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三者三様、なかなかに見どころのある子供たちを微笑ましく眺めながら、時折剣の相手をしてやる。こんな休日も悪くない。将来引退した折にはこんな生活も悪くないと、そんなことを考えていた。
「お久しぶりねぇ、リュージちゃん」
どこからともなく聞こえてきた女の声に、リュージは瞬時に身構えた。それは聞き覚えのある声であり、考えるより先に身体が動いて子供たちを守る態勢に入る。ルシードも同様に警戒態勢に入り、いつでも抜けるように刀に手をかけた。
先ほどまで楽しそうに木の剣を振るっていた子供たちも、2人の様子になにかを感じ取ったのか困惑しながらリュージの足元にしがみついている。
「相変わらず素敵な魂の形をしてるわねぇ。とても歪で愛おしいわぁ」
語尾を伸ばして喋る特徴的な喋り方。どこか癇に障る甘ったるいその口調で思い当たる人物は、リュージの中に1人しかいない。
「相変わらずだな、インウィディア。俺はお前さんの方が歪んでいるようにしか見えんよ」
空中を睨みつければ、そこには白い羽を使った衣装を纏い空中で足を組みながら座る女が居た。その美しい白に似合わないのは、腰のあたりから生えている紫黒の羽と、美しいブロンドヘアの上部にある青黒い角。
妖魔インウィディア。それが女の名前だった。
「白羽堕としとはよく言ったもんだ。ご丁寧にそんなものまで引き連れて、何をしに来た」
インウィディアの後ろには2体の魔物が控えている。顔を仮面で隠して黒衣に身を包み、黒い羽を羽ばたかせているその魔物は堕天使。元は天使であっただろう、インウィディアに堕とされた者たちだ。一見すると宗教画のような美しさだが、そこには異様なほどの禍々しい空気が流れている。
それを見て言葉も発せられず震える子供たちを、安心させるように撫でてやる。もちろん、視線はインウィディアから外すことはない。
いくら街外れとはいえ、周りに住民は多く住んでいる。広場にはまだ他に一般市民が多くおり、何事かと足を止めてリュージたちのやり取りを静観していた。今ここでこの妖魔と堕天使たちが攻撃を仕掛けてこようものなら、犠牲は避けられない。最悪の事態を想定しながら、リュージはこの状況の打開策を探し出す。
「いやぁねぇ。そんなに警戒しないで? 今日はその子に会いにきただけよ?」
「っ……」
けらけらと笑いながら、甘さを含んだ声でそう言い指をさす。その先にいた人物は、更に警戒の色を強めて相手を威嚇している。
「その男になんの用がある? それに、会いに来ただけなら、そんな物騒な連中連れてくるんじゃねぇよ」
ビリビリと伝わってくるルシードの威圧。大人であるリュージがこれほどまでに肌で感じるのだから、子供たちには少々酷なことをしてしまっていると感じるが、それを止めさせる訳にはいかなかった。一瞬でも気を抜いた隙に仕掛けられでもすれば、状況はますます不利になってしまう。
「ペットにもお散歩は必要でしょう?」
「悪趣味なペットすぎやせんか」
「あら、失礼ねぇ。可愛いでしょう? とっても従順なのよぉ? この子たち」
会話に乗ってくるインウィディアに、リュージはしめたと言わんばかりにその会話を引き伸ばそうと試みる。その間に、一般市民が少しでも逃げてくれれば良し。異変に気づいた近くの巡回兵や警備兵でも来てくれれば儲け物だ。
ルシードもその意図に気が付いたのか、口は挟まずに威圧を続けている。
「お前さんが口も聞けないようにしちまったんだろう?」
「だって必要ないじゃなぁい? 意思の疎通はいらないもの」
妖魔は精神に干渉する魔法を得意としている。意思の強い者は抗うことができるが、並大抵の者はその魔法に抗う術を持たない。とても厄介な魔法だった。
「それで、リュージちゃん? その子はそうやってかばってあげるほど、大事な子なのかしらぁ?」
インウィディアの妖艶な唇が、弧を描くように笑みを作る。どうやらこちらの意図は読まれていたようだ。それでも少しは時間を稼げたので、この間に一般市民は少なからず逃げてくれていたようだった。インウィディアも周りの市民のことなど興味もないのか、全く気にも止めずに見逃してくれている。
「リュージさん、その子たちを頼みます」
「いや、アレの狙いはお前さんだ。俺が出る。先に使い魔を飛ばせ」
「とうに飛ばしていますよ」
飛び出していきそうなルシードを制す。リュージはその手を前にかざし、その形を強くイメージする。次の瞬間には、リュージの手の中にひと振りの太刀が握られていた。
「すごい……」
「おう、ありがとうな坊主」
まるで手品を見たような反応を示した子供たちに、思わず笑みが溢れる。先程まで震えていた子供たちだったが、どうにか持ち直してくれたようだ。なかなかに根性がある。
「おじさんはちょっくらあのねーちゃんと戦わにゃならんから、大人しくそこの強い兄ちゃんに守ってもらうんだぞ」
「……うんっ!」
ルシードに守ってもらえることに安堵したのか、子供たちはリュージから離れ、隣のルシードの方へと移動した。
「お前さんは結界術やら防御魔法は得意だったろう? 全力で守れ。街の被害も最小限に食い止めるぞ」
「御意」
そういった類の魔法などは全く使うことができないリュージにとって、この状況でルシードがいることはとても心強かった。安心して背中を任せられる相手がいるだけで、守りは気にせず相手に集中することができる。
「そんなに大事なのねぇ。その子、この間見かけたときからわたしも欲しかったの」
「お前にはやらんよ。アレはこの国に必要な男だからな」
「じゃあ、リュージちゃんがわたしのものになってくれていいのよぉ?」
「はは、それもお断りだなぁ」
軽口を叩いた後、リュージはインウィディアに向けて睨みを利かせる。それにインウィディアと堕天使2体の動きが止まる。
「っ、その覇気……本当に厄介ねぇ」
「そりゃあ良かった! こちとらお前相手に手段は選んでいられんからな」
武器を生み出すスキルと同様に得たのが覇気と言われるスキルだ。格下の魔物相手なら、これで大抵の動きは止められるのだが……インウィディアにも多少なりと効果があるのは、以前対峙したときに確認済だった。堕天使には有効だったようで、表情こそ読めないが怯んでいるのが窺える。
「ここで大人しく帰ってくれりゃ、助かるんだがな」
「リュージちゃんがその子をくれれば、大人しく帰るわよぉ」
「交渉決裂だな」
「じゃあ、力尽くでも奪ってあげる」
リュージの覇気に当てられながらも、インウィディアはリュージたちに向けて堕天使を仕掛けてきた。
「お久しぶりねぇ、リュージちゃん」
どこからともなく聞こえてきた女の声に、リュージは瞬時に身構えた。それは聞き覚えのある声であり、考えるより先に身体が動いて子供たちを守る態勢に入る。ルシードも同様に警戒態勢に入り、いつでも抜けるように刀に手をかけた。
先ほどまで楽しそうに木の剣を振るっていた子供たちも、2人の様子になにかを感じ取ったのか困惑しながらリュージの足元にしがみついている。
「相変わらず素敵な魂の形をしてるわねぇ。とても歪で愛おしいわぁ」
語尾を伸ばして喋る特徴的な喋り方。どこか癇に障る甘ったるいその口調で思い当たる人物は、リュージの中に1人しかいない。
「相変わらずだな、インウィディア。俺はお前さんの方が歪んでいるようにしか見えんよ」
空中を睨みつければ、そこには白い羽を使った衣装を纏い空中で足を組みながら座る女が居た。その美しい白に似合わないのは、腰のあたりから生えている紫黒の羽と、美しいブロンドヘアの上部にある青黒い角。
妖魔インウィディア。それが女の名前だった。
「白羽堕としとはよく言ったもんだ。ご丁寧にそんなものまで引き連れて、何をしに来た」
インウィディアの後ろには2体の魔物が控えている。顔を仮面で隠して黒衣に身を包み、黒い羽を羽ばたかせているその魔物は堕天使。元は天使であっただろう、インウィディアに堕とされた者たちだ。一見すると宗教画のような美しさだが、そこには異様なほどの禍々しい空気が流れている。
それを見て言葉も発せられず震える子供たちを、安心させるように撫でてやる。もちろん、視線はインウィディアから外すことはない。
いくら街外れとはいえ、周りに住民は多く住んでいる。広場にはまだ他に一般市民が多くおり、何事かと足を止めてリュージたちのやり取りを静観していた。今ここでこの妖魔と堕天使たちが攻撃を仕掛けてこようものなら、犠牲は避けられない。最悪の事態を想定しながら、リュージはこの状況の打開策を探し出す。
「いやぁねぇ。そんなに警戒しないで? 今日はその子に会いにきただけよ?」
「っ……」
けらけらと笑いながら、甘さを含んだ声でそう言い指をさす。その先にいた人物は、更に警戒の色を強めて相手を威嚇している。
「その男になんの用がある? それに、会いに来ただけなら、そんな物騒な連中連れてくるんじゃねぇよ」
ビリビリと伝わってくるルシードの威圧。大人であるリュージがこれほどまでに肌で感じるのだから、子供たちには少々酷なことをしてしまっていると感じるが、それを止めさせる訳にはいかなかった。一瞬でも気を抜いた隙に仕掛けられでもすれば、状況はますます不利になってしまう。
「ペットにもお散歩は必要でしょう?」
「悪趣味なペットすぎやせんか」
「あら、失礼ねぇ。可愛いでしょう? とっても従順なのよぉ? この子たち」
会話に乗ってくるインウィディアに、リュージはしめたと言わんばかりにその会話を引き伸ばそうと試みる。その間に、一般市民が少しでも逃げてくれれば良し。異変に気づいた近くの巡回兵や警備兵でも来てくれれば儲け物だ。
ルシードもその意図に気が付いたのか、口は挟まずに威圧を続けている。
「お前さんが口も聞けないようにしちまったんだろう?」
「だって必要ないじゃなぁい? 意思の疎通はいらないもの」
妖魔は精神に干渉する魔法を得意としている。意思の強い者は抗うことができるが、並大抵の者はその魔法に抗う術を持たない。とても厄介な魔法だった。
「それで、リュージちゃん? その子はそうやってかばってあげるほど、大事な子なのかしらぁ?」
インウィディアの妖艶な唇が、弧を描くように笑みを作る。どうやらこちらの意図は読まれていたようだ。それでも少しは時間を稼げたので、この間に一般市民は少なからず逃げてくれていたようだった。インウィディアも周りの市民のことなど興味もないのか、全く気にも止めずに見逃してくれている。
「リュージさん、その子たちを頼みます」
「いや、アレの狙いはお前さんだ。俺が出る。先に使い魔を飛ばせ」
「とうに飛ばしていますよ」
飛び出していきそうなルシードを制す。リュージはその手を前にかざし、その形を強くイメージする。次の瞬間には、リュージの手の中にひと振りの太刀が握られていた。
「すごい……」
「おう、ありがとうな坊主」
まるで手品を見たような反応を示した子供たちに、思わず笑みが溢れる。先程まで震えていた子供たちだったが、どうにか持ち直してくれたようだ。なかなかに根性がある。
「おじさんはちょっくらあのねーちゃんと戦わにゃならんから、大人しくそこの強い兄ちゃんに守ってもらうんだぞ」
「……うんっ!」
ルシードに守ってもらえることに安堵したのか、子供たちはリュージから離れ、隣のルシードの方へと移動した。
「お前さんは結界術やら防御魔法は得意だったろう? 全力で守れ。街の被害も最小限に食い止めるぞ」
「御意」
そういった類の魔法などは全く使うことができないリュージにとって、この状況でルシードがいることはとても心強かった。安心して背中を任せられる相手がいるだけで、守りは気にせず相手に集中することができる。
「そんなに大事なのねぇ。その子、この間見かけたときからわたしも欲しかったの」
「お前にはやらんよ。アレはこの国に必要な男だからな」
「じゃあ、リュージちゃんがわたしのものになってくれていいのよぉ?」
「はは、それもお断りだなぁ」
軽口を叩いた後、リュージはインウィディアに向けて睨みを利かせる。それにインウィディアと堕天使2体の動きが止まる。
「っ、その覇気……本当に厄介ねぇ」
「そりゃあ良かった! こちとらお前相手に手段は選んでいられんからな」
武器を生み出すスキルと同様に得たのが覇気と言われるスキルだ。格下の魔物相手なら、これで大抵の動きは止められるのだが……インウィディアにも多少なりと効果があるのは、以前対峙したときに確認済だった。堕天使には有効だったようで、表情こそ読めないが怯んでいるのが窺える。
「ここで大人しく帰ってくれりゃ、助かるんだがな」
「リュージちゃんがその子をくれれば、大人しく帰るわよぉ」
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