PITTO

ナツメユウマ

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第二章

武蔵

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「おいこらワレェ!なにしてくれとんじゃあ!しばきまわすぞ!」


 二階の窓から侵入しながらヤスダに怒鳴るその人は、アーノルドとは何もかもが違う風貌をしていた。

白の透けたタンクトップからは乳首が薄ら浮いていて、大きいお腹についているデベソまで透けて見えた。
年季の入っている紺色のハーフパンツからはストライプのトランクスが見えていて、何故か白のハイソックスを穿いている。
靴は便所サンダルだ。


誰なんだ、この中年オヤジは。


全く見覚えのない、突然二階の窓から入ってきた中年オヤジに、ヤスダも俺も呆然とした。

「こんのクソガキ!ボコスカ好き放題蹴りやがって!怪我したらどないしてくれるんじゃコラァ!」

中年オヤジはほとんど生えていない産毛のような髪を振り乱しながら、ヤスダの襟首を掴み唾を飛ばしながら怒鳴った。

ヤスダは顔を中年オヤジの唾液で濡らしながら、声にならない謝罪をし半泣きになっている。


「す、すみ…すみませ…お父様…」


俺の母親としか会ったことがないヤスダは、この中年オヤジを俺の父親だと勘違いしているらしい。
子供に一切の関心を示さず、なかなか帰ってこない父親も嫌だったが、こんな風貌の父親も嫌だと思った。

「謝って済むならなぁ!警察いらんのじゃコラァ!こいつに!謝らんかボケェ!」

中年オヤジはそう言ってヤスダを俺の前に投げ飛ばした。一瞬でぼろぼろになったヤスダは、震える手を床に揃え、ゆっくりと頭を下げ俺に土下座した。

「ご、ごめん…亜門くん…すみませんでした…二度と、しません…。」

「わ、分かった…。」

俺達のやりとりを見た中年オヤジは、すぐさまヤスダの首根っこを掴みドアまで引きずった。

「よし、帰れ。もういっぺんここに来てみぃ、しばきまわすじゃ済まへんからな。よぉ覚えとけよ。」

ヤスダが返事をする前に勢いよく部屋の扉を閉める中年オヤジ。勝手に窓から侵入してきただけではなく、家庭教師までクビにしてしまったこの中年オヤジは、一体何者なのか。
何も言えない俺を見て、中年オヤジは黄色い歯を剥き出しにして笑った。前歯が一本、無かった。

「いやー、すまんすまん、ビックリしたやろ!窓から入った方が早かったんや!堪忍な!」

「あの…あなた誰なんですか…」

「何を言うとんねん!ワシや!アーノルドや!今日会うたとこやろ!」

「…アーノルド…じゃ、ないですよね…見た目が…」

中年オヤジは、あぁ、と思い出したように自身の身体を見て、また笑った。

「せやせや、説明してへんかったな。」

中年オヤジはそう言いながら俺の方へと近付いてきた。
俺の制服のワイシャツを捲りあげ、腹を確認するように触り、注意深く見ている。ベタベタと腹を触る中年オヤジの手は少し湿っていて、気持ちが悪かった。

「ワシは間違いなくアーノルドや。この姿は、ワシがPITTOで世話になってた武蔵(むさし)っちゅう人間の姿なんや。飲んだくれの中年オヤジやけど、めっちゃええ奴でなぁ。武蔵は二年前に死んだんや、急アルで。」


武蔵は俺の腹に異常が無いことを確認すると、安心したように俺の肩を二回叩いた。



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