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おまけ
エミリー・エミルマイトの正体
しおりを挟む【注意】残虐的なシーンがございますので、苦手な方はご注意ください。
教会の鐘の音が鳴り響く、青い空。
だが、遥か上空では黒い霧に覆われた禍々しい馬車が止まっていた。
車内には赤いスーツ姿のエミルマイトが座っている。
頭がひしゃげたハゲタカが飛んで来て、車体に止まった。
醜い姿のハゲタカは、ブラブラとぶら下がっている目ん玉を揺らしながら、長い首で中を覗く。
「主様、楽し気でございましたね」
ハゲタカの声に、エミルマイトはご機嫌で応える。
「久しぶりに楽しめた」
「ですが、あの女を逃がしてよかったのですか」
「博美のことか? ほう、嫉妬深い性格は相変わらずだな」
「主様は、なんでもお見通しでございますね」
「それほどジュリアスを元の姿に戻されたのが、腹が立つのか」
「それはそうでございますよ。せっかく私がジュリアスを呪いの力であのような姿にしたのでございますから」
この醜いハゲタカは、かつて大聖女と呼ばれた女だった。
世界を支配するため、大帝国は領土を広げつつあった。勢いづいた大帝国は魔法王国グクを支配下に置くため大聖女召喚までやってのけた。しかし大聖女召喚を成功させた大帝国では災いが続き、支配下では反乱が起き、つぎつぎと小国が独立する事態となる。それでも皇帝は魔法王国グクを支配下に置くため、グクに攻め入ろうと画策していた。だが争いごとを好まぬグク王国は話し合いの場を設け、そうして大帝国とグク王国の代表者が何度か交渉を重ねるうち、大聖女は出席していた相手国のジュリアス王子に好意を持ったのだった。大聖女は自ら大帝国を裏切り、自分がグク王国側につくので結婚するようにジュリアスに迫った。だがジュリアスは断り、自分の物に出来ない腹いせにジュリアスをあのような魔獣の姿にしたのだった。
「こうして、大聖女であったお前は、俺の下僕となったのだ」
「ええ、ええ、そうでございます。呪いをかけたせいで、わたくしは今の姿となったのでございます」
「お前にぴったりの姿だと思うのだが気に入らぬのか? それならば、奴らのように馬にして、ずっと走らせてやるぞ」
「おやめください。わたくしは今のハゲタカの姿でようございます。魔界の炎や氷、剣山などで辛い思いをしながら、駆け回るのはごめんでございます」
「ところで新たな配下となった奴らはどうだ」
そう言われハゲタカは、長い首で馬車の前方をみた。
気味の悪い二頭の馬がいる。
一頭は、人間の頃、鎌本博美を信号で突き飛ばした福本猛だった。エミルマイトがこの世界へ召喚したのだが、その衝撃で生きたまま身体は四方に引きちぎられ、後頭部は勝ち割られたように陥没していた。死ぬことも許されず男は召喚の衝撃でバラバラになった身体をつなぎ合わされ、頭蓋骨からは脳みそが流れ落ち、つぎはぎだらけの馬の姿になったのだった。
「主様がお好きな不気味な姿でございますね。脳みそが足りないので少々、手こずりますが」
「うむ」
「もう一頭は、主様を殴ったグリアティ家のサイモン、そしてその弟カルロスでございますね」
ヒヒーンと鳴いたのは、頭二つに身体は一つの黒い馬だった。
エミリーが屋敷でメイドを休んだ日のことだ。
グリアティ家の使いの者は、ハロルド王子からサイモンとカルロスの兄弟を牢屋から引き取った後、屋敷へ向かう途中、二人を宿屋で休ませていた。
宿屋のベッドで寝転がりながら、カルロスがサイモンへ聞いた。
「兄ちゃん、俺達次はどこへ行くんだろう」
「心配するなカルロス。面白いことを考えたんだ」
「なになに?」
カルロスがサイモンをきらきらした目で見る。
「屋敷で親父の金をたんまり盗んで商売を始める。奴隷商だ。魔獣を見て思いついた」
「村で女や子供をさらって、うっぱらうんだ。やっぱり兄ちゃんはすごいな」
「そしてアイツらにも復讐してやる。カルロスを呪いで苦しめたドワーフ共だ。半殺しにして、奴隷として売りに出す」
「いいね、それ」
ワクワクした様子でグリアティ家の兄弟はベッドの上で話をしていた。
だが、そこへエミリーが乗り込んだ。
サイモンが、すぐさまベッドの上に立ち上がって睨みを利かせる。
「お前はハロルド王子の屋敷のメイドじゃないか。いったい何の用だ。金か? こんなところまで追いかけてきやがって」
「私は忘れ物をお届けしようと思いまして」
「忘れものだと?」
エミリーがサイモンに茶色い物を放り投げた。受け取ったサイモンの手には革のブーツがあった。
「これは……、あの狼に噛まれたカルロスのブーツじゃないか。どうしてここに」
呪いのことを思い出したのか、カルロスが怯えた顔になる。
「それほど怖がらなくていいですよ。呪いは解けて普通のブーツに戻っているでしょう。ああ、そうそう、もうひとつの大事な忘れ物を。私はやられたらやり返す性分で」
「もうひとつの忘れ物だと?」
次の瞬間、エミリーがサイモンの腹に一発入れた。
サイモンの内臓が飛び出し、壁には真っ赤な血と臓器がへばりついた。
そうして白目を向いたサイモンがベッドの上に倒れ込む。穴の開いたサイモンの身体でベッドは真っ赤な血の色に染まった。
「……」
声にならない恐怖でカルロスが兄の死体を見ていた。
「人間とは脆いものだな。だが、お前たちはいつも一緒なのだろう。寂しくないようにしてやろう」
現実を受け入れられない様子のカルロスにエミリーが声をかけた。
「え?」
エミリーがカルロスの足を持った。その瞬間カルロスの身体は硬直し、ピンっとサイモンの穴が開いた腹に埋めるようにカルロスの身体をくっつけた。
そのまま外へ放り投げると、窓ガラスと壁をぶち抜いたニコイチの身体は上空へ飛んで行き、出来上がったのが、下半身が一つで上半身が二つの醜い黒い馬だった。
「主様、あの馬たちは死ぬことも出来ず、ずっと魔界で走り続けることになりますが、あの女をこのままグク王国へ行かせてよかったのでしょうか」
「博美のことか?」
「せっかく主様が呪いの力を発動させ、闇落ちさせるために、メイドのエミリーの姿で、機会をうかがっていらっしゃったのに。わたくしもあの女が呪いの力を発動させるのを楽しみにお待ちしていたのに、見逃すことなど……」
ハゲタカは嫉妬深い目で不満そうに言葉を続けた。
「もしかして、主様、あの女に心を奪われたのですか」
「ふっ、自由にさせるほうが面白いだろ。それに人間というものは、いつ心変わりをするかもしれん。呪いの力を必要となったそのとき、また我はこの世界へ現れよう。それまでは、しばらく魔界でゆっくりしようではないか」
エミルマイトから赤い悪魔の姿になると、前方に向かって叫ぶ。
「さあ、お前たち、魔界へ向かって走るのだ」
「ヒヒヒーン」
醜い馬たちは、空に現れた異界の扉をくぐり魔界へと走った。
完
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