王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

文字の大きさ
33 / 135

アニエス、グレンとデートする 3

しおりを挟む
目の前には美味しそうなシフォンケーキ、
生クリームとフルーツがトッピングされ
小さな陶器に入った熱々のチョコレート
ソースが添えられている。
ソースをつけていただく。
美味しい~仄かにオレンジの風味がする。
うん。このチョコレートソース美味しい!

「しかし、旨そうに食うなぁ。アニエス」

目の前には優雅にコーヒーを飲むグレン様。
さすが王族、所作が美しい。

やっぱり、グレン様はシフォンケーキを
注文しなかった。甘い物は嫌いではない
けれど、好きでもないとのこと。
トマトとレタスとベーコンを挟んだ
サンドイッチを食べている。

それも美味しそうだな。
さて、モールさんの魔道具店ですが私達の
あまりの馬鹿っぷりにモールさんに店を
追い出されました。ははは……。

あの白いブーツは試作品だと言っていま
したが、普通の靴より断然素晴らしいので
グレン様が買って下さいました。
完成品も出来次第、届きます。
わーい。楽しみ!

そして念願のシフォンケーキです!
マクドネル卿、本当に美味しいです。
教えてくれてありがとう!

「しかし、そんなに旨そうに食べているの
を見ると少し味が気になるな」

おや、グレン様がケーキに興味を示したぞ。
うん。この美味しさをシェアしたい。

「少し味見します?」

「いいのか、なら少しもらおう。
じゃあ、アニエスが食べさせてくれ」

え?私が食べさせる?これは、いわゆる
『あーん』というやつか?
うわ、恥ずかしい。私は周りを見る。

店内は、ワイバーンの件が尾を引いている
のかお客さんはやや少なめ。
でも、そのお客さんの視線がこちらに集中
している。

そりゃこんな可愛い喫茶店にグレン様の
ような人が優雅にコーヒー飲んでいたら
目立つよね。

王族特有の黒髪に切れ長な金の瞳。
整った顔立ち。第一騎士団の黒地に金の
飾りの制服。黒騎士様だ。
何よりも纏う空気が特別だ。
げっ歯類の群れの中に間違えて黒豹が
入り込んだみたい。

うっ、黒豹が口を開けて待っている。
私は覚悟を決めてケーキを一片フォークに
さして、あーんする。

「うん旨い。アニエスもサンドイッチを
味見してみろ」

破顔したグレン様が私の口許に
サンドイッチを差し出す。
礼を言って手で受け取ろうとしたら
ひょいと避けてまた口許に持って来る。
それを二、三回繰り返すと、いやでも分かる。
これはあれか私も『あーん』しろという
事なのか?恥ずかしい。

グレン様を見るとにっこり笑った魔王顔だ。
無言で早く食べろと圧をかけている。
仕方なくぱくりと一口食べる。
うん。美味しい。

グレン様を見ると全部食えと圧を感じる。
仕方なくぱくぱくと最後の
一欠片まで食べる。

最後の一口はグレン様が私の口に指で軽く
押し込む。私の舌がグレン様の指に触れた。
うわーん。ドキドキする。
グレン様はすっと私の唇をなぞると、
そのまま自分の指をペロリと舐めた。
ヒィィィ。私の口に入った指を舐めた!
なんかエロいよ。恥ずかしい!

真っ赤になりながらサンドイッチを必死で
咀嚼する私を満足そうに見るグレン様。
魔道具店に引き続き喫茶店でも
私達、馬鹿っプルになっている気がする。

「グレン様、恥ずかしいです」

「何が?」

「みんな見てます」

私の言葉に店内を見回すグレン様。
首をコテンと傾けると不思議そうな顔
になる。

「何でよく知りもしない奴等の視線を気に
しなきゃならないんだ?」

そうだよね。グレン様が周りを気にするよ
うな人な訳ないわ。でも、私は恥ずかしい
んです。
一人赤くなる私。


ああ、店を出てもまだ顔が熱い。

「さて、馬車を待たせて腹ごなしに街を
歩くか。どこか行きたい所はあるか?」

「中央公園の薔薇が見頃だそうですよ。
あと、温室になんか珍しい植物があるって
聞いたので行ってみたいです」

「なら、ぶらぶら行ってみるか」

ふふふ、グレン様とお散歩だ。
エスコートされて街を歩く。

「そういえば、モールさんのお話しに出て
きたロイシュタール様というのは……」

歩きながら気になっていた事を聞く。
グレン様が防音結界を張る。
ああ、聞かれちゃマズイか。

「ああ、エリザべート の婚約者だ。
オーウェン地獄のキャンプのメンバーで
一番年上だったから、俺もよく面倒をみて
もらった。兄のような人かな。
優しくて面倒見のいい人だった。今では
南の隣国、キルバンの国王だ」

グレン様が懐かしそうに目を細める。
ああ、やっぱりロイシュタール様が姫様の
『ロイ』なんだなぁ。
いつも元気な姫様だけれど、毎年結婚式を
挙げるはずだった日だけは元気がない。
アイリスさんからそう聞いている。

去年は食事を一切受け付けなくて心配した。
一人で泣いて部屋で過ごす姫様。
その日一日だけはアイリスさんも遠避ける。

「まだ、結婚されず姫様を待たれていると
聞きましたが、国王が三十路を過ぎて独身
というのは、隣国では問題になっていない
のでしょうか?」

姫様が『私を待たないで結婚して』と
手紙に書いているのを私達は知っている。
いつかロイ様が姫様以外の人と結婚する日
が来るかも知れない。

姫様がいつもロイ様からの手紙を受け取る
時、緊張するのは、手紙に結婚すると書いて
いないか心配しているからだ。
読み進めるうちにホッとしたような顔を
しているのも私達は知っている。

「問題にならない訳がない。臣下から
嫁を貰えと大変な事になっているさ。
ただあの人はなぁ。物腰が柔らかいから
皆、騙されるが強かで必要ならどんな残忍
な事も出来るから。色々手を尽くして
見事に押さえ込んでいるな」

「意外ですね。姫様からは私の優しい
『ロイ兄様』としか聞いていないですけど」

「アルトリアには人質として成人するまで
囚われていた第二王子。兄である王太子が
亡くなり、王太子へ、その後あの人が国王
になった途端、国力がすぐに逆転した。
今では、キルバンの方が国力がある。
こちらが人質を出さねばならない立場だ。
そんな国王がただの優しい人の訳がない。
ただ、あの人はエリザベートを溺愛して
いるからな。
彼女にとっては優しい恋人なんだろうよ」

グレン様はため息をつく。
何とかならないのかな王女宮の結界。

「ところで、オーウェン地獄のキャンプと
いうのは何なのでしょう?」

ずっと気になっていたんだよね。
何?グレン様が地獄と評するキャンプ
というのは一体……。

「ああ、王家の影や暗殺者を育てるための
養成課程だな。どういうつもりか、それに
王族の子供やオーウェンが連れてくる子供
……人材候補が強制参加させられた。
子供だけで北や南の辺境の森に放置された
り、魔物の群れと戦わされたし、冗談の
ようなきつい武術訓練を課されたな。
お陰で卒業メンバーの結束が強い。

俺達のグループはオーウェンの子供達、
ロイシュタール、アルバート、俺、
アイリス、マクドネル、カーマイン。
後にアイリスが怪我が元で抜けて、代わり
にアルフォンスとアルマが加入した」

「マクドネル卿にカーマイン卿もですか」

「そうカーマインのあの女嫌いはアイリス
の負傷に関係があるんだ。あの時、
アイリスとペアを組んでいたのがカーマイン
でな。アイリスを見失って負傷させたと
責任を感じていたところに、何も知らない
カルヴァンと、全てを知っている
オーウェンに締め上げられて……
拗れたんだ。
女は弱くて面倒臭い。
寄るな、触るな、近寄るなと暴言を吐く
ようになった。ジジイども、一体どんな
締め上げをしたらああなるんだ……。
すまない。そういう事情だからあいつの事
は大目に見てくれないか?」

なんと、ムフフオレンジにはそんな過去が。
いや、私は何とも思っていませんとも。

「因みにオーウェン様は……」

「王家の影を支配する悪魔だな」

魔王に悪魔呼ばわりされるお義父様。
しかし、これ?私が聞いてもいい内容?

王家の秘密を、アッサリばらすグレン様に
びっくり。


──後で口を塞がれたりしないよね?
ちょっとびくびくする私でした。








しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

カナリアというよりは鶸(ひわ)ですが? 蛇令息とカナリア(仮)令嬢

しろねこ。
恋愛
キャネリエ家にはカナリアと呼ばれる令嬢がいる。 その歌声は癒しと繁栄をもたらすと言われ、貴族だけではなく、王族や他国からの貴賓にも重宝されていた。 そんなカナリア令嬢と間違えられて(?)求婚されたフィリオーネは、全力で自分はカナリア令嬢ではないと否定する。 「カナリア令嬢は従妹のククルの事です。私は只の居候です」 両親を亡くし、キャネリエ家の離れに住んでいたフィリオーネは突然のプロポーズに戸惑った。 自分はカナリアのようにきれいに歌えないし、体も弱い引きこもり。どちらかというと鶸のような存在だ。 「間違えてなどいない。あなたこそカナリアだ」 フィリオーネに求婚しに来たのは王子の側近として名高い男性で、通称蛇令息。 蛇のようにしつこく、そして心が冷たいと噂されている彼は、フィリオーネをカナリア令嬢と呼び、執拗に口説きに来る。 自分はそんな器ではないし、見知らぬ男性の求婚に困惑するばかり。 (そもそも初めて会ったのに何故?) けれど蛇令息はフィリオーネの事を知っているようで……? ハピエン・ご都合主義・両片思いが大好きです。 お読みいただけると嬉しいです(/ω\)! カクヨムさん、小説家になろうさんでも投稿しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...