【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山

文字の大きさ
2 / 47

2、ドンです


「明日が契約日なので、その後の段取りもありますから。それが終われば少しゆっくりできると思いますので」

 博美が言うと、電話の向こうの今川部長も納得した。

「ああ、そうだね。しかし、さすがカマもっちゃん。契約後の段取りも兼ねて見据えるとはさすがだな」

 博美が働く経営コンサルタント会社で、明日、譲渡契約が結ばれる。買い手企業と売り手企業の双方の代表者によって契約書がわされる。

 売り手側は化粧品メーカー、買い手側は通販会社で、契約成立となったあかつきには、担当する博美のコンサルタント会社にもM&Aの仲介手数料が入る。

 この案件は、一年前、今川部長から、個人的に付き合いのある化粧品会社の福本社長との会食の場に博美が呼ばれたことで担当が決まった。詳しい話を聞くと、七十五歳の福本社長は化粧品会社を一代でおこした人で、自分の年齢を考えると夜も眠れないと言うのだった。
 最近では、よくある話だった。中小企業の代表者は、多額の個人保証している。自分が居なくなったあとの債務や会社将来を考えると不安になるのだろう。当時、大手企業の最終打合せで手が回らない今川部長の代わりに、博美がコンサルタントとして、福本社長の化粧品会社へ通い続けた。

 会社の経営状況や数字の実情を調べ、福本社長を含めた役員たちに右肩下がりの現状を説明した。現在のじり貧状態では負債は膨れ上がる一方で、人員整理をすべきだと話をした。だがその後も、役員たちは、なにも対策を取ろうとせず、他人事の様子に福本社長は落胆らくたんした。そして、福本社長からM&Aを進めてほしいと言われ、社内に何かと問題はあったが、博美は一つ一つ解決しながら、買い手企業を探すことにした。

 しかし、買う方も慈善事業ではない。なにかしらの旨味がなければ企業など買いたいと思わない。

 今回の売り手企業である福本社長の化粧品会社は、日本での売り上げは右肩下がりだが、中国相手に順調に売り上げを伸ばしていた。中国相手に長年の販売実績があるのは強みだった。販売ルート、そして決済方法などのノウハウがある。

 博美は中国での販売に興味がありそうな企業へ話を持って行った。興味を示した企業に資料を渡し、話を進める。何社か名乗りを上げてきたが、話が煮詰る前に流れるパターンが繰り返された。そして最後まで興味を示した通販会社が残り、いよいよ売り手の化粧品会社の最終段階の買収監査に入ると、博美は弁護士や会計士などの打合せなど休日返上で仕事をする日々だった。そうして、苦労の末、明日の契約まで持ってきたのだ。

 ハードな仕事だ。

 だが、うまみもある。

 今回の譲渡契約じょうとけいやくは五億円。片方から五%ずつ、合計十%の手数料が博美の働くコンサルタント会社に入る。
 そうなれば、博美のふところにも報奨金ほうしょうきんが出る。そのためには契約後のフォローをしてもお釣りが出るぐらいだ。

 報奨金! 報奨金!

 フフフッ! アハハハハ!

「もしもし、カマもっちゃん、聞いている? 明日の昼食は、福本社長にも言ってあるけど、あの寿司屋予約してあるから」

 おおっと、忘れていた。今川部長との電話中だった。

「ありがとうございます!」

 契約成立後、ご褒美の高級寿司が食べられると思うと、一気にテンションも上がる。

「今回の仕事、カマもっちゃんに回して本当に良かったよ。じゃ、明日はよろしく」

「はい、失礼いたします」

 今川部長との電話を切ってから気が付いた。

 あれ? 部長、なんの用件だったんだろう?

 もしかして、また、どこかの会社を紹介してもらえるとか?

 それなら、惜しいことをした。

 でも、ま、いいか。

 他にも何件か抱えている案件がある。しばらく休んだ後、本腰を入れよう。

 博美は、赤信号になった大通りの交差点で足を止めた。

 まずは明日の契約だ。

 朝十時から、博美が働くコンサルタント会社で双方の代表者が来て、最終譲渡契約を結ぶ。

 これまでの苦労が実を結ぶのだ。

 自然と笑みがこぼれた。

 社内の男たちの風当たりが、ますます強くなるだろう。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 ただのねたみだ、ひがみだ、嫉妬だ。

 出来ない奴らは、そうやって陰口を叩いていればいい。

 その間に、こちらは契約成立だ!

 ざまぁみろ!

 そのときだ、ドン――。

 誰かに強く背中を押された。

 弾かれるように、博美の身体は赤信号の交差点へ飛び出した。

「え?」

 ブブブブ――!!!

 眩しい車のライトが目に入る。

 次の瞬間、ぐわん――。

 強い衝撃を受け、クラクションが鳴り響く中、身体は宙に浮いていた。

 すべてがスローモーションに見える。

 交差点の歩道で、こちらを見上げている男と目があった。
 あれは、たしか……。

 そう!

 福本猛ふくもとたける

 明日の契約で、売却する化粧品会社の専務男だ。
 
 半年前、化粧品会社・社長である父親の激高げきこうに触れ、専務を解任され、会社から放り出された。

 あの男が、わたしの背中を押した――?

 なんで? どうして? なんでわたしなのよ!

 自業自得でしょ! それに恨むなら父親じゃない!

 死ぬ……、の?

 わたし、死ぬの……。

 マジ!? うっそ――!

 あれほど苦労したのに、あそこまで話を持って行ったのに、明日契約書を交わすのに。

 なんでよ――!

 報奨金は――!? ご褒美の寿司は!?

 こんなのあり得ない――!!!

 博美の意識は、そこで途切れた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)