あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

文字の大きさ
39 / 51
第七章「別れの時」

7-1:サフィリアの選択

しおりを挟む
 カラナは大きく、気持ちを落ち着かせる様にため息を吐いた。

 自分が借りている、元老院議事堂の客室に戻り、乱暴にドアを閉める!

 普段使われていない、こざっぱりとした部屋。
 ベッドとテーブルに椅子、そして小さな机があるばかりの簡素な造り。
 置かれた家具はどれも高級品ぞろいだが、宿屋の様なおもてなし精神皆無かいむ無骨ぶこつな造りに窮屈きゆうくつさを覚える。

 部屋のすみの机に座り、カラナは引き出しから書類を引っ張り出した。
 今回の一件に関する資料ものではない。
 四日後に迫った戦勝記念日の特別警備概要がいようだ。

 机に広げた資料に目を落とし、頬杖を付いて目を通し始める。
 戦勝記念日には、多くの人が首都テユヴェローズに詰めかける。混乱を避ける為、共和国各地の国家防衛騎士軍グランド・アーミー、警察、そして紅竜騎士団ドラゴンズナイツから臨時警備兵がつのられる。

 カラナも、そもそもはこの為に首都へやって来た。
 そのハズだが、まるで身が入らず、背もたれにもたれかかって背伸びをする……。

 閉まりかかっていた水色のカーテンを押し広げ、窓から外を見やる。
 眼下に広がる街並みも、そこかしこでパレードの準備が進んでいた。
 メインゲートの前は、大きな演壇えんだんが組み立てられている最中さなかである。
 あそこで女神ローザが演説を行うのが、毎年の恒例こうれい行事となっていた。
 本人はあまり興味がない様だが……。

 気を取り直して、書類に向かう。
 必死に文字や警備経路の図に目を通し、指で筆を回して集中しようとするが、どうにも気が向かない。

「……散歩にでも行ってこよう」
 イスを蹴り、カラナは部屋を出た。
 部屋を出て通路を突き当たった先に、階下への階段がある。
 ぼんやりしながら、階段を降りて行く。
 カラナを見掛け、敬礼をする警備兵セキュリティガードに気の抜けた返礼をしながら、ふとハッとする。

 彼女の脚はいつの間にか、サフィリアの部屋へと向かっている……。

 サフィリアの事は、自分が一番良く分かっていると思っていた。
 しかし今は……同じフロアに部屋を取らない程、お互いの距離が離れてしまっている。

「……今日はもう、顔を合わせない方がいいわ……!」
 自分に言い聞かせる様につぶやき、振り向いて中庭へ抜ける入口へ向かう。

 外の天気は間の抜けた様に晴れ渡り、しおの香りをまとった海風が山に向かって心地よく吹き上げている。
 カラナは、中庭のすみにある展望台へと向かった。

 元老院議事堂は、街の一番高い場所に陣取り、展望台からその街を一望いちぼう出来できる。
 季節は深緑しんりよくの時期を迎え、中庭には青々としげる様々な植物。
 展望台の鉄柵フエンスさえぎられた向こうには、街の全景に加えみ切った抜ける様な青空と、視界いっぱいに広がる紺碧こんぺきの海が広がっていた。

 様々は”青”に囲まれて、カラナは深呼吸した。
 元老院の敷地内ではあるが、本館の役所ぜんとした無骨な空気からも、街の雑踏ざつとうからも解放される、中々の隠れた名所である。

 彼女以外には、この展望台を訪れている者はいない様だった。
 役所の人間には、逆にこう言う空気が肌に合わないのかも知れない。

 鉄柵フエンスにもたれかかり、ぼんやりと風景をながめる。
 海の上を往来おうらいする大小様々な船。
 ふと、一隻いつせきの大きな貨物船が目に留まる。

 商会の紋章が白抜きで描かれたくれないの帆をひるがえす大型船。
 レッドベリル魔導石製造商会ベンダーズの貨物船だ。
 ちょうど、輸入品を積み下ろし、沖合おきあいへ出て行くところだろう。
 その姿がだんだんと小さくなり、海のあおに飲まれて行く。

 つい最近も、どこかでレッドベリルの商船を目にした気がするが何処どこだったか……?
 思い出せない。

 誰もいない展望台で、カラナは海風に吹かれ――ひとり取り残された様な気分におちいっていた。
 その背後に――彼女を見つめるローザの姿があった……。

 ***

 カラナが去ってしばらくし、ようやくサフィリアはゆっくりと立ち上がった。
 テーブルの一点を見つめた視界がにごって行く。
 頬を涙がいくつもつたった。

 開いた窓の外――青いカーテンの向こうから、賑やかな市井しせいの声が響いて来る。
 戦勝記念日まで後四日。
 その準備に向け、街はにわかに活気付いていた。

 それは――サフィリアとローザとの約束の期限でもあったが……。

 クラルか、フィルグリフか……。
 カラナがサフィリアに突き付けた天秤てんびんは、彼女にとってどちらにもかたむがたいものだった。
 だが、どちらかは選ばなければならない。それは、彼女にも分かっていた。
 二兎にとを追う時間的な余裕はもはや残されていない。

 もし、カラナの言う通り、クラルがもう自分たちの事を覚えていないのだと言うのなら……
 もう自分の下へ戻って来てはくれないのだと言うのならば……

 その確証が欲しい。そうすれば、諦められる。

「……アイツに聞いてみるしかないか」
 深くうなずいて、サフィリアは開けっ放しになっている部屋の扉を見据みすえた。

 向かう先は、同じ元老院の敷地内に併設へいせつされた紅竜騎士団本部ドラゴンズホーム。その地下牢だ。
 元老院の本館と同じく時代を感じさせる古めかしい建物に、カラナと同じ軽装鎧ライトアーマーまとった紅竜騎士ドラゴンズナイトたちが大勢働いている。

 特に一般人の立ち入りが禁止されている施設ではないが、それでも部外者がウロウロするのははばかられる場所である。
 しかしサフィリアは――カラナの連れている子ども、と言う事もあってか、周囲の人間が特に口出しして来る事もなかった。
 出来できなかった、と言った方が正しいかも知れない。
 女神ローザの孫娘、と言うカラナの威光いこうは、そう言う意味では便利だった。

 特に呼び止められる事もなく――サフィリアは、地下牢へと足を運び、ひとつの牢の前で立ち止まる。
 ランプに照らされた薄暗い鉄格子てつごうしの向こうに――ヴィオレッタの顔があった。
 簡素な木のテーブルに向かって、何やら本を読んでいる。

「ああ……これは驚きでございます。まさかサイザリス様のご面会をいただけるとは……!」
 鉄格子の向こうから聞こえて来たヴィオレッタの声に、サフィリアはむっとした顔をする。
 手足を拘束され、すべての魔導石を没収されて無力化されていてもなお――ヴィオレッタの余裕に満ちた声に変化はない。
 変化がなさ過ぎて清々すがすがしい程だ。

「何か御用ごようでしょうか?」

 クラルの事なんだけど! ――と、口を突いて出かけた言葉を飲み込む。
 あまりがっつけば、こちらがヴィオレッタの情報を頼りにしている事をさとられ、足元を見られかねない。
 つとめて平静をよそおい、サフィリアはなるべく淡々と質問した。

「サフィリアたちが”クラル”って呼んでいた『ハイゴーレム』の事なんだけれど」
「ああ! ……あの『ハイゴーレム』の事でございますね。あれが何か……?」
あれ、、ってどうなったの?」

 サフィリアの問いに、ヴィオレッタが瞳を閉じてくすっと笑う。
「今ごろは、アナスタシス教団の本部にて本来の任務に戻っている事でしょう。
 サイザリス様は、あの『ハイゴーレム』の事がご心配なのですね?」
「…………」

 いくら平静を装っても、この女を相手に隠し通す事は難しい。
「任務って……教団本部のお掃除か何かかな?」
「いいえ……」
 話をらすつもりで適当に投げかけたサフィリアの言葉――――
「サイザリス様も良くご存知のハズでは?」
「ん?」
 ぱたんと読んでいた本を閉じ、ヴィオレッタがサフィリアに近寄る。
 腰を下ろして、口に手をえる。まるで秘密の話をする様に……。

「お忘れですか? あの『ハイゴーレム』が最初にこなしていた任務を……」
「!?」
 サフィリアが息を飲む!

 脳裏に浮かんだのは――燃え上がる農村の光景!

「あの『ハイゴーレム』の本来の任務は――コラロ村の殲滅せんめつでございます」
 サフィリアの言葉は、事態をより深刻な方向へと動かしていた。

 ***
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...