王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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竜の里

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「アニエス、おい。起きろ」

「また気絶かぁ?しょうがない奴だな」

グレン様と黒竜の声がする。
頬を引っ張られる痛みで意識が浮上する。
目が覚めるとグレン様に抱えられたまま
黒竜に頬をつねられていた。

「痛いな黒竜!」

「おっ、目が覚めたか。チビすけ」

「……竜の里?」

目覚めてすぐに目の前に広がる景色に呆然と
する。何?この景色。
荒涼とした草原が広がっている。
その広大な草原にボコボコと無数に
『穴』が。

『穴』だらけの草原には誰もいない。
里と言うから何か村とか町とかひょっとして
宮殿とか神殿みたいな建物があるのかと
思っていたらまさかの『穴』だらけの大地。

「『穴』だらけ……竜ってモグラみたい」

「止せよチビちゃん。モグラ……は嫌だ」

青竜が何とも言えない顔をする。

「俺達は基本、地下の巣穴にいるのが一番
落ち着くんだ」

「それやっぱりモグラ……」

「「違う!」」

黒竜と青竜の声が重なる。
モグラ扱いを異様に嫌がる二人。変なの。

でも巣穴から誰も出てこないのはどうなの?
まあ、『穴』は通行権があるものしか通れ
ないから巣穴にいる方が安全なのかもしれ
ないけれど。


「里に俺達が入り込んだのはもうバレて
いるはず。そろそろ誰か出て来るだろ」

黒竜がそう言うのと目の前に数十人の竜が
現れるのはほぼ同時だった。
ざっと四、五十人といったところか。
先頭に白いローブの男が七人。
後は黒いローブを纏った男達。

しかし、竜ってみんな美形揃いだよね。
黒竜も青竜も物凄い美男だし。
赤竜やアルトリアに来て竜殺しの剣に支配
された竜達も美男だ。
金竜なんてニコニコと愛想のよい超美形
だったし。カナイロは金竜に似た容姿。
今、目の前にいる男達も皆整った顔立ちを
していた。

皆、人の姿をしている。
しかしいくら美形でも竜。
竜体はアレだ。大きな蜥蜴さん。

私やグレン様もそうだけれど。
まあ私は竜にはなれないけどね。
でも竜になれないのなら竜じゃないのでは?
黒竜は心因性だと言っていたけれど。

覚えていないけれど一度は金竜へと竜化した
のだからやはり私は竜なのだろうな。
やだな。

「クロにアオ。ご苦労だった。金竜様を里に
お連れしてくれたのだな」

白いローブの男の一人が黒竜と青竜に
声をかける。
うわ黒竜。何、その嫌そうな顔。
今にも唾を吐きそう。コラコラ少しは青竜を
見習いなさいよ黒竜!
青竜はしれっとポーカーフェイス。

「リョク……まだ生きていたのか」

「長老である私にそのような口をきくなど
いくら元金竜様の側近とはいえ無礼だぞ」

「お前らは長く生き過ぎてもはや老害だ。
キハダ様はどうした?」

「あの方は滅多な事ではお出まし下さらない」

「相変わらずの引きこもりか」

「ところでこっちの男は……まさか金竜様の
番か?殺せと言ったはずだぞ!」

はあ?こいつ、グレン様に向かって
何を言っているの。
思わず眉間にシワがよる。
リョクって言ったわね。
人物評価最低ランクな奴!長老という割に
見た目は若く無駄に美形。
緑色の真っ直ぐな髪がローブのフードから
のぞいている。
髪の色を考えると緑竜なのかな?

「真の番を殺したら金竜であるアニエスも
長くは生きられないぞ。それでも殺せと
言うのか?」

黒竜が淡々とした口調で言う。
口調は静かだけれど顔はとても怒っている。

は竜化できないと聞いている。
残念な事だ。仕方がない。
次代に期待しよう。
竜石に魔力を込めさせたら繁殖させる。
短い命でも子を作る事はできる。
むしろ命が尽きかけている方が子を
孕みやすいからな。
竜化できないとはいえ、やっと生まれた
金竜だ。カナイロかコガネに番わせて
種付けさせよう。きっと次こそは完璧な
金竜が生まれるはずだ」

「コガネには番のコハクがいるだろう」

あ~黒竜がキレそう。
無茶苦茶勝手な事を言っているものね。

「コハクを殺せば済む事だ」

「は?」

「とはいえコハクを殺すのはもったいない。
コガネも長く生きられなくなる。
金色に近い二匹を一度に失うのは避けたい。
だからカナイロに種付けさせたい。
あれの番は人の娘だ。しかも仮の番。
殺せばすぐに婚姻鱗が生えてくる。
今は逃げているが居場所は分かっている。
カナイロが番にならなければコハクを殺し
コガネを使う。
両親の命がかかっているのだ。
人の娘の命など捨てるに決まっている。
後は金竜様の番であるその男を殺すだけだ。
さあ、クロ。その金竜の人の番を殺せ!」

なんだこのクズ発言。
なんなのこいつ。
しかも後ろにいる奴らも何も言わない。
同じ意見と見なしていい訳ね。
駄目だ。我慢の限界だわ。
グレン様を殺せですって?
これ以上聞きたくない。

「断る。グレンはアニエスの大事な番だ。
俺は金竜に従う者。アニエスの望みに従う。
それにコハクもコガネもカナイロにも
手出しはさせない」

「俺もアニエスに従う。お前達の勝手な
言い分はもう聞きたくない」

黒竜と青竜がハッキリと決別を告げる。
何で同じ竜なのにこんなに考え方が違うの?

「我らを敵に回す気か。ふん。長い間竜石
に触れず弱体化したお前達に何ができる」

弱体化?竜石って何?
黒竜や青竜は弱っているの?
黒竜はアルトリアで竜達に襲われた時は
確かに苦戦していた。
この人数相手に大丈夫なのだろうか。
それに『穴』には千匹の竜が隠れている。

成り行きをみて黙っているグレン様を見る。
うわ……キラキラしい笑顔。
あ、駄目だ。怖い。
グレン様……怒ってますね?
そりゃ怒るか。

「言いたい事はそれだけか」

顔は笑顔なのに地を這うような低い声。
グレン様が問いかける。

「人の分際で我らに気安く話しかけるな!」

リョクが激昂する。
あれ?グレン様が金竜なのはともかく
竜化するのも知らない?

私が金竜なのは知っているのに。
なんか情報が片寄っている気がする。
ぼんやり考えていると地面から蔦蔓が
にょきにょき何本も生えてきて竜達に
絡みつく。

逆さ吊りにされる竜達。
わーわー喚いている。
蔦蔓……いつもは緑なのに今日のは金色だ。

黄金色の蔦蔓……レア!
グレン様からも金色の魔力が流れ出て
体の周りが輝いている。

「どうした?竜化しないのか?」

絶対零度のグレン様の声に誰も反応できない。

「ま、まさかその魔力は……金竜!?」

リョクが驚きの声をあげる。

グレン様が左手を掲げる。
掌の金竜の刻印が光り輝く。眩しい。
竜化だ。

あ、なんか私の魔力を持っていかれる
感覚がする。


金色に光り輝く竜が出現する。
グレン様……きれい。

逆さ吊りにされた竜達は呆然と金色に輝く
美しい竜を見上げた。












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