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真の勇者編

彼の者は未来を視る

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「ごめんくださーい!」
ユウは一声かけて、木製の扉を押し開けた。
2人で押しかける必要も無いと、パルファは外で待っているそうだ。

「あぁ。」
中に居たのは、2メートルを超える身長の男だった。頭にターバンのようなものを巻いており、服は侍を彷彿とさせる着物だ。

その男は今、奥へと続く通路から玄関があるこの部屋に出てきたところだった。袖口からチラリと見える腕は鍛え上げられており、並の冒険者よりも強そうだ。
鍛冶屋と聞いてずんぐりしたドワーフを思い浮かべていたが、実際は無骨という言葉が似合う引き締まった体格の哀愁漂う人間だった。

「私はゲノムだ。要件は剣の打ち直しだな?」
「あ、はい!僕はユウって言います!これなのですが・・・」
どうやら兵士が気を遣って、先に伝えてくれていたらしい。
ユウは折れた剣を2本差し出した。

「・・・よく手入れされた剣だ。大切に使ったのだな」
そう言われると、バランや自分が認めて貰えた気がして少しグッとくる。
「込み入った話は奥で聞く。ついてこい」

そう言ってゲノムは、奥へと歩き出した。
ついて行く最中にゲノムがいう。
「さきほど部屋は私室でな。工房は奥にある」
「工房に向かっているんですね」

たわいない会話をしながら、2人は火床がある部屋へと入ってきた。
「さぁ、何すればいいんだ?」
そう言ってゲノムは、作業台を挟んでユウに問いかけた。
「この2本の剣を打ち直して欲しいです。そして素材にはこの魔石を」

ユウは2本の剣と黒い魔石を作業台に置く。
ふむ、とそれらを見てからゲノムは口を開いた。
「完全な打ち直しは出来ない。鋼の強度も落ちている。これを活かすとなると1本の刀も作れんだろう。」

(そうか・・・)
ショッキングな発言だが、多少の覚悟はしていた。
前にも思ったが、これは名剣でもなんでもない。いうなれば「元騎士Aの剣」だ。握力によって柄はボコボコしており、折れた一部分だけ見ても刃は変形している。
もうこの剣は、寿命を迎えていたのだ。

「まぁ任せろ。なんとかしてやる」
落ち込むユウに対して、なんでもないようにゲノムは告げた。
「えぇ!?本当ですか?」
ユウは思わず聞き返すが、ゲノムは変わらず当然のごとく頷く。

「明日の同じ時間に来い。」
そう言って、剣と魔石をユウから預かった。

~~~~~

「では、よろしくお願いします!」
ユウは玄関扉の前でゲノムへと頭を下げる。
「あぁ。魔石の加工はお前だけ特別だ」
そう言ってゲノムは、工房へと戻って行った。

ユウは外に出てパルファを探す。
・・・いた。少し歩いた広場のベンチに座って日向ぼっこをしている。
駆け足で近寄っていくと、気付いて立ち上がった。

「あら早かったわね。剣が無いってことは・・・」
「うん!打ち直してくれるって!魔石も使ってね」
ユウは嬉しそうに告げると、パルファは少し考える。

「やっぱり私も行った方がよかったかしら?魔石の加工なんて出来る人はあんまりいないし・・・」
そう悩むパルファに、別れ際告げられた残酷なことを伝える。
「あっ、あのね、魔石の加工は僕だけ特別だって・・・」

そう告げたパルファは、ガックリと肩を落とした。
「そうよねぇ。あの魔石の加工なんて並大抵の技じゃできないから、お客さんを選ぶに決まっているもの。私は王都に着いてから鍛治職人を探すわ」
「そのときは僕も手伝うよ」
そうして2人は、宿へと帰っていった。

~~~ゲノムside~~~

(ついにあの少年と相見えたか・・・)
工房に戻ったゲノムは、先ほどまでいたユウのことを考える。
ゲノムはユウのことを知っていた。それも随分前から。

あの傭兵のチンピラと事件を起こした時?
悪魔を討伐した時?
スタンピードを食い止めた時?

否、もっと前からだ。

ただゲノムにとって、いつ知ったかなんて過去の話はどうでもいい。大事なのはいつだって未来だ。
「お前は一体・・・」
ボソリと呟きゲノムは目を瞑る。

ーーメリィじゃない!どうしたのこんーーー
ーーーSランクダンジョン攻略なんて流石でーー
ーー王都では今連続殺人事件が起きーーー
ーーーそんな、どうして!!ちちうーー
ーーお前じゃそれには勝てーーー
ーーー私こそが真のーー
ーーお前がーーー
ーーー勇者よーー

ゲノムの頭に様々な情景が浮かんだ。
馬車での出会い、使用人の喜び、騎士からの注意・・・そして勇者の悲しき結末。

「そうだな、分かった」
ゲノムは今度そう呟いて、ユウが置いていった魔石を握りしめ、粉々に砕いた。
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