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王宮侍女は穴に落ちる
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結婚式が終わって三日後。
ヨバルの国王夫妻は竜のパル君に騎乗し
帰国の途についた。
ヨバルの国内は安定しておらず長く国を
離れる事ができない。
今回ソフィア様の願いを叶えるためジン陛下
はかなりの無茶をやらかして出国してきた
ようで、国王夫妻が揃って不在というのは
異例中の異例らしい。
今度はいつお会いできるか分からない。
皆がソフィア様との別れを惜しんだ。
国王夫妻にアーサー殿下。
アルマさんにマクドネル卿。それになぜか
黒竜、青竜、赤竜が王女宮の跡地から
パル君に騎乗し空へと舞い上がるヨバルの
国王夫妻を見送った。
陛下もアーサー殿下も寂しそうだ。
そんな中、グレン様がなんだかズルそうな
お顔をしている。
ん?これは……。
「グレン様、もしかしてヨバルとアルトリア
の間を『穴』で繋ごうとか考えてます?」
「ヨバルは遠い。行った事もない。だが
ソフィアの魔力をたどり時間をかければ
できそうな気がするな?」
やっぱり……。
そんな事だろうと思った。
キルバンと帝国の次がヨバルか。
グレン様はすでにキルバンと帝国に『穴』を
繋げている。
遠くてもヨバルは陸続き。
『穴』を繋げる事は可能だ。
これがカナンや北大陸になると『穴』は
繋ぐ事ができない。
なぜなら海があるから。
そう。海を挟むと『穴』を繋げられない
らしい。
黒竜曰く海には竜とは違う何か別のモノが
いるのではないかとの事。
それが竜の魔力を弾いていると言っていた。
グレン様も試してみたようだけれど今は
まだ海にいるモノを打ち破る事は無理だと言っていた。
その言い方だとそのうち打ち破れるように
なるのかしら?
うちの魔王はハイスペックだからそのうち
さらっと何とかしていそう。
うん。グレン様だもんね。
──さて、それは置いておいて。
これから蜜月です!
北方砦の物見台でグレン様から結婚したら
三ヶ月間、二人きりで巣籠もりして蜜月を
過ごしたいとお願いされた。
グレン様は二人で巣籠もりする巣穴を
コツコツと準備していてくれた。
……私達の巣穴。どんな所だろう?
黒竜の巣穴やカナイロやキハダの巣穴は
洞窟みたいな所だった。
やっぱり洞窟なのかな。洞窟で三ヶ月も
巣籠もり。楽しみだけれど少しお日様が
恋しくなりそう。
「グレン様。そういえば巣穴ってどこに
作ったんですか?」
「ん?黒い森の瘴気の沼の下だな」
「は?」
「黒竜にどこに作ったらいいか相談したら
呼ばれる場所に作れと言われた。
呼ばれた場所があそこだった」
瘴気の沼の下 で蜜月……。
魔物がわんさか生まれる場所の下。
魔物の氾濫の発生源だ。
ちっともロマンチックじゃない。ううっ!
「心配するな。ちゃんと内装はロマンチック
にしておいたぞ?」
グレン様が首をコテンと傾け私の顔を
覗き込む。それなんか可愛い。ズルい。
「洞窟に内装もなにもないじゃないですか」
「ちゃんと職人を入れていい感じに仕上げ
たぞ?まあ、アルフォンスに後で職人の
記憶をきれいに消してもらったが」
職人の記憶を消した?何を善良な職人さんに
してるんですか。
『穴』を通過しないとたどり着けない洞窟。
瘴気の沼の地下。謎の怪しい工事現場だ。
しかも工期満了に伴い記憶を消される。
どんな職場環境だ。労働環境悪くない?
「おい。その軽蔑の眼差しはやめろ。
ちゃんと対価として給金ははずんだから
かなり喜ばれた。職人達からはまたいい
仕事があったらお願いしますとまで言われ
たぞ?」
「グレン様……その職人さんの手配って……
例の武器商人じゃないでしょうね?」
「うん?よく分かったな。アニエスは賢いな」
いや賢いとかじゃなくてグレン様。黒い
仕事は全部その武器商人を介してません?
魔王の黒い便利屋だ。やれやれ。
まあ、グレン様は逆に利用されたりする
ようなヘマはしないだろうから大丈夫か。
「アニエスぅ~!じゃん!はいこれ」
アルマさんがニマニマ笑いながら大きな
箱を渡してくれる。
きれいにラッピングされた箱。ピンクの
大きなリボンがかけてある。
「何でしょうかこれ?」
「姫様とアイリスさんと私からの結婚記念
プレゼントよ。ふふ!思い出の品も入って
いるから良かったら使ってみて?」
「思い出の品……何でしょう?」
「蜜月の滞在先に着いたら開けてみて?」
「はい。楽しみにしてますね」
私は箱を空間収納にしまった。
姫様……キルバン国王夫妻はすでに帰国され
帝国皇帝夫妻も昨日帰国された。
本当に私達の結婚に無理をして来て下さった
みたい。
何だかしんみりしてしまう。
私達、本当に道が別れてしまったんだな。
ちょっと寂しい。
「こら。新婚さんがそんな顔しないの」
「アルマさん……寂しくないですか?」
「うん。まあ、ほんの少し?でも離れても
私達は繋がっているもの。
例え他国にいても身分が違ってしまっても
死に別れても。王女宮で過ごした思い出は
消えないわ。あなたはいつまでも私達の
可愛い妹分よ。幸せにね。アニエス」
アルマさんに抱きしめられる。
うん。
そうだね。思い出は消えない。
思わずうるっと涙が溢れる。
「何をそんなに悲壮感を漂わせている?
『穴』を使えばいつでも会えるだろ?」
コテンとグレン様が首を傾げる。
……成る程!ズルですか?
「エリザベートにもアイリスにもアルマにも
通行権はすでにつけてある。
今回は妊娠中だから念のために大事を
とって馬車での移動だったが、あいつらが
身軽になったらいつでも会えるぞ?」
「え?!」
いつの間にそんな話になったの?
ええ??アルマさん?
「えへへ!実は来週からアイリスさんの
侍女兼話し相手として帝国に行くの。
『穴』を使ってね。アイリスさんの出産が
終ったら次はキルバンに姫様の話し相手
兼侍女として働く予定なの。
グレン様。ありがとうございます。
お陰でアルトリアにいながらまた姫様に
お仕えできます」
「ええ??」
「えへへ!昼はキルバンで仕事。夜は……
フフッ!マクドネルとアルトリアでラブラブ
新婚生活。いや、『穴』様々です!
マクドネルは本当に王家に忠誠を誓った騎士
だから本当なら私がキルバンに嫁いだ姫様の
侍女を続けるのは当然無理なのに。
竜の反則技のお陰で家庭と仕事の両立が
できたの。究極のズルなんだけれど幸せに
なったもの勝ちだもの。遠慮なく使わせて
もらうわ!」
アルマさん……た、逞しい。
『穴』って便利ねぇ。
あれ?『穴』を使えばひょっとしたら私も
侍女ができるのでは……。
期待を込めてグレン様を見る。
何、その悟ったようなお顔は。
「子供ができるまでなら働いていいぞ?」
「本当ですかグレン様?アルマさん!
また一緒に働けますよ!よろしく
お願いしますね」
やったー!!また姫様にお仕えできる!
「ああ……うん。子供ができるまでね?」
呆れたような顔でポリポリ頬を掻くアルマさん。
あれ?何でそんな顔なのかしらアルマさん。
こんなに簡単に会えるのに道が別れて寂しい
とか泣いてたの馬鹿みたい。笑っちゃうな。
でもアルマさん。
たとえ死に別れてもと言っていた。
あれは……私との寿命差の事かも。
私もグレン様も人ではあり得ないほどの
長命になった。
どうしても親しい人との別れは避けられない。
死に別れ。
避けられない。現実だ。
──思い出。
たとえ別れても。思い出は残る。
そうだね。少し寂しいけれど。
隣のグレン様を見る。
蕩けるように優しい笑みを私に向ける
グレン様。
私にはこの人がいる。
「グレン様。大好きですよ」
「うん。俺も大好きだ。アニエス」
「きゃ~~!!甘い!甘いわ~~!」
アルマさんが身悶える。
大げさだなぁ。もう。
「さて。そろそろ行こうか。アニエス?」
「え?まさかここから?」
あ、あそこに新しい『穴』がある。
あれ。グレン様の『穴』なんだ。
「そのつもりで昨日『穴』を繋げておいた。
ソフィアの見送りついでに俺達も見送って
もらおう」
「蜜月三ヶ月。いいなぁ。マチルダどうだ?
俺達もやらないか?」
陛下が王妃様に提案するが『子供も生まれ
たのに今更何を言っているのかしらねえ?』
とスパコン!といい音をたてて笑顔の王妃
様に後頭部をはたかれる国王陛下……。
う~わ~。
また見てはいけないものを見てしまった……。
うちの王妃様……お強いわ。
そんなお二人をアーサー殿下が微笑ましく
見つめている。
うん。仲がいいですよね?
「いやいや子供が生まれても蜜月三ヶ月。
いいではないですか。実にうらやましい。
陛下私にも三ヶ月休暇を下さいませんか?」
マクドネル卿が参戦してきた。
アルマさんが苦笑する。
「お前が休んだら誰が俺の護衛をするんだ。
馬鹿な事を言っていないで仕事をしろ」
陛下にすげなく却下されましたね。
マクドネル卿。
「まあ、せっかくの蜜月だ。楽しんで来いよ」
黒竜が笑顔で私達に声をかける。
「そうそう。たった一度の蜜月だ」
赤竜も笑顔だ。
「おめでとう。あの小さかったチビちゃん
が蜜月かぁ。感慨深いなクロ?」
青竜の言葉に真顔になる黒竜。
じっと私を見つめるとふんわりと抱きしめ
られた。
「幸せになれよ。アニエス」
耳元でささやく黒竜。
ありがとう。黒竜。
ロベルト様と婚約するまでは毎日ずっと
一緒にいてくれた友達。
竜であるあなたとは長いお付き合いに
なりそう。
これからもよろしくね?
黒竜を抱きしめ返す。
「いつまで抱きついている?」
イラついたグレン様の声で我に返る。
もう、嫉妬?ヤダうれしい。
「そろそろ行くぞ?」
ひょいとグレン様に抱き上げられる。
あ~『穴』を通って巣穴に移動。
また気絶するのかな?
自分達の巣穴に行くのに気絶はないかな?
さすがにそれはないよね?
ちょっとドキドキする。
「しばらく留守にする。じゃあな?」
笑顔の皆様に見送られ『穴』に落ちる。
暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。
ふかふかなお布団の感触。
あれ?
豪奢な天蓋付きのベッド。
シックな落ち着いた室内。
起き上がってキョロキョロ見回す。
置いてある家具はシンプルだけれど
どれも高級品だ。
色とりどりの花がこれでもかと飾られて
いる。ここは?
隣でグレン様が寝転んで本を読んでいる。
「起きたか。まさか自分の巣穴に行くのに
気絶するとはな……」
呆れたように呟くグレン様。
え?あれ?ここひょっとしたら巣穴?
ええ??
黒竜達の巣穴とぜんぜん違う。
いや、どこのお屋敷よここというレベル。
黒い森の瘴気の沼の真下にこんなお部屋。
すごいわ職人さん達!
「どうだ。いい屋敷になったろう?」
ドヤ顔のグレン様。
え?屋敷?
この部屋だけじゃないの?ひょっとして。
「エルドバルドの本邸と規模は変わらんな。
後で案内する」
ええ~~!!
それはすごいわ。
「さて。念願の蜜月だ」
グレン様が顔を寄せてくる。
キス?あ!もう?
いや、ちょっと待って。
両手でグレン様の顔を押さえる。
途端に不機嫌になるグレン様。
「ちょっと待って!アルマさんにもらった
プレゼントが気になるんです。
あれを開けてからにしましょうよ?
それにお風呂に入ってないし……。
そういえばここお風呂ってあります?」
グレン様は浄化魔法を使えるからお風呂が
なくても困らないけれど……。
でも私は風呂好きなんです!
「いや、風呂はあるぞ?しかも温泉で
いつでも入れる。風呂は俺も好きだからな」
やった!温泉?それ最高です。
「じゃあまずプレゼントの箱を開けてから。
その後でお風呂に入って……冷えた白ワイン
を飲んで。うん。そうしましょうよ?」
「そこで白ワインが出てくるあたりが酒好き
のアニエスらしいな。まあ、時間はたっぷり
ある事だし。俺も中身が気になる。
まずは箱を開けてみたらどうだ?」
グレン様が笑う。
良かった。ご機嫌が直って。
さっそく空間収納からアルマさんにもらった
箱を取り出しベッドの上に置く。
「大きさの割りに軽いんですよね。何を
くれたのでしょう?」
「思い出の品も入っていると言っていたな?」
「そうなんです。それで気になって……あ!」
包装紙を丁寧に剥がし箱を開ける。
中身は……。
思い出ってあれね!
ははは……確かに新婚夫婦に送るプレゼント
としてはありかも。
でも……何か体の力が抜けるわ。
グレン様が箱から一着取り出して広げる。
「エロ。エロいな。これなんかアニエスに
似合いそうだぞ?」
若草色のエロエロスケスケな夜着。
誰が一番色っぽいでショーの時に姫様達に
無理矢理着せられたヤツだよ。
エロい夜着が沢山入った箱。
あ~姫様達らしいわ。
もう、私で遊んでいるでしょう?
「よし。良い物をもらったな。風呂に入った
後はそれをさっそく着てみろよ。
うん。楽しみだ。エロい夜着を着たアニエス
と酒盛り。うん。うん」
あ~魔王が大喜びしている。
姫様達のプレゼント。
私じゃなくてグレン様が喜んでます。
この後。
私のエロい夜着姿に大喜びのグレン様に
抱き潰された。
…………蜜月三ヶ月。それはそれはハードな
エロ月となりましたさ。
結婚前はあれでも色々抑えてたんですね。
夜着どころかほぼ裸で過ごしたわ。
いや、決して嫌な訳じゃないけれど。
……もう少し。
ほんの少し手加減して下さい。
──旦那様?
濃密な蜜月を過ごした私達。
すぐに私は妊娠。
結局、しばらく侍女には復帰できなかった。
──三百年後。
アルトリア王宮にて。
「ご先祖様~~!」
キャラメル色のふわふわな髪の侍女が
パタパタと女神像の庭を走ってくる。
「こらこら。王宮でご先祖様呼びはダメで
しょう?マリエル」
「あ、そうでした。アニエス?」
「うん。よろしい。で?どうしたの?」
「晩餐会で姫様が着けるとおっしゃっていた
首飾りが見あたらないんです。
王妃様から譲られた赤い石のついた」
「ああ~あれ?宝飾品庫じゃなくて
魔道具庫にあるわよ。あれ、魔道具だから」
「え?そうなんですか?」
「そう。防御魔法の魔石付き。先々代の陛下
が王妃様に贈ったものだから」
「へぇーさすが長年侍女を勤めているだけは
ありますね!助かりました探してみますね!」
またパタパタと走って行くマリエルを見送る。
マリエルは私とグレン様の間に生まれた子の
子孫だ。
何となく私に似ている。魔力量が多くて
下手をすると竜化するレベル。
先祖返りだ。
王宮に侍女として勤める彼女が
心配なので側にいる。
なんちゃって侍女だ。
アルトリアの王宮に侍女として勤めるのは
三十年ぶりぐらいかな?
実はちょいちょい侍女として勤めているの。
アルトリアだけでなくキルバンや帝国でも。
姫様やアイリスさんの子孫を見守るのが
楽しくて。
もう趣味だわね。
マリエルとアルトリアの国王夫妻。
ザルツコード家。エルドバルド家の当主は
私の正体を知っている。
齢三百年越えの侍女。ホラーだ。
この三百年。ありがたい事に私は一度も
竜になっていない。
そして魔物の氾濫も起きていない。
瘴気の沼の下に私達が住んでいるためだ。
余分な魔素を私達が吸収している。
お陰で氾濫しなくなったし、私達の魔力が
爆上がりした。お陰でさらに寿命が伸びた。
やれやれだ。
呼ばれる場所に巣穴を作るのは自分にあった
大地からのエネルギーを摂取するため。
竜には巣穴が必須なのが良く分かった。
グレン様との間に生まれた子供は今の
ところ六人。四人が人として生きすでに
死別した。
二人は竜として生きる事を選び一人は
カナンに。一人はヨバルにいる。
さわさわと爽やかな風が吹く。
女神像の庭はあの頃と変わらない。
第二王女宮の跡地には離宮がたてられ
今は第四王女様がお住まいだ。
マリエルと私はその第四王女様に仕えている。
ちなみに第四王女様を含め今の王家は皆、
私とグレン様の子孫だ。
アルバート陛下とマチルダ王妃の間に生ま
れた王子様。アリステア様と例のエロ蜜月で
授かった娘マリアベルが婚姻。
なので王家は私達の子孫なの。
まあ、あの時は父親であるグレン様と祖父
であるオーウェン義父様が大変だった。
何せメロメロに溺愛していた娘と孫だ。
それにうちの実家の熊父に熊兄。
ザルツコードの義兄達も可愛い孫娘と姪を
盗られてたまるかと参戦。
婚約に漕ぎ着けるまでほんと~~に大変
だったわ。
思い出して思わず遠い目になる。
でも仲睦まじい夫婦になったから良しと
しよう。
マリアベルもアリステア様ももうこの世には
いないけれど子孫を見守る楽しみを残して
くれた。
青竜がキルバンを。
赤竜が帝国を守護するのは自分の子孫を
見守る気持ちがあるからなんだね。
気持ちが良く分かるわ。
あの当時とは少しデザインの違うお仕着せ
だけれど、侍女の制服を着ると気が引き
締まるわ。
久しぶりの侍女生活。
よし!気合いを入れていこう!
女神像の庭で一人気合いを入れていたら
足元に『穴』が!!
あ~グレン様に呼ばれた~!!
『穴』に落ちる私。
暗転する。
そう。三百年たってもまだ気絶するのよ私!
例によって意識が途絶えた。
………ん?
なんだかスースーする。
「お、目が覚めたか?」
笑顔のグレン様が私を見下ろしている。
目茶苦茶ご機嫌だ。
何か良いことがありました?
意識がはっきりすると自分の格好に驚く。
「きゃあ!」
スカートが捲り上がって足丸出しだ!
「うん。お仕着せのスカートから見える
生足。初めて出会った時を思い出したぞ。
相変わらず美しい足だ。うむ。堪能した」
「このエロ魔王~~!!気絶した女性の
スカートの中を覗くなんて!スケベ!!」
「覗いていない。眺めているだけだ」
「もう馬鹿、馬鹿。グレン様の馬鹿!」
恥ずかしいからやめて!
グレン様がコテンと首を傾げる。
「もう三百年もアニエスの裸を見ているのに
未だに恥ずかしいとは……。
アニエスは面白いな」
「面白くないから!それで何のご用ですか?」
「黒竜から物凄く浮かれた便りが届いたぞ。
白竜が無事に出産したと。女の子らしい。
娘だ。黒竜のヤツきっとメロメロだぞ」
黒竜と白竜は百年ほど私の空間収納に入って
眠っていたけれど、今は番になってカナンに
住んでいる。
結局、白竜が元に戻るまで百年かかった。
体の傷は癒えるのは早いけれど精神と
魔力は癒えるのが遅い。
改めて白竜には申し訳ない事をしたと思う。
「うわ!おめでたい!良かった。え~
赤ちゃんに早く会いたい~」
「今から行って来よう」
「え?ダメですよ。私、お休みをいただいて
ませんもの。カナンだと船か竜体で空を
飛ぶかでしょう?」
午後から姫様のお供で神殿に行く予定だし。
「いや、『穴』を使うから一瞬だ」
「え?だってカナンは海があるから……。
え?まさかグレン様?」
「うむ。海を越えて『穴』を繋げられる
ようになったな。どうだ凄いだろう?」
ドヤ顔のグレン様。可愛い。
でも本当に凄い。
とうとう海を越えたんだ。
三百年越しの快挙だ。
さすがうちの魔王。
スケベだけどハイスペック。
「グレン様凄いです~~!!」
思い切り褒めちぎる。
三百年たっても私達はあまり変わらない。
別れはあるけれど出会いもある。
思い出は増えていく。
よし。新しい命に会いに行こう。
グレン様が私を抱き上げる。
互いに見つめ合い笑い合う。
カナンへと繋がる『穴』へと二人で落ちる。
暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。
目が覚めたらきっと笑顔の黒竜と白竜。
可愛い赤ちゃんが待っている。
王宮侍女は穴に落ちる ─Fin─
ヨバルの国王夫妻は竜のパル君に騎乗し
帰国の途についた。
ヨバルの国内は安定しておらず長く国を
離れる事ができない。
今回ソフィア様の願いを叶えるためジン陛下
はかなりの無茶をやらかして出国してきた
ようで、国王夫妻が揃って不在というのは
異例中の異例らしい。
今度はいつお会いできるか分からない。
皆がソフィア様との別れを惜しんだ。
国王夫妻にアーサー殿下。
アルマさんにマクドネル卿。それになぜか
黒竜、青竜、赤竜が王女宮の跡地から
パル君に騎乗し空へと舞い上がるヨバルの
国王夫妻を見送った。
陛下もアーサー殿下も寂しそうだ。
そんな中、グレン様がなんだかズルそうな
お顔をしている。
ん?これは……。
「グレン様、もしかしてヨバルとアルトリア
の間を『穴』で繋ごうとか考えてます?」
「ヨバルは遠い。行った事もない。だが
ソフィアの魔力をたどり時間をかければ
できそうな気がするな?」
やっぱり……。
そんな事だろうと思った。
キルバンと帝国の次がヨバルか。
グレン様はすでにキルバンと帝国に『穴』を
繋げている。
遠くてもヨバルは陸続き。
『穴』を繋げる事は可能だ。
これがカナンや北大陸になると『穴』は
繋ぐ事ができない。
なぜなら海があるから。
そう。海を挟むと『穴』を繋げられない
らしい。
黒竜曰く海には竜とは違う何か別のモノが
いるのではないかとの事。
それが竜の魔力を弾いていると言っていた。
グレン様も試してみたようだけれど今は
まだ海にいるモノを打ち破る事は無理だと言っていた。
その言い方だとそのうち打ち破れるように
なるのかしら?
うちの魔王はハイスペックだからそのうち
さらっと何とかしていそう。
うん。グレン様だもんね。
──さて、それは置いておいて。
これから蜜月です!
北方砦の物見台でグレン様から結婚したら
三ヶ月間、二人きりで巣籠もりして蜜月を
過ごしたいとお願いされた。
グレン様は二人で巣籠もりする巣穴を
コツコツと準備していてくれた。
……私達の巣穴。どんな所だろう?
黒竜の巣穴やカナイロやキハダの巣穴は
洞窟みたいな所だった。
やっぱり洞窟なのかな。洞窟で三ヶ月も
巣籠もり。楽しみだけれど少しお日様が
恋しくなりそう。
「グレン様。そういえば巣穴ってどこに
作ったんですか?」
「ん?黒い森の瘴気の沼の下だな」
「は?」
「黒竜にどこに作ったらいいか相談したら
呼ばれる場所に作れと言われた。
呼ばれた場所があそこだった」
瘴気の沼の下 で蜜月……。
魔物がわんさか生まれる場所の下。
魔物の氾濫の発生源だ。
ちっともロマンチックじゃない。ううっ!
「心配するな。ちゃんと内装はロマンチック
にしておいたぞ?」
グレン様が首をコテンと傾け私の顔を
覗き込む。それなんか可愛い。ズルい。
「洞窟に内装もなにもないじゃないですか」
「ちゃんと職人を入れていい感じに仕上げ
たぞ?まあ、アルフォンスに後で職人の
記憶をきれいに消してもらったが」
職人の記憶を消した?何を善良な職人さんに
してるんですか。
『穴』を通過しないとたどり着けない洞窟。
瘴気の沼の地下。謎の怪しい工事現場だ。
しかも工期満了に伴い記憶を消される。
どんな職場環境だ。労働環境悪くない?
「おい。その軽蔑の眼差しはやめろ。
ちゃんと対価として給金ははずんだから
かなり喜ばれた。職人達からはまたいい
仕事があったらお願いしますとまで言われ
たぞ?」
「グレン様……その職人さんの手配って……
例の武器商人じゃないでしょうね?」
「うん?よく分かったな。アニエスは賢いな」
いや賢いとかじゃなくてグレン様。黒い
仕事は全部その武器商人を介してません?
魔王の黒い便利屋だ。やれやれ。
まあ、グレン様は逆に利用されたりする
ようなヘマはしないだろうから大丈夫か。
「アニエスぅ~!じゃん!はいこれ」
アルマさんがニマニマ笑いながら大きな
箱を渡してくれる。
きれいにラッピングされた箱。ピンクの
大きなリボンがかけてある。
「何でしょうかこれ?」
「姫様とアイリスさんと私からの結婚記念
プレゼントよ。ふふ!思い出の品も入って
いるから良かったら使ってみて?」
「思い出の品……何でしょう?」
「蜜月の滞在先に着いたら開けてみて?」
「はい。楽しみにしてますね」
私は箱を空間収納にしまった。
姫様……キルバン国王夫妻はすでに帰国され
帝国皇帝夫妻も昨日帰国された。
本当に私達の結婚に無理をして来て下さった
みたい。
何だかしんみりしてしまう。
私達、本当に道が別れてしまったんだな。
ちょっと寂しい。
「こら。新婚さんがそんな顔しないの」
「アルマさん……寂しくないですか?」
「うん。まあ、ほんの少し?でも離れても
私達は繋がっているもの。
例え他国にいても身分が違ってしまっても
死に別れても。王女宮で過ごした思い出は
消えないわ。あなたはいつまでも私達の
可愛い妹分よ。幸せにね。アニエス」
アルマさんに抱きしめられる。
うん。
そうだね。思い出は消えない。
思わずうるっと涙が溢れる。
「何をそんなに悲壮感を漂わせている?
『穴』を使えばいつでも会えるだろ?」
コテンとグレン様が首を傾げる。
……成る程!ズルですか?
「エリザベートにもアイリスにもアルマにも
通行権はすでにつけてある。
今回は妊娠中だから念のために大事を
とって馬車での移動だったが、あいつらが
身軽になったらいつでも会えるぞ?」
「え?!」
いつの間にそんな話になったの?
ええ??アルマさん?
「えへへ!実は来週からアイリスさんの
侍女兼話し相手として帝国に行くの。
『穴』を使ってね。アイリスさんの出産が
終ったら次はキルバンに姫様の話し相手
兼侍女として働く予定なの。
グレン様。ありがとうございます。
お陰でアルトリアにいながらまた姫様に
お仕えできます」
「ええ??」
「えへへ!昼はキルバンで仕事。夜は……
フフッ!マクドネルとアルトリアでラブラブ
新婚生活。いや、『穴』様々です!
マクドネルは本当に王家に忠誠を誓った騎士
だから本当なら私がキルバンに嫁いだ姫様の
侍女を続けるのは当然無理なのに。
竜の反則技のお陰で家庭と仕事の両立が
できたの。究極のズルなんだけれど幸せに
なったもの勝ちだもの。遠慮なく使わせて
もらうわ!」
アルマさん……た、逞しい。
『穴』って便利ねぇ。
あれ?『穴』を使えばひょっとしたら私も
侍女ができるのでは……。
期待を込めてグレン様を見る。
何、その悟ったようなお顔は。
「子供ができるまでなら働いていいぞ?」
「本当ですかグレン様?アルマさん!
また一緒に働けますよ!よろしく
お願いしますね」
やったー!!また姫様にお仕えできる!
「ああ……うん。子供ができるまでね?」
呆れたような顔でポリポリ頬を掻くアルマさん。
あれ?何でそんな顔なのかしらアルマさん。
こんなに簡単に会えるのに道が別れて寂しい
とか泣いてたの馬鹿みたい。笑っちゃうな。
でもアルマさん。
たとえ死に別れてもと言っていた。
あれは……私との寿命差の事かも。
私もグレン様も人ではあり得ないほどの
長命になった。
どうしても親しい人との別れは避けられない。
死に別れ。
避けられない。現実だ。
──思い出。
たとえ別れても。思い出は残る。
そうだね。少し寂しいけれど。
隣のグレン様を見る。
蕩けるように優しい笑みを私に向ける
グレン様。
私にはこの人がいる。
「グレン様。大好きですよ」
「うん。俺も大好きだ。アニエス」
「きゃ~~!!甘い!甘いわ~~!」
アルマさんが身悶える。
大げさだなぁ。もう。
「さて。そろそろ行こうか。アニエス?」
「え?まさかここから?」
あ、あそこに新しい『穴』がある。
あれ。グレン様の『穴』なんだ。
「そのつもりで昨日『穴』を繋げておいた。
ソフィアの見送りついでに俺達も見送って
もらおう」
「蜜月三ヶ月。いいなぁ。マチルダどうだ?
俺達もやらないか?」
陛下が王妃様に提案するが『子供も生まれ
たのに今更何を言っているのかしらねえ?』
とスパコン!といい音をたてて笑顔の王妃
様に後頭部をはたかれる国王陛下……。
う~わ~。
また見てはいけないものを見てしまった……。
うちの王妃様……お強いわ。
そんなお二人をアーサー殿下が微笑ましく
見つめている。
うん。仲がいいですよね?
「いやいや子供が生まれても蜜月三ヶ月。
いいではないですか。実にうらやましい。
陛下私にも三ヶ月休暇を下さいませんか?」
マクドネル卿が参戦してきた。
アルマさんが苦笑する。
「お前が休んだら誰が俺の護衛をするんだ。
馬鹿な事を言っていないで仕事をしろ」
陛下にすげなく却下されましたね。
マクドネル卿。
「まあ、せっかくの蜜月だ。楽しんで来いよ」
黒竜が笑顔で私達に声をかける。
「そうそう。たった一度の蜜月だ」
赤竜も笑顔だ。
「おめでとう。あの小さかったチビちゃん
が蜜月かぁ。感慨深いなクロ?」
青竜の言葉に真顔になる黒竜。
じっと私を見つめるとふんわりと抱きしめ
られた。
「幸せになれよ。アニエス」
耳元でささやく黒竜。
ありがとう。黒竜。
ロベルト様と婚約するまでは毎日ずっと
一緒にいてくれた友達。
竜であるあなたとは長いお付き合いに
なりそう。
これからもよろしくね?
黒竜を抱きしめ返す。
「いつまで抱きついている?」
イラついたグレン様の声で我に返る。
もう、嫉妬?ヤダうれしい。
「そろそろ行くぞ?」
ひょいとグレン様に抱き上げられる。
あ~『穴』を通って巣穴に移動。
また気絶するのかな?
自分達の巣穴に行くのに気絶はないかな?
さすがにそれはないよね?
ちょっとドキドキする。
「しばらく留守にする。じゃあな?」
笑顔の皆様に見送られ『穴』に落ちる。
暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。
ふかふかなお布団の感触。
あれ?
豪奢な天蓋付きのベッド。
シックな落ち着いた室内。
起き上がってキョロキョロ見回す。
置いてある家具はシンプルだけれど
どれも高級品だ。
色とりどりの花がこれでもかと飾られて
いる。ここは?
隣でグレン様が寝転んで本を読んでいる。
「起きたか。まさか自分の巣穴に行くのに
気絶するとはな……」
呆れたように呟くグレン様。
え?あれ?ここひょっとしたら巣穴?
ええ??
黒竜達の巣穴とぜんぜん違う。
いや、どこのお屋敷よここというレベル。
黒い森の瘴気の沼の真下にこんなお部屋。
すごいわ職人さん達!
「どうだ。いい屋敷になったろう?」
ドヤ顔のグレン様。
え?屋敷?
この部屋だけじゃないの?ひょっとして。
「エルドバルドの本邸と規模は変わらんな。
後で案内する」
ええ~~!!
それはすごいわ。
「さて。念願の蜜月だ」
グレン様が顔を寄せてくる。
キス?あ!もう?
いや、ちょっと待って。
両手でグレン様の顔を押さえる。
途端に不機嫌になるグレン様。
「ちょっと待って!アルマさんにもらった
プレゼントが気になるんです。
あれを開けてからにしましょうよ?
それにお風呂に入ってないし……。
そういえばここお風呂ってあります?」
グレン様は浄化魔法を使えるからお風呂が
なくても困らないけれど……。
でも私は風呂好きなんです!
「いや、風呂はあるぞ?しかも温泉で
いつでも入れる。風呂は俺も好きだからな」
やった!温泉?それ最高です。
「じゃあまずプレゼントの箱を開けてから。
その後でお風呂に入って……冷えた白ワイン
を飲んで。うん。そうしましょうよ?」
「そこで白ワインが出てくるあたりが酒好き
のアニエスらしいな。まあ、時間はたっぷり
ある事だし。俺も中身が気になる。
まずは箱を開けてみたらどうだ?」
グレン様が笑う。
良かった。ご機嫌が直って。
さっそく空間収納からアルマさんにもらった
箱を取り出しベッドの上に置く。
「大きさの割りに軽いんですよね。何を
くれたのでしょう?」
「思い出の品も入っていると言っていたな?」
「そうなんです。それで気になって……あ!」
包装紙を丁寧に剥がし箱を開ける。
中身は……。
思い出ってあれね!
ははは……確かに新婚夫婦に送るプレゼント
としてはありかも。
でも……何か体の力が抜けるわ。
グレン様が箱から一着取り出して広げる。
「エロ。エロいな。これなんかアニエスに
似合いそうだぞ?」
若草色のエロエロスケスケな夜着。
誰が一番色っぽいでショーの時に姫様達に
無理矢理着せられたヤツだよ。
エロい夜着が沢山入った箱。
あ~姫様達らしいわ。
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「よし。良い物をもらったな。風呂に入った
後はそれをさっそく着てみろよ。
うん。楽しみだ。エロい夜着を着たアニエス
と酒盛り。うん。うん」
あ~魔王が大喜びしている。
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この後。
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抱き潰された。
…………蜜月三ヶ月。それはそれはハードな
エロ月となりましたさ。
結婚前はあれでも色々抑えてたんですね。
夜着どころかほぼ裸で過ごしたわ。
いや、決して嫌な訳じゃないけれど。
……もう少し。
ほんの少し手加減して下さい。
──旦那様?
濃密な蜜月を過ごした私達。
すぐに私は妊娠。
結局、しばらく侍女には復帰できなかった。
──三百年後。
アルトリア王宮にて。
「ご先祖様~~!」
キャラメル色のふわふわな髪の侍女が
パタパタと女神像の庭を走ってくる。
「こらこら。王宮でご先祖様呼びはダメで
しょう?マリエル」
「あ、そうでした。アニエス?」
「うん。よろしい。で?どうしたの?」
「晩餐会で姫様が着けるとおっしゃっていた
首飾りが見あたらないんです。
王妃様から譲られた赤い石のついた」
「ああ~あれ?宝飾品庫じゃなくて
魔道具庫にあるわよ。あれ、魔道具だから」
「え?そうなんですか?」
「そう。防御魔法の魔石付き。先々代の陛下
が王妃様に贈ったものだから」
「へぇーさすが長年侍女を勤めているだけは
ありますね!助かりました探してみますね!」
またパタパタと走って行くマリエルを見送る。
マリエルは私とグレン様の間に生まれた子の
子孫だ。
何となく私に似ている。魔力量が多くて
下手をすると竜化するレベル。
先祖返りだ。
王宮に侍女として勤める彼女が
心配なので側にいる。
なんちゃって侍女だ。
アルトリアの王宮に侍女として勤めるのは
三十年ぶりぐらいかな?
実はちょいちょい侍女として勤めているの。
アルトリアだけでなくキルバンや帝国でも。
姫様やアイリスさんの子孫を見守るのが
楽しくて。
もう趣味だわね。
マリエルとアルトリアの国王夫妻。
ザルツコード家。エルドバルド家の当主は
私の正体を知っている。
齢三百年越えの侍女。ホラーだ。
この三百年。ありがたい事に私は一度も
竜になっていない。
そして魔物の氾濫も起きていない。
瘴気の沼の下に私達が住んでいるためだ。
余分な魔素を私達が吸収している。
お陰で氾濫しなくなったし、私達の魔力が
爆上がりした。お陰でさらに寿命が伸びた。
やれやれだ。
呼ばれる場所に巣穴を作るのは自分にあった
大地からのエネルギーを摂取するため。
竜には巣穴が必須なのが良く分かった。
グレン様との間に生まれた子供は今の
ところ六人。四人が人として生きすでに
死別した。
二人は竜として生きる事を選び一人は
カナンに。一人はヨバルにいる。
さわさわと爽やかな風が吹く。
女神像の庭はあの頃と変わらない。
第二王女宮の跡地には離宮がたてられ
今は第四王女様がお住まいだ。
マリエルと私はその第四王女様に仕えている。
ちなみに第四王女様を含め今の王家は皆、
私とグレン様の子孫だ。
アルバート陛下とマチルダ王妃の間に生ま
れた王子様。アリステア様と例のエロ蜜月で
授かった娘マリアベルが婚姻。
なので王家は私達の子孫なの。
まあ、あの時は父親であるグレン様と祖父
であるオーウェン義父様が大変だった。
何せメロメロに溺愛していた娘と孫だ。
それにうちの実家の熊父に熊兄。
ザルツコードの義兄達も可愛い孫娘と姪を
盗られてたまるかと参戦。
婚約に漕ぎ着けるまでほんと~~に大変
だったわ。
思い出して思わず遠い目になる。
でも仲睦まじい夫婦になったから良しと
しよう。
マリアベルもアリステア様ももうこの世には
いないけれど子孫を見守る楽しみを残して
くれた。
青竜がキルバンを。
赤竜が帝国を守護するのは自分の子孫を
見守る気持ちがあるからなんだね。
気持ちが良く分かるわ。
あの当時とは少しデザインの違うお仕着せ
だけれど、侍女の制服を着ると気が引き
締まるわ。
久しぶりの侍女生活。
よし!気合いを入れていこう!
女神像の庭で一人気合いを入れていたら
足元に『穴』が!!
あ~グレン様に呼ばれた~!!
『穴』に落ちる私。
暗転する。
そう。三百年たってもまだ気絶するのよ私!
例によって意識が途絶えた。
………ん?
なんだかスースーする。
「お、目が覚めたか?」
笑顔のグレン様が私を見下ろしている。
目茶苦茶ご機嫌だ。
何か良いことがありました?
意識がはっきりすると自分の格好に驚く。
「きゃあ!」
スカートが捲り上がって足丸出しだ!
「うん。お仕着せのスカートから見える
生足。初めて出会った時を思い出したぞ。
相変わらず美しい足だ。うむ。堪能した」
「このエロ魔王~~!!気絶した女性の
スカートの中を覗くなんて!スケベ!!」
「覗いていない。眺めているだけだ」
「もう馬鹿、馬鹿。グレン様の馬鹿!」
恥ずかしいからやめて!
グレン様がコテンと首を傾げる。
「もう三百年もアニエスの裸を見ているのに
未だに恥ずかしいとは……。
アニエスは面白いな」
「面白くないから!それで何のご用ですか?」
「黒竜から物凄く浮かれた便りが届いたぞ。
白竜が無事に出産したと。女の子らしい。
娘だ。黒竜のヤツきっとメロメロだぞ」
黒竜と白竜は百年ほど私の空間収納に入って
眠っていたけれど、今は番になってカナンに
住んでいる。
結局、白竜が元に戻るまで百年かかった。
体の傷は癒えるのは早いけれど精神と
魔力は癒えるのが遅い。
改めて白竜には申し訳ない事をしたと思う。
「うわ!おめでたい!良かった。え~
赤ちゃんに早く会いたい~」
「今から行って来よう」
「え?ダメですよ。私、お休みをいただいて
ませんもの。カナンだと船か竜体で空を
飛ぶかでしょう?」
午後から姫様のお供で神殿に行く予定だし。
「いや、『穴』を使うから一瞬だ」
「え?だってカナンは海があるから……。
え?まさかグレン様?」
「うむ。海を越えて『穴』を繋げられる
ようになったな。どうだ凄いだろう?」
ドヤ顔のグレン様。可愛い。
でも本当に凄い。
とうとう海を越えたんだ。
三百年越しの快挙だ。
さすがうちの魔王。
スケベだけどハイスペック。
「グレン様凄いです~~!!」
思い切り褒めちぎる。
三百年たっても私達はあまり変わらない。
別れはあるけれど出会いもある。
思い出は増えていく。
よし。新しい命に会いに行こう。
グレン様が私を抱き上げる。
互いに見つめ合い笑い合う。
カナンへと繋がる『穴』へと二人で落ちる。
暗転する。
私の意識はそこで途絶えた。
目が覚めたらきっと笑顔の黒竜と白竜。
可愛い赤ちゃんが待っている。
王宮侍女は穴に落ちる ─Fin─
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そんな作品を書いてくださりありがとうございます❗
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読んで下さってありがとうございます。
何とか完結しました。
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はじめまして!
お話すごく面白くて、更新を楽しみにしています
実兄たちと無事会えてよかった!
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読んで下さってありがとうございます。
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みんなアニエス好きのうざい人達です。
ストックが、底を尽きましたので、
更新に『穴』を開けたらすみません。
これからもよろしくお願いします。