王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

文字の大きさ
120 / 135

北大陸

しおりを挟む
「見えた。北大陸だ」

黒竜の言葉に目を凝らす。
うっすらと見える島とは比べものになら
ない大きな大地の陰影。
やっと着いた。遠かった。
竜が空を飛んで十日の旅程。
普通に船で旅をしたらどのくらい
かかるのだろう。

竜化したグレン様の背に乗り、空から見る
北大陸はとても大きい。
実際アルトリアのある南大陸よりも
北大陸の方が大きいらしい。

船や航海術の進歩で北大陸との交流は
ここ数十年で大分進んだとはいえ
やはりまだまだ遠い異国の地だ。
アルトリアと交流があるのは北大陸に数多く
ある部族の数家のみ。

北大陸には大きな国がない。
小さな部族が沢山ありそれぞれ異なる言葉に
神を持つ。

部族間の争いも多いと聞く。
言葉と信仰が違えば争いもそれは多い
だろうな。
でも別々の神を祀る部族にも共通して
崇めているのが竜神。
竜を神として敬っている。

南大陸から数百年前に追われてこの地に
逃れた竜達。
その土地の人々から畏怖されつつも信仰の
対象として受け入れられた。

神として崇められる竜。
北大陸では私の故郷の北辺境と同じく
竜には不可侵の掟があるそうだ。

竜の棲む大陸。

途中の無人島で駆け落ちカップルである
カナイロとカリナさんと出合った。
カナイロから色々な事を聞いた。

カリナさんは数ある部族の中でもとりわけ
小さく弱い部族の出身。
他の部族との戦の最中、敵兵に追われて
川に落ちて溺れたところをカナイロが偶然
助けた。

衰弱したカリナさんの世話をするうちに
いつの間にか恋に落ちた。
照れながら話すカナイロ。

でも、カリナさんの部族からもカナイロの
仲間の竜達からも二人は祝福されなかった。
ただカナイロの御両親は互いに想い合うなら
仕方ないなと笑って許してくれたらしい。

いい御両親だよね。
コハクさんにコガネさん。
黒竜や青竜とも友達みたい。
竜の里の長老達に会いに行ったまま帰って
来ないとカナイロは言っていた。
無事だといいのだけれど。

カナイロとカリナさんはあの無人島に
そのまま置いて来た。
黒竜、青竜、グレン様がそれぞれ防衛結界を
張ってくれたので、もし竜達が来ても手は
出せない。
私は空間収納していた食料を沢山置いて
きたのでしばらくは外にでなくても大丈夫。

海賊も追い払ったし。安全だ。

カリナさんを襲った男達はやはり海賊だった。
私達が到着した浜とは反対側の浜に海賊船が
停留していた。先に捕らえた人相の悪い水夫
共々グレン様と私でボコボコにしてやった
ので海賊船は這々の体で逃げて行った。

南大陸への帰路にもう一度あの無人島へ
立ち寄ろう。
その時にはカナイロの御両親の事が
何か分かっているといいのだけれど。

「アニエス、寒くないか?」

物思いに耽っているとグレン様が声をかけて
くれる。

「大丈夫です。グレン様、私の周りを暖めて
くれていますよね?ありがとうございます。
とても温かいです」

カナイロのいる無人島は暖かったけれど
次の島から先は寒くて驚いた。
こんなに気候が違うとは思わなかった。

「空の上は冷えるからな風邪を引くなよ」

「ふふふ。大丈夫ですよ」

そうこうするうちに目的地に到着。
黒竜、青竜、グレン様の順に着地とともに
人化する。

針葉樹の森に囲まれた大きな湖の畔。

湖には雪を被った大きな山が逆さに映って
いる。きれい。でもあれ?
湖を眺めていて気がついた。
この湖……。

「湖の中に『穴』がある?」

「ああ。竜の里への入り口だ」

黒竜が答えをくれる。
竜の里の入り口。
竜の里。
どんな所だろう?

「あ~すごい久し振りに来たな?」

「だな?もう二度と来ないと思っていた」

青竜と黒竜が言う。
黒竜達は北大陸の竜達とは没交渉だと
言っていたよね。
こんな形で来る事になって複雑だろうな。

「面倒臭そうだな」

黒竜がポリポリと頭を掻く。

「嫌な事はさっさと済まそうぜ。クロ」

青竜が黒竜を宥める。
黒竜はため息をつくと私とグレン様の方を
見て頷く。

「行くぞチビすけ。気絶すんなよ?」

そう言うとひょいと湖に飛び込み姿を消す。
青竜もそれに続く。

グレン様が私に手を差し出す。

「行こうかアニエス」

「はい……グレン様?」

「うん?」

グレン様の左腕に抱きつく。
私も往生際が悪いな。ここまできて
尻込みするなんて。

沢山の竜がいる竜の里。

──怖い。

人から生まれて人として育ったのになんで
私は竜なんだろう。
不安から逃れるようにグレン様の温もりを
求めた。温かく逞しい腕に口付ける。


「さっさと片付けて帰ろう?俺達には帰り
を待っていてくれる人達がいるだろう?」

「……はい」

アシェンティの熊家族に姫様。
アイリスさんにアルマさん。
会いたい人達の顔が浮かぶ。

うん。早く帰りたい。

「ごめんなさいグレン様。怖じ気付いて
すみません。もう大丈夫です」


グレン様はそっと私の頬に口付けると私を
抱き上げる。

「何があっても俺が一緒だ。必ず守る」

「はい」

もう一度口付けられる。今度は口に。
チュッとリップ音。

「行くぞ」

グレン様に抱えられたまま『穴』に落ちる。
暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。










しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

カナリアというよりは鶸(ひわ)ですが? 蛇令息とカナリア(仮)令嬢

しろねこ。
恋愛
キャネリエ家にはカナリアと呼ばれる令嬢がいる。 その歌声は癒しと繁栄をもたらすと言われ、貴族だけではなく、王族や他国からの貴賓にも重宝されていた。 そんなカナリア令嬢と間違えられて(?)求婚されたフィリオーネは、全力で自分はカナリア令嬢ではないと否定する。 「カナリア令嬢は従妹のククルの事です。私は只の居候です」 両親を亡くし、キャネリエ家の離れに住んでいたフィリオーネは突然のプロポーズに戸惑った。 自分はカナリアのようにきれいに歌えないし、体も弱い引きこもり。どちらかというと鶸のような存在だ。 「間違えてなどいない。あなたこそカナリアだ」 フィリオーネに求婚しに来たのは王子の側近として名高い男性で、通称蛇令息。 蛇のようにしつこく、そして心が冷たいと噂されている彼は、フィリオーネをカナリア令嬢と呼び、執拗に口説きに来る。 自分はそんな器ではないし、見知らぬ男性の求婚に困惑するばかり。 (そもそも初めて会ったのに何故?) けれど蛇令息はフィリオーネの事を知っているようで……? ハピエン・ご都合主義・両片思いが大好きです。 お読みいただけると嬉しいです(/ω\)! カクヨムさん、小説家になろうさんでも投稿しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...