王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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遠方からの待ち人来たる

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大聖堂の外に出て空を見上げる。
雲一つない快晴。結婚式日和の空。

いた!竜だ!

こちらに向かって飛んでくる。
あれ?アッシュドラゴン?
色つきの竜じゃない。
第一騎士団が警戒体制をとる。

「あれ、討ち落としちまおうぜ」

カーマイン卿がスパッと勢いよく剣を抜く。
なんでそんなに楽しそうなの。
相変わらず好戦的だなぁ。

「いや待て。人が背に乗っていないか?」

バルド様が目を細めて声を上げる。
背に人?

あっ!乗ってる。乗ってるよ。
逆光で見え辛いけれど二人……
二人竜の背に乗っている。

あれ?一人が手を振っている。
敵じゃない?

「おい、どうなった?」

黒竜と青竜が走ってやって来る。

「なんか人が乗ってるみたい。あれ、
アッシュドラゴンだよね?」

「いや、待て。灰竜じゃないぞあれ」

「え?違うの?」

「デカい……見たことのない竜だ」

黒竜が剣呑な顔で言う。
黒竜が見た事のない竜って……。
そう言われてみると他の竜より大きいし
首が長い気がする。

グレン様を見ると無言、無表情でじっと
竜を見つめている。

「……ソフィア?」

「え?」

グレン様がポツリと呟く。
今、ソフィアって言った?あれ、ヨバルの
王妃様なの?

「大丈夫だ。敵じゃない。警戒を解け」

グレン様が笑顔になる。
良かった。ソフィア様、無事にアルトリアに
到着したんだ。
それにしても竜に乗ってやって来るなんて。
ちょっとビックリ。

「なんだ敵じゃないのか。そりゃ良かった。
結婚式で戦闘とかシャレにならんからな」

バルド様がほっとしたように笑う。

「なんだ敵じゃないのか。つまんねぇな」

カーマイン卿がつまらなそうに剣を収める。
コラコラ、がっかりしないで下さい。
本当に結婚式で戦闘とか勘弁して欲しい。
良かった~敵じゃなくて。

バサバサと竜の羽音と共に強い風が吹く。
風圧が凄い。この竜、翼も大きいよ。
思わず右手で顔を庇うとぐいっとグレン様に
抱き寄せられすっぽりと胸に収まる。
あっ、風が楽になった。
ほっと息を吐く。するとその間に見知らぬ
竜は大聖堂の前に着地した。

うわっ!大きい。

普通の竜より二まわりほど大きい竜が首を
下げると背に乗った人が一人飛び降りた。
黒髪を肩まで伸ばしたヨバルの民族衣装を
着た背の高い男性。
エキゾチックな顔立ちだ。

男性が両手を広げると竜の背からマントを
羽織った女性が飛び降りる。

女性を抱き止めると男性はそっと地面に
下ろした。
黒い髪を高い位置で結い上げた女性。
民族衣装に身を包んだソフィア様は当然の
事ながらとても姫様に似ていた。


「グレン?」

「久しぶりだな。ソフィア」

「グレン!」

ソフィア様が笑顔で走って来る。

おっと。これは私はお邪魔だわ。
慌ててグレン様の胸から抜け出そうとする
けれどグレン様が離してくれない。
ちょっと~ソフィア様とハグするのに邪魔
でしょうが私!ジタバタする。
なのにもっとギュっと抱きしめられる。
ひえっ!
そんな私達を見たソフィア様がキラキラと
瞳を輝かせ両手で自分の頬を覆う。

「まあ、まあ、まあ!ラブラブね!!
お嫁さん、目茶苦茶可愛いし!」

「うん。ラブラブだしアニエスは可愛い」

え?何しれっと言っているの魔王!

「甘い、甘いわ!ああ~!!こんなグレン
を見れるなんて!本当に来て良かったわ」

ソフィア様が感極まって涙ぐむ。

「ソフィアの言った通りだった。
俺を受け入れてくれる女性ひとが現れたよ。
何にも代え難い愛しい女性ひとが」

慈しむような甘い瞳で私を見るグレン様。
ひゃ~~!!腰が抜けそう。
甘い。甘いよ。恥ずかしい。
思わず赤面する。

「ゲロ甘……」

青竜の呟きが聞こえる。うるさいよ青竜。
グレン様は気にせず私の頬に口付ける。
まわりをみると皆、砂を吐きそうな顔だ。

……今日は結婚式。
馬鹿っプルなのは許して!

「ところでこの竜は?」

黒竜が見知らぬ竜に近づく。

「止せ!竜に近寄るな!」

ソフィア様と一緒にいた男性が黒竜を制止
するが黒竜は構わず近寄る。
すると竜は黒竜に首を下げて顔を寄せて
グルグルと甘えたように喉を鳴らす。
黒竜は竜の顔を撫でている。

「え?!パルが初対面の人に懐いてる?」

ソフィア様が驚きの声を上げる。
その竜、パルって言うのね。

「驚いたな……」

黒竜を制止した男性が額に手を当て竜を
見上げる。
困惑した表情。黒竜が竜を手懐けたのが
信じられないみたい。
まあ同じ竜同士で何か通じるものがある
のかもしれない。

「あっ、ごめんなさい。この人はジン。
私の夫よ。ヨバルの国王。国でちょっと
ゴタゴタがあって出国が遅れたの。
普通の旅程じゃ今日に間に合わなかった
から竜でここまで送ってくれたのよ。
この竜はパル。それにしても驚いたわ……
パルはヨバルの王族にしか懐かないのに」

ソフィア様が男性を紹介する。
え?国王様!
予定外の高貴な賓客に驚く。

グレン様はやっと私を離して胸に手をやり
ヨバルの国王陛下に礼をとる。

私も慌ててカーテシーをする。

「ジンだ。君がグレンだね。妻は今日の
慶事を本当に心待ちにしていたよ。
毎日、あのグレンがあのグレンがと
うるさかった。式を中断してしまったかな?
竜で乗り付けるなんて騒ぎを起こして
すまなかった。だが間に合って良かった。
今日はおめでとう」

「ヨバルの太陽にグレン・リード・
エルドバルドがご挨拶申し上げます」

「そう言う固いのはいらない。そちらの
可憐な花嫁を紹介してくれるかな?」

「アニエスです。俺の妻です」

きゃ~~!!俺の妻?!
いや、まだ結婚式終わってないけれど。
──妻!
きゃ~~!!て、照れる!

「アニエスでございます」

「……ぷっ!いや、失礼。楽にしてくれ。
クックッ……可愛い奥方だな。の一言で
全身真っ赤になるなんて。
いや幸せそうで結構。結構!」

……赤い?赤いですか全身?
うわ!遠国の国王陛下の前で恥ずかしい。
思わず俯くとドシン。ドシンと足音がして
竜がこちらに歩いて来る。

「パル!止まれ!パル!!」

パルは制止を無視して私とグレン様の前に
やって来るとおもむろに地響きをたてて
ごろんと寝転びお腹を見せる。

何コレ?
つぶらな瞳で撫でて?と言うようにこちら
を見るパル。
やっている事は近所の犬と一緒だ。
小山のような竜がお腹を見せて撫で撫でを
要求する。目茶苦茶懐こい!
ヨバルの王族にしか懐かないとか言わな
かったっけ?

仕方がないのでとりあえず撫でる。
グレン様も私が撫でているので撫で始める。
グルグルとご機嫌なパル君。

なんかグレン様の愛馬のコルト君を思い
出す。あの子も人懐こいよね。

「嘘だろ?」

「パルが犬みたいにお腹を見せるなんて!」

ヨバルの国王夫妻が驚いている。

「こいつアッシュドラゴンに近いな」

グレン様が黒竜に話しかける。

「人化しない古代竜の種族みたいだ。まだ
こんな竜がいたんだな。世の中は広いな」

黒竜がしみじみ言う。
まあヨバルは北大陸より遠いものね。
南大陸の端っこだ。
そのうえ他国との交易に制限をかけて
いるから情報があまり入って来ない。

パル君みたいな竜がいて王族が騎乗できる
ほど良好な関係を築いているなんて
知らなかった。

「この子なんでこんなに私達に懐いている
のでしょうか?」

「さあな。嫌われるよりはいいだろう」

もっともっととお腹を揺らすパル君。
結婚式前になんで私達は竜に撫で撫でを
要求されているのだろうか。

「グレンもお嫁さんもスゴいわ」

「本当だな。この光景を見れただけでも
アルトリアに来た甲斐があったぞ」

ヨバルの国王夫妻がパル君の思わぬ行動に
感想をおっしゃる。

竜の襲撃かと緊迫した空気だったのが
嘘のように和やかな雰囲気の中、
大聖堂の入り口が騒がしい。


「ソフィア?!」

「お姉様!」

「「姉上!」」

大聖堂の入り口からロイシュタール様、
姫様、国王陛下、アーサー殿下が顔を出す。

陛下とアーサー殿下が走り出す。
ロイシュタール様は姫様をエスコートして
ゆっくりこちらにやって来る。
姫様、歩きながら泣いてるし!
無理もない。
ソフィア様はお嫁に行ってから初の里帰り。


「みんな元気そうね!」

ソフィア様は満面の笑顔で両手を広げる。
長く離れ離れだった家族の再会。
晴れ渡る空の下。
抱きしめ合って喜び合う姫様達の姿に
私はちょっと貰い泣きした。



あの後、竜に乗ったヨバルの国王夫妻の
来訪でちょっとバタバタしたけれど
私達は無事に結婚の誓いをたてた。
誓いのキスがやたらと長くて笑われたよ。
もう……グレン様の馬鹿!

そんなこんなで
グレン様と私は晴れて今日、

夫婦になりました。








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