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第五章「魔女の遺産」
5-5:マザー・ヴィオレッタ
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「こいつがアナスタシス教団のリーダーだね!?」
サフィリアが、錫杖を突き付けて、叫ぶ。
そのヴィオレッタは、サフィリアを認めると、床に膝をつき深々と頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。わたくしは、マザー・ヴィオレッタ。
貴女様の遺志を引き継ぎ、共和国からの主権奪還を志す者でございます」
「ふーん。すっかり忘れちゃったけど!」
軽口で挑発するサフィリアに、尚も笑顔を返すヴィオレッタ。
「ご心配なさらぬよう。貴女様が記憶と魔力を取り戻せる様に、わたくしたちも尽力いたします」
「結構です!」
サフィリアがヴィオレッタと舌戦を繰り広げている隙に、カラナは背後に視線をやる。
ばらばらに崩れ落ちた器具や本の山にフィルグリフが埋まっている。
運が良いことに、フィルグリフは無傷だ。乱れているが、スクリーンの再生も止まっていない。
カラナは、サフィリアに視線を送る。意図が伝わったか、小さく首を振る。
「行くわよ!」
叫ぶと同時に腕を前に突き出し、開いた手のひらに不可視の魔力を組み上げる!
その魔力を、握り拳を作って圧壊させた!
同時に天井近くに浮かんでいた”照明球”が弾け、部屋の中が白一色に染まる程に照らし尽くされる!
「……!」
不意打ちの目くらましに、ヴィオレッタも怯んだか、ローブの裾で目を覆う。
「今よ!」
カラナは腕に”光鞭”を編み上げ、姿勢を低くしてヴィオレッタに切り込む!
同時に空中に跳躍したサフィリアが頭上から氷の結晶弾を浴びせかける!
だが――!
下からうねった”光鞭”をヴィオレッタはなんと素手で掴み取り、頭上を襲った氷塊を左で組み上げた”魔法障壁”で消滅させてしまった!
流石にアナスタシスの最高幹部である。
しかし、この攻撃が通らないのは想定済み!
カラナは勢いそのままヴィオレッタの脇を抜けて部屋の外に走り出す。それを追ってサフィリアも着地しカラナに続いた。
階段を駆け上り、通路を走って、扉を破り館の表へ飛び出す!
地面の上を転がり、館の入口から距離を取って向き直る。
若干間を置いて、ヴィオレッタが悠々と入口から姿を現す。同時に、複数体の『ゴーレム』が周囲の草むらから飛び出し、その彼女の周りに円陣を組んだ。
うまく、ヴィオレッタを地上に誘い出すことに成功した。
彼女は、部屋の隅にうずくまっていたクラルの存在に気付いていない。
今ごろ、クラルはフィルグリフの映像を再生し、”破壊の言葉”を聞いている筈だ――――
***
部屋に充満していた煙がようやく収まり、クラルは頭の上に振って来た瓦礫を払いのけ、立ち上がった。
カラナとサフィリアは地上に戻り、ヴィオレッタも追って行った様である。
自分に任された使命は分かっている。
小走りに瓦礫に埋まったフィルグリフに近寄り、掘り起こして手近な瓦礫の上に立たせる。
「早く……”破壊の言葉”を教えて……! カラナ様たちを援護しなくては……!」
映像は、既に関係のない場面まで進んでおり、誰も映っていない。
ただ、巨大な魔導石・ヴェルデグリスが映っているのみだ。
映像を巻き戻し、必要な情報が記された場面まで戻す。
サイザリスと黒いローブの男が、ヴェルデグリスの傍らで会話するシーン。
ここだ!
『一応、魔導石の扱い方を教えておくよ』
『素人の貴様に教わるとは、わらわもやきが回ったものじゃ』
『まあ、そう言わないで、万が一暴走とかした時の為に、必要だろう?
――”解放の言葉”と”破壊の言葉”が……』
ここまでは、さっき聞いた。その先だ――。
『必要ないとは思うが、聞いておこうか?』
ごくりと唾を、飲み込むクラル。
『いい心がけだよ。どんなに優れた魔導師でもリスクは付き物だからね。
それじゃあまず、万が一暴走した時に使う”破壊の言葉”だ。
それは――――』
「!」
確かに聞いた。
焦らず、映像をリプレイしてもう一度聞く。
間違いなく覚えた……!
遂に、ヴェルデグリス、”破壊の言葉”――それらを操るサフィリアが揃った!
映像を切り、深呼吸する。
これで終わる!
フィルグリフを持って帰れば確実だが、それはヴィオレッタを退けて安全を確保した後の話である。
クラルは、カラナたちを援護すべく――そして”破壊の言葉”をサフィリアに伝えるべく、地上へ走り出した。
***
カラナの放った”光鞭”が『ゴーレム』の一体の胴を薙ぐ!
その背後では、サフィリアの放った冷気で脚が氷漬けになり身動きを封じられた『ゴーレム』が二体!
このまま、”彼女”らも薙ぎ倒す!
腰にひねりを加え、腕を振って”光鞭”の軌道を変える!
しかし、突然真横の茂みから飛び出した『ゴーレム』のタックルを受け、突き飛ばされてしまう!
「くそッ!」
鞭の先端は、大きく狙いを外して爆散してしまった。
カラナの身体に馬乗りになった『ゴーレム』が樫の杖の柄尻を顔目掛けて突き下ろす!
咄嗟に顔を背けて潰されるのを避け、地面を突き刺した杖の柄を握り返した。
杖を取り戻そうと引っ張る『ゴーレム』とのちから比べになる。
『ゴーレム』がカラナに負けじと、彼女の脇腹を蹴り上げた!
「かはッ!」
呼吸が乱れ、思わず手を放す!
自由になった樫の杖を振り直し再びカラナの顔を割ろうと振り下ろした!
硬い音がして――樫の杖が吹っ飛ばされる!
飛んで来た氷塊が、杖をかっさらって行ったのだ。
隙をついて、蹴りのお返し!
『ゴーレム』の背中を蹴り上げ、吹き飛ばす!
地面を転がり、体勢を立て直す『ゴーレム』。だが、その胴体を鋭い氷の槍が射抜いた!
倒れ伏す『ゴーレム』の背後に、錫杖を構えたサフィリアの姿。
サフィリアの差し出した手に捕まり、カラナは立ち上がった。
服の埃を払いのけ、ヴィオレッタに向き直る。彼女を守る『ゴーレム』の数はあと二体にまで減っていた。
「さて……だいぶ戦力ダウンしたんじゃないかしら?」
カラナの挑発に、流石のヴィオレッタも表情が硬くなる。
その時――
「サフィリア様!」
館の入口から紅竜騎士団のローブを纏った『ゴーレム』――クラルが飛び出して来る!
「クラル! “破壊の言葉”は分かった!?」
「はい!」
クラルが大きく頷く。
「クラル、サフィリアに"破壊の言葉"を伝えて!」
カラナがヴィオレッタへ牽制の眼差しを送るあいだに、サフィリアがクラルに走り寄る。その牽制が効いたか、ヴィオレッタはサフィリアたちの様子を黙って見守っている。
「サフィリア様、耳を近づけてください!」
「早く! 早く教えて!」
クラルが耳打ちする様に、顔をサフィリアに近づける。
それに応えようと耳を近づけるサフィリアの――腹部をクラルが思い切り蹴り上げた!
「ぎゃッ!?」
鋭い悲鳴を上げて仰け反るサフィリア!
しかしクラルは全く躊躇なく、サフィリアの金髪を鷲掴みにし、その顔面に膝蹴りを見舞う!
「クラルッ! 何をするのっ!?」
ぐったりとちから無く崩れ落ちるサフィリアの金髪を掴んだまま――"彼女"は、こちらを振り向く。その顔に深く刻まれた狂気の笑み――!
「あんた……クラルじゃないわね!」
奥歯を噛み締め、カラナはその『ゴーレム』を睨みつける。
こいつはクラルではない!
良く似た外見の『ゴーレム』に、どこで手に入れたか紅竜騎士団のローブを纏わせた偽物だ。
ガランッと大きな音を立てて、サフィリアの手から錫杖が転がり落ちる。
完全に気を失っている様だ。
「動かないで下さい。貴女が動けば……サイザリス様のお命は保証出来ません」
勝利を確信した笑みを見せるヴィオレッタに、カラナは唾を吐く。
「脅しのつもり? あんたたちがサフィリアを傷つけられる訳がないわ」
「そうでしょうか? わたしたちはサイザリス様の忠実なる僕!
サイザリス様の復活が叶わぬのであれば、黄泉路をお供する覚悟があります」
言いながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。
藍色のローブを翻し、その下に携えていたレイピアをすらりと引き抜く。
「……ちくしょう!」
唇を噛んで、カラナは吐き捨てた。
動けない!
動けばこのヴィオレッタは本当にサフィリアの命を奪うつもりだ!
レイピアの剣針をゆらゆらと遊ばせる様に揺らしながら向けて来る。
カラナの胸元に、レイピアの切っ先を突き付け――――
「ここまでサイザリス様のお世話をしていただき、貴女には感謝しています」
――一気に、鍔元まで押し込んだ!
胸に熱い痛みが広がる!
カラナの胸を貫いた刃が――血にまみれて背中を突き破る!
「ああッ!」
串刺しにされた心臓が不規則に鼓動し、喉を逆流して血の塊が口から噴き出す!
弄ぶ様に、ヴィオレッタの剣が執拗に彼女の心臓を抉る。
「やめっ! やめて……ッ! 助けッーー!」
「ここでしばらく静かにしていて下さい。例えクラルと言う『ハイゴーレム』の魔法で蘇生出来ても――その頃には、わたしたちはサイザリス様を連れて大聖堂に到着しているでしょう」
ヴィオレッタが一気にレイピアを引き抜く!
鮮血を噴き出しながら――カラナの身体が仰向けに崩れ落ちる。
もがく様に腕を空高く突き出すが、それで出血が収まる訳もなく……。
やがて動かなくなったカラナを一瞥し――ヴィオレッタの姿が視界の外へと消えて行った……。
サフィリアが、錫杖を突き付けて、叫ぶ。
そのヴィオレッタは、サフィリアを認めると、床に膝をつき深々と頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。わたくしは、マザー・ヴィオレッタ。
貴女様の遺志を引き継ぎ、共和国からの主権奪還を志す者でございます」
「ふーん。すっかり忘れちゃったけど!」
軽口で挑発するサフィリアに、尚も笑顔を返すヴィオレッタ。
「ご心配なさらぬよう。貴女様が記憶と魔力を取り戻せる様に、わたくしたちも尽力いたします」
「結構です!」
サフィリアがヴィオレッタと舌戦を繰り広げている隙に、カラナは背後に視線をやる。
ばらばらに崩れ落ちた器具や本の山にフィルグリフが埋まっている。
運が良いことに、フィルグリフは無傷だ。乱れているが、スクリーンの再生も止まっていない。
カラナは、サフィリアに視線を送る。意図が伝わったか、小さく首を振る。
「行くわよ!」
叫ぶと同時に腕を前に突き出し、開いた手のひらに不可視の魔力を組み上げる!
その魔力を、握り拳を作って圧壊させた!
同時に天井近くに浮かんでいた”照明球”が弾け、部屋の中が白一色に染まる程に照らし尽くされる!
「……!」
不意打ちの目くらましに、ヴィオレッタも怯んだか、ローブの裾で目を覆う。
「今よ!」
カラナは腕に”光鞭”を編み上げ、姿勢を低くしてヴィオレッタに切り込む!
同時に空中に跳躍したサフィリアが頭上から氷の結晶弾を浴びせかける!
だが――!
下からうねった”光鞭”をヴィオレッタはなんと素手で掴み取り、頭上を襲った氷塊を左で組み上げた”魔法障壁”で消滅させてしまった!
流石にアナスタシスの最高幹部である。
しかし、この攻撃が通らないのは想定済み!
カラナは勢いそのままヴィオレッタの脇を抜けて部屋の外に走り出す。それを追ってサフィリアも着地しカラナに続いた。
階段を駆け上り、通路を走って、扉を破り館の表へ飛び出す!
地面の上を転がり、館の入口から距離を取って向き直る。
若干間を置いて、ヴィオレッタが悠々と入口から姿を現す。同時に、複数体の『ゴーレム』が周囲の草むらから飛び出し、その彼女の周りに円陣を組んだ。
うまく、ヴィオレッタを地上に誘い出すことに成功した。
彼女は、部屋の隅にうずくまっていたクラルの存在に気付いていない。
今ごろ、クラルはフィルグリフの映像を再生し、”破壊の言葉”を聞いている筈だ――――
***
部屋に充満していた煙がようやく収まり、クラルは頭の上に振って来た瓦礫を払いのけ、立ち上がった。
カラナとサフィリアは地上に戻り、ヴィオレッタも追って行った様である。
自分に任された使命は分かっている。
小走りに瓦礫に埋まったフィルグリフに近寄り、掘り起こして手近な瓦礫の上に立たせる。
「早く……”破壊の言葉”を教えて……! カラナ様たちを援護しなくては……!」
映像は、既に関係のない場面まで進んでおり、誰も映っていない。
ただ、巨大な魔導石・ヴェルデグリスが映っているのみだ。
映像を巻き戻し、必要な情報が記された場面まで戻す。
サイザリスと黒いローブの男が、ヴェルデグリスの傍らで会話するシーン。
ここだ!
『一応、魔導石の扱い方を教えておくよ』
『素人の貴様に教わるとは、わらわもやきが回ったものじゃ』
『まあ、そう言わないで、万が一暴走とかした時の為に、必要だろう?
――”解放の言葉”と”破壊の言葉”が……』
ここまでは、さっき聞いた。その先だ――。
『必要ないとは思うが、聞いておこうか?』
ごくりと唾を、飲み込むクラル。
『いい心がけだよ。どんなに優れた魔導師でもリスクは付き物だからね。
それじゃあまず、万が一暴走した時に使う”破壊の言葉”だ。
それは――――』
「!」
確かに聞いた。
焦らず、映像をリプレイしてもう一度聞く。
間違いなく覚えた……!
遂に、ヴェルデグリス、”破壊の言葉”――それらを操るサフィリアが揃った!
映像を切り、深呼吸する。
これで終わる!
フィルグリフを持って帰れば確実だが、それはヴィオレッタを退けて安全を確保した後の話である。
クラルは、カラナたちを援護すべく――そして”破壊の言葉”をサフィリアに伝えるべく、地上へ走り出した。
***
カラナの放った”光鞭”が『ゴーレム』の一体の胴を薙ぐ!
その背後では、サフィリアの放った冷気で脚が氷漬けになり身動きを封じられた『ゴーレム』が二体!
このまま、”彼女”らも薙ぎ倒す!
腰にひねりを加え、腕を振って”光鞭”の軌道を変える!
しかし、突然真横の茂みから飛び出した『ゴーレム』のタックルを受け、突き飛ばされてしまう!
「くそッ!」
鞭の先端は、大きく狙いを外して爆散してしまった。
カラナの身体に馬乗りになった『ゴーレム』が樫の杖の柄尻を顔目掛けて突き下ろす!
咄嗟に顔を背けて潰されるのを避け、地面を突き刺した杖の柄を握り返した。
杖を取り戻そうと引っ張る『ゴーレム』とのちから比べになる。
『ゴーレム』がカラナに負けじと、彼女の脇腹を蹴り上げた!
「かはッ!」
呼吸が乱れ、思わず手を放す!
自由になった樫の杖を振り直し再びカラナの顔を割ろうと振り下ろした!
硬い音がして――樫の杖が吹っ飛ばされる!
飛んで来た氷塊が、杖をかっさらって行ったのだ。
隙をついて、蹴りのお返し!
『ゴーレム』の背中を蹴り上げ、吹き飛ばす!
地面を転がり、体勢を立て直す『ゴーレム』。だが、その胴体を鋭い氷の槍が射抜いた!
倒れ伏す『ゴーレム』の背後に、錫杖を構えたサフィリアの姿。
サフィリアの差し出した手に捕まり、カラナは立ち上がった。
服の埃を払いのけ、ヴィオレッタに向き直る。彼女を守る『ゴーレム』の数はあと二体にまで減っていた。
「さて……だいぶ戦力ダウンしたんじゃないかしら?」
カラナの挑発に、流石のヴィオレッタも表情が硬くなる。
その時――
「サフィリア様!」
館の入口から紅竜騎士団のローブを纏った『ゴーレム』――クラルが飛び出して来る!
「クラル! “破壊の言葉”は分かった!?」
「はい!」
クラルが大きく頷く。
「クラル、サフィリアに"破壊の言葉"を伝えて!」
カラナがヴィオレッタへ牽制の眼差しを送るあいだに、サフィリアがクラルに走り寄る。その牽制が効いたか、ヴィオレッタはサフィリアたちの様子を黙って見守っている。
「サフィリア様、耳を近づけてください!」
「早く! 早く教えて!」
クラルが耳打ちする様に、顔をサフィリアに近づける。
それに応えようと耳を近づけるサフィリアの――腹部をクラルが思い切り蹴り上げた!
「ぎゃッ!?」
鋭い悲鳴を上げて仰け反るサフィリア!
しかしクラルは全く躊躇なく、サフィリアの金髪を鷲掴みにし、その顔面に膝蹴りを見舞う!
「クラルッ! 何をするのっ!?」
ぐったりとちから無く崩れ落ちるサフィリアの金髪を掴んだまま――"彼女"は、こちらを振り向く。その顔に深く刻まれた狂気の笑み――!
「あんた……クラルじゃないわね!」
奥歯を噛み締め、カラナはその『ゴーレム』を睨みつける。
こいつはクラルではない!
良く似た外見の『ゴーレム』に、どこで手に入れたか紅竜騎士団のローブを纏わせた偽物だ。
ガランッと大きな音を立てて、サフィリアの手から錫杖が転がり落ちる。
完全に気を失っている様だ。
「動かないで下さい。貴女が動けば……サイザリス様のお命は保証出来ません」
勝利を確信した笑みを見せるヴィオレッタに、カラナは唾を吐く。
「脅しのつもり? あんたたちがサフィリアを傷つけられる訳がないわ」
「そうでしょうか? わたしたちはサイザリス様の忠実なる僕!
サイザリス様の復活が叶わぬのであれば、黄泉路をお供する覚悟があります」
言いながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。
藍色のローブを翻し、その下に携えていたレイピアをすらりと引き抜く。
「……ちくしょう!」
唇を噛んで、カラナは吐き捨てた。
動けない!
動けばこのヴィオレッタは本当にサフィリアの命を奪うつもりだ!
レイピアの剣針をゆらゆらと遊ばせる様に揺らしながら向けて来る。
カラナの胸元に、レイピアの切っ先を突き付け――――
「ここまでサイザリス様のお世話をしていただき、貴女には感謝しています」
――一気に、鍔元まで押し込んだ!
胸に熱い痛みが広がる!
カラナの胸を貫いた刃が――血にまみれて背中を突き破る!
「ああッ!」
串刺しにされた心臓が不規則に鼓動し、喉を逆流して血の塊が口から噴き出す!
弄ぶ様に、ヴィオレッタの剣が執拗に彼女の心臓を抉る。
「やめっ! やめて……ッ! 助けッーー!」
「ここでしばらく静かにしていて下さい。例えクラルと言う『ハイゴーレム』の魔法で蘇生出来ても――その頃には、わたしたちはサイザリス様を連れて大聖堂に到着しているでしょう」
ヴィオレッタが一気にレイピアを引き抜く!
鮮血を噴き出しながら――カラナの身体が仰向けに崩れ落ちる。
もがく様に腕を空高く突き出すが、それで出血が収まる訳もなく……。
やがて動かなくなったカラナを一瞥し――ヴィオレッタの姿が視界の外へと消えて行った……。
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