王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、嬉しいけれど困る

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う……ん?……ぬくい。
いい匂い……グレン様の匂いだ。幸せ~。

あれ?昨日は一人寂しく寝たはずなのに?
ぼんやりと目を開ける。

「ぎょっ!ぎゃああん!!」

え?え?ええ~~!!
直ぐ間近に端整なお顔が。グレン様!

上掛けにくるまれてグレン様に抱き込まれて
いる私。何で?え?何で?
それにここ……私の部屋じゃない。
エルドバルドのグレン様の寝室だ。
いつの間に!

私の悲鳴で目を覚ますグレン様。
驚く私と目が合うとニンマリ笑う。
何、そのズルそうなお顔!

「ふっ!朝から期待を裏切らない悲鳴だな。
アニエス、おはよう」

「……おはようございます?グレン様……
何故私はここにいるのでしょう?」

上機嫌なグレン様に尋ねる。
何で?いつの間に?

「うん?昨夜は寂しくて眠れなくてな……。
ザルツコードのアニエスの寝室に『穴』を
繋いでアニエスを誘拐してみた。
うん。お陰でぐっすり眠れたぞ」

「はい?」

何それ。誘拐って……?
私の寝室に『穴』を繋ぐって……。
要するにグレン様、寝ている私を『穴』に
落として呼び寄せた訳ね。反則技だわ。

「何ですかそのズル……」

「『穴』は便利なものだな。ズルでも何でも
アニエスと会いたい時にいつでも会える」

物凄く嬉しそうなグレン様に何も言えない。
何をしているのよ魔王。
本当は色々言いたい事があるけれどそんな
お顔をされたら何も言えないわ。
ズルい。
それにしてもグレン様『穴』を使いこなして
いるわよね。
私はただ落ちるだけなのに……。

グレン様ったら私と離れて寂しくて眠れな
かったんだ。ふふ。
私と一緒だ。私も寂しかった。
ここのところずっと一緒に寝ていたものね。
一緒にいるのが当たり前で、いなければ
寂しくて仕方がない。
グレン様の温もりが恋しかった。

マリーナ義母様に会いたくてザルツコードに
帰ったけれど……。
たった一晩、離れただけでこれだ。
私が帰る場所は実家でも養家でもなく
もうこの人の隣なんだなぁ。
早く結婚したい。

「グレン様、私も寂しかった」

グレン様の胸に顔を埋めささやくと
グレン様は私をギュッと抱きしめる。

気持ちいい。
ずっとこうしていたい。

私達はしばらく抱きしめ合った。

「さて、そろそろ戻さないとな。バレたら
オーウェンやマックスがうるさそうだ。
アニエス、今度は堂々と泊まりに来い。
ヨーゼフや使用人達がお前の世話を
したがっている」

チュッとリップ音をたてて口付けられる。

あっ、送り帰される!

その前にあの事を聞かなきゃ!
どっちにしろ今日の昼にはグレン様に
会いに来るつもりだったけれど
聞くなら早い方がいい。

「あ、待ってグレン様!」

「ん?」

「アーマカイン公爵家令息の結婚式ですが
グレン様は出席されます?」

グレン様が首を傾げながら私を見る。
何でそんな事をお前が聞いてくるんだ?
そんな顔だわ。
グレン様のご実家との関係は知っている。
無闇に触れていい話ではない。

ただ、今回は別問題だ。
ちゃんと許可を取らないと後でお仕置き
されそう。
マックス義兄様……何か今回は割りと強引
だし、急かしてくるし。何かあるのかな?
グレン様、許してくれるかなぁ?
無理だと思うけれど。一応聞かなきゃ。

「マックス義兄様が出席するらしいんです。
お披露目のパーティーがありますよね?
それでパートナーがいないから私に一緒に
出席して欲しいと頼まれまして。
グレン様が出席するなら私は婚約者だし、
グレン様のパートナーだから、無理だって
断ったんです。でもマックス義兄様、
グレン様は絶対に出席しないから大丈夫
だって言うんですけれど……。
やっぱり欠席ですか?そんな話、してません
でしたもんね?
マックス義兄様のパートナーになっても
大丈夫ですか?」

「は?マックスのパートナーだと?」

さっきまでの上機嫌が嘘のように眉間に
シワを寄せて険しい顔になるグレン様。
ほらほら!急転直下でご機嫌が悪くなった。
やっぱり聞いてよかった!
これは出席しないけれどマックス義兄様の
パートナーは駄目だという事かな?

申し訳ないけれどマックス義兄様にはお断り
しよう。

「……出る。出席する。だからアニエスは
俺のパートナーだ!」

あれ?
出席するの?
大丈夫なの?グレン様?
ご実家とはあまり良い関係ではないのに。
なんかヤケクソ感がひしひしするけど。

「マックスの奴……油断も隙もないな。
アニエス、お前のパートナーは俺だけだ!」

「……はい」

思わず笑ってしまう。
なんだかなぁ。何故かグレン様はマックス
義兄様に変な対抗意識を持っている。
マックス義兄様は兄なのに。

グレン様ったらマックス義兄様に焼きもち。
……まあ、嬉しいけれど。嫉妬してくれる
のは愛されている証拠だものね。

「美しく着飾ったアニエスをエスコート
するのは俺だけだ!いや、どんな格好でも
アニエスをエスコートするのは俺だけだ!」

「はいはい。せいぜい美しく着飾らせて
いただきます。……グレン様、無理して
ませんか?」

「無理などしていない。ドレスは式までに
贈らせる。着飾ったアニエスと出かける
チャンスだと思えば楽しい行事だ」

「え?ドレスですか?マックス義兄様が
用意してくれていますけれど?
大体、結婚式は来週ですよね?ドレス、
間に合わないでしょう?」

「問題ない。他の男から贈られたドレスなぞ
絶対に袖を通すなよ?」

「いや、だからマックス義兄様はです」

「義兄だろうが駄目なものは駄目だ」


う~ん。嬉しいけど困った。
ドレス、間に合うのかしら……。

マックス義兄様にも悪いなぁ。
せっかく用意してくれたのに。

「パートナーはグレン様。ドレスはマックス
義兄様の物では駄目ですか?」

「却下だ」

やれやれ。
心の狭い婚約者様だ。

こうして私達はアーマカイン公爵家令息の
結婚式に出席する事になった。









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