あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

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第五章「魔女の遺産」

5-6:カラナとクラル

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 視界のすみに、明かりが見える……。
 火が燃える様な、光の明滅めいめつ…………。

「!?」
 カラナは飛び起きる様に上体を起こした!

 息は大きく乱れ、全身を冷たい汗が伝う。
 かなり泣いたのか、頬がぱさぱさにかわいている。
 咄嗟とつさに服を引っ張って胸元をのぞく!
 ヴィオレッタに刺しつらぬかれた傷は――ふさがっていた。

「……生きてる……?」
 自分の両肩をつかんで身体をすぼめる。

 周囲は夜を迎え、闇に包まれていた。
 カラナの軽装鎧ライトアーマーは脱がされ、身体には丁寧ていねいに毛布をかけられている。
 寝かされていたらしい。
 すぐ手の届くところで、たき火がぱちぱちと音を立てている……。

 ゆっくりと周りを見回す。
 どうやら、サイザリスの魔導研究所マジツクベースのすぐ横にいる様だ。
「!」
 さらに視線を移動させると、たき火の反対側にクラルがいた。
 横にならず、ひざを抱えて身体を丸めている。

「……クラル……?」
 カラナの呼び声に、はっとした表情でクラルは顔を上げる。
「カラナ様! 良かった、気が付かれたのですね!?」
 足早にこちらに近寄り、カラナの手を握り締めて来る。

貴女あなたが治してくれたのね?」
「……間に合わなかったかと心配しました」
 状況がようやく飲み込め、カラナは下を向いた。
「……サフィリアが連れて行かれたわ」
「……はい」
 分かり切ったカラナの言葉に、クラルは丁寧にうなずいた。
 唇を噛んで、自分の服の胸元を握り締める。

 頭を振って、視線を上げる!
 膝を立てて、立ち上が――ろうとしたが、まるでちからがこもらず尻を打つ!
「ダメです! あと半日は安静にしていないと!」
「そんなヒマはないわ! すぐにテユヴェローズに戻らないと!」

 立ち上がろうとするカラナを必死にクラルは押さえつける。
「いま動いたら傷が開いてしまいます! 今度、心臓が破けたら終わりです!」
 涙ながらにうつたえる。

「それに、テユヴェローズまではどんなに急いでも四、五日はかかります! 慌てて出発しても途中とちゆうで行き詰る可能性が――――!」
「あんたは黙っててッ!」
 しつこく迫る"彼女"に、カラナは怒りを吐き出した!

「あんたは『ゴーレム』でしょ! 『ゴーレム』なら人間の言う事を聞きな……――!」
 すべて言い切ってしまってから、カラナは言葉を飲み込んだ。
 ……飲み込んだつもりだった。

 クラルが手を、ゆっくりと離す……。
「……申し訳ありません……! わたし……つい口ごたえを……っ!」

 顔を両手でおおい、肩を震わせてむせび泣く少女を見下ろす。

 焦りから、つい言葉をあやまってしまった。
 ……いや、そんなものは言い訳だ。

 声を上げて嗚咽おえつする"彼女"の肩をカラナは両手で抱えた。
「ごめん……っ! ごめんなさい!」
 クラルの身体を引き寄せ抱きしめる。
「あたし、とんでもない事を言ったわ……! 本当に、ごめんなさい……!」

 頭を上げるクラル。目に涙をめたまま、首を横にゆっくりと振る。
「大丈夫です。
 ……ですが、せめて明日あすの朝まで、安静にしていて下さいね?」
 クラルの胸に頭をうずめ、目を閉じる。
「……分かったわ。ありがとうね……クラル……」

 夜が深まるにつれ、寒さが厳しさを増す。
 洞窟の向こうに残した馬に、荷物をすべて背負わせたままになっている為、だんを取る手段はたき火の炎しかない。
 肌寒さを避けようと、カラナはクラルの背後から彼女を抱きしめた。
 クラルもそのカラナに身をあずけ、ちからを抜いてもたれかかる。
「そう言えば……"解放の言葉マギコード"と”破壊の言葉エンバーコード”はどうなった?」

「大丈夫、ちゃんと覚えているわ。……けれど、サイザリスのフィルグリフは、ヴィオレッタに持ち去られてしまったみたい。
 わたしが、あの時持って来ていれば、奪われる事もなかったのに……」
「いいえ……。クラルが持っていたら、クラルも危険にさらされていたわ。
 あたしにも、その"破壊の言葉エンバーコード"を教えておいてくれる?」

 下からカラナの顔を見上げるクラル。
 小さく首を横に振って口をざす。
「……なんで?」
「マザー・ヴィオレッタは”破壊の言葉エンバーコード”を知っている者を許さないわ。
 知っていれば、今度こそヴィオレッタはカラナの命を奪おうとする」
 真剣な眼差まなざしが向けられる。
「わたしが責任を持って、サフィリアに伝える」
「……わかった。貴女に任せるわ」
 ぽんっと彼女の頭をでる。

「ヴィオレッタは、そのサフィリアをどこへ連れて行ったの?」
 クラルの問いに、カラナはテユヴェローズの方角を見る。
「おそらく大聖堂よ」

 現状、"解放の言葉マギコード"と"破壊の言葉エンバーコード"は、クラルの頭の中と、サイザリスのフィルグリフの中にしかない。
 フィルグリフは、ヴィオレッタに奪われたが、起動出来できる者はサフィリアしかいない。サフィリアが望まない限り、あれ・・が起動される事は無いだろう。

 ならば、サフィリアを直接ヴェルデグリスに接触させる。それが、ヴィオレッタが取る当然の選択だ。以前、ローザもサフィリアとヴェルデグリスの接触を危険視していた。

 何が起きるのかは分からないが、ヴィオレッタにとって何らかの進展が起きる事は間違いない。

「……わたしたちは、サフィリアを助けられるかな?」
「策はあるわ。アナスタシス教団のフィルグリフは出せる?」
 クラルがローブの胸元から、フィルグリフを取り出し起動する。

 空間に投影された例の地図が、淡い光で二人を照らす。
 クラルの肩越しに回していた腕を伸ばして、カラナは地図を指差した。
「テユヴェローズまでの道中どうちゆうは複数の街道があるわ。選択肢は公式の地図に載っているだけで三本……」

 それ以外にも、非公式に開拓された街道が存在する。
 テユヴェローズへ帰還するヴィオレッタの一行いつこうも、必ずこれらのどれかを通る。
 しかし、選択肢が多すぎて、道中に追いつくことは現実的ではない。

 先手を打ってサフィリアを奪還する為には、テユヴェローズに先回りし迎え撃つしかない。
「でも、テユヴェローズへ先回りなんて……時間的に無理では?」
 不安の表情を見せるクラルの頭を撫でる。

「そこで、答えは西にあるわ!」
 テユヴェローズの反対側――西の一帯を指で囲ってカラナは頷いた。
「ここで、奴らの動きをにぶらせる」
「?」

 ***

 翌朝――。

 クラルは、テユヴェローズの西、ハイドラジア公国との国境に来ていた。
 南北に走る石造りの壁が鬱蒼うつそうとした森を分断している。
 これがテユヴェローズ共和国とハイドラジア公国の国境線ボーダーラインだ。

 国境と街道が交わる地点には関所ゲートがあり、両国側の広場になった更地さらちには、越境えつきようを待つ旅人のキャンプがある。
 規模は色々で、個人の小さなテントから、商隊キャラバンの大型のテントまで様々。

 クラルは、それらを見渡せる小高い丘に陣取り、身を伏せて様子をうかがっていた。
 目標は――ハイドラジア公国皇族隊のキャラバン。
 一目でそれと分かる大きな一団コンボイが、キャンプ場の中央辺りに陣を張っている。

「……こんな事していいのかなぁ……?」
 ため息を吐いて、クラルは身を起こす。

 相手を誤認させる為、彼女は今、黒いローブをまとっている。
 自分のローブものはテユヴェローズでアナスタシス教団に侵入した際、ぼろぼろになってしまった為、サイザリスの魔導研究所マジツクベースでカラナがたおした『ゴーレム』からぎ取ったものだ。

 これもサフィリアの為だ。
 むを得ない――と都合良く解釈して”光弾キヤノン”の”マギコード”を組み上げる。

 丘のいただきに立ち上がり、腰を落とし――腕を突き出して標準する。
 しっかりと狙いを定め――
 クラルは手のひらに生まれた”光弾キヤノン”を、キャラバン目掛めがけて連射した!

 くうを斬る鋭い音とともに、光弾はキャラバンのテントに着弾し――あるいは地面をえぐり、軽い爆発音をかなでる!

 テントの中からわらわらと武装した兵士たちが飛び出して来る。
 構わずクラルは”光弾キヤノン”を撃ち続ける!
 立派なテントに穴が次々開き、ボロボロになって行く。一応、人に当たらない様に撃ってはいるが、テントの中までは確認出来ない。

 当たったところで、クラルの”光弾キヤノン”の威力では余程当たり所が悪くなければ打撲程度で済むだろう。
 こちらの存在を兵士たちが確認し、雄叫おたけびを上げて丘を駆け上がって来る!

「もういいかな?」
 頷いてクラルは撃ち方を止め、身をひるがえして反対側の斜面を駆け下りた!
 人間には真似まね出来ない身のこなしで、地面から突き出た岩を飛びづたいながら、平地まで一気にくだって行く。

 兵士たちが丘の頂上に到着した頃には、丘を下りきり森の中へと姿をくらました。木々の間を通り抜け、先の街道で待つカラナの元へ。

 森を抜け街道に出ると、カラナが馬を用意して待っていた。
「うまく行ったわ!」
「オッケー! じゃ、突っ走るわよ!」

 自分の馬にまたがり、カラナに続いて馬を東に走らせる。振り返れば、はるか遠くになった丘の斜面を兵士たちが悪戦苦闘しながら下っているところだった。
 人間があの急勾配こうばいを下るのは一苦労だろう。

「これで……大丈夫かな!?」
「きっとうまく行くわよ!」
 そう信じるしかない。
 クラルとカラナは頷いて、テユヴェローズへの街道を駆けて行った。
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