あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

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第三章「魔女の封印石」

3-2:女神ローザ

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「久しぶりですね、カラナ」
 議事堂に響く透き通った声色こわいろ。向かって左側に座っていたローザである。
「お久しぶりです。女神ローザ」
 返答しながら、カラナは前へ進んだ。

 中二階なかにかいの張り出しは、コの字型をしており、部屋の中央に立つと、各方向から元老院評議会に見下ろされる構図となる。
 戸惑とまどうサフィリアとクラルに前へ進むようにうながし、ぐるりと評議会のメンバーを見回した。最後にアコナイトへ視線を向ける。

「おふた方ともお変わりないようで、安心いたしました」
「久しぶりじゃなカラナよ。 ふむ……前に会ったのは其方そなたの成人の時だから……」
「五年ぶりでしょうか」
 しわがれた声でアコナイトが「うむ」とうなずく。
 彼らの背後の壁には、ふたりの肖像しようぞう画が飾られている。そこに描かれた若き日の彼の姿。それにくらべ、ローザの姿はまったく変わっていない。
 他愛たあいのない会話のあいだに、サフィリアとクラルがようやくカラナの背後まで歩いて来た。二人とも明らかに緊張きんちようしている。
 特に、クラルは『ハイゴーレム』なのだから無理もない。

 ローザが金色こんじきの眼を細める。
貴女あなた方の到着を待っておりました」
「あたしたちを……? エルダーメンバーが全員で…………?」
 戦勝記念日がらみで、呼び出されるだろうとは想像していた。
 だが、どうにもそんな雰囲気ではない……。

 ローザが立ち上がり、ローブのすそをすらす音を立てて数歩、こちらへ歩み寄る。
 その背丈せたけは高い。大柄で知られるアコナイトよりも上である。
 その長身の美女が、中二階の壇上だんじようから見下ろして来る。毎度の事ながら、威圧感は相当なものだ。
 その眼差しがカラナたちにゆっくりと向けられた。

「カラナ……とてつもない災厄さいやくを持ち込みましたね」
「災厄……?」
 疑問符を上げるより前に、サフィリアがあわてて前に出る。
「あの……! クラルの事なら、これはサフィリアが無理を言って連れて来て貰った事で……!」
 ローザの言葉をクラルの事だと受けめたらしく、サフィリアが懸命けんめい弁解べんかいする。しかし、ローザの眼中がんちゆうにクラルの存在など入っていない様だ。
 この議事堂に入ってから、ローザの視線はただの一度もクラルに向いていない。

「わたくしの懸念けねんは、『ゴーレム』のごとき些末さまつなものではありません」
 サフィリアの方へと顔を向け、りんとした声で答えるローザ。しかもその言葉には強い敵意が込められている。
 思わずたじろぎ、後ろへ下がるサフィリア。その姿を鋭いローザの視線が追う。

「わたくしが待っていたのは――貴女です」
「え……?」
 ゆっくりと腰を上げ、ローザの横に立ち並ぶアコナイト。
 深いしわの寄った目元に、憎悪ぞうおにも似た感情が浮かんでいる。
「まさか、こうして再びあいまみえることになろうとはな……」
 一拍置き、意を結した様に、アコナイトがその名を口にした。

「魔女サイザリス」

 ***
 
 言葉の意味は分からなかった。
 カラナは、ただ呆然ぼうぜんとローザとアコナイトの姿を凝視ぎようしする。
「何ですって……!?」
 かろうじてしぼり出せた声をそれだけだった。

 ローザがこちらへ向き直る。
「カラナ、貴女が連れているその少女――サフィリアと言う名の魔導師こそ、あの魔女サイザリスその人なのです」
 サフィリアへ視線を落とす。
 少女は完全に立ちすくんでいる。驚き、恐怖、失望――どれとも言えない表情で固まり、その澄んだあおい瞳をまばたきもせず、ローザへと向けていた。

「――サフィリアが……魔女?」
「ちょっと待ってよ!」
 サフィリアのつぶやきに、ようやく呪縛が解け、カラナはまくし立てた。
「サイザリスって二十五年も前の人間でしょ? このはどう見ても十四か五よ!」
「その魔女の姿かたちは、わしが戦ったその時とまったく変わっていない」
 アコナイトが厳しい声で告げ、サフィリアをにらみつける。

「魔女よ。二十五年前の約束を忘れたか?
 次に機会があれば、ワシ好みのもう少し年上の姿で会いたいと言ったハズじゃ?」
「そんな約束知らない!」
 悲鳴の様な声を張り上げるサフィリア。目には涙があふれ、唇が震えている。
「わたしはサフィリアだ! 魔女とかそんなこと全然知らないし、覚えてない!」
「そう。其方はかつての戦いで、その魔力と知識を失っているのです」
 泣き叫ぶ少女に、淡々と聖女は告げる。

「お忘れでしょうが二十五年前、貴女はわたくしの魔力を封じる為、ヴェルデグリスを用いました。
 しかし、わたくしがそれを逆手に取り、貴女の魔力を封じ返して、勝利を得たのです。
 貴女がサイザリスとしての記憶を失ったのは、魔力とともに記憶も封じられたからなのか、あるいはわたくしの攻撃を受けたことによるショックなのか――」

 ローザが一拍、言葉を置く。その瞬間――議事堂の空気が一気に凍り付く!
「いずれにせよ――」

 聞こえた声はここまでだった。いや、続きを聞いてるひまなどなかった――!
 カラナは横っ飛びにサフィリアの身体を抱え込み、床に転がる!

 布をねじり引き裂くような音とともに、サフィリアの顔があった辺りに黒いうずの様なものが現れ、周囲の景色が異様なかたちにゆがんで曲がる!
 渦はやがて消滅し、空間の歪みも元へと戻って行った。
 その場にいれば、彼女の顔がじ曲げられ、破裂しただろう。

「サフィリア!」
 かかえた少女の顔を見る。完全に放心し、目を見開いているがケガはない。
「邪魔をしないでください、カラナ」
 すぐ頭の上から、声が響いた。
 見上げれば、いつの間にかローザは、カラナのすぐ横に立っていた。

「カラナ様! サフィリア!」
 クラルが一歩遅れて、右手を突き出して"光弾キヤノン"を放つ構えを取る!
「ダメよ、クラル! 抵抗しないで!」
 自分の言葉も終わらぬうちに、カラナは右手に生み出した”光鞭プロミネンス”を振った!
 それは一直線に伸び、クラルの頭目掛めがけて飛んできたナイフを空中で爆散させる!
「きゃッ!?」
 顔の至近距離で爆発が起き、クラルが悲鳴を上げて床に転がる!

 ナイフはアコナイトが壇上だんじようから投げたものだった。あの老体から繰り出されたとは思えない速さと狙いである。無防備になったクラルに追い打ちをかけようとする!
「待って! ちょっと待ってッ! そのに手を出さないで!」
 ありったけの声を張り上げて、議事堂にいる評議会を制した。
「お願いだから! 話をさせてよ!」
「なりません」
 カラナの懇願こんがんさえぎる様にローザが、指先をサフィリアに向ける。
    咄嗟とつさに、自分の身体でサフィリアをかばう。その右手には防御のための"光弾キヤノン"を一発用意していた。
 こんなもので防げるかどうかは分からないが……。

「その者は今、サイザリスとしての魔力も記憶も失っています。戦いに終止符しゆうしふを打つ絶好のチャンスなのです」
 語るローザの背後には、再びナイフを手にしたアコナイトの姿。
 その視線はクラルの方に向けられている。彼女はすでに身を起こし、右手に生み出した光弾をアコナイトに向けて構え、牽制けんせいしていた。

 が、しかし――

 カラナの援護なしに、クラルがアコナイトの攻撃を回避することは難しいだろう。
「これは、二十五年前に魔女を討ち取れなかったワシらの失態」
 対抗するかのごとく、老兵の顔に憤怒ふんぬが浮かぶ。
「其方には関わり及ばぬこと。ワシらはいまここで、二十五年前の決着をつける!」
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