あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

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第七章「別れの時」

7-2:離れる心

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 ***

「どうしたのですか、カラナ?」
 不意に名を呼ばれ、振り向くとそこにはローザの姿。
「ローザ様……!」
 まさか、展望台こんなところに現れるとは思っておらず、カラナの声は上擦うわずった。

 ローザは、カラナに目線を合わせぬまま――その隣へと歩み寄り、展望台から、みずからが統治するテユヴェローズの街並みを見据みすえる。
「サフィリアを監視していなくても、大丈夫なのですか?」

 その言い草に、カラナは眉根を寄せた。
「あのは、あたしの友達です。監視しているつもりはありません」
「今の様子を見ると、そうは思えません」
 冷ややかな目線が、カラナを見下ろす。
「例えば――サフィリアを危険と判断したわたくしが、貴女あなたの不在を突いて、彼女に手をくだす――そう考えれば、こんなところで油など売ってはいられないハズです」

 痛いところを突かれ、カラナはローザに詰め寄った!
「お祖母ばあ様! サフィリアにもう少しだけ、時間を与えてやって下さい!」
 涙ぐんで懇願こんがんする孫娘に――ローザは厳しい視線を向ける。
「約束を反故ほごすると言うのですか?
 ……いいえ、他ならぬ貴女あなたの頼みであれば、こたえても良いと思っていました。ですがそれは、貴女がサフィリアを正しい方向に導けていれば、の話です」
「…………」

 ローザに対し、カラナは返す言葉もない。
 "破壊の言葉エンバーコード"を知るどころか、サフィリアをヴィオレッタの手中しゆちゆうに落とされ、ヴェルデグリスとの接触まで許した。――すべて、そばにいたカラナの責任である。
「本来であれば、今すぐにでもサフィリアを亡き者にし、危険を取り除きたい。それがわたくしの本音です……」
 七色のローブを大きくひるがえし、背中をこちらに向ける。
 その背中からは、失態しつたいを演じたカラナを責めている、無言の圧力を感じた。

「サフィリアとは今後について話しているのですか……?」
「……アナスタシス教団から、"破壊の言葉エンバーコード"が納められたフィルグリフの奪還を考えています……」
 本当の事は、言えなかった。
 クラルを取り返す事で、サフィリアと意見が対立しているとは……。

「分かりました。
 そう言う事であれば、最初に約束した期限までは待ちましょう。ですが――」
 肩越しに、ローザの金色こんじきまなこがカラナを見つめる。蛇ににらまれたかえるごとく――彼女の身体は引きった。
「――もし、サフィリアがこれ以上、魔女に近づく様な事があれば、もはやこのわたくしが直接、手を下します」

 ……やはり、この祖母ひとは、苦手だ。

 カラナの頬を、涙がつたった。
 何故なぜ、この人は孫娘を助けてくれないのか?

 確かに、今の事態をまねいたのはカラナ自身だ。
 自分のちからでサフィリアを護る――そう決めたのも彼女自身だ。

 だが、苦しむ孫娘カラナに――この祖母は手を差し伸べてもくれないのか?
 それすら、甘えだと言うのか……?

「……分かりました」
 もはや、涙声を隠す事も出来できず、カラナはローザの言葉にうなずいた。
 それに納得したのか、ローザが元老院議事堂に脚を運び――かけた時だった。

 ふと、遠くから二人を呼ぶ声が聞こえる。
 見れば、中庭の噴水や花壇で区切られた通路をまるで無視して、ひとりの男が走り寄って来る。服装からしてどうやら警備兵セキュリティガードの上級士官のようだ。

 カラナたちの前で、両ひざに手をつき、息を整えている。
 よほど全力が走って来たのか肩で大きく息を吐き、汗がしたたり落ちていた。
「……どうしました?」
 ローザが怪訝けげんな顔で声をかける。
 カラナも良くない予感が走り、胸に手を当てる。

「ヴィオレッタが脱走を……!」
「ヴィオレッタが!?」
 士官の言葉に、カラナは掴みかかった!

「いったい警備兵セキュリティガードは何をしていたのよ!?」
 士官の胸倉を掴み上げ、詰問きつもんする。
「それが……申し上げにくいのですが……サフィリア様が、脱走の手助けを……!」
「何ですって!?」
 カラナは思わず叫ぶ!

 サフィリア……何てバカな事を……!
 いや……自分は、何てバカなんだ!

 クラルを奪還するならば、ヴィオレッタと交渉する事が、一番の早道だ。
 こんな事は簡単に予想が着く。
 にもかかわらず、サフィリアから目を離してしまうとは……!

 自由を取り戻したヴィオレッタが、サフィリアをヴェルデグリスのもとへ連れて行こうとする事は、火を見るよりも明らかである!

 士官を突き飛ばし、ローザと視線をわす。
 彼女も大きくうなずく!
「カラナ、すぐに早馬を飛ばして大聖堂へ……!」
「違います!」

 ローザの言葉をさえぎり、絞められていた首元を押さえる士官がし示す。
 その方角は、大聖堂のある北東ではない。
「報告によれば……ヴィオレッタとサフィリア様は、馬を強奪ごうだつしコラロ村方面に逃走したと!」
「!?」

 コラロ村に?
 サフィリアはともかく、ヴィオレッタに何の用があって……?

「カラナ! 貴女は今すぐコラロ村へ向かいなさい!」
 ローザがカラナの両肩を強く掴む。
 その金色こんじき相貌そうぼうには、強い怒りとわずかな焦りが垣間かいま見えた。

「ローザ様は?」
「わたくしは、大聖堂に向かい万一に備えて待機します。
 大丈夫、仮に彼奴きやつらが裏をいて大聖堂に現れたとしても、このわたくしがヴェルデグリスには二度と触れさせはしません!」

 サフィリアの命を奪う。
 そう宣言されたも同然だが、もはや反論出来できる状況ではない!

「分かりました!」
 カラナは早馬を得るべく、メインゲートへ向かって走った!

 ヴィオレッタが何を考えて、コラロ村へサフィリアを連れて行ったのかは分からない。
 だが彼女のやる事だ。これもヴェルデグリス解放への布石ふせきに違いない!

 メインゲートで早馬を借り、街の大通りを走らせる!
 慌てて道を開ける市井しせいの人々。
 正午を告げる鐘が鳴り響く街中まちなかは、大勢の人々が行きっている。
 しかし、カラナの眼には、もはやそんなものは映っていなかった。

 彼女に見えていたもの――それは、サフィリアと闘う、自分の姿だった……!

 ***

 ヴィオレッタが駆る馬の背に揺られるサフィリア。
 日が沈み、真っ暗な夜空の真下に、向かうべきコラロ村がある。
 目の前に広がる星空をぼんやりと見つめながら、サフィリアはカラナの顔を思い浮かべた。

 とうとう――やってしまった……。
 カラナを――裏切った。

 クラルがひきいる『ゴーレム』群のコラロ村襲撃をカラナに伝えれば、彼女はもはやクラルに対して容赦ようしやはしないだろう。
 それが、彼女の紅竜騎士団ドラゴンズナイツとしての任務だからだ。

 クラルを取り戻す為に、サフィリアに必要なのは――カラナではなくヴィオレッタだった。
「コラロ村まではしばらくかかります。少し、目を閉じてお休みになって下さい」
 早馬を走らせるヴィオレッタが、肩越しに背後のサフィリアに語りかける。

 どんなに馬を飛ばしても、コラロ村までは一日以上を要する。
 彼女の言葉に従い、サフィリアは瞳を閉じた。

 目を閉じれば見えて来る。
 もはや見慣れた白と灰にいろどられた『封印の間』の光景――――。

 ――――――

 空中に飛び上がったローザと、長剣ロングソードを構えて突進するアコナイトが、サイザリスを挟撃きようげきする!
 だが――アコナイトの刃は、いとも簡単にサイザリスの錫杖しやくじようからめとられてしまう。
『!』
『ふむ。勇者と呼ばれるにはちと力不足ではないかな、アコナイト?』
『まずいッ!?』

 咄嗟とつさに剣を引き、飛び退こうとするアコナイトを、サイザリスの放った超低温の烈風が追撃ついげきする!
 あっという間に半身が凍り付き、身動きが取れなくなるアコナイト!

「アコナイト様!」
 記憶を見ているサフィリアが思わず声を上げて助けに向かおうとするが――。
 彼女の身体は大して動かない。

 そのサフィリアの背後で――強烈なあかい閃光がほとばしる!
 白と黒の世界に、ただひとつ色づく鮮烈の赤!
 見れば、滞空したローザの身体から紅い光が奔流ほんりゆうとなって流れ出し、ヴェルデグリスに吸収されている!

『わたくしの魔力を……封じるつもりですか!?』
『その通りじゃ!』
 両腕を広げ、勝ち誇った表情でサイザリスが高笑いを上げる。
『これがわらわの切り札! 魔力を封じ込める魔導石、名付けて”ヴェルデグリス”よ!』
 ヴェルデグリスに、サイザリスが恍惚こうこつの表情で頬を当てる。

 両者の戦いを、呆然ぼうぜんと見つめるサフィリア。
 その彼女の眼前を、何かが一条の矢となってつらぬいて行く!
 サイザリスが、手にした錫杖で、その”矢”を軽くいなす。弾かれた”矢”は、空中で回転し、サフィリアの足元に転がり落ちる!

「わっ!?」
 思わず飛び退く!
 “矢”と思ったものは、長大な一振りの剣。
 半身を氷漬けにされたアコナイトが投げたものだった。

 足掻あがきを見せたアコナイトに――サイザリスが冷めた目線を送り……
 軽く突き出した左腕に膨大な魔力を乗せて、勇者を氷塊ごと跳ね飛ばした!
 絶叫を上げながら、はるか遠くの壁に叩き付けられる!
 崩れた壁もろとも、床に倒れ落ちるアコナイト。

『アコナイト! 起きなさい! アコナイト!』
 サイザリスに身動きを封じられたローザが、必死にアコナイトの名を呼ぶ。
 だが、床に倒れた彼はぴくりとも動かない――……

「何だろう……。この――イヤな感じは……?」
 高笑いを上げるサイザリス――かつての自分の姿を眺めながら、サフィリアは眉を寄せた。

 自分の記憶の中なのに――どこか他人事の様な感覚……。

 そのサフィリアの鼻に、不意に焦げたにおいがまとわりつく。
「……何?」
 臭いなどまったく感じなかったこの記憶の世界で、唐突に感じた異臭に、サフィリアは顔をしかめる。

 ふと、考え――息をむ!

 ――――――

 馬上のヴィオレッタの背中で、サフィリアは飛び起きた!
「この臭いって……!?」
 ヴィオレッタの肩越しに、前方を見やる。

 星がまたたく夜空の下に広がる森林。
 焦げた臭いは、風に乗ってその向こうから広がっている。
 もうもうと立ち上がる――黒煙とともに……。
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