あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

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第六章「引き裂かれる者たち」

6-4:近づくヴェルデグリス

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 地面に落ちたレイピアを左手で拾い上げ、憎しみに満ちた眼差しをそそぐ。
 肩で大きく息を吐き、痛みのせいか怒りのせいか、その眼に涙が溜まっている。

「おのれッ!」
 普段の悠々ゆうゆうとした口調から一転、怒気を含んだ声を発し、ヴィオレッタがレイピアを振りかざして一直線に走り込んで来る!

「ヴィオレッタ様!」
 奥でカラナと対峙たいじするシスターが牽制けんせいする!
 彼女らから見ても無謀な攻撃に映ったのだろう。しかし、ヴィオレッタは聞く耳を持たない。
 サフィリアの直前で、レイピアを振り上げる!

 だが、見逃すワケがない!
 死角となった右腕の、何とか残った人差し指の先端に魔力のかたまりを生み出している事を!

 二人のあいだに割って入ったクラルが、組み上げた”魔法障壁シールド”で、繰り出された魔力の塊をその右腕ごと制する!
 利き手でない左腕で突き出されたレイピアを軽くあしらって、サフィリアは冷静に氷弾を一撃、ヴィオレッタの胴に叩き込んだ!

 鈍い音が響き渡り――ヴィオレッタの左肩を氷弾が貫通する!

 赤い血にまみれた氷の粒が虚空に消え、その軌跡に血しぶきが噴き出す。
 ヴィオレッタの表情がこおりつき――――レイピアがちからなくその手からこぼれ落ちる。
 これで彼女は両腕の自由を失った。
「勝負あり……だね?」
 牽制の構えを崩さぬまま、サフィリアはヴィオレッタをにらみつけた。

「違うわ、サフィリア!」
 響くカラナの声!
 その言葉の意味を理解する前に――――

「そうですね。違います……」
 頭上から聞こえる冷静なヴィオレッタの声。
 その右腕に作られていた魔力の塊が、クラルの目の前で弾ける!
 無論、”魔法障壁シールド”で防御したハズだが!?

 状況を理解する前に、腹部に重い衝撃を受ける!
「がはッ!?」
 想定外の一撃に受け身を取れず、サフィリアはまともに石畳の上を転がった!
 痛みが広がる腹を押さえ、頭を振って顔を上げる。
 そこには――蹴りを撃ち込んだ姿勢で構える、クラルの姿!

「クラル……何をするの!?」
 問いに彼女は答えない。わりにうっすらとした笑みを浮かべる。
 そのひたいの魔導石が淡く、あおく、光を放つ。

「……感情抑制マインドコントロール……!」
 ようやくその単語が、頭に浮かんだ。
 ヴィオレッタが右腕に生み出した魔力の塊。あれは、攻撃のための光弾キヤノンではなく――クラルを操る感情抑制マインドコントロールの術だったか!

 そのヴィオレッタは大量の失血しつけつで意識を失いかけたか、両ひざをついて倒れ込む。
「……さぁ、わたしの『ハイゴーレム』よ。傷をいやしておくれ」
「分かりました」
 ヴィオレッタのそばに歩み寄り、回復魔法リカバリを彼女にあてがうクラル。

「クラル!」
 叫んで彼女を制する!
 だが、もはやサフィリアの言葉は彼女に届かず、わずかな時間でヴィオレッタの傷が復元して行く。
 元のかたちに戻った右手を何度か握って満足そうにうなずく。
 ゆっくりと立ち上がると、ヴィオレッタとクラルが、サフィリアを睨みつけた。

「クラル、目を覚ましなさい! 貴女あなた主人マスターはサフィリアよ!」
 カラナが一喝いつかつするが、クラルはまるで動じない。
 ゆっくりと、サフィリアに歩み寄る。
めて……止めてクラル!」

 後ろに下がりながら、クラルを牽制するサフィリア。
「断っておきますが……」
 んだヴィオレッタの声が響く。
「わたしの意思ひとつで、そのクラル『ハイゴーレム』の魔導石を打ち砕く事が出来できるのをお忘れなき様に」
「……っ!」

 抵抗ていこうするな、と言う意味だろう。
「クラルが壊されるぐらいなら……サフィリアは自分で頭を撃ち抜くよ!」
 震えた声で怒鳴どなり、錫杖しやくじようの先端を自分の頭にあてがう。
 腕も大きく震え、標準はまるで定まらない。

 そうこうしている内に無言で差し出されたクラルの右手に――サフィリアは目をつぶって錫杖を差し出した。
 サフィリアに――自分の頭を撃ち抜く勇気はなかった。

「行きましょう……」
 クラルの左手を握り、ヴィオレッタに先導せんどうされてゆっくりと歩き始める。

 大聖堂の扉の前で闘っていたカラナを見る。
 彼女なら、クラルを破壊するか……?
 だが、カラナも攻撃の手をゆるめ、三人に道を開けた。

「おや……意外ですね? 貴女あなたならば躊躇ちゆうちよなくクラル『ハイゴーレム』を破壊しにかかると思っていましたが……」
「……色々事情があるのよ……!」
 ヴィオレッタの問いかけに、カラナが吐き捨てる。

 そのカラナに、生き残っていた『ゴーレム』たちが光弾を差し向ける。
 が、その動きをヴィオレッタが腕を上げて制する。
 指示に従い、”光弾キヤノン”を消滅させひざまずくシスターと『ゴーレム』。

「彼女はサイザリス様の覚醒かくせいを見届けてもらう大切な客人。手出しはなりません」
 左手で大聖堂の扉を指差し、こちらへどうぞと言う風に道を譲る。

「…………」
 カラナが黙って大聖堂の扉を開く。
 深夜の冷えた空気が充満する大聖堂の中を、四人が歩く足音が木霊こだまする。

「そこで待ちなさい」
 ヴィオレッタが一行いつこうの前に進み出て、壁の彫刻が持つ魔導石に手をあてがう。
 “マギコード”を組み上げ、魔導石に青い光をともすと、床の一部が四角く光で切り取られて消滅し、地下聖堂へ通じる階段が姿を現した。
 カラナですら、ローザに教えられるまで知らなかった『封印の間』の入口を、当たり前の様に開けて見せる。

「もう聞いてしまうけれど、やっぱり元老院の中に協力者がいるワケ?」
「我が教団の情報網を甘く見ないでいただきたい、とだけもうしておきます」

 シスターや『ゴーレム』に、周囲の警戒を指示し、『封印の間』へは、サフィリアとカラナ、クラル、そしてヴィオレッタの四人のみで降りて行く事になる。

 ヴィオレッタにうながされ、サフィリアを先頭に『封印の間』への螺旋らせん階段を降りて行く。
 クラルはサフィリアにぴったりと寄り添っている。仮にカラナがサフィリア奪還のスキうかがっていたとしても、これでは手出しできない。

 暗闇の階段に、あかい光が差し込み始める。
 やがて辿たどり着いた最下層の扉に、ヴィオレッタが手をかけた。

 ゆっくりと開いて行く扉の向こうから差し込むのは鮮烈の深紅――――。

 怒りと憎悪のごとき紅い光を放つ、巨大な封印石"ヴェルデグリス"が、変わる事無く安置されていた。
 カラカラののどに、つばを飲み込む。
 サフィリアの身体は恐怖でもはや動かない。

「一応、念のためにうかがいますが――」
 ヴィオレッタが腰をろしてサフィリアの顔を覗き込む。
「――魔導研究所マジツクベースから持ち出したフィルグリフを再生し、素直に”解放の言葉マギコード”を聞き出すおつもりはないでしょうか?」
 サフィリアには、その言葉は聞こえていなかった。
 何を言ったの? と言う表情で見つめ返されたヴィオレッタが、軽く息をつく。

「そうですね。今は欲張らず、サイザイリス様に、ヴェルデグリスを触れていただきましょう」
 クラルが、サフィリアの肩に手をかけ前へ進むようにうながす。
 ゆっくりと一歩一歩、ヴェルデグリスに近づいて行く……。

 真っ赤に輝くヴェルデグリスは、まるで燃えている様だ。
 実際には輝いているだけで熱を発している訳でもないが、近づけば近づくほど、身を焼かれてしまう恐怖に包まれる。

 誰も気が付かなかったが、ヴェルデグリスの光にまぎれて、サフィリアのイヤリングの宝石が共鳴する如く、淡い光を帯び始めていた。

 ついに――サフィリアとヴェルデグリスが手の届く距離まで近づく。
 その背後にぴたりと着くクラル。
 肩越しにサフィリアの腕を取り、ヴェルデグリスに触れる様に促した。

 涙にまみれて、首を大きく横に振る。
「ヤだ……! イヤだ! めてよクラルッ!」
 ちからを込めて抵抗するが、クラルはまったくどうじない。
 途轍とてつもないちからで、サフィリアの腕を伸ばして行く!

「お願い、止めてッ!」
 サフィリアの泣き叫ぶ声と同時に――その指先がヴェルデグリスに触れた――――!
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