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勇者の子供編

好奇心は誰も殺せない

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「なんとか今日中にたどり着いた・・・!」
ディガイアを出たのと同日。もうすぐ夜に差しかかるという頃にユウとパルファは王都よりも堅牢な外壁に囲まれた都市に到着した
仲が良いとはいえない隣国、ノワール帝国との国境に一番近い街、城塞都市ルーグだ。

「ダンジョンへはこの街を拠点にするわ。今日はこのまま休んで、明日から早速通いましょう。」
早くしないと街に入れる時間を過ぎてしまう。ユウとパルファは急いでチェックを受けて門をくぐり、ルーグへと足を踏み入れた。

~~~~~

次の日、ユウはパルファと共にこの街の衛兵詰め所へと来ていた。
パルファとユウが入るためのダンジョンを見張ってくれている、この街の衛兵たちに挨拶をしておこうと思ったからだ。

「とまれ、何者だ!」
詰め所敷地内に入ろうとするユウとパルファを衛兵が止める。
「次期勇者パルファと、パートナーの冒険者ユウです。本日からダンジョンに入るので、ご挨拶に参りました」

勇者然とした態度でパルファが言い、家紋と証明書を見せる。それを確認すると衛兵は打って変わって、ビシッとこちらに敬礼をした。
「失礼いたしました!こちらへどうぞ!」

そうして詰所の中を進んでいくと、衛兵たちが集団で訓練をしていた。
「ここは戦争が起きた時の最前線だから、兵の訓練や稽古に余念がないのよ」
パルファがユウの視線に気づき言った。そしてその集団から少し離れたところでユウとパルファは待たされ、案内してくれた衛兵はその訓練を主導していた老兵に駆け寄って行った。

老兵はこちらを見やると、兵士たちに休憩を指示して向かってきた。
「勇者パルファ殿と冒険者ユウ殿、お待ちしておりましたぞ。兵長をやっとるガイです。」
ガイは年季の入った笑みで、2人と握手をする。逞しいゴツゴツとした手を取ると、ガイという人物の研鑽の日々を感じることが出来た。

「して・・・本日からダンジョンに潜り始めるということでしょうかな?」
「えぇ。ダンジョンの現状維持をしてくれていると聞きまして、ご挨拶に伺いました。」
パルファがそう言うと、ガイは満足そうに頷いて部下の兵士に「アレを」と言って何かを持ってこさせる。

「承知致した。ダンジョンの場所や分かっていることについて、簡単にはなるが説明いたそう。」
そう言ってガイは、敷地内にある周辺のマップが表示されたエリアへと向かって歩く。
ユウとパルファもそれに続き、マップを囲むように3人はベンチに座る。

「ダンジョンは、ここルーグから国境に向かって歩いた丘陵地帯の一角にあります。歩いて10分ほど、帝国側からは見えない場所にできております」
ガイは石でできたマップをなぞりながら言う。

「現状帝国側にも国内の冒険者にもダンジョンは見つかっておりませぬ。今回我々が1番に訓練で見つけたのは、幸運という他ないですな」
「ダンジョンの中には入られていないのですか?」
ユウの質問に、ガイは苦笑いをしながら答える。

「儂がもっと若ければ、国のお達しなど無視して行ったんですがのう。さすがにこの老体では、安定を優先して無理はしておりませぬ。」
なるほど。良くも悪くも、ユウとパルファが1からこのダンジョンを開拓する必要があるらしい。

「じゃが、この老体にも野心や好奇心は未だ健在ですじゃ」
ガイがそう言うと同時に、先ほどの兵士が首に装着するチョーカーのようなものを持ってきた。チョーカーの中心には、大きさが釣り合った小さい水晶が付いている。
「ご苦労。これは魔道具でのう、水晶に移した映像を記録できるのじゃ。」

そういってガイは勇者とそのパートナーといえど一回り以上若いであろう2人に頭を下げた。
「これを装着し、ダンジョンの中の冒険をこの老い先短い老人に見せてはくれんか」

ユウはその光景を、村の好奇心旺盛で元気だった老人たちと重ねた。
「分かりました!これを装着して、必ずダンジョンを攻略してみせます!」
間髪入れずにユウがそう言ったのは、仕方の無い事だった。

~~~~~

それからユウとパルファは街を出て、早速ダンジョンに向けて歩き出していた。

「まったくもう。あんなに早く返事をしたら、私の立つ瀬が無いじゃないの」
「あはは、ごめんね・・・」
ユウは頭をかきながらパルファに謝罪をする。先ほどの衛兵詰所にてユウがガイの願いを快諾して、ガイが「おぉ・・・」と感動して泣き出してしまったのだ。

おかげで何も知らない衛兵たちは、ガイの差し出すチョーカーを手ごと包むユウのことを勇者だと思ってしまい、勇者ユウコールが鳴り止まなくなった。
そんなユウの首には、きらりと光を反射するチョーカーが付いている。

「・・・まぁ、その即断する姿が素敵なんだけどね」
「ごめんごめ・・・・ん?今なんて?」
なんでもない!とパルファは言いながら少し先を歩き、程なくして立ち止まった。

パルファが立ち止まった理由を、ユウは同じ目線に立つことで理解した。
2人の目前にはいま、衛兵が左右に立つ大きな洞窟がある。

その洞窟は『一寸先は闇』という言葉を表したように深い黒で染まっており、昼間の明るさに対して不自然さを醸し出していた。
その不自然さがどうしようもなく神秘的であり、先には想像もできない冒険が待ち構えていることを確信できた。

「ユウどうしよう。胸の高鳴りが止まらないわ。」
「好奇心を変換していなくて良かったと、心から思ったよ。」

全冒険者の渇望する場所。天国であり地獄でもあるダンジョンに、2人は到達したのだった。
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