あたしが助けた少女は最恐の魔女だった!? ~魔導師カラナと魔女の封印石~

KASHIMA3508

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第七章「別れの時」

7-5:亡き少女のかたわらで……

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 夕闇ゆうやみに沈む森の向こうから、立ち上る黒煙。
 コラロ村の方角だ。

 故郷へつながる街道を、カラナは早馬を走らせた!
 コラロ村に近づくにつれ、鼻をつく焦げた臭いが強くなる。

 絶望的な思いが、胸中きようちゆうを支配して行く。
 まる一日以上走り抜け、ようやく村の入口が見えて来た!

 馬から飛び降り、入口に向かって駆ける!
 限界を超えて走った早馬はその場に崩れ落ちてしまった。

「…………!」
 村の入口に立ったカラナは、言葉を失った。

 崩れた家屋、一面黒く焼け切った田畑。
 あちこちの地面に開いた魔法弾による攻撃こん
 息を飲み、恐る恐る村の中央へと脚を踏み出す。

「カラナ隊長!」
 物陰から、人が出て来る。
 紅竜騎士団ドラゴンズナイツの騎士だ。
 騎士の男は、カラナに近づくと敬礼する。
「よくぞ、戻られました!」
「……遅かったみたいだけどね……」
 ちからなくカラナが答える。

「被害は……?」
 聴きたくない情報だが、指揮官として聞かない訳には行かない。
「重軽傷者は多数おりますが、幸い命を落とした者はおりません。リリオ殿の尽力じんりよく賜物たまものです! もちろん、お母上もご健在でございます!」
 ほっと胸を撫でおろす。

「それを聞いて安心した。……ところで、村にサフィリアが来ていない?
 ……ああ、ほら! あたしが首都に行く前に保護したよ」
「来ております。村の中央の広場に……」

 騎士の指差した方向にカラナは走る。
 途中、他の騎士たちにも出会う。
 どうやら村の中に入り込んだ『ゴーレム』は殲滅せんめつされているようだ。

 広場――と言っても周囲の家や倉庫が焼け落ちて、どこからどこまでが広場だったか分からない状況の――に駆けつけたカラナは、そのはしで座り込む金髪の少女を見つけた。
 その横に、リリオとカラナの母親ブランカの姿も確認できる。

「サフィリア!」
 名前を呼んで駆け寄る!
 向こうもこちらに気付き、顔を上げた。

 駆け寄り、ちから強く抱き締めたかった。
 だが、そのサフィリアの前に横たわるクラルの姿を見て、カラナの脚は止まってしまった。

 地面に寝かせられたクラル。
 黒いローブの胸元は大きく裂け、そこからのぞく白い肌には、ぱっくりと大きく深い傷が口を開けている。

 顔は生気せいきを帯びておらず、唇は紫に変色し、飛び散った血は赤黒くにごっている。
 致命傷を負ってから、かなりの時間が経過したことを意味していた。

「クラル……!」
 横たわるクラルの横に、カラナがひざを着く。
「……クラル……死んじゃった……」
 ぽつりとサフィリアがつぶやく。
「どうして!?」
 叫んで声を上げるカラナ。
 相手はサフィリアではない。
 リリオだ。

「何で貴女あなたがいながら、クラルを助けられなかったの!?」
「……何がクラルよ!」
 凄い剣幕で怒鳴どなるリリオ!
 その声に激しい憎悪が込められている。

「わたしは……こいつに首を折られたのよ! もう少し遅かったらわたしは……!
 わたしだけじゃない! コイツの率いた『ゴーレム』群が村を焼いたんだ!」
 物言わぬクラルをにらみつける!

 状況が飲み込め、カラナは押し黙る。
 目に溜まった涙と表情から、リリオの味わった恐怖が伝わって来た。

 コラロ村の者たちはクラルを『ハイゴーレム』の襲撃者としてしか知らない。
 助けなかったとしてもそれは当然で、非難すべき事ではないのだ。

「ちくしょう……!」
 クラルの胸に突っ伏して、サフィリアが嗚咽おえつを上げる。
 その肩をカラナは優しく叩いた。
「いつまでも野ざらしでは可哀想かわいそうよ。きちんと埋めてあげましょう」
 ゆっくりと頭を上げ、頭を振るサフィリア。

 皆が皆、鎮痛ちんつうな表情で下を向く。
 しかし、その気持ちは皆、バラバラだった。

「ああ……なんと可哀想なサイザリス様……!」
 そんなカラナたちの気持ちは、何処どこ吹く風の声が背後から響く。

 声の主に、全員の視線が集まる。
 今までどこにいたのか、銀髪の女、マザー・ヴィオレッタが悠々ゆうゆうと歩み寄って来た。

「ヴィオレッタ!」
 聞いた事もない怒声どせいをサフィリアが響かせる!
 立ち上がり、獣の様な表情で怒りをぶつけた!

「どのツラ下げてサフィリアの前に出て来たんだ! あんたのせいでクラルが……!」
 しかし、サフィリアの身震いする程の殺気も、ヴィオレッタにはどこ吹く風だ。
「ああ……! 『ゴーレム』の一体ごときにそこまでの愛情を注ぐサイザリス様!
 なんとお優しことでしょう……!」
「黙れッ! クラルのカタキを取ってやる!」
 息を荒げて、ヴィオレッタに詰め寄り、鬼の形相ぎようそうで睨みつける。

 自分を見上げるサフィリアの顔を、ヴィオレッタはにっこりと見下ろす。
「サイザリス様、クラルその『ハイゴーレム』を救う方法がただひとつだけございます」
「え……?」
 自分のローブに掴みかかるサフィリアの手を優しく離し、こうべを垂れる。

貴女あなた様が、魔女としても魔力ちからを取り戻せば良いのございます」

「あんたッ!?」
 カラナは立ち上がり、ヴィオレッタに怒鳴る!

 そう言う事か・・・・・・
「その為にクラルを取り戻して……コラロ村を焼いたのね!?」
 にやりと唇の端を歪めて、立ち上がるヴィオレッタ。
 
 ヴィオレッタの言葉に放心状態のサフィリアが、クラルの亡骸に視線を送る。
「サフィリアが魔女に戻れば……クラルを救える……!?」
「耳を貸してはダメよ、サフィリア!」
 カラナが制するが、ヴィオレッタは構わず相槌あいづちを打つ。
「そうです。そもそも貴女様は『ゴーレム』の創造主。ならば、破壊された『ゴーレム』を修復する事など、造作もない筈です」

 カラナは、魔導石に魔力を組み込んで右腕を振るった!
 指先から、高熱を帯びた"光鞭プロミネンス"が伸び、鋭い孤を描いてヴィオレッタの首を刈り取りにかかる!

 ヴィオレッタをこれ以上、生かしておくのは危険だ!

 だが――その動きをヴィオレッタは読んでいた!
 無造作に振り上げた左腕で、カラナの"光鞭プロミネンス"を掴み取る!
「お忘れですか? わたしの防御能力を?」
 "魔法障壁シールド"の強い光に包まれた彼女の腕は、触れれば物体を消し炭にする"光鞭"の熱をものともしていない。

 逆に――カラナの鞭を引き寄せると、ヴィオレッタは強烈な雷撃を流し込んだ!
 紫色の雷が、鞭を伝ってカラナの全身にほとばしる!

「きゃああッ!」
 雷撃に全身を焼かれ、その場に崩れ落ちる!
 自身の肉が焦げる臭いが、鼻を衝く。

「カラナ!」
 母のブランカが、娘の焼かれた姿に悲鳴を上げる!
 二人の悲鳴を聞き付け、紅竜騎士団ドラゴンズナイツが、何事かと集まって来る!

「手を出してはダメよ!」
 地面に倒れ伏したまま、カラナは声を振りしぼった。
 おそらく、ヴィオレッタと闘って勝てる者は女神ローザかサフィリアくらいだ。
 そのサフィリアでさえ、大聖堂で闘った時はクラルの援護があって優勢を保ったのである。

 戦えば、この村に生き残りはいなくなる。

「さて……。 如何いかがいたしますか、サイザリス様?」
 しばしの沈黙の後――。
 サフィリアが地面に倒れたままのカラナを見下ろす。
 悲しみ、申し訳なさに希望が入り混じった複雑な表情。

「カラナ……ゴメンね」
 クラルに視線を向け、しっかりとした意思を込めて続けた。
「サフィリアは……クラルを生き返らせたい!」
 サフィリアの言葉に、カラナは目をつぶって唇を噛んだ。
「……残念よ、サフィリア……!」

 再び、ヴィオレッタがサフィリアの前にひざまづく。
「ご決心いただき、このヴィオレッタ、感激でございます!」
「勘違いしないでね? 魔女の魔力ちからが戻ったら、真っ先にあんたを八つ裂きにしてやる」
 サフィリアのにくしみのこもった声にも、ヴィオレッタは歓喜の表情で応える。

「ああ……! 貴女様がご復活なされるのであれば、このヴィオレッタ!
 どんな事もなし得ましょう!」
 深々とサフィリアに一礼すると、ヴィオレッタは瓦礫の山の中に隠していたらしい――サイザリスのフィルグリフを取り出し、サフィリアの眼前に差し出す。

「さあ、サイザリス様!」
 ヴィオレッタの言葉に応え、サフィリアがフィルグリフを受け取る。
 瞳を閉じ――一瞬戸惑とまどった様に間をおいて……。

 サフィリアは、"マギコード"をフィルグリフの結晶構造に流し込んだ。
 再び、あの場面が空中に投影される!

 サイザリスと魔導石の売人が、ヴェルデグリスのかたわらで語る、あのシーン。

『一応、魔導石の扱い方を教えておくよ』
素人しろうとの貴様に教わるとは、わらわもやき、、が回ったものじゃ』
『まあ、そう言わないで、万が一暴走とかした時の為に、必要だろう?
 ――”解放の言葉マギコード”と”破壊の言葉エンバーコード”が……』
『必要ないとは思うが、聞いておこうか?』
『いい心がけだよ。どんなに優れた魔導師でもリスクは付き物だからね。
 それじゃあまず、万が一暴走した時に使う”破壊の言葉エンバーコード”だ。
 それは――――』

 カラナの耳にも、はっきりと聞いて取れた。
 もちろん、サフィリアにも。

「覚えたよ。”解放の言葉マギコード”と、”破壊の言葉エンバーコード”を……」
「これですべての条件が整いましたね、サイザリス様!」
 威勢よく立ち上がり、両腕を広げて叫ぶヴィオレッタ。

「クラルをお願いして、いいかな?」
「もちろんでございます!」
 サフィリアの指示に従い、ヴィオレッタがクラルの亡骸を抱き上げる。

 村の外へと歩き出した二人に、紅竜騎士団ドラゴンズナイツの騎士たちが道を開ける。
 彼らは恐怖しているのだ。
 魔女サイザリスの、その名前に……!

「サフィリア! もう一度よく考えなさい!」
 地べたを舐めたまま、カラナが叫ぶ!

 サフィリアは……とうとう振り向く事さえしなかった。
 群青ぐんじようのローブをなびかせた金髪の魔導師は――ヴィオレッタとともに、姿を消して行った。
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