王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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慶事と凶事

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結局、ザルツコードのお屋敷に帰ってきた。
お医者様に診てもらい、顔と頭の怪我を
綺麗に治していただいた。
ちょっとふっくら体型の女医様。
以前、青竜に襲われた時にも診てもらった。

「若い娘さんがまた、こんな怪我をして!
もう、まわりの男達は一体何をしているの!
きちんと守ってあげなきゃ駄目じゃないの」

女医様がプリプリとお怒りだ。
とても豊かなお胸。
思わず自分の胸と見比べる。う~ん。
私も、もう少し胸にお肉が欲しいかな?

ところで、実は守るどころか……
以前私の胸をざっくりと切り裂いた奴が
扉一枚隔てた場所にいますけれど。
それってどうなの。

複雑な思いで隣の部屋に続く扉を眺めた。
王都で再会したグレン様は、
一人じゃなかった。

驚いた事に黒竜ともう一人。青竜と一緒だ。
青竜、私を襲った奴だ。

何で、何でこんな奴と一緒にいるの!
グレン様に怒る私。
でも、グレン様はとてもいい笑顔。なぜ?

「そうか。アニエスはあいつが許せないか。
まあ、当然だ。よし。これをやろう」

あれ?グレン様、空間収納使えたの?
空間収納から剣を二本取り出し、
私に渡してくる。

「竜殺しの剣だ。すでに俺が二本刺した。
青竜は今は俺に逆らえない。それに、
あと二本刺したら、こいつは消滅する。
殺すのが嫌なら、あと一本でも完全に意思
のない奴隷にできる。好きにしていいぞ?」

え?何それ。
思わず青竜を見る。
真っ青な顔でプルプル震えている。
あ、首に赤竜と同じ黒い刺青がある。
本当にこれ、竜殺しの剣なんだ。

グレン様、本当に刺したんだ。
何でこんな物を持っているの魔王様。
グレン様を見ると、とても爽やかな笑顔。
逆に怖い。

黒竜を見ると物凄く訴えかける目で私を
見つめている。
同じ竜仲間。黒竜は
青竜を助けたいらしい。
う~ん。

もう一度、青竜を見る。

「襲ってごめんなさい。死にかけたり、
犯られかけたりの極限状態なら覚醒するかも
しれないと思ったんだ。本気じゃなかった。
怖がらせてごめんなさい。二度としません。
許して下さい!」

必死に謝る青竜。
覚醒って何?

「お前に金竜になってもらって、赤竜に
刺さった剣を消して欲しかったらしいぞ」

グレン様が代わりに説明してくれる。
私が金竜になる?
はい?

「赤竜、青竜の婚姻鱗を食ったお前は
短い間だが、金竜になって黒竜に刺さった
竜殺しの剣を消したらしい」

金竜。私が金竜になった?
また覚えていない。
記憶のない事を告げられるのは気持ち悪い。

帝国を脱出する時に出会った金竜の幽霊。
それにあの氷漬けの半分白骨化した金竜の
姿を思い出す。
何で私が金竜になるんだろう。
ただ、ご先祖様が金竜だと言うだけで。

「さあ、どうする?殺るか?それとも
俺が殺ってやろうか?」

……う~ん。
グレン様、その二択はちょっと……。

確かに怖かったし。
触られて死ぬほど嫌だったけれど。
この青竜の怯えようと襲った動機を考えると
殺すのはちょっと罪が重いかな?

──とういう事で青竜の処分は保留。
だだし、オーウェン義父様に笑いながら
殴られるオマケ付きだけれど。

『よくも義娘に悪さを!!』

そう、叫びながら笑いながら殴る
オーウェン義父様……怖いよ。
殺しかねない勢いで殴り続けるので、
グレン様が止めていた。
もう、罰はこれだけでいいのでは。
生きてて良かったね。青竜。

今、青竜はグレン様所有の竜殺しの剣を二本
刺されていて、意思はあるが
グレン様の命令には逆らえない状態。
グレン様がご主人様の首輪付きの竜だ。

グレン様がこんなに早く王都に来られたの
は、黒竜、青竜の『穴』を使ったから。
拉致された私を追いかけて、帝国まで
行ったのに私とすれ違い。
結局、王都まで来てくれたそう。

成る程、『穴』って竜を味方にすると
便利な物なのね。
そういえば元々竜の生活道路なんだっけ。

「アニエス、俺は辺境へ戻るがお前は
どうする?このまま王都に残るか?」

治療が終わり、グレン様に尋ねられる。
あ、そうだよね。
グレン様は国軍の総大将だ。
本来なら持ち場を離れたらいけないのに。
『穴』という反則技で
追いかけて来てくれた。
私の無事を確認した今は、すぐに戻るのが
当たり前だった。

私は……。

グレン様の側にいたい気持ちもある。
でも、私は姫様の侍女だ。

オズワルドみたいな頭のおかしなクズに
狙われている姫様。
側にいてお守りしなければ。

「グレン様。私、王都に残ります。
姫様のお側にいます。
父様やマックス義兄様、
アルフォンス様、砦の皆様に私の無事と
心配をかけて申し訳なかったと
伝えてくれますか」

グレン様は分かっていたみたい。
静かに頷いた。

「全く。アニエスの怪我にも驚かされ
ましたが、グレン様。あなたの訃報が
届いた時は生きた心地がしませんでしたよ。
無事に砦に帰還したと、伝え聞いては
いましたが、まさかこんな形で顔を見る事
が出来るとは。
今度こそ、こちらに心配をかけずに
さっさと帝国を片付けて下さい。
特にアニエスにあんな怪我をさせた
オズワルドは確実に始末して下さい。
楽に殺すなよ。……小僧」

オーウェン義父様がグレン様に笑って言う。

「悪かったな。心配をかけた」

「こんな事は二度とごめんです。
ああ、陛下に顔ぐらいは見せてから戻って
下さいよ。あの方も心配していましたから」

「分かった。どのみち帰るには王宮に
行かなくては帰れないからな。ついでに、
アルバートの顔でも見て帰るか。
そういえば、マチルダは元気か?
そろそろ産み月だろう」

そうか。王妃様はもうすぐ出産予定日を
迎える。男の子かな、女の子かな?
男女どちらでも、美男美女である国王陛下、
王妃様のどちらに似てもきっと可愛い
お子様に違いない。ふふ、楽しみ。

「王妃様は、はち切れそうな腹で元気に
動き回って陛下を心配させてますよ。
どこに行くにも陛下が付いて行きたがるので
落ち着かなくて臣下が困ってますな」

「はは!アルバートの過保護ぶりが、
目に浮かぶな。マチルダの奴、悪阻で随分
苦しんだからな。元気そうでなによりだ」

和やかに話すグレン様とオーウェン義父様。
そうこうしているうちに、私が怪我をして
戻った事を聞いたうちの熊兄達が会いに
来てくれた。

怪我が治った私を見たセドリック兄さんが
嬉しそうに私を抱き上げる。

「良かった!綺麗に治してもらったなぁ。
腕のいい医者だ!礼を言わないと」

セドリック兄さんは怪我をした状態を見て
知っているので、ことさら喜んでくれる。
心配させてごめんね。

エリック兄さん、マリック兄さんにも抱き
上げられて、ぶんぶん振り回された。
二人はアシェンティの家が燃えてしまった
事をすでにセドリック兄さんから聞いて
知っていた。
やっぱり人さえ無事ならそれでいいと
私の頭を撫でてくれた。
オーウェン義父様にも頭を撫でられ、
マリーナ義母様にも、わしわしと頭を
撫でられた。うん。幸せ。

グレン様と私。黒竜、青竜の四人は、王宮に
向かうため、ザルツコードのお屋敷から馬車
で移動する。

「へえ~この馬車。乗り心地悪くないな」

ちょっと、うきうき黒竜が言う。

「キルバンの王の馬車はもっと乗り心地が
いいぞ。中も外ももっとド派手だしな」

青竜が不機嫌そうに言う。オーウェン様に
殴られて死にそうだった青竜。
やはり人外。もう治っている。

それにしてもキルバンか。
青竜はロイシュタール様と二人、王都郊外
の森にいた。怪しい青い魔法陣に魔力を
流していたのは何故なのだろう。
青竜に問いかけようとした瞬間、
バン!バーン!バーン!!
乾いた破裂音。
午前中のよく晴れた青い空に数発の
風魔法による祝砲があがる。
同時に白い小さな花が降ってくる。
ふわふわと舞い降りる花。
祝い花。綺麗。

「世継ぎの誕生だ。男の子だったな」

グレン様が嬉しそうに笑う。
白い祝い花は王子誕生の知らせ。
お世継ぎ!王子様の誕生!!

市中はすでにお祭りムードだ。
大勢の人が祝砲と祝い花に浮かれている。
お陰で馬車の進みが悪くなった。
予定していたより大分遅れて王宮に到着。

マクドネル卿がこちらに走ってくる。

「グレン様!ご無事で……。無事の一報は
受けとりましたがお顔を見て安心しました」

「マクドネルか。心配かけたな。
アルバートは忙しいだろう?
俺はすぐに辺境へ戻らなければならない。
このまま帰る。よろしく伝えてくれ」

「はあ?何をまた、あなたは……。
会わずに帰ったら陛下は確実にスネますよ。
面倒だから会っていって下さい」

先触れがあったからだろうか、グレン様と
マクドネル卿がそんなやりとりをしていると
国王陛下が走ってやって来る。

「グレン!このやろう!顔を見せずに帰ろう
としてないだろうな!」

グレン様の胸ぐらを掴み引き寄せる。
いい勘してますね陛下。
そのまま帰る気満々でした。

「いや、お前はマチルダの側を離れられ
ないだろう?無理しなくてもいいぞ?」

「心配しなくても俺がうろうろすると
気が休まらないとマチルダと侍女達に
追い出された。……お前、無事だな?
訃報が届いた時は、信じられなくて知らせを
持って来た文官を締め上げてしまったぞ。
まったく!この馬鹿野郎。無事で良かった」

陛下はグレン様を抱きしめる。
よく似た容姿の二人。
本当に兄弟みたい。
黒豹が二匹じゃれあっている。

「悪かった。もう、ヘマはしない」

「そうしてくれ。俺の寿命が縮まる」


微笑ましく陛下とグレン様を見ていた私。
陛下と目があった。
慌てて頭を下げる。

「やぁ、子リスちゃん。そんなに畏まる
必要はないよ。君はグレンの婚約者だ。
ところで君は帝国に拉致されて自力で脱出
して来たらしいね。ひどい怪我をしたと
聞いていたが、怪我はもう大丈夫かい?」

「はい。お医者様のお陰で綺麗に治して
いただきました。お騒がせしてしまい
申し訳ありません」

「いや、君が無事で良かった。ところで、
君にお願いがある。怪我が治ったばかりの
ところを申し訳ないが、
子供が無事に産まれた事をエリザべートに
知らせて欲しい。
あいつ、甥か姪ができるのを楽しみにして
いたからな。
君は王女宮に転移出来ると聞いている。
頼めるだろうか」


そう。姫様は楽しみにされていた。
ふふ、甥っ子でしたね。
きっと大喜びされる。

「はい。どのみち王女宮に戻るつもりで
した。姫様はきっとお喜びになられるで
しょう。さっそく王女宮に戻り、姫様に
お伝えします」

「……王女宮に戻る。侍女としてか?
グレン、いいのか?」

戸惑い顔の国王陛下。
グレン様と私の視線が合う。
うん。お互いの仕事を優先する。
やるべき事をする。
それでいいよね?グレン様。
私はグレン様にそんな気持ちを込めて
笑いかけた。

するとグレン様から極上の微笑みが
返ってきた。
うわっ笑顔が眩しい。
思わずわず照れてしまうわ。

女神像の庭まで皆で歩いて移動してきた。

「ああ、紹介しておく。黒竜に青竜だ」

グレン様は、その道すがら、ごく普通に
黒竜と青竜を国王陛下とマクドネル卿に
紹介した。
その紹介の仕方に私が地面にめり込みそう。
そんな、さらっと紹介しないで下さい。
竜は辺境では大変な存在なのに。

「そうか。よろしく」

国王陛下から手を差し出し二人と握手を
交わす。国王陛下もさらっと受け流した。
でも、陛下から握手を求めるなんて……。
ほら、黒竜も青竜も複雑そうな顔だ。

「うわ。『穴』?いや、溝の幅がこんなに
大きくなっているなんて……」

女神像の庭と王女宮の庭を分断する『穴』
私が辺境に行く前より倍は大きくなっている。思わず驚いてしまった。
ここの『穴』は王都郊外の森のあの木に
繋がっていたはず。
あそこで青竜とロイシュタール様は
何をしていたの?

「青竜、この『穴』は何のために作ったの?
これを作ったのあなただよね」

青竜は、静かに微笑む。

「そうだな。何のためにかは行ってみれば
分かると思うぞ。ただし『穴』には今は
近づくな。一度必ず戻って来いよ」

何?その既に事が終わったみたいな言い方。
急に不安になる。
皮膚がチリチリする。
私は焦り、すぐさま王女宮へと転移魔法を
使った。


──何もない。
ただ、抉りとられた大地だけが見える。
王女宮はどこ?
王女宮へと転移したはずなのに。
王女宮のあった場所に巨大な赤い魔法陣が
見える。その中心には大きな『穴』がある。

それらを囲み、青く光る溝のような『穴』が
存在する。

──何?これは、一体どうなっているの。
王女宮はどこへ行ったの。
姫様は……アイリスさん、アルマさんは
どこに行ったの。


膝から崩れ落ちる私。
呆然とその異様な景色をただ見ていた。



















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