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第一章「赤毛の魔導師 カラナ」
1-2:謎の魔導師
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瞑った目を開けると、『ゴーレム』たちが煙を上げた吹き飛んでいた。
誰かが、魔法で攻撃したのだ!
不意打ちに凍り付いた『ゴーレム』の隙をついて、カラナは足に絡んでいる個体を蹴り飛ばし、後方に飛び退く!
「カラナ! 良かった!」
涙目ですがりつくリリオを抱き寄せ、体勢を立て直す。
が、『ゴーレム』たちの興味はもはやカラナには無いようだった。
そのすべての個体が、リーダーである『ハイゴーレム』までもが、明後日の方向を凝視している。
「……どうしたの?」
釣られて視線を同じ方向に向ける。向いた先は、村の入口方向だった。
人影がひとつ、佇んでいる。
黒いぼろぼろの布切れの様なローブを身に纏い、フードで顔を隠している。手にした杖から薄く煙が立ち上り、攻撃したのがこの人物であることを物語っていた。
『ゴーレム』がケタケタと一斉に笑う。
まるで新しいオモチャを見つけた様に、獲物に群がる昆虫の様に、黒ずくめに突き進んで行く!
しかし、『ハイゴーレム』だけはあらぬ方向に飛び退き、林の奥へと走り去って行った!
見抜いたのだろう。実力の差を。
黒ずくめが杖を振り上げる!
マスクで顔を覆っている為、“マギコード”は聞き取れなかったが、編み上げた魔力の構成が、杖の魔導石を通じて魔力に変換される様がはっきり見て取れた。
とてつもなく密度の高いコードが書き上げられて行く!
地響きが村を覆い尽くし、大地が揺れる!
髪を振り乱し、黒ずくめに飛び掛かる『ゴーレム』の群れ――”彼女”たちを、大地から生えた巨大な氷の槍が射抜いた!
「ぎゃああッ!」
次々に地を破って突き出る氷の槍が、『ゴーレム』の痩身を撃ち抜いて行く!
奇声とも悲鳴ともつかない呻き声が木霊する。飛び散った肉片や血液は、一瞬にして凝固し、凍り付いた!
それに留まらない。
背後の民家のさらに向こう、視界の届かない路地の向こう、さらにはまったく村の反対側からも氷の槍が跳ね上がる!
やがて、地鳴りが止み、土の雨がぱらぱら降り注ぐ中、一瞬でコラロ村には静寂が戻っていた。
おそらく、見えない範囲にいた個体も含め、すべての『ゴーレム』を一度に葬ったに違いない。
「……こんなことが……」
地面から突き出た氷の槍に串刺しにされ、ぴくりとも動かなくなった『ゴーレム』たちを見回す。
ちょうど視線を一巡りさせた瞬間――氷の槍は光の粒子となって消え去った。
術者が魔法を解いたか、射程範囲の外に去ったのだ。
「待って……!」
我を取り戻し村の入口を見やるが、そこにいた黒ずくめの魔導師は姿を消した後だった。
***
「よく『ゴーレム』を退けてくれた。流石はカラナだ。……と言いたいところだが、えらく不満げだな?」
襲撃から翌朝、カラナはコラロ村の村長ローレルの家に呼び出されていた。
村の北西に位置する村長宅は、一番奥にあったこともあり、大きな被害は出ていない様子だった。もともと、石造りの立派な一軒家である。『ゴーレム』の"光弾"が直撃しても、そうそう崩れたりはしまい。
リビングの窓際のテーブルを挟み、差し出された紅茶に一口つけるカラナ。
「助っ人の活躍がありました」
「ほう? 誰だ?
コラロ村にお前を支援出来る程の紅竜騎士がいたとは知らなかったな?」
ローレルも同じく紅茶を飲む。
村長と呼ばれるにはやや若い、初老の女性。白髪交じりの赤毛を巻き上げ、縁なし眼鏡をかけた知的な印象を持つ淑女だ。
「いえ。乱入です。どこからともなくやって来た魔導師が、一瞬で全ての『ゴーレム』を斃しました。アイツの助けがなければあたしも危なかったわ」
「何者だ?」
訝しげに目を細めるローレル。
「わかりません。顔は見えなかったし、すぐに姿を消してしまった……」
「ふむ……」
ティーカップをテーブルに置き、ローレルがカーテン越しに窓の外を見やる。
村を一望できる高台に位置した屋敷からは、村の復旧作業の様子が見て取れた。
遠目に村人たちの傷を癒して回るリリオと衛生兵の姿も見える。
「懸念材料だな」
「……ですね」
同意するカラナ。
昨日の黒ずくめの魔導師。敵でない保証はない。
昨日はあの魔導師のお陰で窮地を脱したが、なぜ戦いに乱入したのか? なぜ姿をくらましたのか? それが分からなければ、村にとって味方だと断定することが出来ない。
「あの『ゴーレム』の群れを一掃できる使い手がこの村の周辺を徘徊している。その不気味な事実が残った。おまけに『ハイゴーレム』の残骸も確認出来ていない」
「追跡した方がよいと?」
「必要があるだろう。昨日の今日ですまないが、捜索隊を編成し村の周囲を警戒して欲しい」
「けれど、村の復旧もあります。あまり部下たちを捜索にあてがう事は出来ません」
「二、三日で良いだろう。それで特に足跡を発見できなければ……気味は悪いが、村の周辺を去ったと考えられる」
カラナは無言で頷き、テーブルに視線を落とした。
彼女は、出来ればあの魔導師と接触したいと考えていた。あれ程の腕を持った魔導師だ。さぞ名の通った人物の筈である。
しかしそうした人物であれば、何故姿を消したのか?
「話は変わるが………」
ローレルが、腕を組んで考え事を始めたカラナの思考を遮った。
「お前は今年の戦勝記念日も、首都へ行くのか?」
「そのつもりですが?」
戦勝記念日とは、勇者アコナイトと女神ローザが、魔女サイザリスを破った記念日だ。首都では毎年盛大なパレードが開かれる。その様子を見学に、村から首都へ出向く者も少なくない。
もっとも、カラナの場合は紅竜騎士団としての任務で出向くのだが……。
記念日は、混乱回避のために首都の警備体制が強化される。そのために各支部からも戦力が集められる。
基本的には志願制である筈なのだが……
ある事情から、カラナの意思に関係なくお呼びがかかるのが恒例であった。
「それがどうかしましたか?」
「どうせなら、首都へ行きがてら、村の現状を紅竜騎士団本部へも報告して欲しい」
ローレルの要望に頷く。
「……あと、この騒ぎを起こしてくれた例の教団への抗議も……ですね?」
「その通りだ。その為にも、逃げた『ハイゴーレム』を捕縛出来るとありがたいな」
カラナは、ぐっと紅茶を飲み干して、席を立った。
「分かりました。捜索隊を編成、村の周囲の捜索に当たります!」
誰かが、魔法で攻撃したのだ!
不意打ちに凍り付いた『ゴーレム』の隙をついて、カラナは足に絡んでいる個体を蹴り飛ばし、後方に飛び退く!
「カラナ! 良かった!」
涙目ですがりつくリリオを抱き寄せ、体勢を立て直す。
が、『ゴーレム』たちの興味はもはやカラナには無いようだった。
そのすべての個体が、リーダーである『ハイゴーレム』までもが、明後日の方向を凝視している。
「……どうしたの?」
釣られて視線を同じ方向に向ける。向いた先は、村の入口方向だった。
人影がひとつ、佇んでいる。
黒いぼろぼろの布切れの様なローブを身に纏い、フードで顔を隠している。手にした杖から薄く煙が立ち上り、攻撃したのがこの人物であることを物語っていた。
『ゴーレム』がケタケタと一斉に笑う。
まるで新しいオモチャを見つけた様に、獲物に群がる昆虫の様に、黒ずくめに突き進んで行く!
しかし、『ハイゴーレム』だけはあらぬ方向に飛び退き、林の奥へと走り去って行った!
見抜いたのだろう。実力の差を。
黒ずくめが杖を振り上げる!
マスクで顔を覆っている為、“マギコード”は聞き取れなかったが、編み上げた魔力の構成が、杖の魔導石を通じて魔力に変換される様がはっきり見て取れた。
とてつもなく密度の高いコードが書き上げられて行く!
地響きが村を覆い尽くし、大地が揺れる!
髪を振り乱し、黒ずくめに飛び掛かる『ゴーレム』の群れ――”彼女”たちを、大地から生えた巨大な氷の槍が射抜いた!
「ぎゃああッ!」
次々に地を破って突き出る氷の槍が、『ゴーレム』の痩身を撃ち抜いて行く!
奇声とも悲鳴ともつかない呻き声が木霊する。飛び散った肉片や血液は、一瞬にして凝固し、凍り付いた!
それに留まらない。
背後の民家のさらに向こう、視界の届かない路地の向こう、さらにはまったく村の反対側からも氷の槍が跳ね上がる!
やがて、地鳴りが止み、土の雨がぱらぱら降り注ぐ中、一瞬でコラロ村には静寂が戻っていた。
おそらく、見えない範囲にいた個体も含め、すべての『ゴーレム』を一度に葬ったに違いない。
「……こんなことが……」
地面から突き出た氷の槍に串刺しにされ、ぴくりとも動かなくなった『ゴーレム』たちを見回す。
ちょうど視線を一巡りさせた瞬間――氷の槍は光の粒子となって消え去った。
術者が魔法を解いたか、射程範囲の外に去ったのだ。
「待って……!」
我を取り戻し村の入口を見やるが、そこにいた黒ずくめの魔導師は姿を消した後だった。
***
「よく『ゴーレム』を退けてくれた。流石はカラナだ。……と言いたいところだが、えらく不満げだな?」
襲撃から翌朝、カラナはコラロ村の村長ローレルの家に呼び出されていた。
村の北西に位置する村長宅は、一番奥にあったこともあり、大きな被害は出ていない様子だった。もともと、石造りの立派な一軒家である。『ゴーレム』の"光弾"が直撃しても、そうそう崩れたりはしまい。
リビングの窓際のテーブルを挟み、差し出された紅茶に一口つけるカラナ。
「助っ人の活躍がありました」
「ほう? 誰だ?
コラロ村にお前を支援出来る程の紅竜騎士がいたとは知らなかったな?」
ローレルも同じく紅茶を飲む。
村長と呼ばれるにはやや若い、初老の女性。白髪交じりの赤毛を巻き上げ、縁なし眼鏡をかけた知的な印象を持つ淑女だ。
「いえ。乱入です。どこからともなくやって来た魔導師が、一瞬で全ての『ゴーレム』を斃しました。アイツの助けがなければあたしも危なかったわ」
「何者だ?」
訝しげに目を細めるローレル。
「わかりません。顔は見えなかったし、すぐに姿を消してしまった……」
「ふむ……」
ティーカップをテーブルに置き、ローレルがカーテン越しに窓の外を見やる。
村を一望できる高台に位置した屋敷からは、村の復旧作業の様子が見て取れた。
遠目に村人たちの傷を癒して回るリリオと衛生兵の姿も見える。
「懸念材料だな」
「……ですね」
同意するカラナ。
昨日の黒ずくめの魔導師。敵でない保証はない。
昨日はあの魔導師のお陰で窮地を脱したが、なぜ戦いに乱入したのか? なぜ姿をくらましたのか? それが分からなければ、村にとって味方だと断定することが出来ない。
「あの『ゴーレム』の群れを一掃できる使い手がこの村の周辺を徘徊している。その不気味な事実が残った。おまけに『ハイゴーレム』の残骸も確認出来ていない」
「追跡した方がよいと?」
「必要があるだろう。昨日の今日ですまないが、捜索隊を編成し村の周囲を警戒して欲しい」
「けれど、村の復旧もあります。あまり部下たちを捜索にあてがう事は出来ません」
「二、三日で良いだろう。それで特に足跡を発見できなければ……気味は悪いが、村の周辺を去ったと考えられる」
カラナは無言で頷き、テーブルに視線を落とした。
彼女は、出来ればあの魔導師と接触したいと考えていた。あれ程の腕を持った魔導師だ。さぞ名の通った人物の筈である。
しかしそうした人物であれば、何故姿を消したのか?
「話は変わるが………」
ローレルが、腕を組んで考え事を始めたカラナの思考を遮った。
「お前は今年の戦勝記念日も、首都へ行くのか?」
「そのつもりですが?」
戦勝記念日とは、勇者アコナイトと女神ローザが、魔女サイザリスを破った記念日だ。首都では毎年盛大なパレードが開かれる。その様子を見学に、村から首都へ出向く者も少なくない。
もっとも、カラナの場合は紅竜騎士団としての任務で出向くのだが……。
記念日は、混乱回避のために首都の警備体制が強化される。そのために各支部からも戦力が集められる。
基本的には志願制である筈なのだが……
ある事情から、カラナの意思に関係なくお呼びがかかるのが恒例であった。
「それがどうかしましたか?」
「どうせなら、首都へ行きがてら、村の現状を紅竜騎士団本部へも報告して欲しい」
ローレルの要望に頷く。
「……あと、この騒ぎを起こしてくれた例の教団への抗議も……ですね?」
「その通りだ。その為にも、逃げた『ハイゴーレム』を捕縛出来るとありがたいな」
カラナは、ぐっと紅茶を飲み干して、席を立った。
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