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「久しぶりだね、音無くん。最近調子はどう?」
向かい合って座る黒川が、カルテを確認しながら律に笑みを向ける。
「調子は……そうですね、変わらないと思います」
「そっか、なら良いんだけど」
あれから定期的に病院へ通うようになった。と言うより、通わなければならなくなったと言う方が正しいかもしれない。
オメガとして身体が安定していない律は、ヒートの周期も安定していない。その為、月に一度は定期検診を受けるようにと黒川に言われている。
「伊織先輩とはどう?あの人ちょっと、とっつきにくい所があるけど、上手くやれてる?」
「あはははー……」
「その様子だと、ダメっぽいかな」
実際は上手くやれている以前の問題なのだと思う。まず、会話がないのだから。顔を合わせたのも数回程度だ。前回姿を見たのはいつだっただろうか?
「あの……紫藤さんって黒川先生の先輩ですよね?」
「そうだよ?」
「あの人のこと、僕何も知らなくて……」
あぁ、と困ったように黒川は笑う。律が何に悩んでいるのかおおよその検討が付いたらしい。検査用の機器を用意しながら答えてくれる。
「伊織先輩ってさ、人当たりは良いんだよね。あのルックスだし、学生時代は寄ってくる子も大勢いたし」
女性に囲まれている紫藤の姿は簡単に想像が付いた。その拍子にチクリと胸が痛んだような気がしたのはきっと気のせいだろう。
「でも、誰にも靡かない」
僻んだ相手が根も歯もない噂ばかり立ててはいたけれど。そう言って黒川は懐かしそうに笑った。
「何て、実を言うと伊織先輩のことは語れるほど詳しくはないんだ。あ、腕出してくれる?」
「そうなんですか?」
バースの件では態々黒川の所を選んで来たくらいだし、紫藤とは随分親しげに話していたように思えたが、勘違いだったのだろうか?
言われた通りに腕を出せば、慣れた手付きで計測器を付けられる。
「何て言うか……あの人、プライベートが本当に謎で」
どうやら、黒川の前でも紫藤のプライベートは謎に包まれていたらしい。少しは情報を得られるかと期待していた律だったが、当てが外れてしまった。
「だから、君を連れて来たときは驚いたんだよ」
「僕を?」
「仕事の一環だったって言うのもあるんだろうけど、それなら大学と提携している医療施設に連れて行くはずだろ?」
言われてみればその通りだと思った。ことがことだったとは言え、本来ならばそうなるはずだったのだろう。
だけど紫藤はそうしなかった。
「まぁ……発情期のオメガとアルファ、色々と察するに余りあるけどさ」
「あはは……」
「伊織先輩としては、面倒ごとを避けたくて俺の所に来たって言うのもあるとは思う」
いくら不測の事態だったとは言え、教職員が生徒に手を出したと他に知られてしまうのは紫藤にとっても律にとってもマイナスでしかない。
だから知り合いである黒川の所を選んで来たと言われたら、そうなのだろうと納得はする。
「ただ――」
「ただ?」
黒川は少し躊躇した後、気まずそうに言葉を続ける。
「紫藤伊織と言う人間は、そんな些細なことを気にするようなタマじゃないんだよ」
「それは、どう言う……」
「言葉通り、かな」
紫藤と言う男は、周りの人間、評価、地位といったものにこれと言って興味を示さないのだと、黒川は教えてくれた。
今回の件が露見して大学の医務員としての職を失ったところで、紫藤に取っては些末事に過ぎないのだと言う。
「物事に興味が無さ過ぎるんだ、あの人」
「じゃあ、どうして僕のことは色々手を回してくれたんでしょう」
そこなんだよね。黒川は不思議そうに、しかし確信があるのか律にこう告げる。
「君に興味を持ったんじゃないかな」
「僕に?」
「そう。理由は俺にはわからないけれどね」
理由があるとすれば、それは突然変異のオメガだからだろうか? 律自身もそのくらいしか思い当たる節はない。
おおよその可能性があるとすれば、珍しいから手元に置いておきたい、そんな理由なのではないだろうかと律は思う。
向かい合って座る黒川が、カルテを確認しながら律に笑みを向ける。
「調子は……そうですね、変わらないと思います」
「そっか、なら良いんだけど」
あれから定期的に病院へ通うようになった。と言うより、通わなければならなくなったと言う方が正しいかもしれない。
オメガとして身体が安定していない律は、ヒートの周期も安定していない。その為、月に一度は定期検診を受けるようにと黒川に言われている。
「伊織先輩とはどう?あの人ちょっと、とっつきにくい所があるけど、上手くやれてる?」
「あはははー……」
「その様子だと、ダメっぽいかな」
実際は上手くやれている以前の問題なのだと思う。まず、会話がないのだから。顔を合わせたのも数回程度だ。前回姿を見たのはいつだっただろうか?
「あの……紫藤さんって黒川先生の先輩ですよね?」
「そうだよ?」
「あの人のこと、僕何も知らなくて……」
あぁ、と困ったように黒川は笑う。律が何に悩んでいるのかおおよその検討が付いたらしい。検査用の機器を用意しながら答えてくれる。
「伊織先輩ってさ、人当たりは良いんだよね。あのルックスだし、学生時代は寄ってくる子も大勢いたし」
女性に囲まれている紫藤の姿は簡単に想像が付いた。その拍子にチクリと胸が痛んだような気がしたのはきっと気のせいだろう。
「でも、誰にも靡かない」
僻んだ相手が根も歯もない噂ばかり立ててはいたけれど。そう言って黒川は懐かしそうに笑った。
「何て、実を言うと伊織先輩のことは語れるほど詳しくはないんだ。あ、腕出してくれる?」
「そうなんですか?」
バースの件では態々黒川の所を選んで来たくらいだし、紫藤とは随分親しげに話していたように思えたが、勘違いだったのだろうか?
言われた通りに腕を出せば、慣れた手付きで計測器を付けられる。
「何て言うか……あの人、プライベートが本当に謎で」
どうやら、黒川の前でも紫藤のプライベートは謎に包まれていたらしい。少しは情報を得られるかと期待していた律だったが、当てが外れてしまった。
「だから、君を連れて来たときは驚いたんだよ」
「僕を?」
「仕事の一環だったって言うのもあるんだろうけど、それなら大学と提携している医療施設に連れて行くはずだろ?」
言われてみればその通りだと思った。ことがことだったとは言え、本来ならばそうなるはずだったのだろう。
だけど紫藤はそうしなかった。
「まぁ……発情期のオメガとアルファ、色々と察するに余りあるけどさ」
「あはは……」
「伊織先輩としては、面倒ごとを避けたくて俺の所に来たって言うのもあるとは思う」
いくら不測の事態だったとは言え、教職員が生徒に手を出したと他に知られてしまうのは紫藤にとっても律にとってもマイナスでしかない。
だから知り合いである黒川の所を選んで来たと言われたら、そうなのだろうと納得はする。
「ただ――」
「ただ?」
黒川は少し躊躇した後、気まずそうに言葉を続ける。
「紫藤伊織と言う人間は、そんな些細なことを気にするようなタマじゃないんだよ」
「それは、どう言う……」
「言葉通り、かな」
紫藤と言う男は、周りの人間、評価、地位といったものにこれと言って興味を示さないのだと、黒川は教えてくれた。
今回の件が露見して大学の医務員としての職を失ったところで、紫藤に取っては些末事に過ぎないのだと言う。
「物事に興味が無さ過ぎるんだ、あの人」
「じゃあ、どうして僕のことは色々手を回してくれたんでしょう」
そこなんだよね。黒川は不思議そうに、しかし確信があるのか律にこう告げる。
「君に興味を持ったんじゃないかな」
「僕に?」
「そう。理由は俺にはわからないけれどね」
理由があるとすれば、それは突然変異のオメガだからだろうか? 律自身もそのくらいしか思い当たる節はない。
おおよその可能性があるとすれば、珍しいから手元に置いておきたい、そんな理由なのではないだろうかと律は思う。
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