王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、侍女生活のはじまり

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「まぁ、どんな娘が来るのか楽しみにして
いたけど……なんて可愛いの!!」

初めてお会いした王女様の第一声が
これです。私、可愛いですか?
昔はそう言ってくれる人がいたけど……。
最近は言われたことないなぁ。
                     
それより、王女様の方が大変麗しいです。
艶のある漆黒の髪、金色の瞳。あ~、
瞳が力強い。
目がそらせない。

「エリザベ―トよ。よろしくね」

笑顔がまぶしいです。でも……。
うん、服装がなぜか男装。それも庶民ぽい。
長い髪も無造作に一つに結んで背に流して
いる。何でだろう。

「あははは、こんな格好でごめんなさいね。
誰にも会わないからつい楽な格好になっ
ちゃって。動きやすいのよ。この服。」

  あっ、顔にでてました?

「申し訳ございません」

「いいのよ。でも本当に可愛いわ。
柔らかそうな髪ね。ふわふわしてて、
ちょっと美味しそうな色。
キャラメルみたい。
……なんか無性に撫でたくなるわね」
 
普通に茶色い地味な髪です。
それに背が高すぎて婚約破棄された女です。

「アニエスと申します。本日より侍女と
してお仕えさせていただきます」

「あ~、固くならなくていいからね。
ここに顔を出してくれる人が増えただけで
嬉しいんだから!
仕事の事は、この二人に聞いてね」

王女様の後ろで控えていた二人の侍女が
笑顔で頷く。

「アイリスです」

「アルマです。よろしくね」

プラチナブロンドの涼やかなお顔の
アイリスさん。
赤い髪で、ちょっと色っぽい泣きぼくろが
あるのがアルマさんだ。
二人とも優しそう。

「ほらほら、座って座って。美味しいお菓子
があるのよ。皆で歓迎パーティーよ」

王女様がご自分の隣のイスをばんばん叩く。

「はい。私の淹れたお茶も飲んでね」

アイリスさんがお茶を淹れてくれる。 

「アイリスさんの淹れるお茶は美味しい
わよ。早く座って。こっちのケ―キは姫様と
私で焼いたのよ。食べてみて?」


アルマさんがケ―キをすすめてくれる。
えっ?王女様が焼いたケ―キ?

「いや~可愛いわぁ。後で髪を結わせて。
あら?やだ。そんなに目を丸くしてたら
リスみたいよ。うふふ。子リスちゃん。
こっちにおいで。ほらほら」

王女様はまた隣のイスをばんばん叩く。
え~と。王女様の隣に座るんですか?
私がですか?不敬?不敬?頭の中で不敬の
文字がぐるぐる回る。

なんだかとても歓迎されてますがいいの
でしょうか。

しかし、呪われた王女宮。
悲壮感が全くないなぁ。
ちょっとびっくり。
緊張が変な感じにほぐれた私だった。



※※※※※※※

 

あの和やかな顔合わせの日から忙しく
働いているうち、あっという間に二年が
過ぎた。仕事はまぁ、忙しいです。はい。

広い王女宮を三人で管理するのだから
仕事は多い。侍女というより
もはや何でも屋です。

王女宮から出られない姫様ですが。
あっ、そう。
王女様のことは姫様と呼ばせていただいて
います。

姫様は宮に籠りながらも王族として執務を
こなされているので王宮との行き来が必要。
魔術師団長のアルフォンス様と私が主に
その役目についている。


「アニエス」

後ろから声をかけられる。振り返ると
魔術師団長様がニコニコしながら手を
振っている。 相変わらず気さくな方だ。

長い赤い髪、泣きぼくろのある美しいお顔。
気さくな人柄。アルフォンス様は
とても人気がある。
仕事柄、一緒にいる事の多い私はどうも
妬まれるようで地味に嫌がらせを受ける。

やれやれ、今日も嫌がらせコ―スかな?

「調子はどう?体調は悪くないかな?」

 心配そうに私の顔を見るアルフォンス様。

「はい、特に不調はありません」

「魔力は普通に使えている?」

「はい、大丈夫です」
  
私は養子に出された時に嵌められた魔力
封じの腕輪のせいで、
今まで魔力があまり使かえなかった。
それをアルフォンス様に外していただいた
のだ。
 
特殊な物だったようでアルフォンス様でも
外すまでに二年かかった。
外したあとも後遺症なのか、体調不良になっ
たり、魔力が不安定になるなどしてしばらく
心配をかけてしまった。

「これで少しは姫様のお役にたてればいい
のですが」

「無理はしないようにね。姫様に心配を
かけてはいけないよ。
ああ、明日は朝から第一騎士団に来て
くれってさ。……アニエス大丈夫かい?」

   第一騎士団と聞いて顔色を悪くする私。
──うん。苦手な人がいるのだ。
黒髪にあの金色の瞳の騎士団長様。

   グレン様。

あの瞳に見つめられると捕食されるよう
な気分になるのは何故なんだろう。
うっ、嫌な汗が……。

私は何故かグレン様に気に入られたようで
何かと絡まれている。
怖くて逃げ回っているのだけれど狩猟本能
を刺激するのか追いかけ回されるのだ。

思えば出会いからして最悪だった。
顔というか唇を舐められたんだよね。
あの時。
ふと、 遠い目になる。
何せ初めてお会いした時の私は……。

高い木の枝にスカートがひっかかって
ぶら下がった状態だった。

足も下着も丸見えだ。その上落ちたところ
を抱きとめていただいたのだ。
  
いえ、命の恩人ではあるのですが。
それを差し引いてもあの方、何か変な人
なんです。
  
しかも、嫌な圧力みたいなものを感じる。
魔力の相性が悪いんだろうか。
大体、初対面の女性の顔を舐めるかな?

思い出しただけで憤死する。
ホント最低!!

顔を赤くしたり青くしたりと忙しい私に
アルフォンス様は困り顔だ。

「何、また思い出してるの?もう忘れなよ」

「無理です。永遠に忘れられません」

「あれは事故、俺達は君の足をうっかり
見ちゃったけど。
あの状況じゃ仕方ないさ。
でも、アニエス。俺やア―サ―様は平気なの
にグレンにだけ態度違うよ?
おや、おや~。ひょっとして。
甘酸っぱい気持ちなの?そうなの?」

アルフォンス様、何を言っているんですか。
ちよっと殴りたくなってきた。

「ち・が・い・ま・す!!」

「ははは!力の限り否定したね。それはそれ
で面白いね。おや、怒った?ごめん。ごめん」

「……そう。足丸出しの件もありましたね。
それも恥ずかしいですけどあの時にグレン
様は私の顔を舐めたんですよ。
普通は初対面の女性の顔は舐めませんよ。
気にするに決まってます」

「ああ、あれね。まあ、確かにあれはないと
思うけど。変わってるからねえ、あいつ。
ところであの時舐められたのは顔というより
唇じゃなかった?それってキスだよね」

「はあ?何言っているんですか!あれは
ただ、怪我して血がでてたから口の端を
舐められただけですぅぅ!!」

「はい、はい。わかった。わかった。乙女
心は複雑だねぇ」

「もう、からかうのはやめてください」

「ふふふ。はい、はい。明日は俺も第一に
顔を出すかから。じゃあまた明日ね」

手をふりふり振りながらアルフォンス様
は去っていく。後姿を見送りながら私は
ため息をつく。

何だか疲れた。何となく目の前の木を見る。
あの木はもっと、もっと高かったな。
私は『ぶら下がり事件』の事を思い出し
ていた。









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