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ビスケット
しおりを挟む目を開ける。薄暗い天井が目に飛び込んでくる。久しく窓を開けていない狭いワンルームの淀んだ空気を吸い込んだ
この生活がいつまで続くのだろうかと最近よく考える。いつまでも続くのかも知れないし、もしかしたら、明日終わるかもしれない。雨戸を締め切った部屋は昼なのか、夜なのかわからない。私に唯一、時を示してくれるスマートフォンも長い間電源がつかない。別に壊れているわけではない、充電が切れているだけだ。だが、私が一つだけ持っている外界との通信手段も今は、というか、最近はつける気になれなかった。
私はのろりと起き上がり、寝起きのぐらついた頭で台所へ行ってコップに水をくむ。そこにいつか買ったビスケットを一枚出してくる。口から奪われた水分を補うよう。に水道水を流し込んでまたリビングに戻った。
そろそろビスケットが無くなので買いに行かなければいけない。しかし、外に出る気も起きない。
私は声が聞こえたような気がした。死なないためのこの行為をやめてしまえばいい、心のどこかでそうささやく自分がいた。味のしないビスケットを食べるのも、消毒剤の臭いがする水道水を飲むのももう嫌なんだろう。ささやいてくる自分に私は何も言えなかった。そして、何も言えない私を自覚した途端そこはかとない不安が沸き起こってきた。
そうだ、と自分は思った。
「部屋の掃除をしよう」
気持ちを切り替えてこのごみが散乱する部屋をきれいにして人間らしい生活が出来たらささやいてくる自分に私は何か言い返せる気がしてきた。
窓を開け、雨戸をあけたその時久しぶりに外を見た。あいにくの曇天だったため、部屋の明るさは変わらなかった。しかし、私は久々に自分の中に意欲が沸き上がるのを感じた。
———————————————————————
空色のTシャツを着てジーパンをはいた。怪しい空模様だったので、傘を持って外に出る。十分ほど歩いたところにあるスーパーにビスケットを買いに行くのだ。赤い箱の七袋入りのやつだ。あまり行かないスーパーの菓子コーナーで探し回ってやっと見つけたそれをレジに持っていく。
何の気なしに帰りに来た道とは違う道で帰った。レジ袋をぶらぶらさせながら歩く。
公園で子供たちが遊んでいた。初めて見る公園だったが、住宅街が近いのか、大勢の子供がいた。きっと、私が知らなかっただけでこの子たちは毎日ここで遊んでいるのだろう。大きな声で、「もういいかい」と子供が叫んだのを聞いたとき、地方にいる家族を思った。私は少し安心した。それから自分は意気揚々と家に帰った。家の玄関についたときスーパーの傘立てに傘を置いてきてしまったことに気が付いた。
「まあいっか」
と私はつぶやきながら台所を抜けて掃除されたきれいな部屋に入った。
ビスケットを食べた。
ビスケットを食べた。
ビスケットを食べた。
ビスケットを食べた。
ビスケットを食べた。
ビスケットを食べた。
ビスケットを、食べた。
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