を吐いた。

「事件のあと……
ここだけ“封じて”隠したんだ」

シンタの光が、しずかに揺れる。

——〈あけて〉

光太は身体をこわばらせた。

「……開けろって……
言ってるのか……?」

悠真が頷く。

「でも、ただの壁じゃない。
なんか……“重い”。
霊とかじゃなくて、歴史みたいな……」

そのとき。

部屋の奥から“影の残骸”が揺れた。

巨大な影はもう形を保てず、
黒い煙のようになりながらも
必死に壁の前に立ちふさがろうとしていた。

——〈だめだ……〉
——〈みせるな……〉
——〈みたら……おわる……〉

光太は歯を食いしばった。

「終わらせなきゃいけねぇんだよ……
ずっと、ここで苦しんでたんなら……」

シンタの白い光がふたりの手を包む。

小さく、でも決意のある震え。

悠真は工具箱を持ち、
壁の端に手を伸ばした。

「光太。
もし何があっても、絶対に手離すなよ」

「……離すかよ」

ふたりは並んで壁に向き合う。

照明はほぼ死んでいる。
部屋を照らすのはシンタの白い光だけ。

影が最後の力で二人を押し返そうとした。

——〈やめろおおおお!!〉

シンタの光が“盾”のように前に出る。

——〈まもる〉

影が弾かれた。

その拍子に、
壁の上部が少しだけ“へこんだ”。

光太が息をのむ。

「……ここ、すでに一度……
叩かれてる?」

悠真は静かに言った。

「多分……父親が死ぬ前に、
ここを壊そうとしてたんだ。
でも、できなかった」

光太は胸が痛くなる。

「壊そうとして……何?
隠したことが……後悔になったのか……?」

「たぶん。
だから、怨念はここを守り続けた。
罪を見られないように」

悠真がハンマーを構える。

光太も一緒に手を添える。

「いくぞ」

ガンッ!

壁が大きく揺れ、
塗装がはらりと落ちる。

黒い影が怒り狂って叫ぶ。

——〈みるな!!!〉

ガンッ! ガンッ!!

壁に亀裂が走る。

シンタがふたりの背中に寄り添うように光を当てる。

——〈だいじょうぶ〉

光太は涙をぬぐいながら叫ぶ。

「俺たちが……
絶対終わらせる!!」

最後の一撃。

バキィッ!!!

壁が崩れ、
粉塵が舞った。

その向こう。

そこには――

**小さな“箱”**が隠されていた。

光太の心臓が跳ねる。

「……タイムカプセル……?」

いや違う。
もっと古い。
もっと暗い。

シンタの光が箱の周りを優しく照らす。

悠真は慎重に手を伸ばす。

「開けるぞ……」

光太も息を止めた。

箱の蓋を――ゆっくりと開く。

その中にあったのは。

ひとつ。
薄いノート。

そして――

**女性ものの“リング”**だった。

光太の呼吸が止まる。

「……これ……母親の……指輪だ……」

シンタの光が強く震えた。

——〈おかあさん……〉
——〈だいすきだった……〉

悠真はノートを手に取り、
ページをめくった。

そこには母親の手書きの日記。

最終ページには震える文字でこう書いてあった。

『シンタとお姉ちゃんと逃げたい
 ……でも、あの人が怖い
 ……この家から助けて』

光太は喉を押さえた。

母親は逃げようとしていた。
でも父親に見つかり、
殺された。

そして父親は“証拠”を隠し、
壁を塗り、
罪と向き合わないまま
怨念になった。

光太が震える声で言う。

「……これが……
封じられてた理由……?」

悠真はノートを胸に抱えた。

「管理会社は……
事故の全貌を塗りつぶした。
部屋も、記録も。
全部、壁の中に押し込んで」

光太の目に涙が溜まる。

「……シンタ……
ずっと寂しかったよな……
お母さん……見つけられなくて……」

シンタの光がふたりの胸にすり寄った。

——〈ありがとう〉
——〈みつけてくれて〉

その瞬間。

影が最後の叫びを上げた。

——〈いやだあああああッ!!〉
——〈うばうな!!〉
——〈おれの かぞくを……!!!〉

影が巨大に膨らみ、
部屋を呑み込む勢いで迫ってくる。

光太は悠真の腕を掴む。

「やばい!!」

「コウタ!! こっちに!!」

ふたりが抱き寄せあった瞬間――

シンタの光が
まばゆいほどの白い閃光を放った。

影が悲鳴を上げる。

光太の視界が白く染まり、
意識が引き裂かれそうになる。

白い光の中で。

シンタの声が聞こえた。

——〈もう だいじょうぶ
 きょうで おわりだよ〉

光太は手探りで悠真の手を握る。

悠真も強く握り返した。

そして。

白い光が、影を完全に飲み込んだ。

影は、
消える寸前にこう言った。

——〈ごめ……な……〉

静寂。

光が引き、
ゆっくりと視界が戻っていく。

光太の腕の中に――
シンタの小さな光が残っていた。

弱っていて。
でも、どこか安心した揺れ方をしていた。

光太は涙を落としながら囁いた。

「……よかった……
もう、苦しまなくていいんだ……」

悠真も優しく光に触れた。

「シンタ。
一緒に……外に出ような」

白い光が小さく瞬いた。

その瞬間。

――部屋の空気が変わった。

重さが消えた。
音も匂いも、普通の家のそれになった。

長い長い“封じ”が、
ついに解けたのだ。

ふたりは立ち上がり、
崩れた壁を見つめた。

光太が小さな声で言う。

「……やっと終わった……のか……?」

悠真は光太の肩にそっと手を置いた。

「いや……
本当に終わるのは、
この家を出てからだ」

その言葉に、
光太はゆっくり頷いた。

シンタの光が、
ふたりの手を包むように優しく触れた。

今度は――
“ありがとう”という気配だけがあった。

そしてふたりは、
ついに部屋の出口へ向かう。
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