あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

文字の大きさ
31 / 51
第五章「魔女の遺産」

5-5:マザー・ヴィオレッタ

しおりを挟む
「こいつがアナスタシス教団のリーダーだね!?」

 サフィリアが、錫杖しやくじようを突き付けて、叫ぶ。
 そのヴィオレッタは、サフィリアを認めると、床にひざをつき深々とこうべれる。

「お初にお目にかかります。わたくしは、マザー・ヴィオレッタ。
 貴女あなた様の遺志を引き継ぎ、共和国からの主権奪還をこころざす者でございます」
「ふーん。すっかり忘れちゃったけど!」
 軽口で挑発するサフィリアに、なおも笑顔を返すヴィオレッタ。

「ご心配なさらぬよう。貴女様が記憶と魔力ちからを取り戻せる様に、わたくしたちも尽力じんりよくいたします」
「結構です!」

 サフィリアがヴィオレッタと舌戦ぜつせんを繰り広げているスキに、カラナは背後に視線をやる。
 ばらばらに崩れ落ちた器具や本の山にフィルグリフが埋まっている。
 運が良いことに、フィルグリフは無傷だ。乱れているが、スクリーンの再生も止まっていない。
 カラナは、サフィリアに視線を送る。意図が伝わったか、小さく首を振る。

「行くわよ!」
 叫ぶと同時に腕を前に突き出し、開いた手のひらに不可視の魔力を組み上げる!
 その魔力を、握り拳を作って圧壊あつかいさせた!
 同時に天井近くに浮かんでいた”照明球フレア”が弾け、部屋の中が白一色に染まる程に照らし尽くされる!

「……!」
 不意打ちの目くらましに、ヴィオレッタもひるんだか、ローブのすそで目をおおう。
「今よ!」
 カラナは腕に”光鞭プロミネンス”を編み上げ、姿勢を低くしてヴィオレッタに切り込む!
 同時に空中に跳躍したサフィリアが頭上から氷の結晶弾を浴びせかける!
 だが――!
 下からうねった”光鞭プロミネンス”をヴィオレッタはなんと素手で掴み取り、頭上を襲った氷塊を左で組み上げた”魔法障壁シールド”で消滅させてしまった!

 流石さすがにアナスタシスの最高幹部である。
 しかし、この攻撃が通らないのは想定済み!

 カラナは勢いそのままヴィオレッタのわきを抜けて部屋の外に走り出す。それを追ってサフィリアも着地しカラナに続いた。

 階段を駆け上り、通路を走って、扉を破りやかたの表へ飛び出す!
 地面の上を転がり、館の入口から距離を取って向き直る。

 若干じやつかん間を置いて、ヴィオレッタが悠々と入口から姿を現す。同時に、複数体の『ゴーレム』が周囲の草むらから飛び出し、その彼女の周りに円陣を組んだ。

 うまく、ヴィオレッタを地上に誘い出すことに成功した。
 彼女は、部屋のすみにうずくまっていたクラルの存在に気付いていない。
 今ごろ、クラルはフィルグリフの映像を再生し、”破壊の言葉エンバーコード”を聞いているはずだ――――

 ***

 部屋に充満じゆうまんしていた煙がようやく収まり、クラルは頭の上に振って来た瓦礫ガレキを払いのけ、立ち上がった。

 カラナとサフィリアは地上に戻り、ヴィオレッタも追って行った様である。
 自分に任された使命は分かっている。

 小走りに瓦礫に埋まったフィルグリフに近寄り、掘り起こして手近な瓦礫の上に立たせる。
「早く……”破壊の言葉エンバーコード”を教えて……! カラナ様たちを援護しなくては……!」

 映像は、すでに関係のない場面まで進んでおり、誰も映っていない。
 ただ、巨大な魔導石・ヴェルデグリスが映っているのみだ。

 映像を巻き戻し、必要な情報が記された場面まで戻す。

 サイザリスと黒いローブの男が、ヴェルデグリスのかたわらで会話するシーン。
 ここだ!

『一応、魔導石の扱い方を教えておくよ』
素人しろうとの貴様に教わるとは、わらわもやき、、が回ったものじゃ』
『まあ、そう言わないで、万が一暴走とかした時の為に、必要だろう?
 ――”解放の言葉マギコード”と”破壊の言葉エンバーコード”が……』

 ここまでは、さっき聞いた。その先だ――。
『必要ないとは思うが、聞いておこうか?』
 ごくりとつばを、飲み込むクラル。

『いい心がけだよ。どんなに優れた魔導師でもリスクは付き物だからね。
 それじゃあまず、万が一暴走した時に使う”破壊の言葉エンバーコード”だ。
 それは――――』
「!」

 確かに聞いた。
 焦らず、映像をリプレイしてもう一度聞く。

 間違いなく覚えた……!

 ついに、ヴェルデグリス、”破壊の言葉エンバーコード”――それらを操るサフィリアがそろった!
 映像を切り、深呼吸する。

 これで終わる!

 フィルグリフを持って帰れば確実だが、それはヴィオレッタを退けて安全を確保した後の話である。
 クラルは、カラナたちを援護すべく――そして”破壊の言葉エンバーコード”をサフィリアに伝えるべく、地上へ走り出した。

 ***

 カラナの放った”光鞭プロミネンス”が『ゴーレム』の一体の胴をぐ!
 その背後では、サフィリアの放った冷気で脚が氷漬けになり身動きを封じられた『ゴーレム』が二体!
 このまま、”彼女”らも薙ぎ倒す!
 腰にひねりを加え、腕を振って”光鞭プロミネンス”の軌道を変える!
 しかし、突然真横の茂みから飛び出した『ゴーレム』のタックルを受け、突き飛ばされてしまう!
「くそッ!」
 鞭の先端は、大きく狙いを外して爆散してしまった。

 カラナの身体に馬乗りになった『ゴーレム』がかしの杖の柄尻を顔目掛めがけて突き下ろす!
 咄嗟とつさに顔をそむけて潰されるのを避け、地面を突き刺した杖の柄を握り返した。
 杖を取り戻そうと引っ張る『ゴーレム』とのちから比べになる。

 『ゴーレム』がカラナに負けじと、彼女の脇腹を蹴り上げた!
「かはッ!」
 呼吸が乱れ、思わず手を放す!
 自由になった樫の杖を振り直し再びカラナの顔を割ろうと振り下ろした!

 硬い音がして――樫の杖が吹っ飛ばされる!
 飛んで来た氷塊が、杖をかっさらって行ったのだ。
 スキをついて、蹴りのお返し!
 『ゴーレム』の背中を蹴り上げ、吹き飛ばす!

 地面を転がり、体勢を立て直す『ゴーレム』。だが、その胴体を鋭い氷の槍が射抜いぬいた!
 倒れ伏す『ゴーレム』の背後に、錫杖を構えたサフィリアの姿。

 サフィリアの差し出した手に捕まり、カラナは立ち上がった。
 服のほこりを払いのけ、ヴィオレッタに向き直る。彼女を守る『ゴーレム』の数はあと二体にまで減っていた。

「さて……だいぶ戦力ダウンしたんじゃないかしら?」
 カラナの挑発に、流石のヴィオレッタも表情が硬くなる。
 その時――

「サフィリア様!」
 館の入口から紅竜騎士団ドラゴンズナイツのローブをまとった『ゴーレム』――クラルが飛び出して来る!
「クラル! “破壊の言葉エンバーコード”は分かった!?」
「はい!」
 クラルが大きく頷く。

「クラル、サフィリアに"破壊の言葉エンバーコード"を伝えて!」
 カラナがヴィオレッタへ牽制けんせいの眼差しを送るあいだに、サフィリアがクラルに走り寄る。その牽制が効いたか、ヴィオレッタはサフィリアたちの様子を黙って見守っている。

「サフィリア様、耳を近づけてください!」
「早く! 早く教えて!」
 クラルが耳打ちする様に、顔をサフィリアに近づける。
 それにこたえようと耳を近づけるサフィリアの――腹部をクラルが思い切り蹴り上げた!

「ぎゃッ!?」
 鋭い悲鳴を上げて仰け反るサフィリア!
 しかしクラルは全く躊躇ちゆうちよなく、サフィリアの金髪を鷲掴わしづかみにし、その顔面にひざ蹴りを見舞みまう!

「クラルッ! 何をするのっ!?」
 ぐったりとちから無く崩れ落ちるサフィリアの金髪を掴んだまま――"彼女"は、こちらを振り向く。その顔に深く刻まれた狂気の笑み――!

「あんた……クラルじゃないわね!」
 奥歯を噛み締め、カラナはその『ゴーレム』をにらみつける。
 こいつはクラルではない!
 良く似た外見の『ゴーレム』に、どこで手に入れたか紅竜騎士団ドラゴンズナイツのローブを纏わせた偽物だ。

 ガランッと大きな音を立てて、サフィリアの手から錫杖が転がり落ちる。
 完全に気を失っている様だ。
「動かないで下さい。貴女あなたが動けば……サイザリス様のお命は保証出来できません」
 勝利を確信した笑みを見せるヴィオレッタに、カラナはつばを吐く。

「脅しのつもり? あんたたちがサフィリアを傷つけられる訳がないわ」
「そうでしょうか? わたしたちはサイザリス様の忠実なるしもべ
 サイザリス様の復活が叶わぬのであれば、黄泉路よみじをお供する覚悟があります」
 言いながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄る。

 あい色のローブをひるがえし、その下にたずさえていたレイピアをすらりと引き抜く。
「……ちくしょう!」
 唇を噛んで、カラナは吐き捨てた。

 動けない!
 動けばこのヴィオレッタは本当にサフィリアの命を奪うつもりだ!

 レイピアの剣針けんしんをゆらゆらと遊ばせる様に揺らしながら向けて来る。
 カラナの胸元に、レイピアの切っ先を突き付け――――
「ここまでサイザリス様のお世話をしていただき、貴女には感謝しています」
 ――一気に、鍔元まで押し込んだ!

 胸に熱い痛みが広がる!

 カラナの胸を貫いた刃が――血にまみれて背中を突き破る!
「ああッ!」
 串刺しにされた心臓が不規則に鼓動し、のどを逆流して血の塊が口から噴き出す!

 もてあそぶ様に、ヴィオレッタの剣が執拗しつように彼女の心臓をえぐる。
「やめっ! やめて……ッ! 助けッーー!」
「ここでしばらく静かにしていて下さい。例えクラルと言う『ハイゴーレム』の魔法で蘇生出来ても――その頃には、わたしたちはサイザリス様を連れて大聖堂に到着しているでしょう」

 ヴィオレッタが一気にレイピアを引き抜く!
 鮮血を噴き出しながら――カラナの身体が仰向あおむけに崩れ落ちる。

 もがく様に腕を空高く突き出すが、それで出血が収まる訳もなく……。
 やがて動かなくなったカラナを一瞥いちべつし――ヴィオレッタの姿が視界の外へと消えて行った……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...