事故物件に男2人なにも起こらないはずもなく

山田空

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12話

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壁の封印が解けた部屋は、
嘘みたいに静かだった。

さっきまで空気が重くて息もしづらかったのに、
今は風が通るみたいに軽い。

光太はシンタの白い光を手のひらで包む。

弱ってはいるが、
その揺れはどこか満ち足りていた。

悠真は玄関へ向かう。

「……行こう。
ここから出れば、全部終わる」

光太も頷き、
ふたりで玄関に立つ。

しかしドアノブに触れた瞬間――

ピシッ。

小さな音がした。

光太が肩を跳ね上げる。

「今……聞こえたよな?」

悠真が眉をひそめ、壁に触れた。

「……まだ、完全に終わってねぇな」

そのとき。

シンタの光が小さく震えた。

——〈そとに でたら……〉
——〈ぼくは……〉

光太が慌てて光を抱き寄せる。

「どうした?
外に出たらどうなる?」

シンタは答えない。

ただ、少し悲しそうに震える。

悠真は静かに言った。

「……シンタは、この家に縛られてた。
事件の“痕跡”ごと。
外に出たら……存在が薄れるのかもしれねぇ」

光太は顔を歪めた。

「そんなの……嫌だよ」

——〈だいじょうぶ〉
——〈いく……〉

光太の胸がぎゅっと痛んだ。

シンタはもう逃げようとしない。
覚悟している。

悠真は光太の肩を軽く叩く。

「……離すなよ。
シンタも、俺の手も」

光太は強く頷いた。

「離さない」

ふたりは手を繋ぎ、
シンタを挟むように並んだ。

玄関のドアノブに、
悠真がゆっくりと手をかける。

「開けるぞ」

カチャリ。

ドアがわずかに動く。

その瞬間――

家の奥から、“足音”がした。

光太の背筋が凍りつく。

足音は、
父親の影が消えたはずの“子ども部屋”から。

トン……
トン……

ゆっくり、
ゆっくり。

まるで、
“最後の何か”が追ってくるように。

光太「……ありえねぇ……!
影は消えたんじゃ……!」

悠真「違う。
あれは“怨念”。
これは……“残り香”みたいなもんだ」

しかし足音は止まらない。

玄関に近づいてくる。
近づいてくる。

光太はシンタを抱き寄せた。

「行かないと……!」

悠真が力を込める。

「光太、しっかり掴め!!」

玄関のドアを開け放つ。

すると――

空気が一変した。

冷たい風が吹き込み、
部屋全体がふたりを押し返すように歪む。

床が鳴る。
壁がたわむ。

トン……
トン……

近づいてくる足音。

そして――

廊下の奥に“何か”が立っていた。

小さな女の子の影。

光太は目を見開く。

「……お姉ちゃん……?」

影は動かない。
ただ見ている。

その足元に、シンタが震えた。

——〈おねえちゃん……〉

影が、小さく頭を下げた。

その瞬間。

足音は止まり、
部屋を押し返す圧力がふっと消えた。

光太は息を震わせた。

「……見送ってくれた……?」

悠真はドアの枠を掴みながら頷く。

「行けってことだ」

光太は涙をこらえながらシンタを抱きしめる。

「行こう。
外の空気……吸おう、シンタ」

——〈うん〉

ふたりは外へ踏み出した。

パチッ。

靴が地面に触れた瞬間、
シンタの光がふっと小さくなった。

光太が慌てる。

「シンタ!?
大丈夫か!?」

——〈だいじょうぶ……
 でも もう……ながくは……〉

光太の胸が締めつけられる。

「嫌だよ……!」

悠真が光太の背中を支える。

「光太。
聞いてやれ」

シンタの光が、
最後の力でふたりの手を包む。

——〈ぼく……
 ありがとうって……いいたかった〉
——〈さびしくなかった〉
——〈ふたり だいすき〉

光太の頬に涙が落ちる。

「シンタ……!」

悠真も静かに目を伏せた。

「……これで成仏できるんだな」

光太は震える声で答えた。

「……うん……
でも……寂しい……」

シンタが最後に、
光太の胸にそっと触れるような震え方をした。

——〈もう……ひとりじゃないでしょ〉

光太はハッとして悠真を見た。

悠真も光太を見ていた。

互いに、
言葉より先に気持ちが伝わる距離。

そして――

シンタの光がゆっくりと薄れていき……

……ふっと、消えた。

光太は声を押し殺し、
悠真の胸に額を押し当てる。

悠真は光太の背を強く抱いた。

「……よく頑張ったな、光太」

夜風が優しく流れた。

家の中はもう何の気配もなく、
ただ静かに沈んでいる。

全ての怪異は終わった。

でも――

ふたりの物語は、
ここから始まる。
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