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勇者の子供編

弱気

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ガッ!
初撃はユウだった。危惧していた再生能力のあるアンデッドや精魂系の魔物でなかった分、強度が高い自分がメインで戦うべきだと思ったからだ。
だがその鋭い斬撃もハイドの手で止められた。

「デーモン系最上種である私の肌は生半可な刃は通しませんよ?」
そういって力を込めるハイド。掴まれた剣に少しヒビが入り、すかさずユウはハイドの頭部めがけて剣を支点に回し蹴りを放つ。

ハイドは剣を折る手前で離し、頭部を傾けユウの蹴りを避ける。それだけでなくさらに、ユウの胴体に向かって鋭い突きを放った。
ユウはそれを体で受け、そして腕ひしぎの状態でハイドの手を絡めとる。
そしてユウが封じた腕の方から、パルファが剣を構えてハイドへと迫る。
「コンビネーションですね素晴らしいです。あぁ、戦いはやはり滾りますねぇ」

ハイドはそれを余裕で回避し、腕にまとわりつくユウをパルファへとぶつける。
ユウはハイドの手を放し、ダメージを通さないようにパルファを抱きかかえる形に移行して離れた。

「分かってはいたけどやっぱり強いな」
「そうね。ダメージは大丈夫?」
先ほどの突きを心配してパルファがユウへと問いかける。それにコクリと頷き、ユウはヒビの入った剣をチラリと見る。
(バランさんの形見・・・)

思うことはあるが、今は敵に集中せねばならない。ユウはヒビの入った剣を鞘に収め、もう一本の無事な剣と合わせて床に置く。
(奴自身が言っていたとおり、剣は破壊されてお終いだ。それなら・・・)

瞬時にユウは駆け出し、ハイドに対し徒手空拳で戦う。
「ふふふふふ!いいですね、左手があればもっと楽しいでしょうに!」
ハイドもそれに応じ、2人の間で凄まじいスピードの攻防が紡がれる。

ザザッ!という音とともに2人はお互いに弾かれ距離を取る。
ユウの口からは多少の血が流れる。だがハイドは依然余裕を維持していた。

そうしてハイドは何かがおかしいかのように、くつくつと笑い始めた。
「話し声で聞こえましたよ。あなたは危機感を失ったと・・・気づいてます?あの魔物達を突破してからあなた、攻撃を避けるってことが出来なくなっているんですよ」

そう。ユウは危機感を無くしてからというもの、敵の攻撃を避ける感覚が全く分からなくなっていた。
ここまで出会った敵は攻撃させるまもなく倒してきたため気にならなかったが、ハイドレベルの敵ではどうしてもそれが欠点として浮き彫りになる。

「それで私に勝とうだなんて、おかしくておかしく・・・ゴホッ!」
笑っていたハイドが少し咳き込み手で押える。その手を見ると、少量だが黒い血がついていた。
「左手がなくても楽しめそうで何より」
そういってユウはフッと笑う。面白い、とハイドも言って、2人の戦いはさらに激化した。


~~~パルファSide~~~


正直、ついていけない。
出会った瞬間からのプレッシャーで察していたけど、本来私レベルではこのハイドという化け物と戦ってはいけない。

今だって、ユウとバイトが織り成す粗暴だが緻密な殴り合いに割り込めず、せめてもの対抗としてひたすら隙を見出そうとすることしかできない。

そしてこの間にもユウは傷つき続けている。ユウが攻撃を避けられなくなってしまったのも私が弱いせいだ。私がもっともっと強ければ・・・

また距離を取る2人。その際に切りこもうとすると、ハイドは手をかざして空中に黒い穴を出現させる。
「あなたとのコンビネーションより単体で戦った方が楽しそうです。なのであなたはこっちと遊んでいてください」

そう言って穴から出現したのは3体の魔物だった。人間の皮を剥がしたような血管が浮き出た皮膚、色は浅黒く翼と角が生えたAランクの魔物――アークデーモンだ。

(これなら私で・・・も・・・)
考えてから劣等感に苛まれる。我ながら、なんて情けない思いなのだろう。
勇者とは思えないほど消極的で弱々しい考え方に、言いようもないほど悲しくなった。

アークデーモンもAランクの魔物だ。それが3体であるならば、強度Bである私は集中しなければならない。
だがその一瞬過ぎった思考がズルズルと尾を引いて集中と剣を鈍らせた。
意識外からのアークデーモンの攻撃は私の喉元へ届く――ことなく、それを庇ったユウの右胸に吸い込まれ直撃した。
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