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第二章
発明
しおりを挟む「ワシは間違いなくアーノルドや。
この姿は、ワシがPITTOで世話になってた武蔵っちゅう人間の姿なんや。飲んだくれの中年オヤジやけど、めっちゃええ奴でなぁ。武蔵は二年前に死んだんや、急アルで。」
武蔵は俺の腹に異常が無いことを確認すると、安心したように俺の肩を二回叩いた。
「ワシ医者や言うたけど、医者でもあり発明家でもあんねん。簡単に言うと、死者の姿になれる発明をしたんや。死んだ奴の血液さえあえば、その姿になれるねん。後遺症として、喋り方とか仕草までそのまんまになってしまうんやけど、そこまで不便はないわ。」
喋る度に揺れる目の前の出っ腹を見ていると、この武蔵という中年オヤジの中身は実はアーノルド、という事実が素直に入ってこなかった。
俺の信じられない、という目を見て、武蔵は薄ら笑いを浮かべた。
次の瞬間、大きい爆発音と共に部屋中が煙で包まれた。真っ白な煙は視界を奪ったが苦しくはなかった。
有害な煙ではなさそうだ。
「シュナウザー、驚かせてすまない。」
白い煙の中からアーノルドの声がした。徐々に薄くなっていく煙の中から、金色に輝く髪が見えた。
「この世界では武蔵の姿の方がよく馴染むみたいだからね、ついそのまま武蔵の姿で現れてしまったよ。シュナウザーのピンチで慌てていたんだ。」
金色がさらに透けたような頭髪、銀と青が混じった瞳、細身の長身にすらりと伸びた手足、真っ白な宇宙飛行のような格好。
確かにアーノルドの姿でこの辺を歩けば次の日には噂になるくらい目立つ。
しかし、武蔵のような浮浪者みたいな風貌も、悪い意味で目立つのではと思った。
「…なんで俺がピンチだって分かったの…。」
「シュナウザーがピンチの時はすぐに分かるさ、長年親友だからね。勘が働くんだよ。」
きっとアーノルドはずっと俺を見張っていたに違いない。ヤスダが帰るタイミングでまた乗り込んでくる予定だったんだ。俺は身震いした。
「また俺を殺しに来たんだな…。」
アーノルドを睨み、精一杯低い声で言った。
そんな俺を見てアーノルドは悲しそうな顔をした。
「シュナウザー、誤解しないでくれ。僕は君を殺したりなんかしない。たった一人の親友にそんな事するはずないだろう。それより僕は今の君を見ていると悲しくなるよ。」
「なにがだよ…」
「PITTOのシュナウザーは頭は悪かったが、とても勇敢で強かった。話も聞かずに逃げたり、人を疑ったり、そんなことは絶対にしない人だったんだよ。馬鹿だけど、勇敢で強くて心優しい、そんなシュナウザーが僕は大好きだった。皆、シュナウザーのことが大好きだったんだ、彼は愛されていた。僕の、大親友なんだ。」
アーノルドから哀れみの目を向けられ、一気に急所を突かれたような感覚がして俺はいたたまれない気持ちになった。
「……俺だって嫌だよ、こんな自分。なんで同じ人間なのに、そのシュナウザーって奴と俺はこんなにも違うんだよ。俺は臆病だし弱いし人のこと信じれないし誰からも愛されてないよ。シュナウザーとは全然違うんだよ…。なんでだよ、なんで…。」
俺には命懸けで助けてくれる親友なんか一生できない。
親にすら、見放されている。
ずっと一人だった。
きっとこれもからもそうだ。
そう思うと涙が溢れ出てきて、止まりそうにもなかった。
「なれることならなりたいよ、シュナウザーに…けど死ぬのは嫌だ…俺は臆病で弱虫だから、怖いんだ…死ぬのは、怖い…。」
膝に顔を埋めて啜り泣く俺に、アーノルドは優しい声でシュナウザー、と呼んだ。
「PITTOに行っても、君は死なないよ。死ぬのは僕だけだ。」
「でも…シュナウザーに俺の身体、あげるんだろ…。」
アーノルドは膝をつき、目線を合わせ真っ直ぐな目で俺を見た。
瞳の中の銀と青がキラキラと反射して光を放っているように見えた。
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